なぜ条件ではなく「想い」で選ぶ採用媒体なのか
神輝興産は採用ページ用の写真を、久しぶりにカメラマンに撮ってもらいました。永瀬さんは、普段は撮らない近い距離感の写真から、現場の「温度が伝わる」と話しています。
今回の採用で神輝興産が選んだ媒体は、Wantedly ── 企業の給与や待遇よりも、事業のビジョンや働く人のストーリーを打ち出して人材を募集する求人・ビジネスSNSサービスです。中さんは、これまでの媒体とは探され方が違う点に惹かれたといいます。
他の通常の媒体は基本的には、給料とか休みとかそういうので検索かけて、その条件面でまず調べていくっていうスタンス。
Wantedlyさんは(給料などの)条件面があんま載ってないから、会社の思いとかストーリーとか、そういうのを読んで共感していく中で採用活動が始まっていくっていう流れみたいで。
中さんの説明から、神輝興産が今回比べた2種類の採用媒体の違いを整理すると次のようになります。
給料や休みなどの条件で検索され、条件面から比べられる
条件面はあまり載せず、会社の思いやストーリーへの共感から採用活動が始まる
Wantedlyの神輝興産のページでは、中さんに加えてスタッフ2名ほどにもインタビューし、ストーリー記事を書いてもらう予定です。ただ、掲載期間はすでに始まっているものの、インタビューは1か月後の予定で、まだ記事は1本しか載っていない状況だといいます。
樋上さんからは、Wantedlyに登録していない人でも記事を読めるのかという疑問も出ました。中さんは、ページは掲載期間後も残り、会社のホームページからも飛べる一方で、記事を全部読むには登録が必要かもしれないと話しています。
中さんは、Wantedlyは若手が中心で、もともとIT系がメインの媒体というイメージだったと振り返ります。思想は以前から良いと思っていたものの、神輝興産はITではないため、これまでは使ってこなかったそうです。
AIが若手の「最初の仕事」を奪うと何が起きる?
IT系の媒体という話から、ITの経験が長い永瀬さんは、IT業界で働く人の入れ替わりについて語ります。AIの影響もあり、派遣の人の人数が急に「来月はもういい」と大きく変動することがあるといいます。
永瀬さんが就職した頃は、ITやコンピューター系の求人が多く、間口が広い業界でした。その分、とりあえず就職したものの合わずに辞め、エアコン設置のような全く別の業種に移った人も少なくなかったそうです。
ITのやつも先輩に聞いたらわかるんやけど、なぜなぜが理解できんってことが結構あったりする。
永瀬さんによると、点検の仕事は先輩の経験値から説明されると「なるほど」と納得しやすい一方、プログラムの説明は詳しくされても理解が追いつかないことがあります。それが積み重なり、つらくなって辞める人もいたといいます。
中さんは、今はさらに状況が変わっていると話します。プログラミングの業界では、新人に任せていた初歩の仕事をAIがこなすようになり、新人が経験を積む場そのものがなくなりつつあるという指摘です。
初歩で任せる仕事がなくなっちゃって、これからやろうとしてる人が経験を積めないっていう時代にもうなってるみたいで。
中さんが語った、AIによって若手が経験を積めなくなるまでの流れは次のとおりです。
AIの進化
できる人はAIを使ったほうが早く、質も上がる
初歩の仕事が消える
新人に経験として任せていた仕事をAIがこなすようになる
経験の場がなくなる
これから始める人が、どうやって経験値を貯めるのかという問題が起きる
中さんは、この問題が今後いろいろな業界で起き出すと感じています。一方で現場の仕事は、フィジカルAI ── ロボットなど、現実の物理空間で体を持って動くAIのこと。言語や画像を扱うAIに比べ、実用化にはまだ課題が多いとされますが普及するまで時間がかかりそうで、人が出るしかないと話しています。永瀬さんも、安全面などの理由を挙げて同意しました。
現場経験はキャリアの幅をどう広げるのか
