なぜ今あらためて「THE MODEL」を再読するのか
この回でパーソナリティの2人が取り上げるのは、SaaSに関わる人のバイブルとして知られる「THE MODEL」です。2019年に発刊され、6年経った今も読み継がれている名著だといいます。
浜田さんは、この本の再読価値の高さを強調します。近年「THE MODELから次の売り方へ」といった議論が出ているものの、その多くはすでに本の中で書かれていると指摘します。
何回読んでも「これザ・モデルってもう書いてあったんだ」みたいなところがすごくあって、定期的に読む価値がある本なんじゃないかなと思ってます。
清沢さんも、基本に立ち返るときの教科書的な一冊だと位置づけます。読み返すたびに「これできてないな」と気づく本だといいます。
そのうえで浜田さんは、いわゆる分業体制の解説はこの本のごく一部にすぎないと話します。CROは何なのか、レベニューオペレーションとは何かがめちゃくちゃ書いてあるという点にこそ、再読の意味があると考えています。
福田康隆さんがSalesforceに入るまでのユニークな経緯
著者の福田康隆さんは、日本のクラウドベンダー市場の歴史を作ってきた人物です。SalesforceへのSalesforceへの入社のきっかけも、独特の縁でつながっていました。
浜田さんによると、福田さんは大学卒業後に日本Oracleへ入社し、2001年からアメリカのOracleへ出向します。日本支社に入った人が、逆に本社側へ渡っていった形です。
当時Salesforceは2000年に日本でも事業を始めていましたが、立ち上げに苦労していました。そこでマーク・ベニオフが、日本Oracleで長く社長を務めていた佐野さんに相談したといいます。マーク・ベニオフ ── Salesforceの創業者。SaaS・クラウドという事業モデルを世に広めた人物として知られます
(佐野さんが)「アメリカにOracleで行ってる福田君めっちゃいいよ、彼誘えば」って。
浜田さんは、少し前まで自分が社長を務めていた会社のエースを他社に薦めるという展開に驚きを示します。マーク・ベニオフと佐野さんの信頼関係があってこそだと解釈します。
その後、福田さんは2003年ごろにロサンゼルスでマーク・ベニオフと会い、Salesforceのアメリカ本社にまず入社します。ただしそれは、アメリカのモデルを吸収して日本を立ち上げるための前提でした。
福田さんはアメリカでオペレーションやセールスを経験し、SDRとBDRを経たのち、およそ1年後に日本へ帰国して立ち上げにあたります。SDR ── Sales Development Representative。マーケが獲得したリードにアプローチする、反響型のインサイドセールスを指しますBDR ── Business Development Representative。まだ接点のない企業へ自ら仕掛ける、新規開拓型のインサイドセールスを指します
福田さんのミッションは「日本でSMB向けに売る」ことだった
浜田さんは、福田さんのミッションをより正確に補足します。Salesforce自体は2000年ごろから日本でも事業をしていましたが、福田さんの役割は日本でSMB、つまり中小企業向けに売るモデルを立ち上げることでした。SMB ── Small and Medium Business。中小企業を指す言葉。エンタープライズ(大企業)と対比して使われます
当時のSalesforceは、日本ではエンタープライズから攻めるモデルを主にとっていましたが、立ち上がりは良くなかったといいます。一方アメリカでは、SalesforceはSMBによく売れていました。
日本でも同じことできるんじゃないか。そのモデルを移植するミッションを持ったのが福田さんだったっていうことが書いてありますね。
福田さんはその後、およそ10年弱をSalesforceで過ごし、最終的に専務執行役員まで務めます。2014年にはマルケトへ転じました。
浜田さんによると、福田さんはマルケトでは3人ほどの最小規模の日本法人からトップを務め、日本のマーケティングオートメーションのリーダーへと育てました。その後マルケトはAdobeに買収され、福田さんは現在Japan CloudでグローバルSaaS企業の日本展開を支援していると認識されています。
広義のTHE MODELと、狭義のTHE MODEL
ここから2人は本題である「THE MODEL」の定義に入ります。清沢さんは、一般には「THE MODEL=分業体制」という認識が強いものの、広義と狭義の違い、そして福田さん自身がどう捉えているかを整理したいと切り出します。
浜田さんはまず、「THE MODEL」という言葉自体がアメリカで使われていたわけではないと説明します。福田さんが日本に移植する際、呼び方に迷った末に名付けたものが広がったのだといいます。
これ何て呼んだらいいの?って言って、じゃあとりあえずザ・モデルってつけようって言ったら、そこからすごく広がった。
一般に語られるTHE MODELは、マーケ・インサイドセールス・営業・CSが横に並び、営業工程をバトンのように渡していく分業の図です。浜田さんはこれを一般的な理解として認めつつ、別の読み方を提示します。
