高級キーボードとゲーミングデバイスが熱い理由
後半は前半の「データの入力・出力」を受けて、より未来予測的な話へ広がっていきます。
堀さんはまず、田代さんにガジェットの好みを尋ねます。田代さんはイヤホンやマイクは試すものの、キーボードやマウスはノートパソコン純正のままだと答えます。
キーボードとかマウスはどうですか?
キーボードとかマウスはもう全然普通の、純正のものを使ってます。
人生をですね、損しております。
堀さんによると、音声入力のレベルが上がっている一方で、高級キーボードや高級マウスの界隈はむしろ盛り上がっているそうです。いかに快適に、効率よく入力するかという視点が重視されていると話します。
堀さんはMacのキーボードを「作りが下手」と評します。ストロークが浅く、押した感が出にくいというのが、長くキーボードを扱ってきた人たちの見解だと言います。
その盛り上がりの起点にあるのがゲーミングデバイスです。左手キーボードにボタンを大量に割り当てたり、ボタンの接点の深さを調整したりすることで、動作速度が変わってくると説明します。
技の発動条件がどれぐらいでできるかというのは全部彼ら調整するんですよね。そういうところからゲーミングキーボードとかゲーミングマウスっていうのができ始めて、そこからキーボード界隈っていうのがものすごく熱くなってきてます。
分割キーボードとトラックボールが変える「入力の自由度」
話はさらに分割キーボードやトラックボールへ進みます。ケーブルレス化が最近進んだこと、eスポーツの普及とともに界隈が発展してきたことが語られます。
堀さんが注目するのは、キーボードのホームポジションから手を離さずに操作できるトラックボールです。分割キーボードに親指で使えるトラックボールがついたようなタイプが流行っていると言います。
堀さん自身は分割型のキーボードをメインで使い、家では無接点方式の高級キーボードを使っているそうです。
キーの押し心地を左右する「軸」には青軸・茶軸・赤軸などがあり、自分の指に馴染む感触を選ぶことがキーボード界隈では重視されていると説明します。
片麻痺や透析中でも働ける「ユニバーサルデザインとしての入力」
田代さんは、病院や介護施設で入力しやすい機材に揃えれば業務効率が上がるのか、と尋ねます。
堀さんはここで話を大きく展開させます。片麻痺の人が左手だけで入力でき、しかも持ち替えずにトラックボールで操作できれば、その人はパソコン業務ができるというのです。
今そういったキーマップの変更で、左手だけでできるとか、右手だけでできるとかっていうのは作ろうと思ったら作れるわけですよ。そういうのってすごくユニバーサルデザインだと思うんですね。
透析中で手が使いづらい状況でも、分割キーボードで手を開いた状態にすれば仕事ができる、といった例も挙げられます。
さらに堀さんは、バックスペースが小指の遠い位置にあることに疑問を投げかけます。自分のパソコンはすべて親指でバックスペースを押せるように変更していると言います。
一番使うキーが一番遠くにあるっていうこと自体に、もう少しアンチテーゼを提訴しなきゃいけないわけですよ。使わないキーが近くにあって、使うキーが遠いって、やっぱりすごく不便だと思います。
田代さんは、仕事を続けていく患者に対して、職種に応じた環境調整をアドバイスできる人がいたらいいと話します。
堀さんは、ボタンが5個あるマウスに5つのレイヤーを設定すれば25パターンほど作れると具体例を示します。片手だけで仕事ができ、「仕事できない」と思われていた人が実はできる状況を作れると言います。
一方で、回復期のOT領域でこうした取り組みが十分になされていないことが、現在の課題だとも指摘されます。堀さんは、労災系の現場では従来こうした作業支援がなされていたはずだと補足します。
堀さんは、デバイスの変化でできることが増えているからこそ、理学療法士がいち早く押さえておく価値があるとまとめます。
VRとVision Proが直面する「データ量」という壁
環境調整の話はVRへと広がります。堀さんは、VRなら視野そのものを変えられ、作っていく世界を変化させられると言います。市販の機材でかなりのことができるようになってきた点にも触れます。
欲しいと語るのはVision Proですが、今は「買い」ではないと堀さんは言います。理由はコンテンツの不足です。
その背景として、Vision Pro向けの立体動画を撮るカメラの話が出ます。レンズが2枚あり30キロほどの重さで、1時間撮ると2〜3テラバイト使うほどデータ量が膨大になるそうです。
三百六十度カメラを二個つけてるようなカメラなので、3Dにもなるし、全て体を向けたら全部画像が動いてくれるわけなので、すごく分量があるみたいです。
田代さんは、宇宙にデータセンターを作るといった動きも、こうした膨大なデータの時代を見越したものではないかと推測します。
堀さんは、Vision Proが遅延をほとんど感じさせない点を評価します。遅延があると人は酔ってしまうためです。安価なVRなら360度までは要らず、そこから攻めていくのがよいと話します。
文房具に表れる「身体感覚」をどうデータにするか