中さんは、アメリカではブルーカラーのほうが稼げるようになっているという話に触れ、日本も同じ流れになるだろうと見ています。ただ、日本ではまだ現場の仕事に人気がないとも話しています。
ホワイトカラーでやってた人たちがブルーに来るっていうのは、かなり抵抗があるんだろうなと。
永瀬さんは、年齢にもよると前置きしつつ、40代では高学歴な人ほどホワイトカラーに進んでいるため抵抗があるかもしれないと話します。さらに、AIが広まったことで、そもそも外で体を動かすことに抵抗がある人も増えているかもしれないと付け加えました。
中さん自身は、ブルーカラーの仕事をしていた父親から「いい学校に行って、いい会社に入れ」と教えられて育ちました。息子にしんどい思いをさせたくないという親心だったと中さんは受け止めています。
それ(父の教え)を聞かずに道外れてブルーカラーをしっかり5年ぐらいやっててよかったなって今は思ってます。
(中さんは)現場に出ることに抵抗があんまりないんですよね。しんどいけど行けって言われたらやれるんですけど、これ俺40までずっと中で働いてたら無理やろってなると思うんですよね。
永瀬さんは、若いうちの経験があるかないかが、年を重ねたときの幅につながると応じます。やったことのないことには抵抗やストレスがあるものの、いろいろ経験しておくと新しいことへの許容範囲が広がるという話です。
中さんは、前日の現場での場面を例に挙げます。中さんが高いところや狭いところへすっと入っていく一方、ホワイトカラーで働いてきた客先の担当者は、中さんより若くても上から「どうなってます?」と見ているだけだったそうです。
なんかそこら辺って、慣れてると慣れてないの差って結構あるんやなとかは思いましたね。
ドローンやiPadで点検の現場はどう変わった?
永瀬さんは、現場の仕事といっても、橋梁点検のやり方自体が変わってきていると指摘します。中さんも、かつては紙を持って行って手書きで記録していたと振り返りました。
目と体を使い、紙を持って行って手書きで記録する
iPadを持って行き、ドローンやロボット点検なども取り入れる
新しい技術を取り入れることに抵抗はないかと永瀬さんに聞かれ、中さんは「大歓迎派」と即答しています。ただ、現場に慣れたベテランほど新しいことに少し抵抗がある、という点は2人とも認めています。
永瀬さんは、これから入る若手にとって、点検の現場はイメージよりも機械を使う仕事に見えるかもしれないと話します。中さんも、ドローンは現場に慣れていなくても扱えるうえ、ほとんど動かずに済むと補足しました。
すごい狭い、なんか暗いところに入らなあかんみたいな思ってるかもやけど、ドローン担当になればそこにはむしろ行かない。
ただし中さんによると、ドローン担当でも橋の下へ降りていくときは、急斜面など危ない場所に機材を置いていく必要があります。
永瀬さんは、この業界でどうしても避けられない点として、朝が早いことと拘束時間が長いことを挙げます。テレワークや自由な働き方が広がるなかで、点検する時間が決まっている橋梁点検では、規則正しい生活がついて回るといいます。
点検6割・洋裁4割という働き方は伝わるか
現場の仕事に人気がないことを踏まえ、神輝興産は今回の採用で打ち出し方を変えます。点検をしながら洋裁にも取り組んでいるスタッフを、インタビューやストーリー記事で取り上げる方針です。
6割点検して4割は洋裁のことをやるみたいなんで、やっていくと、まあ10割ずっと現場で点検し続けるのはしんどいけど、でも6割ぐらいやったらええなとか。
中さんは、点検と別の仕事を両立したい人をメインターゲットに絞りたいと話します。「点検をやります」だけでは勝負できないかもしれない、という危機感があるためです。
とはいえ、点検だけをやりたい人も歓迎だといいます。神輝興産には点検100%で働く人もいて、その働き方も問題ないと中さんは強調しています。
中さんが思い描く、入社後の仕事の割合の変化は次のような段階です。
