累計22億円調達のCFOと、りそな銀行が語る「通信簿」企画とは
番組パーソナリティの若林哲平さんが今回のテーマとして掲げたのは「銀行のぶっちゃけ通信簿」です。融資では通常スタートアップ側が審査を受ける立場ですが、この回ではその関係を逆にします。
若林さんは、融資を受けたスタートアップ側から見て、銀行の対応がどうだったのかを率直に評価してもらう企画だと説明します。ゲストの小川さんも半ば覚悟を決めて臨みます。
ちょっとドキドキしますし、ワクワクもします。めちゃくちゃ楽しみです。
ゲストは2人です。りそな銀行法人部スタートアップ戦略グループの小川悠介さんと、その融資先であるemole株式会社CFOの澤田風雅さんが登場します。
小川さんは7年ほど前から企画に携わり、りそな銀行のスタートアップ支援グループを立ち上げからベンチャーデットの商品開発、ローンチ、推進まで幅広く手がけてきたと話します。
Netflixのショートドラマ版「BUMP」とはどんなサービスか
澤田さんが運営するのは、日本国内で最初かつナンバーワンをうたうショートドラマアプリ「BUMP」です。1話3分程度で、30話ほどの連続型構成の作品を配信しています。
自社制作の作品もありますが、多くはテレビ局や広告代理店、制作会社などのコンテンツプロバイダーから作品を預かり、プラットフォーム上で配信していると澤田さんは説明します。
イメージしやすいところでいうと、Netflixのショートドラマ版みたいなところをイメージいただければわかりやすいかなと思っております。
若林さんは、YouTubeやTikTok、Instagramをよく見る人なら一度は目にしているのではないか、と「BUMP」の露出の多さに触れます。
累計22億円、うちデット9億円。9行から調達した資金の中身
今回の調達の全体像です。emoleは2025年にシリーズAラウンドをエクイティとデットで実施し、累計調達額は22億円に達しています。
直近のデットラウンドでは、りそな銀行をはじめとする9行から合計9億円を調達しました。若林さんが構成を尋ねると、澤田さんはプレーンなデットとベンチャーデットの組み合わせだと答えます。
プレーンなものもあれば、新株予約権付きっていうところもあって、期間だったりも結構銀行さんによってそれぞれである。それらを全部ブレンドする形で9億円調達させていただいている形です。
澤田さんがemoleに正式にジョインしたのは2025年4月です。エクイティで得たバッファがある状態でデットもつけることで、より事業成長ができると考え、入社直後からデットの取り組みを始めたと振り返ります。
動き始めからクローズまでには、銀行によって差はあるものの、全体では1年ほどかかったと澤田さんは話します。若林さんも「結構かかりますよね」と応じます。
動き出す前の第一印象。りそなは「知らなかった」
若林さんは、澤田さんがデットに動き出す前、各金融機関に抱いていた印象から尋ねます。前職がVCだった澤田さんは、スタートアップ融資でよく名前を聞く銀行に良い印象を持っていたと言います。
具体的には静岡銀行、あおぞら銀行、日本政策金融公庫といった、ベンチャーデットに早くから取り組んできた金融機関の名前を挙げます。最初に声をかけたのもこうした先だったと明かします。
一方、今回ゲストとして同席するりそな銀行への印象を若林さんが問うと、澤田さんは率直に答えます。
正直に言うと、まずスタートアップ向けにベンチャーデットを提供していることをあんまり知らなかったっていうのが正直なところ。
澤田さんによれば、他の8行はほとんど前職からの繋がりや存在の認知があったのに対し、りそなだけは繋がりがありませんでした。株主からアクティブだと噂を聞き、紹介を受けて検討が始まったと言います。
名指しの評価に対し、小川さんは課題として受け止めます。5年、7年、10年前から取り組むプレイヤーに対し、りそなは3年ほど前のスタートだと自認したうえで、認知の向上を目指したいと語ります。
第一、できる限り一番最初にりそなに相談してみたいなって思ってもらえるようにしたい。
「ややこい」から「頼もしい」へ。りそなの印象が反転するまで
若林さんは、動き始めた後の印象に話を進めます。あおぞらや静岡銀行については、件数の多さゆえに手慣れており、整ったプロセスで摩擦なく進んだと澤田さんは評価します。
