起業からTOBまで、一通りやり切った26年
番組冒頭、高木さんは宇佐美さんの経歴を「起業してサイバーエージェントにM&Aして、MBOして、自分でまた上場して、経営統合した」と紹介します。宇佐美さん自身も、その道のりを「一通りやった」と振り返ります。
宇佐美さんは今年で54歳。1972年に相模原で生まれ、すぐ愛知の三好町に引っ越して少年時代を過ごしました。大学から東京に出て、トーマツコンサルティングを経て起業の道へ進みます。
最初の起業はうまくいかず、友人と1999年に立ち上げたのがアクシブドットコムでした。そこからECナビ、VOYAGE GROUP、CCIとの経営統合を経てCARTA HOLDINGSとなり、昨年ドコモからのTOBに伴って代表を退任しました。TOB ── 株式公開買付け。特定の企業が対象会社の株式を、市場外で一定価格・期間を提示して買い集めること。ここではNTTドコモがCARTAを買収し非上場化した。
高木さんは、上場企業の経営者でなくなった宇佐美さんがXで「自由に言えるようになった」と投稿していたのを見て、今こそ話を聞きたいと思ったと切り出します。
だいぶTwitterの発言回数が増えました。
上場すると、なぜ「カオス」は消えていくのか
高木さんは新卒時代、VOYAGE GROUPのオフィスに触れた記憶を語ります。海賊をテーマにした酒場があり、熱いメッセージが飾られ、夜までイベントや飲み会が続く、大企業とは全く違う空気があったといいます。
宇佐美さんは、その原型が創業初期に間借りしていた渋谷のネットエイジにあったと明かします。そこにはグリーの田中さんなど、後のネット業界を担う人たちが出入りしていました。
一方で、その雑多な空気は次第に薄れていきます。宇佐美さんは、上場に足る会社へ整備を進めるほど、カオスな部分が減っていくと認めます。
ああいうコミュニティってカオスがあるから面白い。でもカオスっていろんなトラブルも起きやすいっていうところもやっぱりあった。
高木さんは、上場による適正化と、カオスや不確実性を抱える文化とは相反するのではないかと問いかけます。宇佐美さんは、それを「大人になっていくこと」だと表現しました。
思春期のはしゃぎなところから、徐々に分別がわかる大人になっていく中で、社会の公器としてのパブリックな会社になっていくということだと思うんですよね。
より大きなチャレンジを取り続けた結果、事業は大きくなりました。ただ、どこかでなくしてしまったものへの寂しさが残ったと宇佐美さんは話します。
蒸気機関車が新幹線になったとき、失ったもの
宇佐美さんは、会社を続ける原動力を「文化祭前夜」の感覚だと表現します。演劇でも出し物でも、前日はみんなが泊まりがけで楽しい。その感覚をずっとやりたかったといいます。
だからこそ、事業内容そのものへのこだわりは薄かったと明かします。ところが、いつの間にか文化祭ではなくなっていた、という感覚が残りました。
高木さんは、それに気づいても取り戻すのは難しいのかと尋ねます。宇佐美さんは、走り始めた機関車にたとえて答えます。
昔ののんびりした蒸気機関車が良かったなと思っても、いつの間にか新幹線みたいな感じで進んでるわけですよ。
ただし、新幹線になったこと自体に嫌悪感はなく、それはそれで楽しかったと宇佐美さんは言い添えます。その時しかやれないこととして頑張ってやってきた、という受け止めでした。
市場の関心が薄れていく、努力では届かない壁
高木さんは、広告業界もスタートアップも、かつてのモメンタムを失いつつあるのではないかと切り出します。上場して非連続に成長し続けるゲーム自体、前提が崩れてきているのではないかという問いです。
宇佐美さんは、VOYAGE・CARTAの上場時の時価総額が250〜300億ほどだったと振り返ります。上場直後はアナリストからの取材が四半期で30〜40件あったのが、徐々に減っていったといいます。
最初の1年は本当にクオーターで30件、40件あったのが、徐々に20件になり、15件になり、10件になり。
その本質的な原因を、宇佐美さんは自分たちの実力ではなく市場そのものにあったと分析します。
