前オーナーの「偉大さ」に縛られた数年間
なかけんさんを深掘りするシリーズの最終回は、かややんさんの「なかけんの冒険第4章最終章」という掛け声から始まります。かややんさんは、以前の回で語られた「ふわっと生きていくことへの憧れ」を引き合いに、規模が大きくなった今の会社をどう感じているのかを尋ねました。
なかけんさんによると、会社を引き継いだ当初は、前オーナーである前社長の存在がとても大きく感じられたといいます。引き継いだからにはその通りにやらなければ、という思いで頑張っていたのが最初の2、3年でした。
(オーナーの)通りにやらなければみたいな。頑張らなきゃみたいなので頑張ってたのが2、3年ですね。
社長として自分が代表やしなーみたいなんで、いろいろもがく日々。しんどかったですね、そこは。
その後、途中で吹っ切れて「ティールをやる」と言い出した頃から、なかけんさんは会社を「自分色にしてやろう」という方向に変わっていきました。その前後には、前オーナーとかなり衝突していた時期もあったと振り返っています。
前オーナー自身も別の会社から事業を引き継いでおり、受け取る側と渡す側の両方を経験していました。そのため「事業承継 ── 経営者が会社の経営権や事業を後継者に引き継ぐこと。親族への承継のほか、社員や外部の人材に引き継ぐケースもありますは難しい」とずっと口にしていたそうです。
プレッシャーが消えたきっかけと、オーナーとの関係の変化
なかけんさんは、事業承継の壁を「なんとか乗り越えた感じ」だと語ります。オーナーのようにやらなければ、オーナーと比べられる、というプレッシャーが薄れ、自分のやりたいことをやろうと思えるようになってから楽になったといいます。
せっかくチャンスもらってるしなみたいなんで、好き勝手やらせてもらいますみたいになってから結構楽になって。
ティール組織の導入や新規事業の立ち上げは、すべてこの「最近」の動きです。ただし、なかけんさんは好きにやるからこそ、オーナーに心配をかけないようにしなければと考えるようになりました。
「任せたんやったら四の五の言うな」というスタンスで、オーナーと衝突することもあった
好きにやらせてもらう以上、きちんと説明・報告するようにし、関係性が良くなった
最初は(オーナーに)任せたんやったら四の五の言うなやっていうスタンスやったんですよ。向こうからしたら心配やし。
説明や報告を丁寧にするようになったことで、なかけんさんは「ちょっと大人になった」と笑います。今は好きなことをやらせてもらっており、社員を困惑させている部分もあるかもしれないけれど、それでもやりたいからやる、という姿勢です。
毎日出社しない社長は何をしているのか?
かややんさんは、毎日会社に来るわけではないなかけんさんが普段何をしているのかを聞きました。なかけんさんによると、オンラインの打ち合わせは電波の悪い会社の2階を避けて、自宅でやることが多いそうです。
ほかには、外で人と会うことが多いといいます。お茶をしながら話すこともあれば、ゴルフに行くこともあり、仕事と直接関係のない人と会うことも「ちゃんとやっとかなあかん」と考えています。現場の仕事が必要なときは、その合間を縫って顔を出しているそうです。
「忙しいですね」という山根さんに、なかけんさんは「全然忙しくないですよ」と答えます。一方で「楽しいですか」と聞かれると頷くまでに間があり、かややんさんにすかさず突っ込まれる一幕もありました。
なかけんさんが楽しいと感じているのは、自らやりたくて始めたシステム開発の事業です。開発自体はメンバーが担っていますが、方向性や「次はこれで行くぞ」という判断は自分で考えているといいます。
一方で、売上は引き継いだ時の倍ぐらいになり、あちこちに顔を出さなければならない場面も増えました。なかけんさんは「引き受けたしな」と受け止めつつも、本当はやりたいことだけをやっていたいという本音もこぼしています。
なかけんさんが描く「みんなが好きなことをする」未来
かややんさんから思い描く未来を聞かれ、なかけんさんはしばらく考えたあと「みんな好きなことやってよ」と答えました。ただし、全部を好きなことにする必要はないといいます。
100じゃなくていいんですよね。半々とかでいいんですけど、リスクをそこまで背負わずに、いい感じの塩梅でみんなやったらええのになみたいな。
なかけんさんが注目するのは、会社の仕事に繁忙期と閑散期がはっきりしていることです。閑散期に別のことをやれば、副業のように複数の仕事を持つ働き方ができるのではないかと考えています。
本業という「しっかりした母体」を続けながら、空いた時間で何かを始める人が少しずつ増えたら面白い、というのがなかけんさんのイメージです。同じ仕事をずっと続けると飽きるけれど、残り半分で違うことをしていれば飽きないのでは、と問いかけます。
これに対してかややんさんは「私はもう飽きないですね」と返し、なかけんさんも「そこら辺はそれぞれある」と認めています。
「生活のために働く」が100%でいいのか?