他の金融機関も、そもそも前提として取引実績があったため、期待値通りの対応が多かったと言います。一方でりそなだけは、最初の印象が大きく異なりました。
澤田さんによれば、りそなは他行と比べて資料のリクエストが多く、ディスカッションの頻度も細かく、当初は正直に言えばマイナス寄りの印象だったといいます。動き始めが遅かったのに要求が多い点も気になったと振り返ります。
動き始めが遅かったのにめちゃめちゃリクエスト結構多いし、ディスカッションもめっちゃヘビーだしみたいな感じで。最初はややこいなみたいな。
ところが、小川さんや担当の上田さんと何度もディスカッションするうちに、印象が変わっていきます。澤田さんは、突かれたくない部分を的確に掘ってくる姿勢に手応えを感じたと語ります。
どんな会社にも触れられたくない論点はあり、それを突かれないまま実行に移る取引も多い、と澤田さんは言います。りそなはそこをズバズバと突いてきたため、事業理解の深さがディスカッションパートナーとして頼もしく映るようになりました。
最初はめっちゃ無から、なんならちょっとヘビーでマイナス寄りぐらいなところだったところから、徐々にこっちがりそなさんいいな、どんどん好きになっていくみたいな感じでした。
若林さんは、ネガティブから始まって関係が深まる展開を、BUMPのドラマになぞらえて「王道じゃないですか」と笑います。ここで澤田さんは、話にはもう一山あったと明かします。
1度の「失恋」。実績期間の短さでりそなに断られた
盛り上がりの途中で、澤田さんはりそなに一度断られていたと打ち明けます。若林さんも「これまた王道の恋愛ドラマパターン」と受け、その理由を尋ねます。
一回りそなさんに振られてるんですよね。
小川さんは断りの理由を説明します。emoleの設立は2018年で、BUMPの実績数字も細かく確認しました。問題は数字の良し悪しではなく、実績を積んでいる期間の短さにありました。
(BUMPの実績は)この期間だけで次の未来を想像する予測を立てるっていうのはちょっと難しいよねっていう話を当時させていただきました。
若林さんが「完全に振るというより、今はちょっと難しいということか」と確認すると、小川さんは肯定します。なぜ難しいと考えているのかを可能な限り伝え、次の相談に繋がるマイルストーンにしたかったと語ります。
振るって言っても、あんたなんか嫌いよみたいな、そんな話ではなくて、なんでここが難しいと思ってるのかみたいなところを、可能な限りお話ししたつもり。
アプリを落とさない銀行、「エンタメだから無理」という壁
若林さんは物語に「悪役」を求める形で、動き始めてから残念だった金融機関を尋ねます。澤田さんは、最初は前のめりでも、面談を重ねてもBUMPをダウンロードしていない担当者がいたと明かします。
何回面談してもディスカッションしても、多分なんかBUMP落としてないぞみたいな。
コンシューマー向けのサービスであり、まず使ってみることがファーストステップのはずだと澤田さんは言います。しかし複数の銀行で、サービスを一度も触っていないケースがあったと振り返ります。
もう一つの残念な対応が「エンタメだから無理」という区切りでの判断です。澤田さんは、それが悔しかったと語ります。emoleはコンテンツプラットフォームとして、ユーザーの粘着性を持って積み上がり成長している側面もあるためです。
そういった部分がこう完全に思考放棄されちゃってるみたいな印象を受ける対応をされることはあるので、そういったものは正直ちょっと残念だなって思うことはあります。
対照的に、今回融資に至った9行にはサービスをよく見ている担当者がいたと澤田さんは言います。新作が出るたびにメッセージをくれる担当者もいて、地味ながら嬉しかったと語ります。
りそな社内で起きた「コンテンツの社会的意義」議論
若林さん自身もBUMPを見てきたと明かし、金融機関がオフィスで見るには抵抗があるのではないかと問いかけます。小川さんも、最初はダウンロードをためらったと正直に認めます。
一方で、りそな社内にはemoleと出会う前からBUMPに課金しているメンバーがいたと小川さんは明かします。マイナーな作品まで見たうえで、澤田さんに的確なフィードバックを返したといいます。