中さんが点検をベースに置く理由は、点検が国の仕事でまあまあ安定しているからです。点検で技術と稼ぐ力をつけながら、ゼロから自分で始めるとリスクの大きい新しい挑戦に、空いた時間で取り組めるという考えです。
点検の仕事は閑散期と繁忙期もはっきりしているため、春は新しい事業に100%取り組み、秋冬は点検をしっかりやるという形も考えられるといいます。
一方で中さんは、こうした働き方が記事で伝わるかは難しいとも認めています。永瀬さんも「何をやるのはOKなのか」がわかりにくいかもしれないと指摘し、中さんは「結局何するん?」と受け取られる心配を抱えながらも、今回はこの打ち出し方で挑戦すると話しました。
人手不足のなか、若手はなぜ大手を選ぶのか
どこも人手不足と言われるなか、永瀬さんは「どこに人が集まっているのか」と問いかけます。中さんの答えは「大手」で、やはり安定が求められているという見立てです。
要は今全盛期のところって、次全盛期じゃなくなるじゃないですか。そこにみんな行きたいってなるから、若い子たちは。
中さんは、就職人気ランキングの上位には、自分たちから見ると少し遅れ気味の業界が並んでいると感じています。実際、神輝興産に来ていたアルバイトの学生も、超大手企業に就職したそうです。
永瀬さんは、最初は働くイメージがしにくいため「大手に行っておけば間違いない」と考えるのだろうと話します。樋上さんは、起業したいような独立心のある若者が多いと思っていたと意外そうに応じました。
大手に入った人が辞めるかどうかについては、意見が分かれました。永瀬さんは、メンタルを崩しても復職する人をよく聞くとして、大手にいること自体を大事にしているのかもしれないと話します。
中さんは、日本では新卒のカードが一度しかなく有利なので、まず大手に入りたい人が多いと説明します。一度働けば中小企業の自由さが見えてきたり、地元に帰るUターンやIターンを考えたりして、転職する人も多いのではないかと話しています。
最後に重視するのは「元気」かどうか
大手志向の話を受けて、永瀬さんは「うちにいい人が来るといいですね」とつぶやきます。中さんも、人がいないと何も始まらないと応じ、採用への切実な思いを口にしました。
Wantedly経由の応募は、カジュアル面談から始まる予定です。樋上さんは、これまでとは違うタイプの人が来るかもしれないと期待しています。
元気だけどうしてもね、後々培えないんでね。スキルとかは勉強したりとかしたら培われていくけど、(その人が)持ってる元気ってなかなか引き出すの難しいんで。
樋上さんも、挨拶の声が大きい人が一人いるだけで、事務所がぱっと明るくなり、自分の気持ちまで明るくなると共感します。
永瀬さんは、元気な人なら自分から「何してるんすか?」と話しかけてくれるので接しやすいと話します。逆に、ハラスメントが言われる今は、おとなしい若手との距離感をつかむのが難しいとも感じているそうです。
神輝興産の選考では簡単な算数テストが必須ですが、永瀬さんは個人的に、点数が多少悪くても元気かどうかを熱心に見ていると話しています。最後に樋上さんが、Wantedlyやポッドキャスト、YouTubeを見て興味を持った人に応募を呼びかけ、この回は締めくくられました。
まとめ
神輝興産の3人は、Wantedlyでの採用を始めたことをきっかけに、AIで若手が経験を積みにくくなる時代の働き方を語りました。橋梁点検という安定した仕事を土台に、洋裁のような別の仕事にも挑戦できる働き方を打ち出す点に、今回の採用の想いが表れています。
- 条件ではなく会社の想いやストーリーへの共感から始まる採用を目指して、神輝興産はWantedlyを選んだ
- AIが新人向けの初歩の仕事を担うようになり、経験を積む場が減っているという問題意識が語られた
- 中さんは、若いうちに現場を経験したことでキャリアの選択肢が広がったと振り返った
- 点検はドローンやiPadの導入で変わりつつあり、点検6割・別の仕事4割のような働き方も提案されている
- 永瀬さんは、後から身につけにくい「元気」を採用で最も重視していると話した







