アメリカで必読とされる名著「Predictable Revenue」とは
今回の名著再読で取り上げるのは、邦題『セールスフォース式 売れる組織に変える9の方法』、原題は『Predictable Revenue』という本です。清沢さんによれば、2011年発刊とやや古いものの、アメリカではザ・モデルに匹敵するほど信頼されている一冊だといいます。
浜田さんは、この本がAI時代のセールスの文脈で今も盛んに参照されていると話します。海外のセールステックをウォッチする中で、RevenueOpsやSalesOpsの人たちが議論しているのをよく見かけるそうです。
簡単に言うと、そのPredictable RevenueモデルはこのAI時代にも通用するのかみたいなのが、めちゃくちゃ議論されてるんですよ。
日本でもザ・モデルって今も有効なんだっけ、みたいな話をいろんな場面でするじゃないですか。それと同じ文脈で出てくるのがこの本で、アメリカ版ザ・モデルだなと思ってる本ですね。
アメリカでは「Predictable Revenue」という言葉自体が、この本で語られるメソッドそのものを指す共通語になっているといいます。
著者アーロン・ロスと、Salesforceでの立ち上げの背景
著者はアーロン・ロスさんという人物で、2002年にSalesforceへ入社し、インサイドセールスをゼロから立ち上げた人だと清沢さんは紹介します。2002年当時のSalesforceは、まだ規模の小さい時期でした。
浜田さんは、ザ・モデルの著者である福田さんがアメリカでモデルを学んだのが2004年頃であることに触れ、その頃に手法を作っていた一人がアーロン・ロスさんだと位置づけます。
アーロン・ロスさんはSalesforceの150人目の社員として、この後取り上げるコールドコール2.0 ── 飛び込みの電話をひたすらかける従来型の営業ではなく、メールなどで一度お客様の興味を探ってから電話する営業手法。アーロン・ロス氏がSalesforceで確立したという営業手法を自ら作り出し、実践しました。結果的にARRが100億円以上増加し、エンタープライズ市場の急成長に貢献したと言われています。
浜田さんは、当時のSalesforceがウェブ上で簡単に買えるCRMという、今でいうPLG的な世界だった点を背景として挙げます。個人でも申し込め、月払いで使える一方、エンタープライズに売っていく課題があり、そこでアーロン・ロスさんが仕組みを作ってモデル化していったのだと説明します。
ザ・モデルとの違いは「網」か「槍」か
清沢さんは、ザ・モデルとの違いを整理します。ザ・モデルがマーケティングファネルの話だったのに対し、本書はタイトルにも「Sales Machine」とある通り、営業主導でどう売上を作るかという視点が濃いといいます。
浜田さんは、本書がリード獲得の方法を3つに分けている点を紹介します。それが「Seed」「Net」「Spear」という考え方です。
マーケティングで網を投げ、たくさんの見込み客をまとめて捉える。ザ・モデルが扱うのはこの型
狙った相手に一本の槍を刺しに行く一本釣り。Predictable Revenueが方法論に落としたのはこの型
浜田さんによれば、Salesforceは最初ブランディングや口コミが上手く、その後マーケティングも成功しました。しかしそこからさらに伸ばすために、狙った相手を一本釣りするSpearが必要だったといいます。
その一本釣りをどうやってやるかっていうのを方法論に落としたのが、この本っていう感じですよね。
なぜコールドコール2.0が生まれたのか
本書の中心概念がコールドコール2.0です。清沢さんは、本書が前半からコールドコールはほぼ意味がないと述べ、新しい概念として2.0を定義している点が面白いと話します。
浜田さんは、コールドコール自体が昔からある概念で、片っ端から電話する営業はアメリカの映画などでもおなじみだと説明します。ただ、BtoBでそれをやるのはしんどいというのが本書の主張です。