なかけんさんは「生活のために働く」が多くの人にとって100%になっているのではないかと投げかけました。かややんさんは、自分は働きに出なくても生活できる状況で、仕事はアクティビティの資金のためだと答えています。
生活のために働くだけやったら嫌やなって思ってる。
かややんさんはさらに、結婚してあえて正社員で働く女性は、自己実現の面がすでにあるため、主たる収入を稼がなければならない男性とは感覚が違うかもしれないと補足しました。
なかけんさんは、生きるために働き、多少嫌なことでも我慢するのが多くの人のベースだと見ています。そこに、ワクワクすることを8対2でも7対3でもいいから少しずつ入れていけば、みんながもっとハッピーになるのではないかと考えています。
その長い時間(仕事の時間)が8:2でも7:3でもちょっと変われば、なんかちょっと豊かにならへんかなとか思うんやけど。
自由に考える「脳の領域」は死んでいく?
かややんさんは、なかけんさんの考え方が会社員とずれる理由を独自の言葉で説明しました。組織に属さずにやってきたなかけんさんは、自由なことを考える脳の領域が活性化しているのに対し、ほとんどの時間を決められた仕事に費やす人はその領域が「死ぬ」のだといいます。
ほとんどの時間をそれに費やさなあかん人も、その領域が死ぬんやと思う。
死んでんのに。だからしんどいから考えたくないんよ。
かややんさんは身近な例として、キャンプや遠出のように手間のかかる遊びを挙げます。年齢を重ねると多くの人が「めんどくさい」とやらなくなるのは、生活が普通のほうへシフトしてしまったからではないかという見立てです。
AI時代に人間に残るのは「責任を取る」仕事
かややんさんの「脳の領域が死ぬ」という話を受けて、なかけんさんは強い危機感を示しました。AIが進化すれば、考えなくてもできる仕事はすべてAIが担うようになり、人間は「自分は何をするのか」を考えることが仕事になるという見方です。
こんだけAI来てたら、マジで考えなくてやれる仕事はAIが全部やってくれるんで。
なかけんさんがティール組織 ── 上司の指示命令に頼らず、メンバーが自ら意思決定し、組織の目的に沿って進化していく組織モデル。フレデリック・ラルーの著書で広く知られるようになりましたで「自分で意思決定して責任を取ってください」と言い続けている理由は、ここにあります。AIに作業を任せても、最後に決めて責任を取る仕事だけは人間に残ると考えているためです。
なかけんさんは、一生責任を取らないままでいると、「君に頼むわ」という仕事が「AIに頼むわ」に簡単に置き換わってしまうと話します。逆に責任を取る訓練をしておけば、AIで能力が拡張される分、楽しく生きられるのではないかと考えています。
AIの進化
考えなくてもできる仕事はAIが担うようになる
人間に残る仕事
最後に決めて責任を取ることが中心になる
ティールでの訓練
自分で意思決定し、責任を取る経験を積む
その先
AIで能力が拡張され、楽しく生きられる
なかけんさんは、AIの開発を遅らせる動きや、安全面が追いつかないという指摘が出ていることにも触れました。かややんさんもその話を目にして「怖い」と感じたと応じています。
最新のAIは賢く、「頼んだほうが早い」状況になっていくとなかけんさんは見ています。そのとき、自分は何をしたいのかを考える力が活性化していなければ危うい、というのが問題意識です。樋上さんも「死んでる人は結構多い」というかややんさんの言葉に「死んでる死んでる」と同調していました。
高校バレー優勝の「逆転」体験が原点に
なかけんさんは、このシリーズの3回の中で言えなかった話として、高校時代のバレーボールの経験を明かしました。前評判では弱く、決勝戦前のアタック練習では相手との力の差が歴然としていたにもかかわらず、試合では勝って優勝したといいます。
一人の力がそんな強くなくても、強みが掛け合わさると逆転するっていうのがあるんやっていうのが、バレーで俺が得た快感というか。