浜田さんが本を再読して感じるのは、福田さんが日本に持ってきたTHE MODELの本質はSMB向けマーケティングだという点です。マーケが大量にリードを取り、インサイドセールスが選別し、営業が決め、CSがリテンションさせる流れがその核だといいます。
さらに、営業段階でこぼれた失注案件はリサイクルとして再びマーケが温めます。エンタープライズ営業とは異なる、マーケ起点のSMB向けモデルこそがTHE MODELだと浜田さんは読み解きます。
直販は基本エンタープライズ。SMBはパッケージ化してパートナー経由で売る
クラウドにより直販でもSMBに売れる。単価は低いが早く広まるマーケ起点のモデル
THE MODELは万能なのか。福田さん自身は使わなかった
浜田さんは、直販でSMBに売れる背景を説明します。ネットで申し込みや資料請求が取れるようになったことで、単価は低くても早く広まる売り方が可能になったといいます。これを日本で成功させたのがTHE MODELでした。
一方で興味深いのは、福田さんがマルケトに入った際、マルケトの販売にTHE MODELを使わなかったという点だと浜田さんは指摘します。清沢さんも、これは調べていて面白かった論点だと応じます。
清沢さんは福田さんの記事を引き、THE MODELはあくまでグロースのための手段にすぎず、すべての組織に当てはまるわけではないと福田さん自身が語っていると紹介します。
浜田さんは、これを「PMF後のモデル」だと表現します。3人しかいないマルケト日本法人で福田さんが最初にやったのは、THE MODELではありませんでした。PMF ── Product Market Fit。プロダクトが市場に受け入れられ、確かな需要がある状態を指します
ブランドを一緒に作れるようないいユーザーを捕まえて、ともかく成功させる。
その成功を聞きつけていいユーザーが数社集まり、やがて「マルケトはマーケターに必須のツールだ」という認識ができあがります。分業やマーケ主導のモデルが必要になるのは、その先だと浜田さんは説明します。
清沢さんも、当時の社員は分業ではなく営業も含めて全てを担っていたと補足します。福田さん自身が、THE MODELを一つのモデルであり万能ではないと主張していることが読み取れます。
分業が生む「対立」は、実は本に対策が書いてある
浜田さんは、分業のデメリットにも触れます。分業すればその分だけ情報の分断が起きるため、最初は1人が電話・アポ・受注・フォローまで担うほうが顧客課題の解像度は上がるといいます。
分業ってそういうフェーズが過ぎてからだよねっていうところですよね。
清沢さんは、分業に慣れすぎると各部門の対立が生まれやすいと問題提起します。この本の主題そのものが、実はTHE MODELの解説にとどまらないと2人は捉えています。
ザ・モデルって、ザ・モデルの解説本みたいな話は実は全然違って、私はもうCROの教科書だと思ってます。
この本は4部構成です。第1部は福田さんがTHE MODELを日本に輸入したきっかけ、第2部はTHE MODELとは何かとそれぞれの役割を語る部分です。多くの人が想像するのはこの前半だと浜田さんは言います。
浜田さんによると、分業で必ず起きる問題と、その対策も第2部の終盤に書かれています。マーケからCSへ流れるだけでなく、CSから営業、営業からIS、ISからマーケへの逆方向のフィードバックが必要だという点です。
そして、全体を見るCROのような役割が要るという議論も、すでに本の中にあると浜田さんは強調します。近年みんなが議論しているTHE MODELの課題と対応は、そもそもTHE MODELという本に書いてあるという読み方です。CRO ── Chief Revenue Officer。マーケから営業、カスタマーサクセスまで、売上に関わる部門全体を横断して見る責任者を指します
現場で起きる「価値の連鎖の歪み」への2つの打開策
清沢さんは、現場でよく起きる課題を具体的に挙げます。マーケが獲得したリードに電話してもアポにつながらない、頑張ってアポを取っても受注につながらないといった、価値の連鎖の中で生まれる歪みです。
浜田さんは、多くの企業と話す中で見えてきた打開策は大きく2つあると整理します。1つはマーケがインサイドセールスと同じ目標を追い、商談やパイプライン創出まで工程を合わせる方法です。
もう1つは、RevOpsやCROを置き、営業組織やマーケ組織ではなくレベニュー部隊全体を組織の中心に据える方法です。1人がマーケからCSまでを見る形だと説明します。RevOps ── Revenue Operations。マーケ・営業・カスタマーサクセスの連携や仕組みを横断的に整え、売上全体を最適化する機能を指します
マーケがISと同じ目標を追い、商談・パイプライン創出まで工程を合わせる
RevOps・CROを置き、レベニュー部隊全体を中心に1人が全工程を見る
清沢さんは、どちらの打開策もすでにTHE MODELの中に書かれていると確認します。読めば、対立の予防と対策はできるということです。
福田さんは毎朝、案件リストを上から下まで全部読んでいた