Salesforceも当初はコールドコールをやっていましたが、アーロン・ロスさんが入って毎月片っ端からリストに電話をかけて出た成果は、月に案件2件だったといいます。
20日稼働して2件だと、これペイしないだろみたいな。
この打率をどう改善するかがコールドコール2.0の出発点です。浜田さんは、その核心を次のように整理します。
清沢さんは、手当たり次第に電話するのではなく、まず狙ったターゲット企業にメールで連絡し、社内の適切なキーパーソンを紹介してもらったうえで電話していく点を挙げます。個別化しつつ、プロセスを科学していくのがポイントだと話します。
返信率10%を生んだ「紹介依頼メール」
浜田さんは、なぜメールを突き詰めようと思ったのかを説明します。HTMLメールと普通のメールなど、いろいろなパターンを試す中で効果があったのが「紹介依頼メール」だったといいます。
その内容は、Salesforceを使っていることを伝え、担当者本人でなくてもよいので、営業のオペレーションや効率を変えるソリューションに興味がありそうな人を紹介してもらえるか、と尋ねるものでした。
これがメールの返信率が、9パー、10パーくらいあったらしいんですね。これ、メールとしてはコールドメールなんですよ。
知らない相手に送るコールドメールでありながら、返信率が10%あるなら電話するよりまずメールを送った方がよい。浜田さんは、このメールを起点にしたファネルやオペレーションを作ったのがこの本だと説明します。
1日1件の商談を生むための具体的な数字とメールの条件
清沢さんは、送るべきメールの条件がテキストベースで簡潔、要点を絞ったものだと本書に細かく書かれている点に触れます。浜田さんは、行動量の目安も数字で具体的に示されていると補足します。
浜田さんによれば、1人のインサイドセールス、日本でいうBDR ── Business Development Representativeの略。ターゲットリストに対して自ら働きかけ、アウトバウンドで新規商談を作るインサイドセールスの役割の行動量の目安が本書に書かれています。
浜田さんは、実際に検討する人と話せるのは月20件、つまり1日1件ほどだと補足します。そのうえで、メールが満たすべき条件も明確に書かれていると話します。
- テキストベースでシンプル、スマホで読める
- 既存顧客の事例を示す
- お願いすることは1通につき1つだけにする
浜田さんは、商談・紹介・ウェビナー視聴といった依頼を1通に3つも書かないなど、何を何個やる必要があるかが教科書的に書かれている本だと評します。
送信は火曜の朝、日曜でも構わない
清沢さんは、メールの送信日時や曜日についても細かく書かれている点を挙げます。日曜に送っても構わないという記述もあるそうです。
送信は午前9時前か午後5時以降に行い、月曜と金曜は避ける。日曜に送っても構わない。
浜田さんは、日中は忙しくメールが埋もれるため、火曜の午前9時前や水曜の午後5時以降など、落ち着いていて同僚からのメールが来ない時間を狙う考え方だと説明します。ただし月曜の始業前や金曜の始業後は避けるといいます。
清沢さんは、前職のインサイドセールス時代も同じことを意識していたと振り返ります。
火曜、水曜、木曜、特にレイヤー高めの方に送る時は、平日の8時2分ぐらいに送信しておいて、結構返信率高かったんですよね。9時以降だと会議で全部埋まっちゃってるんで。
広まった手法は効果が薄れる、AIメール時代の難しさ
一方で浜田さんは、この手法をそのまま使えばうまくいくわけではないと注意を促します。朝8時から9時のメール送信は日本でもノウハウとして広まり、メルマガもその時間帯に集中しているといいます。
浜田さんは、1つのメソッドが広がりすぎると全員が同じことを始め、効果が薄れる構造を指摘します。メールでアポや返信をもらう難易度も、本書が出た頃より上がっているだろうと話します。
清沢さんは、AIによるメールが増えたことで、パーソナライズされていない文面はそもそも読まれなくなっていると指摘します。浜田さんも、アメリカのビジネス系SNSでAIメールが晒される様子に触れます。
