「私、何も作ってない疑惑」の正体
ウェブディレクターという仕事をしていると、「自分で何も作ってない疑惑」みたいなものにぶつかりますよね。
実際、自分で手は動かさないんです。画面設計はするけれど、ワイヤーフレームがそのまま表に出るわけじゃない。コードを書くわけでもない。
クライアントと制作現場の板挟みになって、あちこち走り回って調整して。気づけば「私、結局何したんだっけ」となってしまう。これはめちゃめちゃあります。
最終的な御用聞きみたいになって、なんとかリリースまで持っていく。そしたらまた次の案件が来る。
一体どうしたらスキルが上がって、給料が上がるのか。この先どうなるんだろう。そういう五里霧中の感覚になっているディレクターは、本当に多いなと思うんですよね。
その気持ちは、正直わからんでもないです。実際そういう面もありますしね。
ディレクションは、全部のプロジェクトに必要なスキル
でも、ここが大事なところで、ディレクションのスキルというのは、非常に汎用性が高いんです。ウェブに限らないし、そもそもウェブに限らない。
むしろ、すべてのプロジェクトにはディレクションという職能がないと回らないと思っています。ディレクターという人がいるかはともかく、ディレクションという職能は絶対に必要なんです。
自動車で例えると、全部はドライバーの意思に沿って動くから走るわけで、各車輪がバラバラに動いたら、そのうち車が回転し出しますよね。プロジェクトも同じなんです。
仮に全部の職能をAIに置き換えたとしても、ディレクションというスキルを持ったものは必要だと思います。どういう順序で進めればいいかを整理できないと、各パーツが勝手に動いてうまくいかないので。
二つとして同じプロジェクトはありません。100項目のうち99項目が同じでも、残り1つは違う。
その「こういう時はこうすればいい」という知見を溜めていける人は、割と将来有望なんだと思うんです。なぜなら、すべての仕事にディレクションが必要だからです。
ウェブディレクターの強みは「守備範囲の広さ」
システム開発にもプロジェクトマネジメントという言葉があって、基本的にはほぼ同じものです。
ただ、その中でウェブディレクターがいいなと思うのは、守備範囲が広いことなんですよ。
システム開発のPMは、たぶん集客やプロモーション、マーケティングが弱いんです。「こんなものが欲しい」と言われて要件定義はできるけれど、「こんなものが欲しいよね」と言える側ではない。
ウェブ制作のディレクターは、広告を出しましょう、来たユーザーにこういうUXを提供しましょう、どのチャネルで何をしましょう、というところまで守備範囲が広がらざるを得ない。だから潰しが利くんです。
迷走しているプロジェクトのほとんどは、いきなり手段の話が出てしまうんですよね。「じゃあこのサイトを作ろう」と進むけれど、結局これ何のためにやるんだっけ、と。
目的をどう決めるかを突き詰めていくと、これは事業計画の話にまでつながっていきます。ウェブサイトを展開することも事業の一つですから。
扱うネタが変わるだけで、根底は同じなんです。まずこのプロジェクトは何のためにあって、何をすべきか。それを整理して、実施して、成果物に落とし込む。この流れはどんなプロジェクトでも一緒です。
もちろん、国立競技場の建築プロジェクトのPMが私にできるかというと、できません。建築の知識がないので。ただ、PMとしてやっていることは一緒なんですよ。だから扱える範囲を広げるほど、できることが増えていきます。
ツール選定こそ、ディレクションそのもの
具体例を挙げると、私はいま業務システムの導入とか、社内ツールの選定からディレクションすることもあります。もうウェブディレクターの仕事じゃないじゃん、という感じなんですけどね。
このツール選定、意外とできない人が多いんです。とにかくツールを並べればいいと思っているから、いらない機能まで比較表に入れてしまう。
しかも、どのツールベンダーに比較表を作らせても、自社に一番丸がつくような作り方をするんですよ。だから鵜呑みにしちゃいけない。
正しいのは、自社にとって必要な機能だけをピックアップして、それに丸バツをつけることなんです。全機能を網羅する必要はない。というか無理ですし。
じゃあその項目をどう決めるか。それは「そもそも、このツールをなぜ導入するんだっけ」という目的に立ち戻るわけです。もうウェブディレクションそのものでしょう。
目的が決まれば、選定メンバーは誰がいいか、使う部署の誰の了承を得るべきか、最終的に決裁者にどうプレゼンするか、全部つながっていく。これがディレクションなんですよね。
ちゃんとディレクションの本質を学んでいれば、ウェブ以外のプロジェクトも同じように進められる。だから、どこに行っても使えるんです。
事業会社で一番潰しが利くのは、ディレクターだと思う
特に事業会社に一番行きやすいのは、やっぱりウェブディレクターだと思うんです。
ウェブデザイナーが事業会社に行こうと思うと、その会社にデザインをやる意思とチームがないと採用されにくい。でもディレクターは、ウェブに限らずディレクションをさせられるので、社内ツールの導入をどうしたらいい、という相談にも乗れる。
正直に言うと、ビジネスモデルの違いで、基本的には事業会社のほうが給料はいいんですよね。制作会社の社長さんには苦しい話かもしれませんが。
逆に言えば、ウェブディレクターは転職がしやすいはずなんです。事業会社でやっていく上で重要な能力を持っているので。
ただし一つ条件があって、ディレクションの本質を学ぶには、まず「型」を身につける必要があります。その型を学ぶには、やっぱり受託や制作会社のほうがいいんです。
事業会社だと、必要に応じて工程を飛ばして我流になりがちなんですよね。事業をやっているからそれはしょうがない。でも制作会社は、一から十まで丁寧に進めることそのものが納品物なので、確実に学べるんです。
私自身、いまは経営層に近いところで仕事をしていて、社長や常務が直属の上司のような感じでやりとりしています。ヘコヘコするのではなく、ウェブやITのプロとして「それはこうだと思いますよ」と対等に話せる。
これは、ウェブディレクションをちゃんと積み上げてきたからだと思っています。だから受託の経験がある人は、かなり年収の上がりやすい仕事を担っているんだと、いま思っていただいていいと思うんです。
まとめ
事業会社側に来ると本当にわかるんですが、ディレクションが上手な人、複数人を束ねて物事を進められる人は、驚くほど少ないんです。しかも、その必要性に気づいてすらいない会社が大量にある。だからいまディレクションをやっているなら、それは世間でだいぶ足りていないスキルなんだと思って、楽しく取り組んでもらえたらと思います。
- ウェブディレクターの「何も作ってない疑惑」は多くの人が抱えるが、ディレクションはすべてのプロジェクトに必要な職能
- ウェブディレクターは集客やマーケまで守備範囲が広く、潰しが利く
- ツール選定も、目的に立ち戻って考えればディレクションそのもの
- ディレクションの型を学ぶには受託が向いていて、その経験は事業会社で年収を上げやすい武器になる