高木さんは、努力では解決しない構造だと指摘します。宇佐美さんは、最終的には利益の継続成長がなければ市場から注目されにくいと応じました。
さらに、ここ数年で資本市場の見方が変わったといいます。トップラインの成長よりも、利益成長を力強く見せられるかが重視されるようになりました。トップライン ── 損益計算書の一番上に来る「売上高」のこと。対して利益は費用を差し引いた最終的な儲けを指す。
インターネットが成熟し、普通の産業と同じセグメントとして扱われるようになったこと、そして利益が出ていて流動性の高い大企業に投資家の目線が移ったことが背景にあると宇佐美さんは説明します。
トップライン(売上)の成長。トレンド市場に乗っていること自体が注目を集めた
利益成長のモメンタム。個別企業の利益と流動性が重視されるようになった
親会社・子会社という関係が、どうしても嫌だった
TOBで退任した後、宇佐美さんは上場を目指す過程でやりにくかったことを、新しい形でやり直そうとVOYAGE CAPITALを設立しました。高木さんは、具体的にどんなことがやりにくかったのかを尋ねます。
たとえば100%子会社の経営者から「自分もこの会社の株を持ちたい」「この会社で上場できないか」と言われても、連結納税などの事情で難しいと断ってきたといいます。人事制度や報酬水準も同様でした。連結納税 ── 親会社と子会社を1つのグループとみなして法人税を計算する制度。グループ全体で損益を通算できるが、子会社を独立させにくくする要因にもなる。
ところが自分がCARTAの株を全て売却したとき、宇佐美さんは意外な感覚に気づきます。株を持っているから頑張るわけではないと思っていたのに、実際には関係するのだと感じたのです。
株を持ってるから自分が頑張ってるわけじゃないって常に思ってたのに、意外にこれやっぱ関係するぞというのを思ったんですよね。
この体験から、事業にコミットする人をベースにした資本政策や人事制度であれば、もっと突き抜けられたのではないかと考えるようになったと話します。
宇佐美さんは、この感覚をサイバーエージェント時代にも見ていました。親子上場に悩む藤田さんの姿を参考に会社を経営していたため、自然と「そういうものだ」と思っていたといいます。
親子という関係への違和感を、宇佐美さんは部活の先輩後輩にたとえます。
中学高校の部活の先輩後輩が嫌だみたいな、あの上下関係が嫌なんだけど、でも仲間としてやっていくのはいい。
PEファンドという「狭く深い」選択
高木さんは、なぜVCではなくPEファンドを選んだのかを尋ねます。宇佐美さんは、VOYAGE時代にサイバーエージェントからMBOする際、プライオリティキャピタルの支援を受けた経験を挙げます。PEファンド ── プライベート・エクイティ・ファンド。未上場企業や事業を買収し、経営に深く関与して企業価値を高めてから売却や配当で利益を得る投資形態。
VCが薄く広く多くの会社に投資するのに対し、PEは狭く深く1つの会社に入り込みます。宇佐美さんが求める「熱いコミュニティ」には、後者が合うと考えました。
熱いコミュニティってこう薄く広くじゃないじゃないですか。狭く深く、そういうコミュニティを作りたいなと思って。
高木さんが、PEファンドはビジネスモデルとして優れているのかと問うと、宇佐美さんは収益性の高さを挙げます。PEファンドの平均利回りは年12〜15%ほど、VCは0〜5%ほどではないかといいます。
その差の理由はレバレッジにあると宇佐美さんは説明します。銀行借入を使って投資を膨らませ、しかもその借入は買収先の会社が返す形になるため、ファンド側が金利を負担しません。レバレッジ ── てこの原理の意味。少ない自己資金に借入を組み合わせて投資規模を大きくし、リターンを増幅させる手法。LBO(レバレッジド・バイアウト)はその代表例。
薄く広く多数のスタートアップに投資。エクイティ中心。平均利回りは0〜5%程度
狭く深く特定企業に入り込む。借入を組み合わせレバレッジを効かせ、平均利回りは12〜15%程度
投資する会社の条件について、宇佐美さんは領域を決めていないと話します。基準は「この人と一緒に働きたいと思えるか」であり、自分が価値を提供できることや、中長期で大きなチャレンジを志向していることを重視すると語りました。