これ明らかにAIだろう、惜しいわみたいな感じで晒されてて、なかなか厳しいなって思いますけどね。
浜田さんは、逆転現象も起き始めていると紹介します。SaaS情報を発信するポッドキャスト「SaaStr」の主宰者ジェイソン・レムキンさんの話として、AIが書いた文章の方が質が高い場合があるといいます。
AIはSaaStrのことをめっちゃ勉強してて、こんなことが役立てると思うんだけど時間もらえる、と送ってくる。でも人間のインサイドセールスはリサーチしてないから、SaaStrって何人くらい集まるの、と聞いてくるみたいな。
アメリカのインサイドセールスの報酬とキャリア設計
清沢さんは、本書がアメリカ市場におけるインサイドセールスの報酬やキャリアにも具体的に触れている点を挙げます。浜田さんは、2011年当時の数字として報酬の構造を紹介します。
浜田さんによれば、基本給は3万5000〜6万ドルで、加えてコミッションが基本給の半分を上限に設定されます。3万5000ドルの人が高い成果を出すと、報酬は1.5倍になるといいます。
コミッションの内訳は、50%が当月に作った商談、残り50%が当月に成約した取引に対して支払われる構造だと浜田さんは説明します。過去に営業へ引き渡した案件が受注したとき、そのキックバックがインサイドセールスにも入る仕組みです。
浜田さんは、アメリカでインサイドセールスにOTE ── On-Target Earningsの略。目標を達成した場合に見込める、基本給と歩合を合わせた想定年収。目標と報酬を紐づける報酬設計の考え方的な報酬を設定するのは当たり前だと話します。インサイドセールスは営業になるための教育期間という色合いが濃く、給与を上げてAEになりたい人が多いためだといいます。
インバウンドから始めるアメリカ、アウトバウンドで鍛える日本
清沢さんは、本書が示すキャリアのステップにも触れます。レベル1がインバウンドのマーケットレスポンス、次がアウトバウンド、その次が営業という順です。
浜田さんは、この順序が日本の一般的なイメージと逆だと指摘します。日本では貴重なリードをいきなり触らせるのが怖いため、まずホワイトリストへの架電で基礎を鍛え、実績が出てからセミナーリードへ進むイメージがあるといいます。
浜田さんは、この順序がアメリカで成り立つ理由を説明します。アメリカのインバウンドリードはデモリクエストなど商談前提のものが多く、大事なのは早く電話することだけだからです。
インバウンドで入ってくるのはやっぱ中小企業が多かったりするんで、大きい案件にはなりづらかったりもするんですよ。
一方で日本では、資料請求のように頑張っても商談化率が2〜3割のインバウンドもあります。浜田さんは、そこには最低限のスキルを持った人が臨む方が合理的で、入ってくるリードの質に文化差があると整理します。
日本でアウトバウンドが難しい構造的な理由
清沢さんは、アメリカでアウトバウンドが主体になる背景に、メールアドレスや電話番号をリストとして買える環境があると指摘します。ZoomInfoのようなサービスの存在が大きいといいます。
浜田さんは、ZoomInfoでは特定企業の法務部長といった相手の電話番号やメールアドレスにも簡単にアクセスできる世界があると説明します。その背景には法律や考え方の違いがあるといいます。
浜田さんによれば、アメリカでは企業から支給されたメールアドレスや電話番号は個人情報というより商業的な情報と整理され、売られること自体は違法ではないそうです。掲載を拒否する申請があれば消す必要はあるものの、厳密なオプトインは求められないといいます。
浜田さんは、日本でも積極的に整理すれば同様のことができるかもしれないと言われるものの、一般的にはまだ部長のメールアドレスや電話番号が売られている状況はないと話します。清沢さんも、日本では炎上やリスクを感じそうだと応じます。
LinkedInとZoomInfoの壁、そして日本で広がりつつある土台