話題は入力の原点である文房具へ移ります。堀さんは、鉛筆・ペン・筆といった道具ごとに、人の入力感覚は本来まったく違うはずだと指摘します。
田代さんは、万年筆のような細めで書き味のよいものが好きだと答えつつ、ペン先の太さやインクの種類まではこだわっていないと話します。堀さんはインクの粘度や芯の太さといった細かな要素を次々と問いかけます。
堀さんが重視するのは、こうした書く体験をいかに言語化し、データとして扱うかという点です。人のフィジカルな感覚がきちんとデータ化されていないのが今の世の中だと言います。
シャープペンシルの世界を例に、芯が折れない、先が尖った状態で出る、ワンクリックで芯を使い切るといった工夫を挙げ、企業がフィジカルな感覚を作り込んでいると説明します。
文房具を見ていくと、その人々が求めている身体感覚っていうのがどういうものなのかって結構見えたりしますね。
田代さんは、道具を自分に合わせるより、道具に自分を微調整して合わせてしまう傾向があると振り返ります。堀さんは、本来は自分が機械に合わせる感覚が重要だと応じ、車やバイク、楽器にも同じことが言えると話します。
AIの個別対応と「人間は自分をわかっていない」問題
田代さんは、バイブコーディングによってソフト面ではオーダーメイド的なものが作りやすくなってきたと話します。
堀さんは、AIで個別対応が良くなるのは事実だとしつつも、個別の要望を言語化できない人が多すぎるため流行らないと考えていると述べます。
例に挙げるのはオーダーメイドの靴です。多くの人は履き心地ではなく「この靴屋のこの靴にしてほしい」とオーダーし、オーダーメイドという事実自体を求めているのだと言います。
だからこそ、本人が望んでいなくても職人がデータを取りながら作っていく、その人間が一段介在することが良いものには必要だと堀さんは主張します。
田代さんは、本人が自分の欲求をわかっていないからこそ、第三者的に見てくれるセラピストの意義が生まれるのではないかと投げかけます。
最初と最後を担う人間と、スペシャルジェネラリストという理想
堀さんは、AIやロボットと同居していくうえで人間が担う領域を、将棋にたとえます。膨大な選択肢から選ぶ機械に対し、人間は数手にショートカットする予測が得意だと言います。
その学び方を問われた堀さんは、これは人文知だと乱暴に言います。映画や小説を多く読み込んだ人ほど、他者の追体験や気持ちを先取りしやすいと考えているそうです。
機械はプロンプトが必要なんですよ。でも人間って極端に言うとプロンプトなしでそれができるんですよ。というところが人としての強さなので。
これからは「言わんとわからん時代」が来ると堀さんは言います。だからこそ、相手が出せないプロンプトをこちらが出していける人が強いという見立てです。
自身の身体感覚を言語化していない人はAIと相性が悪い、という指摘も出ます。田代さんは、言葉の情報と数字のデータを統合・解釈できるセラピストが求められると受けます。
堀さんは、人と人の間だからこそ成り立つやりとりを重視します。機械に「痛いですか」と聞かれれば正直に答えても、人には気を使って我慢し、それが治療を前に進めることもあるからです。
田代さんは、最初と最後が大事とはいえ、間の過程を理解しているからこそ入口と出口の精度が上がると補足します。
ここから堀さんは、ジェネラリストとスペシャリストの関係を語ります。すべてを見られるジェネラルの延長線上にスペシャルがあるべきだという考えです。
ジェネラリストの上位互換がスペシャリストになるべきなんですよ。ジェネラリストとスペシャリストは別枠にあるんではなくて、スペシャルジェネラリストがスペシャリストです。
整形外科系のスペシャリストであっても循環器の問題を考えたうえでそこに至っている、と堀さんは例を挙げます。治療は他へ回すとしても、「循環器はわかりません」では駄目だと厳しく言います。
最後に堀さんは、理学療法士はブルーワーク的な要素と知的作業の両方を持つ職種だと整理します。時間がかかる領域にとどまり、じっくり研鑽する覚悟がある人が強いと話します。
さらに、突出した人が選ばれ、それが企業案件などお金につながるチャンスにもなると指摘します。前回に続き、堀さんは徒手療法の揺り戻しが完全に来ていると述べ、本質に立ち戻ることの大切さを語ります。
まとめ
入力デバイスや文房具の身体感覚という身近な話題から、AI時代に理学療法士が担う領域までが地続きで語られた回です。人にしかできないのは、言葉にならない要望を読み取る入口と出口であり、そこを支えるのは幅広い知識だという結論に着地しました。
- 高級キーボードやトラックボールの進化は、片麻痺や透析中の人が働ける環境調整にもつながる。
- Vision ProやVRは可能性を持つが、膨大なデータ量とコンテンツ不足が普及の壁になっている。
- 人間は自分の要望を言語化できないため、AIには本人が出せないプロンプトを補える人間の介在が必要になる。
- 機械が担いにくいのは、気遣いや文脈を含む「最初と最後」の対人領域である。
- 目指すべきは幅広さの上に専門性を積む「スペシャルジェネラリスト」で、時間のかかる研鑽こそ奪われにくい強みになる。


