現実逃避の酒に、僕はあまりピンとこなかった
今回のきっかけは、遠山さんから送られてきた『断酒道チャンネル』というYouTubeの動画でした。
僕も知らなかったんですが、遠山さんに教えてもらったんです。
そこで「現実逃避の酒が危険な理由」という動画が送られてきて、あ、これは面白いテーマだなと思ったんですよね。
遠山さん本人が、嫌なことがあると酒に走る節があるなというのは、はたから見ていても思うので、たぶん自分に当てはまると感じて見ていたんでしょう。
ただ正直に言うと、僕自身は現実逃避の酒っていう感覚がそこまで強くなかったんです。
楽しい時もしんどい時も、とにかく毎日飲みたい、酔いたいっていう感じだったので、逆によくわからないというか。
今こうして禁酒している状態でも、嫌なことがあって「今日は飲みたい」となるより、「今日いい天気やな」「お祭りあるやん、飲みたい」みたいな楽しい方の酒にグッと引き寄せられるんですよね。
だから同じ飲酒でも、依存の仕方って人によっていろんなパターンがあるんだなと思います。
なぜ嫌な目に遭っても飲み続けるのか
もとになったのは、2021年2月に『Science Advances』に載った論文です。
主題はシンプルで、なぜ人はお酒で嫌な目に遭っているのに飲み続けるのか、というところ。
二日酔いで「もう一生飲みたくない」と思っても、その日の晩には飲みたくなっている。あるあるですよね。
一般的にアルコール依存というと、飲む、気持ちいい、また飲みたい、という快楽の話をイメージする方が多いと思います。
でも依存が進んだ人を見ていくと、必ずしも楽しいから飲んでいるだけではないんですよね。
嫌な気分を消したい、不安から逃れたい、ストレスを忘れたい、という飲み方もあります。
だからこの研究者は、快楽の回路だけでなく、不快なものから逃げる脳の回路が問題飲酒に関係しているんじゃないかと考えたそうです。
ここで言う問題飲酒は、アルコール依存とは言っていなくて、ちょっと問題があるよね、というレベルの飲酒のことです。
14歳から追いかけた脳の研究
対象になったのは、イギリスやフランス、ドイツあたりの一般的な若者を追いかけた『IMAGEN』という大規模研究です。
面白いのは、14歳の時点で1890人を調べて、その後19歳まで追跡しているところ。
14歳で酒を飲んでいる人はそもそも少ないので、全員が飲んでいるという意味ではなく、この人たちを追ってどんな飲酒の問題が出てくるかを見ていく研究です。
飲酒問題は『AUDIT』という世界的な採点表で測っていて、0から40点のうち8点以上を問題飲酒と位置づけています。
14歳では平均1.34点で、8点以上は約1900人中50人。ほとんどいないですよね。
それが19歳になると平均5.55点まで上がって、8点以上が292人、26.1%。4分の1が問題飲酒までいっている計算です。
そのうえで、飲酒問題の強い人と弱い人の脳を比較していこう、というのがこの研究の考え方です。
「嫌だ、逃げたい」に反応しやすい脳
ここで鍵になるのが、2つの脳の部位です。横文字が出てくるので、そんなものかと思って聞いてください。
1つ目が『MOFC』。目の前で起きたことが、いい結果なのか悪い結果なのかを判断する部位です。
受験の合格発表を見て「ラッキー」と感じるか「最悪だ」と感じるか、そのいい悪いを決めるところですね。
2つ目が『DPAG』。その結果を受けて「もう最悪だ、逃げたい」という反応に関わる部位です。
『エヴァンゲリオン』の「逃げちゃダメだ」って、たぶんここがものすごく反応しているから、逆に言い聞かせているんでしょうね。
MRIの中でお金をもらえるゲームをやって、勝ったのにお金をあげない、という嫌な状況をわざと作ったそうです。
すると、AUDITの点数が高い人ほど、このMOFCとDPAGのつながりに特徴が見られたんですね。
簡単に言うと、嫌な結果から学んで次はやめようとするブレーキが弱いんじゃないか、という結果でした。
普通は「昨日飲み過ぎた、二日酔いだ、じゃあ次は減らそう」となりますよね。
でも問題飲酒が強い人は「最悪だ」までは一緒でも、そこから学ぼうとせず、また飲んじゃう。
さらに、何もしていない安静時の脳でも、AUDITが高い人はMOFCとDPAGを含むネットワークが強く連動していたそうです。
つまり、逃走本能に関わるDPAGが普段から反応しやすくて、小さな不快感からでも早く逃げたくなりやすい可能性がある、というお話です。
ここで大事なのは、お酒を飲み続けたからこういう脳になった、という話ではないこと。問題飲酒が強い人ほど、もともとこういう脳の特徴を持っていたんじゃないか、というところなんですよね。
逃げる酒が、普通に戻る酒に変わっていく
では、この脳の特徴が現実逃避の飲酒とどうつながるのか。
仕事でうまくいかない、不安だ、人間関係がしんどい。そんな時に「酒でも飲むか」となって、飲んだら楽になった、どうでもよくなってきた。
ここで言いたいのは、酒が飲みたいという依存がスタートじゃなくて、嫌な状態から逃げたいというのがスタートだということです。
そして脳はそれを覚えていきます。嫌な時に飲めば不快感が消える、とインプットするんですね。
これを繰り返すとルートが太くなって、しんどい時に酒という選択肢が出やすくなる。負の強化と呼ばれる学習です。
さらにやばいのが、大量飲酒を続けると耐性がついて、報酬系が弱くなること。最初はちょっとで楽しかったのが、足りない、もっと、となる。僕もこれ、なっていましたね。
一方でストレス系は強くなるので、酒が抜けるとどよーんとする。この世の終わりみたいな顔をしている人、たまにいますよね。
『NIAAA』という米国の依存症研究所がまとめている研究でも、こういう段階が示されているそうです。
こうなると、楽しむための酒が、普通に戻るための酒に変わっていくんです。
もともと脳の傾向として嫌だ、逃げたいが強い人だと、シラフそのものが「逃げたい」になってしまう。だから逃げたくて酒を飲む。これで負のループの完成です。
遠山さんがそうだとは言い切れませんが、こういうことが考えられるというお話です。
正直、僕は自分にはあまりない感覚だと思っていたんですが、「酒飲まずして何がおもろいねん」と言っていたので、酒をやめた時に暇だな、寂しいな、という感情はちょっとあったのかもしれません。
調べてみて見えた、新しい方向性
今回、自分でまとめて調べてみて、なるほど、こういう方向性があるんだと新しい発見がありました。
自分にはあまりない感覚だと思っていたぶん、余計に面白かったんですよね。
強くはないと思うんですが、まったくなかったとも言い切れない。そのくらいの体感です。
依存の仕方は人それぞれなので、皆さんはどうなのかな、と思いながら書いてみました。
まとめ
現実逃避の酒は、飲みたいから始まるんじゃなくて、逃げたいから始まる。そしてそれを脳が覚えてしまう。いまの僕は、そう理解しています。皆さんはどんなお酒の飲み方だったか、ちょっと振り返ってみてもいいかもしれませんね。
- 問題飲酒が強い人は、嫌な結果から学んでやめるブレーキがもともと弱い可能性がある
- 嫌な時に飲んで楽になる経験を繰り返すと、負の強化でルートが太くなっていく
- 大量飲酒が進むと、楽しむための酒が「普通に戻るための酒」に変わっていく
- 依存の仕方は人それぞれで、僕自身は楽しい方の酒に引き寄せられるタイプだった