浜田さんは、アメリカではLinkedInの普及も大きいと指摘します。多くの人が転職を見据えて利用しており、Sales Navigatorという機能で狙った条件のリードを数千件抽出し、DMを送ることができるといいます。
一方、日本ではLinkedInも使えるものの、ユーザー数がそこまで多くないため、使いやすい場合と使いづらい場合があると浜田さんは話します。清沢さんも、2年前にimmedioに入った際にLinkedInでDMを送ったものの反応は渋かったと振り返ります。
日本ではLinkedInを外資やグローバル、MBAに行かれた方くらいしか使ってなくて、まだアウトバウンドには馴染まないなっていう感じはありましたよね。
浜田さんは、日本にはZoomInfoのようなサービスが成立しづらい一方で、それを補うインテントセールスや、部署単位の電話番号を集めたデータベースが増えていると話します。代表番号より一歩近い連絡先にリーチできるようになっているといいます。
清沢さんは、AIでパーソナライズした情報を提供できるようになったこともあり、日本でもコールドコール2.0的なアプローチができる土台ができつつあると総括します。
Predictable Revenueモデルの限界と、次に向かう2つの方向
清沢さんは、まとめとして現在地を整理します。LinkedInやZoomInfoのようなサービス、AIによるパーソナライズでアプローチは効率化する一方、マクロでは接続率や返信率が下がっており、AIをどう組み込むかが課題になりそうだと述べます。
浜田さんは、このモデルを突き詰めるとメールを送った数が重要になる点を指摘します。OutreachやSalesloftといったセールスエンゲージメントツールがこの10年で流行し、1つのリードに送られるメール数が急増したといいます。
1つのリードに対して送られるメールの数がぐっと増えて、もう今は10回以上メールか電話するみたいな感じになってるんですよね。
その裏側で、インサイドセールスが実際に顧客と話せる数は、以前の1日7〜8件から3〜4件に減っているといいます。浜田さんは、お客様のメールボックスが埋まって反応が得られなくなっており、これがPredictable Revenueモデルの限界なんじゃないかという議論がアメリカで起きていると話します。
清沢さんが次の議論の方向を尋ねると、浜田さんは大きく2つの方向があると答えます。1つは、返信率が下がるならメールを極限まで送るという方向で、それがAI SDRだといいます。
人間が送ると1日30通しか送れないから、AIに100通送らせようみたいな。
もう1つは、一周回ってマーケティングで顧客の興味を作る方向や、既存顧客をどれだけ取っていくかを重視する方向です。浜田さんは、SeedとNetに戻る動き、つまりブランディングやマーケティングへの回帰がアメリカでもトレンドになりつつあると話します。
清沢さんは、既存顧客が次のプロダクトの顧客に回っていくフライホイールや、以前の回で話したイベントマーケ、コミュニティメイキングにもつながると整理します。1つの手法に頼るのではなく、複数の手段を見ながら事業を伸ばす必要があると締めくくります。
まとめ
Predictable Revenueは、打率の低いアウトバウンドを科学し、メールを起点に安定した売上を作る手法を体系化したアメリカ版ザ・モデルとも言える名著です。ただしAI時代にはメールの飽和という限界が見え始め、SeedやNetへの回帰を含む次のモデルが議論されています。
- コールドコール2.0は、電話の前にメールやDMで興味を探るアクションを営業に組み込む手法で、紹介依頼メールは返信率10%を生んだ
- 本書は行動量やメールの条件、送信時間、報酬設計まで教科書的に具体化されている
- アメリカはインバウンドから始めてアウトバウンドへ進むが、日本はリードの質の違いから順序や難易度が異なる
- 日本でもインテントデータや部署単位の連絡先など、コールドコール2.0の土台が整いつつある
- メールの飽和でモデルの限界が見え、AI SDRによる量の追求と、SeedやNetへの回帰という2つの方向が議論されている




