整形は「心の病気」を治す場所なのか
今回の話のきっかけは、美容外科の実態に迫るNetflixのフィクションドラマ『ダウンタイム』です。CEOセオさんは、このドラマが人気を集めていることを紹介し、内容には深く触れずに、そこから見えてくる美容医療ビジネスやルッキズムの問題をグローバル目線で考えていきます。
CEOセオさんは、かつて整形といえば韓国のイメージが強かったのに、今では日本でもこうしたドラマが生まれていることに時代の変化を感じたといいます。若い人が見た目にこだわって整形することも、年齢を重ねてから直したい部分が出てくることも、ドラマの中で描かれています。
CEOセオさんが注目したのは、人が整形をする動機です。誰かに「ここを直した方がいい」と言われるのではなく、本人だけが鼻や口などを気にしているケースが多いのではないかと指摘します。
自分だけが気にしてるわけですから、まあある種心の病気を治すような場所でもあるのかなと、いう気持ちも見ててね、感じたんですけども。
ドラマを見たCEOセオさんは、美容外科を「心の病気を治す場所」でもあると感じたそうです。この仮説は、後半で海外の調査データと照らし合わせて検証されていきます。
上流で一番儲けているのは医師ではない?
美容医療のビジネスモデルについて、CEOセオさんは、一番上流に位置するのはお医者さんではなく、機器や薬剤をつくる医療メーカーだと説明します。ボトックスやヒアルロン酸といった、多くの人が名前を知っている製品をつくる企業です。
具体的に挙げられたのは、ボトックスで有名なアメリカのアッヴィ ── アメリカ・イリノイ州に本社を置くバイオ医薬品企業。しわ取り注射として知られる「ボトックス」の製造販売元として知られています、皮膚科領域に特化したスイスのガルデルマ、ヒアルロン酸やボトックスで高いシェアを持つ韓国のヒューゲルの3社です。さらにレーザー機器のメーカーなども上流に含まれます。
その下に、湘南美容外科を前身とするSBCメディカルのようなクリニックがあり、さらに医師がいます。そして最後に、SNS広告やドラマ、YouTubeのコンテンツが消費者の入り口になっている、というのがCEOセオさんの整理です。
医療メーカー
ボトックスやヒアルロン酸などの薬剤、レーザー機器をつくる最上流
クリニック
SBCメディカル(元・湘南美容外科)などが運営
医師
クリニックで施術を担う
入り口
SNS広告、ドラマ、YouTube、インフルエンサーの発信
上流の儲けぶりを示す例として、CEOセオさんは韓国のヒューゲルの営業利益率が47%に達していることを挙げ、上流が非常に儲かっていると指摘します。
入り口についてCEOセオさんは、インフルエンサーや最近ではキャバクラ嬢が当たり前のように整形を公表し、整形のためにお金を貯めると話していることが市場拡大につながっていると見ています。
問題として挙げられたのが、過剰なアップセルです。脱毛も最初は9800円などと安く入り口を設け、来店すると「ここもあそこもやった方がいい」と勧められ、結局40万円、下手をすると100万円ほど課金されるケースがあるといいます。
こうした勧誘について、消費生活センターは注意喚起をしており、内閣府も「みんな利用している」「期間限定」といった表現が心理的圧力になると指摘しているとCEOセオさんは紹介します。
ジムとか、みたいに、その入会キャンペーンとはちょっと訳が違くて、やっぱ体に、傷、メスを入れたり(する)ものですから、やっぱ丁寧な勧誘が必要なんですけども。
美容医療は、手術と、注射などの非手術の施術にはっきり分かれます。CEOセオさんによると、2025年に世界で最も多かった非手術の施術はボトックスで、730万件にのぼります。
ボトックスを受けた人の約47%は35〜50歳で、老化やしわを止めたいという目的が中心です。一方、鼻の整形の57%は18〜34歳で、若者は顔を変えたいという目的で美容医療に向かっていると説明されています。
世界の美容医療市場、どの国が何を受けている?