なかけんさんにとって、この経験は今も自分の中で輝いているもので、人生の中でもう一度味わいたいとずっと思ってきたそうです。必死に働いているのにやりたいことや強みが生かされていない状態ではなく、強みを生かした人同士が集まることで化学反応が起きるはずだと考えています。
そういうのができたらいいよねってずっと思ってるっていう(こと)から、なんか組織にこだわってるんやと思います。
なかけんさんによると、社内ではすでに、それぞれの場所で頑張る社員の力が組み合わさって良いものができる場面が少しずつ生まれています。それが部署を横断して起きるようになれば「可能性無限」だといいます。
その人にしかできひんことって絶対あるんすよ、みんな。
樋上さんは、この話を以前にもなかけんさんから聞いたことがあると振り返り、ずっと変わらない思いなのだと受け止めました。
「好きにやって」と言われても動けない社員とのズレ
なかけんさんは、強みを掛け合わせる組織を実現する方法の一つがティール組織だと説明します。そのためには一人ひとりが自立し、責任を取って考え、「自分なんて」というブロックを外していく必要があると考えています。
社長別に大変じゃないよっていうのもそうやし、誰でもできるし。
一方でなかけんさんは、自分は自由に考える脳ばかりが動いているというかややんさんの指摘から、社員との間に大きなズレがあるかもしれないと気づいたといいます。「好きにやって」と言われても、みんなが動けないのは当然かもしれない、という受け止めです。
これに対して樋上さんは「死んでる側の意見」として、自分がやりたいことはまだわからないものの、そういう未来を描く人の下で働けるのはワクワクすると答えました。
(中さんが)そういう未来を描いてるんやっていう人の下で働いてるのが、ちょっとワクワクはする。
なかけんさんは、そこへ向かう過程にはしんどいこともあるだろうとしつつ、今後の世界はそちらに進み、生き方を大きく変えなければならない時が来ると話します。樋上さんは、その切り替えには勇気が必要で、急に変われる人もいれば、じわじわ変わっていく人もいるかもしれないと応じました。
なかけんさんは、未来に悩む人が多い中でも「逆に楽しみな世界線もあるんじゃないの」と前向きに締めくくっています。
「ふーん」と飛んでいく日はいつ?50歳に向けた準備
言い残したことはないかと樋上さんに聞かれたなかけんさんは「届けたよ、今」と答えます。話題は、なかけんさんがいつ、立場を捨てて「ふわっと」飛んでいくのかに移りました。
やっぱここの今の立場とかあるのも、めっちゃうまみとして持ってるんで、これ(立場)完全になくなったら(と思うと)めっちゃ怖いなって感じは僕もあるんで。
樋上さんの「急にはやめてください」という言葉に、なかけんさんは「50に向けて」それができる準備をしていかなければ、と応じました。最後は樋上さんが「神回なんでみんな聞いてください」と呼びかけ、5回目があったら追悼番組になるという冗談で、なかけんさん深掘りシリーズは幕を閉じます。
まとめ
なかけんさんは、前オーナーの存在に縛られた時期を越えて、自分のやりたいことに踏み出しました。ティール組織に込めたのは、AI時代に人間に残る「決めて責任を取る力」を社員に育ててほしいという思いと、強みを掛け合わせて逆転した高校バレーの体験をもう一度組織で味わいたいという願いです。
- 事業承継当初の2、3年は前オーナーの通りにやらねばともがき、吹っ切れてからティール組織や新規事業に踏み出した
- 本業を母体にしつつ、閑散期などに好きなことを半々や7対3で取り入れる働き方を描いている
- AIが作業を担う時代には、最後に決めて責任を取ることが人間の仕事になるとして、ティールでその訓練を促している
- 原点は、個々は弱くても強みの掛け合わせで逆転した高校バレーでの優勝体験
- 「好きにやって」と言われても動けない社員とのズレを自覚しつつ、楽しみな未来の世界線を語った





