なぜ減薬提案は「提案止まり」になりやすいのか
たいぞーさんは薬局で在宅医療や外来患者対応に取り組みながら、社内の新人育成や研修講師、勉強会の開催、オンラインサロンの運営なども行っている薬剤師です。
今回のテーマは、薬剤師からの減薬提案のポイントです。たいぞーさんは、2020年の調剤報酬改定で服用薬剤調整支援料 ── 薬剤師が患者の服用薬を見直し、減薬に向けた提案を医師に行った取り組みを評価する調剤報酬上の項目。2020年の改定で新設されたと話されていますという項目が新設されたことを出発点にしています。
たいぞーさんによると、この項目の新設以降、薬剤師による減薬提案は以前より積極的に行われるようになったのではないかといいます。
ただ、その一方で、(減薬の)提案はするけど、なかなか実際に薬が減っていかない、減薬につながるのが難しい、そんな声もよく聞きます。
たいぞーさんは、薬を減らすこと自体が必ずしも治療を良くするわけではないため、減らないケースが一定あるのは当然だとしています。そのうえで、本当に減らしたほうが患者さんのためになる場合でも、減薬が難しいことは事実あると話しています。
こうした声を受けて、たいぞーさんは自身が現場で減薬に関わるとき、2つのポイントを押さえることが重要だと考えています。
1つ目のポイントは「患者さん自身が減らしたいか」
減薬提案の1つ目のポイントとしてたいぞーさんが挙げるのは、患者さん自身が薬を減らしたいと思っているかどうかです。
たいぞーさんは、減薬提案の目的は処方を適正化してより良い治療を届けることだとしています。ただ多くの場合、今の治療で大きな問題は起きておらず、薬が多いことによるリスクを減らすのが処方の適正化 ── 患者の状態に合わせて薬の種類や量を見直し、不要な薬や重複、副作用リスクなどを減らしていく取り組みの大きな枠組みだといいます。
そのため、多剤併用 ── 多くの種類の薬を同時に服用している状態。ポリファーマシーとも呼ばれ、副作用や飲み間違いのリスクが高まることがありますになっている患者さんの中には、体調が落ち着き、今の治療に満足している人も含まれると考えられます。
こういった状態だと、もちろん薬を減らしたいという動機は、患者さんの中に必ずしも強くあるわけではありません。
薬剤師が薬学的に見て「この薬は減らせそうだ」「不要なので減らしてみたほうがいい」と考えても、患者さん本人が今のままでいい、減らすのは不安だと思っていれば、減薬の話は前に進みにくいとたいぞーさんは話しています。
そこでたいぞーさんは、介入を始める前に次の点を確認・整理することを勧めています。
- 患者さんが今の治療に満足しているか
- 患者さんに薬を減らしたいという希望があるか
- 患者さんが今の薬の数についてどう思っているか
たいぞーさんは、こうした確認は地味かもしれないものの、減薬に介入するうえで大事な前提条件になると話しています。
2つ目のポイント、医師が抱える減薬への抵抗感とは
減薬提案の2つ目のポイントは、医師の減薬への抵抗感にいかに寄り添うかだとたいぞーさんは語ります。
減薬の提案は処方を見直す関わりです。しかし、医師は患者さんに不利益を与えようとして処方しているわけではなく、症状が落ち着きうまくコントロールできているからこそ今の処方が継続されているのだと、たいぞーさんは指摘しています。
たいぞーさんによれば、薬はもともと困っていたことを解決するために出されたものなので、どの薬をやめるにしても症状が再燃するリスクが必ず伴います。
しかも、もし状態がそれで悪くなったんだとしたら、患者さんから「先生が薬減らしたせいで調子悪なったやん」と言われる可能性というのもあります。
たとえそれが薬剤師からの提案であったとしても、最終的にそれを判断して処方したのは医師です。
減薬で状態が悪化したとき、矢面に立つのは処方した医師になることも少なくありません。たいぞーさんは、この心理的ハードルは決して小さくないと考えています。
今の処方で安定
症状が落ち着き、うまくコントロールできているから処方が続いている
減薬のリスク
薬をやめると、もとの症状が再燃するかもしれない
責任の所在
悪化すれば、処方を判断した医師が患者さんから責められる可能性がある
心理的ハードル
薬剤師の提案であっても、医師にとって減薬の決断は小さくない負担になる
薬剤師にできることは「減薬後の経過予測とフォローアップ」
医師の抵抗感に対して薬剤師にできることとして、たいぞーさんは減薬後の経過を予測してフォローアップすることを挙げています。
薬剤師は薬理学 ── 薬が体にどのように作用するかを研究する学問。薬の効き方や副作用の仕組みを扱いますや薬物動態学 ── 薬が体内でどのように吸収・分布・代謝・排泄されるかを扱う学問。薬がいつ頃まで体に残り効くかの予測に役立ちますの知識を使い、薬がいつ頃まで体に働き、いつ頃影響が弱まるのか、不利益が出るならどの時期にどんな症状が出るのかを予測できるといいます。
たいぞーさんは、この姿勢と薬剤師の予測を医師と共有しておくことで、医師が「それなら一度ちょっと減らしてみようか」と判断しやすくなることもあると話しています。
僕はここ(減薬後のフォローアップ)が薬剤師の専門性を生かして関わるすごく大きなポイントだなということを思います。
減薬の目的は「薬を減らすこと」ではない
たいぞーさんは最後に、減薬は薬を減らすこと自体が目的ではないと強調しています。
そのために意識したいこととして、たいぞーさんは3つを挙げています。患者さんの思いに寄り添うこと、医師の立場に寄り添うこと、そして薬学の知識を最大限に使って患者さんに関わることです。
たいぞーさんは、この3点を意識することで減薬提案の質は大きく変わると、日々の現場での実践を通じて感じていると話しています。
まとめ
今回のエピソードでたいぞーさんは、減薬提案を実際の減薬につなげるには、患者さんの意向の確認と、医師の心理的ハードルへの配慮が欠かせないと語りました。その鍵となるのが、薬学の知識を使った減薬後の経過予測とフォローアップです。
- 介入前に、患者さんが今の治療や薬の数をどう思い、減らしたいと望んでいるかを確認する
- 医師は安定している処方を変えることで、症状の再燃や患者さんからの責任追及というリスクを負う
- 薬理学・薬物動態学の知識で減薬後の経過を予測し、フォローアップの姿勢を医師と共有する
- 減薬の目的は薬を減らすことではなく、安全で納得できる、より良い治療につなげること