藤田晋との差は「一貫性」だった
高木さんは、同じ時代にネット広告やゲームを手がけた人たちの中で、なぜサイバーエージェントとの間に大きな差がついたのかを問います。宇佐美さんの答えは明快でした。
いや、もう経営者の差じゃないですか。
宇佐美さんは2005年にサイバーエージェントの役員になった際、まさにこの差はどこで生まれているのかを内側から確かめようとしたといいます。そこで見えたのが藤田さんの一貫性でした。
当時の宇佐美さんは、経営戦略を小難しく考え、仕組みや制度を作り込もうとしていました。一方、藤田さんは制度をかっちり作るより、いい人を採用していい人に任せることを大戦略に置いていたといいます。
宇佐美さんは、市場が激しく変わる中で一貫性を保てる理由を、経営者の本質がブレていないことに求めます。
自分の考えを我慢せず、ぶらさずにちゃんと持ち続けていくことがすごく大事だなと思っていて。
この学びは、軸の違う会社が1つの軸を作るCCIとの経営統合を経て、より強く実感したものだといいます。だからこそ今回は、VOYAGE CAPITAL全体の軸と、それぞれの会社の軸があっていい形にしたと話します。
執着の裏にある「原体験」の有無
高木さんは、サイバーエージェントがメディアに異常に執着し、当たるまでやり続ける狂気性を持ち続けている点に注目します。宇佐美さんは、その差は原体験・原風景の有無にあると答えます。
藤田さんには、初期にYahoo!の広告枠を扱えるかどうかに左右された経験や、「渋谷で働く社長の告白」に書かれた自社メディアへの渇望があり、それが今のABEMA TVにつながっていると宇佐美さんは見ています。
一方、宇佐美さん自身に同じような事業の原風景はあるのかと問われると、答えは意外なものでした。
僕はね、そこはあんまりないんですよ。浮かばないですね。
学生結婚と、過ごせなかった青春
原風景がないと言った宇佐美さんですが、話は会社ではなく学生時代へと移ります。宇佐美さんは大学1年で学生結婚し、19歳で結婚、20歳のときには子どもがいました。
そのため、サークルやゼミといった集団に属して何かをやる大学生活を、宇佐美さんはほぼ経験できなかったといいます。生活のためにアルバイトに追われる日々でした。
本来やりたかったのにやれなかった、この3年間ぐらいの、その感覚をもう一回作りたいみたいな。
高木さんは、この話が全ての伏線を回収したと受け止めます。VOYAGEという名前も、宇佐美さんが取り戻したい景色も、この原体験につながっていると理解したのです。
高木さんは、内田樹さんが子育てを終えた後に堰を切ったように執筆を始めた逸話を引き合いに出します。宇佐美さんも、CARTA統合後の内向きな6年間で溜まった思いが、今まさに解き放たれようとしていると語りました。
熱量ある組織を、どう作り続けるか
高木さんは、この時代にはベンチャーで熱をもって働きたかった人たちの「魂の居場所」がなくなりつつあるのではないかと投げかけます。宇佐美さんは、VOYAGE CAPITALの創業メンバー募集に、2日で80人ほどから反応があったと明かします。
応募理由を読むと「熱い仲間と熱い仕事をしたい」という声が多く、それを求めているのは20代よりむしろ30代・40代・50代だったといいます。
熱量ある組織をどう作り続けるかについて、宇佐美さんは会社経営を学校経営にたとえます。運動会、遠足、文化祭、マラソン大会といった共通体験とチーム活動を交互に重ね、一体感を作っていく発想です。
組織が大きくなりすぎると外側からどんどん冷めていく。だからホットスポットが常に中にある状況を作りながらやっていく。
高木さんは、燃えている場所があれば、それが種火となって他にも火を灯せるのではないかと応じます。宇佐美さんも、全体をまんべんなく熱くするのは難しいと同意しました。
その好例として、高木さんは学校とファンドを両立させるグロービスを挙げます。宇佐美さんは、GPの承継までできている数少ないベンチャーキャピタルだと評価し、キャリーの分配を工夫した仕組みがあると聞いたと補足しました。
ファンドと事業会社を融合する新しい形