CEOセオさんは、2025年の世界の美容医療市場のデータも紹介します。世界の総施術数は3520万件で、手術が1788万件、非手術が1732万件と、ほぼ1対1の割合です。
ただし世界の総施術数は前年比で8.7%減っており、非手術は15.7%減、ヒアルロン酸に至っては25%減と、かなり落ち込んでいるといいます。
国・地域別では、1位は米国の546万件で世界の約16%を占めます。欧州は全体で584万件、約17%で、欧州全部を足してアメリカ1国と同じくらいの規模です。欧米はどちらも注射中心の市場だとCEOセオさんは見ています。
アジア全体は948万件で世界の27%を占め、日本・中国・韓国・台湾の東アジアだけで739万件、約21%になります。
| 地域 | 施術数 | 世界シェア |
|---|---|---|
| 米国 | 546万件 | 約16% |
| 欧州 | 584万件 | 約17% |
| アジア全体 | 948万件 | 27% |
| 東アジア(日中韓台) | 739万件 | 約21% |
意外なのが日本の特徴です。日本の手術比率は21%で、主要国の中で最も低く、切らない施術が中心だといいます。派手な整形が目立つ一部の人の印象とは違い、市場の基本は注射などだとCEOセオさんは説明します。
日本で手術の1位は二重の目元手術で22万件、非手術の1位はボトックスで44万件です。一方、韓国は人口当たりの手術件数が主要国の中で突出しており、米国の約2.4倍とされています。
韓国では外国人患者も急増しています。2023年の61万人から2024年には117万人、2025年には200万人を超え、そのうち日本人が約30%を占めるといいます。
日本の国内市場は6440億円で、前年比2.1%増です。2020年には6.2%伸びていたことから、CEOセオさんは伸びが鈍化しており、日本の美容医療はすでに成熟産業になりつつあると見ています。
美容外科の医師は1720人で、平均年齢は41.2歳と、臨床研修医を除けば診療科の中で最年少です。2008年比で20〜30代の医師が3倍以上に増えており、CEOセオさんは、儲かることに加えて美容外科医がインフルエンサーのような存在になっていることを背景に挙げます。
整形すれば心は救われる?海外の追跡調査が示すこと
韓国では整形が当たり前になりつつあります。20代女性の整形経験率は1994年の5%から2015年には31%に上がり、CEOセオさんは今は4割近いのではないかと推測します。20代男性の76%が「就職のために整形してもいい」と答えているといいます。
ここでCEOセオさんは、ドラマを見て抱いた「整形は心の病気の治療ではないか」という仮説を、うつや不安との因果関係を調べた研究で確かめていきます。
ノルウェーで女性約1600人を13年間追った研究では、もともと抑うつや不安がある人が後に整形をする確率は1.66倍、自傷歴がある人は2.88倍でした。心を病んでいる人が整形をする傾向があるのは事実のようだとCEOセオさんは話します。
一方で同じ研究では、整形をした人がその後、抑うつや不安、摂食の問題を他の人より多く抱えているというデータもあるといいます。整形が心の問題を和らげていない可能性が示されています。
逆の結果もあります。ドイツでは手術を受けた544人を、整形を検討したが受けなかった264人と比べたところ、整形によって気持ちが良くなった人もいたといいます。
CEOセオさんが鍵として挙げるのが、醜形恐怖症 ── 自分の外見に、他人からは気にならない程度の欠点を感じ、強くとらわれる精神疾患。身体醜形障害とも呼ばれ、鏡を何度も確認するなどの行動が見られますです。周りの人は全く気にしていない欠点に強い恐怖や不安を感じ、何度も鏡を見たりマスクで隠し続けたりする症状で、こうした人は整形をしても変わらないことが起きているといいます。
さらにスウェーデンで豊胸した女性3527人を調べた研究では、自殺は一般女性の3倍で、手術から10年経つまでは差が見られなかったと紹介されます。
| 国 | 対象 | CEOセオさんが紹介した結果 |
|---|---|---|
| ノルウェー | 女性約1600人を13年追跡 | 抑うつ・不安がある人は整形率1.66倍、自傷歴は2.88倍。整形後に抑うつなどが増えたデータも |
| ドイツ | 手術群544人と非手術264人 | 整形で気持ちが良くなった人もいた |
| スウェーデン | 豊胸した女性3527人 | 自殺が一般女性の3倍。手術から10年までは差なし |
これらのデータからCEOセオさんは、外見に強くこだわる人ほど整形がマイナスに働いているのではないかと受け止め、自身の仮説を修正します。
心が病んでいる人はどちらかで別の病院に行かなきゃいけない。体を整形をしても、やっぱその根本治療にはなってないですから。
SNSの比較が、メスを自分に向けさせる
最後にCEOセオさんは、SNSが整形願望にどれほど影響しているかを取り上げます。フィルターをかけた自撮りの顔に整形でしてほしいという人が増えている現象は、「スナップチャット醜形恐怖」と呼ばれているそうです。
中国の女子高生762人の調査では、整形の検討につながったのは自分の自撮りではなく、他人の自撮りを見たことが多かったといいます。CEOセオさんは、結局は他人との比較なのだと指摘します。
自分本来は悩む必要がなかったのに、SNSでやたらとそういうのが出てきて、あの、ああいう綺麗だなとか見ちゃうと、自分の方にメスを向けてしまうということですね。
CEOセオさんは、整形願望の増加が「SNSのせい」だというのは半分正しいと考えています。SNSに触れるほど整形願望が出てくるうえ、その整形は不要な可能性も高いといいます。
日本の手術率は21%、韓国は43%で、日本はまだ低い水準です。ただ日本の手術率が上がっていくと、その対象はおそらく若い人になるかもしれないとCEOセオさんは懸念します。体の形がまだ整っていない小学生や中学生の整形には不安を感じるといいます。
色々なデータを見たうえでCEOセオさんがたどり着いたのは、データをきちんと見ることの大切さです。影響力のある一つのケースを見て当たり前だと思いがちでも、実際はそうではないと話します。
CEOセオさんは、美容整形をしたいと思っている若い人に、一度立ち止まることを勧めます。心の問題については、SNSをシャットアウトする、他人と比較しないといった方が、よほど治療につながると考えています。
整形手術で亡くなる人も出ていることにも触れ、CEOセオさんは、大人になってからでも遅くないとしたうえで、不自然な行為にはリスクが伴うと考えておくとよいのではないかと締めくくっています。
まとめ
ドラマ『ダウンタイム』をきっかけに、CEOセオさんは美容医療の業界構造、世界と日本の市場、心の健康との関係をデータで確かめました。整形は心の悩みを治すとは限らず、SNSでの比較に流されず立ち止まることが大切だと語られています。
- 美容医療の最上流は医療メーカーで、韓国ヒューゲルの営業利益率は47%に達する
- 入り口を安くして高額な施術を勧める過剰なアップセルに、消費生活センターや内閣府が注意を促している
- 日本の手術比率は21%と主要国で最も低く、国内市場6440億円は成熟産業になりつつある
- 海外の追跡調査では、整形が抑うつや不安を和らげないケースや、醜形恐怖症の人には効果が乏しい例が示されている
- 整形願望の多くは他人の自撮りとの比較から生まれており、データを見て一度立ち止まることが勧められている