清沢さんは、レベニュー全体をマネジメントできる人材はキャリアパスとしてまだ多くないのではと問いかけます。浜田さんは、CROを置く会社は多いと応じつつ、福田さん自身がCROの先駆けだったと話します。
浜田さんによると、本の第3部・第4部にはCROとして組織をどう回すか、リーダーシップをどう取るかが詳しく書かれています。清沢さんも、細かい営業のパイプラインマネジメントの記述が多く、福田さんは根っからの営業だと感じたといいます。パイプラインマネジメント ── 商談を段階ごとに管理し、各段階の数や進み具合から着地の売上を予測・改善していく手法を指します
浜田さんはページ数を数えたところ、営業のパイプラインマネジメントの章が圧倒的に長かったと明かします。マーケティングの啓蒙も熱心だった福田さんの、最も強い部分だといいます。
本の中で印象的なのが、福田さんが毎朝Salesforceの案件リストを全部読んでいたというエピソードです。社名、金額、受注日まで、上から下まで欠かさず目を通していました。
「ダッシュボードで見れますよ」みたいなことを売ってるところですけど、福田さん自身は上から下まで全部社名、金額、受注日、全部見てるみたいな。
清沢さんは、この徹底ぶりを「賢くやろうとせず、愚直にやるべきことをやる」姿勢だと評価します。前職のSansanでも、当時の富岡さんが商談メモを全部見てコメントを送っていたという似た例を2人は振り返ります。
マーケの本ではなく、営業・レベニューマネジメントの本
浜田さんは、THE MODELがマーケティングの本だと思われがちなことに注意を促します。実際は営業やレベニューマネジメントの本としての性格が強いと指摘します。
ザ・モデルってそういうもんだよねと思って、これを読んでない営業マネージャー、レベニュー責任者、事業責任者がいたら、絶対もう一回読んだ方がいい。
清沢さんは、この本は役割を問わず役立つと自身の経験から語ります。2019年、社会人2年目でSMBの営業をしていた頃に読み、マーケティングの意図や、CS視点での引き継ぎの意味がわかったといいます。
清沢さんによると、その理解によって視座が上がり、自分の仕事が整理でき、他部門への良い意味でのリスペクトが持てるようになったといいます。パフォーマンスも良くなった実感があると話します。
浜田さんは、マーケやインサイドセールスに割かれたページ数は多くないものの、その内容が本質的だと評価します。例として、インサイドセールスの役割を「商談の供給の弁を開け閉めし、必要なだけの商談を常に安定供給すること」と福田さんが言い切っている点を挙げます。
最後にこう、蒸留された一番コアなエッセンスが入ってるっていう気がします。
どのフェーズで、どの部分を学ぶか
清沢さんは、本の後半がKPIマネジメントからリーダーシップ論へと移り、組織をどう率いるかで締めくくられると紹介します。浜田さんは、戦略論や中長期のリーダー像は、経営者や事業責任者の観点だと補足します。
清沢さんは、THE MODELという位置づけを正しく理解することが大事だとまとめます。ゼロイチで挑戦している人向けというより、いつTHE MODELを入れるべきかという判断にこそ活かせる本だと考えています。
浜田さんも、THE MODELはゼロイチ期のものでもPMF後の万能策でもないと整理します。ターゲットがSMBなら狭義のTHE MODELが参考になる一方、エンタープライズ向けなら戦い方は全く異なり、ABM的な考え方になると指摘します。ABM ── Account Based Marketing。狙う大企業を絞り込み、その1社に合わせて営業とマーケが連携して攻める手法を指します
どの要素を本から学ぶべきかは、事業のフェーズによって変わるということです。清沢さんは、営業マネージャー、特に新任のマネージャーが最初に読むバイブルとしても勧められると付け加えます。
浜田さんは、SPINやチャレンジャーセールスといった営業の各論はあっても、営業マネージャー向けの本は日本では多くないと話します。数字の読み方、営業担当とのコミュニケーション、採用の仕方まで書かれている点で読む価値があると締めくくります。
まとめ
この回は、名著「THE MODEL」を分業体制の解説書としてではなく、CROの教科書として読み直す内容でした。福田康隆さんの経歴から、THE MODELの狭義・広義の違い、そして分業が生む対立への対策までが本の中にすでに書かれていることが語られました。
- THE MODELは福田さんが日本で名付けたもので、本質はSMB向けマーケティングのモデルとして読み解ける
- 福田さんはマルケトの立ち上げではTHE MODELを使わず、まず良いユーザーを成功させることを優先した。分業はPMF後のフェーズの話
- 分業が生む部門間の対立と、逆方向のフィードバックやCROの必要性といった対策は、すでに本の第2部に書かれている
- 本の中心は営業・レベニューマネジメントで、パイプラインマネジメントの章が最も長い。案件リストを毎朝全部読む福田さんの愚直さが象徴的
- ゼロイチでも万能策でもなく、いつ・どの要素を取り入れるかを事業フェーズに応じて判断するために読む本