VOYAGE CAPITALの実態は、いわゆる「ファンドファンドした」ものではないと宇佐美さんは強調します。1号案件は、個人会社でLBOしていたサポーターズをファンドに移すもので、旧VOYAGEのメンバーが中心です。
2号・3号もほぼ決まっており、元VOYAGE出身の経営者が関わっているといいます。名前だけVOYAGEを借りたのではなく、当時の仲間との再結集に近い構図です。
あの頃が良かったっていう風にみんな言いながら、だから青春をもう一度っていう。よりこの輝ける青春にしていきたいなっていう。
さらにこのファンドには外部LPを入れません。事業会社や金融機関の資金を入れると、上場企業との接点が生まれ、その制約条件が投資先にも及んでしまうためです。LP ── リミテッド・パートナー。ファンドに出資する投資家を指す。運営を担うGP(ゼネラル・パートナー)に資金を託す立場。
宇佐美さんは、これをファミリーオフィスに近いと表現します。プライベートな資金をベースにすることで、それぞれの会社が自由に資本政策や人事制度を持てる形を目指しています。
仕組みは、株式会社であるVOYAGE CAPITALの下にファンドを置き、さらに合同会社から投資する構造です。配当が合同会社に溜まり、再投資できるようにする狙いがあります。
VOYAGE CAPITAL(株式会社)
母体となる会社
ファンド
外部LPを入れず、宇佐美さんが大半を出資
合同会社
ファンドの下で投資を実行し、配当を溜める
投資先企業
配当が合同会社に還流し、再投資の原資になる
参考として引き合いに出されたミダスキャピタルは、上場やM&Aによるキャピタルゲイン型です。一方、宇佐美さんは上場やM&Aを前提とせず、配当をコツコツ溜めて再投資する循環モデルだと説明します。
親会社子会社って見せたくない、感じさせたくない。でも横串で経営陣レベルで連携するコミュニティを作っていきたい。
「反上場企業」という逆張りのビジョン
高木さんは、ファンドと聞くと「上がった人がやるビジネス」という印象になりがちだと指摘します。ベインキャピタルのような外資の大人プレーを連想されるのはもったいないのではないか、という提案です。
高木さんは、宇佐美さんの本当のメッセージをこう言語化します。大学時代に失った青春を取り戻すため、VOYAGEの仲間と再結集し、上場企業の経験も踏まえて、ファンドと事業会社のいいとこ取りをした新しい経営モデルを作ろうとしている、と。
アメリカにはないモデルとして、もう作り出そうとしてんだよねって言われた方がワクワクする人が多いんじゃないかな。
宇佐美さんは、これをM&Aではなく「参画」であり、同盟を一緒に作っていく感覚だと応じます。事業承継のような案件ではなく、共に経営していくアライアンスモデルとして表現しました。
5年10年後に答え合わせをするとしつつ、宇佐美さんはこのモデルの姿勢を短い言葉に凝縮します。
反上場企業ね。だからそうは言っても、別に上場したければすればいいし、止めもしないけど大変だよっていう。
収録の最後、宇佐美さんは、普段言語化できていなかった思いに気づけたと振り返りました。大学時代に本当はやりたかったことが、今の挑戦の原点だったと自ら見出したのです。
まとめ
500億超の上場企業トップを退いた宇佐美進典さんの原点は、事業ドメインへの執着ではなく、学生時代に過ごせなかった「文化祭前夜」の青春でした。VOYAGE CAPITALは、その熱をファンドの仕組みで取り戻す試みです。
- 上場は会社を「大人」にする一方で、カオスや熱量といった初期の魅力を薄めていく。宇佐美さんはその寂しさを実感してきた
- 資本市場の評価軸はトップライン成長から利益成長へと移り、努力だけでは市場の関心をつなぎ止めにくくなった
- 藤田晋さんとの差は一貫性にあり、経営者が本質をぶらさず持ち続けることの重要性を宇佐美さんは学んだ
- VOYAGE CAPITALは外部LPを入れず、ファンドと事業会社を融合させた「反上場企業」的なアライアンスモデルを志向する
- 宇佐美さんのやりたいことは事業そのものより「仲間とワチャワチャできる場」であり、会社やファンドはその手段に過ぎない