審査はスタートアップ戦略グループだけで決められるものではなく、社内の各メンバーと協議して進みます。その過程で、不倫やパパ活、いじめといったコンテンツ内容についての議論が持ち上がりました。
若林さんも、子を持つ親としてドキドキする内容だが強く惹かれると述べ、コンテンツの是非をめぐる議論は銀行なら出てもおかしくないと指摘します。小川さんは、議論は当然のように出たと認めます。
我々のベンチャーデットって何のためにやるんだっけ、みたいな。なんで(emoleは)こういうテーマのコンテンツを作ってるのか、っていうところを戦略としてちゃんと理解してるのか。
小川さんは、コンテンツの中身だけでなく、なぜそのテーマを作るのかという戦略の理解を重視したと語ります。澤田さんや社長に直接、社会的意義や起業の理由まで問いかけ、社内で整理していきました。
この問いに、澤田さんは取り繕えないと感じたといいます。表面的な回答では通用しない論点だと考え、ファウンダーである沢村さんの言葉で語ってもらう形を選びました。
ここはもう包み隠さず、それは私というよりか、もう沢村から、あの沢村自身がうちのファウンダーでもあるんですけど、クリエイターとして自分自身でも作品を作り続けているので。
澤田さんは、インモラルな作品が多いことから反社会的な思想ではないかと見られることもあると言います。しかし実態は、クリエイターの表現がユーザーに受け入れられ、対価がクリエイターに戻る経済圏だと説明します。
本当はもっとみんな覗き込みたいような、見ちゃいけないって思ってても気が引かれちゃうようなコンテンツっていうところにニーズがあったから、その作品が増えていっただけ。
こうした説明を沢村さんの口から直接伝えたことで、りそな側も納得したのではないかと澤田さんは解釈しています。
「こうなれば融資できる」。りそなが渡した条件シート
話は失恋からの逆転劇に戻ります。若林さんが、振られた後どうやって融資に至ったのかを尋ねると、澤田さんは当時の事業モデルの課題から説明します。
当時のBUMPは、今のような見放題サブスクではなく、コインを都度購入して視聴し、ユーザーが離れやすいモデルでした。コンテンツを起点にユーザーをどう積み上げるかが、自社でも認識する課題だったと言います。
断りの後、3か月から半年ほどの期間を経て、澤田さんはりそなから指摘された論点に対する仮説と初期検証の結果を準備しました。それを提示したことで、再検討の末に融資実行へと至ったと解釈しています。
若林さんが、実績期間とトラクションが必要十分と捉えられたのかと確認すると、小川さんは、十分と言うにはもう少し後でもよかったかもしれないと率直に答えます。それでもベンチャーデットの意義を考え、なんとかしたいという思いを持って取り組んだといいます。
注目すべきは、断りの際にりそなが具体的な条件を示していた点です。前年対比や前月同月比など、どの数字をどう比べるかを何パターンも検討し、社内を説得できる形を探ったといいます。
どの数字をとってもちょっと社内を説得できる気がしないってその時思った時の、我々の頭の中のやつをエクセルシートに落として、もうそれを澤田さんに送ったんですね。
小川さんは、そのマイルストーンがスタートアップならではの速さで実現しうることに期待したと語ります。1年、3年ではなく、数か月で実現できる可能性がある企業だと考えたためです。
それが想定以上に早く達成して、その後も順調というところの、いや順調以上ですみたいな、そんな感じだった。
若林さんが、こうした未来予想図を示してくれた金融機関は他にあったかと尋ねると、澤田さんは「りそなさんぐらい」と即答します。
澤田さんは、明確な断り理由や定量的な達成ラインを示すことは、検討する側にとって相当なカロリーがかかると指摘します。断る理由は無限に作れる中で、あえて「こうすれば融資できる」と示す姿勢を高く評価します。
こうだったら融資できますよっていう風に言うのってすごいカロリーがいると思うんですよね。でもそれをやってくださったっていうのは、我々としてもすごいありがたい。
融資の決め手は「担当者の熱意」と「共闘関係」
若林さんは、りそながemoleへの融資を決めた決め手を1つから3つに絞るよう小川さんに求めます。小川さんはまず、担当者と澤田さん双方の熱意とロジカルな説明を挙げます。
小川さんの立場は、フロントの担当者から「この案件どうでしょうか」と相談を受ける側です。誰が見ても社会的意義が明確なスタートアップもいる一方、emoleは最初にどう理解すればよいかから始まる事業だったと言います。
エンタメは銀行にとって分かりづらく、何を切り取れば魅力的なのか、今後の成長がどう担保されるのかが見えにくいと小川さんは認めます。それでも担当者は熱意を持って案件を持ち込みました。
その根拠は何なんだって聞くと、その時は「まだちょっとわからないんだけど、あの、なんかいいんですよ」と。
担当者の熱意の裏には、ファウンダーの沢村さんや澤田さんのパッションがあり、それが伝染していったのではないかと若林さんは指摘します。小川さんもそれを認めます。
さらに小川さんは、澤田さんの対応も決め手だったと語ります。同じ質問を何度も投げても丁寧に答え、しかも社内をどう通すかを想像して回答に一工夫を加えてくれた点が大きかったと言います。
同じ質問してくるけど、同じ回答だけしてるとおそらく進まないっていうことを想像していただいたからだと思うんですけど、そこにもうワンエッセンスとか加えて、どうやったら社内を通せるのかってことも考えていただけた。
若林さんは、この関係を「共に戦うと書いて共闘」と表現します。小川さんも波長が合っていたと同意し、それが大事なポイントだったと振り返ります。
起業家へのアドバイス。1度断られても諦めない
最後に、若林さんは2人から起業家へのアドバイスを求めます。澤田さんはまず、りそなに一番最初に相談に行くのがよいと述べます。プロセスは長くカロリーも使うが、深いディスカッション自体に意味があるという理由です。
特に大型のデットファイナンスを考える発行体であれば、りそなを第一選択として相談する価値があると澤田さんは語ります。将来的な関係性づくりの観点でも意味があるという見立てです。
もう一つのアドバイスは、担当者との関係を粘り強く構築することです。一度断られてもフォローアップを続ければ、次の機会に良いディールが成立する可能性があると澤田さんは言います。
一回断られた時に、やっぱ出鼻はくじかれるんで、もうやけっぱちになったり、フォローアップしなかったり、そこで終わりにしちゃうケースが多いと思うんですけど、その後も定期的に連絡入れるとか、進捗アップデートするみたいなことをしていると、当然人間同士なんで距離感が近くなっていく。
続いて小川さんが起業家へのメッセージを述べます。りそなはシリーズA以降の顧客を対象とし、最近はミドルやレイターにも力を入れ、数億円から10億円規模のデットも手がけ始めていると説明します。
その一方で、DDには平均3、4か月かかると小川さんは認めます。ただしそれは継続的に支援したいという気持ちの表れであり、融資後も関係が続くことを見据えた審査だと語ります。
質問が多かったり、正直ちょっと最初多分面倒だと思ったと思うんですけども、その奥にりそなってこういう銀行なんだなってのをこのポッドキャストを聞いていただいて想像してきていただけるとすごくありがたい。
若林さんは、融資だけで終わらないスタートアップ支援を目指すからこそ、審査段階でカロリーを使ってでも深く入り込むのだと整理します。小川さんもその通りだと応じ、対談を締めくくります。
まとめ
emoleのデット調達は、りそな銀行に一度断られながらも、明示された条件をクリアして9億円の調達に結実した事例です。借り手から見た評価を通じて、深いDDと粘り強い関係づくりの価値が浮かび上がりました。
- emoleは累計22億円、うちデット9億円を9行から調達。プレーンなデットとベンチャーデットのブレンドで構成された
- りそなは資料要求やディスカッションが多く当初はマイナス寄りの印象だったが、事業理解の深さで頼れるパートナーへと評価が反転した
- 実績を積んだ期間の短さで一度は融資を見送られたが、りそなが具体的な条件シートを示し、澤田さんが数か月でクリアして逆転調達に至った
- コンテンツの社会的意義をめぐる社内議論では、ファウンダーが自らの言葉で起業の理由と経済圏の考え方を語った
- 決め手は担当者とCFO双方の熱意、そして社内をどう通すかまで想像した共闘関係だった。1度断られても諦めないフォローアップが重要と語られた




