SNSで話題の「痩せる薬」、何が怖い?
SNSでは最近、「痩せる薬」が大きな話題になっています。レンさんによると、1年ほど前から海外での使用がニュースになり、最近は大々的に宣伝する人まで現れているといいます。
エマさんは、元々は糖尿病の治療に使われる薬を、一般の人が普通に使うことが流行っているという印象を持っていました。SNSで「みんな使っている」となれば、つい大丈夫だと思ってしまうのだろうと話します。
ファッションとかだったら俺いいと思うんだけど、まあその薬とかだったらまた全然違う話だと思うよ。
レンさんが問題視しているのは、「とにかく痩せる」という話ばかりで、痩せる薬がどういうものかがほとんど語られていない点です。仕組みを知らずに使うのは怖い、というのがこの回の出発点です。
そのうえでレンさんは冒頭で、この回は特定の薬の効果を推奨するものではないと断っています。この種の薬は医療機関で指示を受けて処方されるものなので、効果・効能、用法・用量、入手方法には一切触れず、純粋にサイエンスだけを話す方針です。
食欲を決めているのは意志ではなくホルモン
レンさんはまず、「食欲は何が決めているのか」とエマさんに問いかけます。エマさんは食欲中枢、脳、血糖値と答えを重ね、最終的に「ホルモン」にたどり着きました。
なんかね、意志っていう感じじゃないのよ。(食欲は)ホルモンがもうそうさせてるみたいな感じだよね。
食欲には複数のホルモンが関わりますが、レンさんが特に重要だと話すのが腸のホルモンです。食べ物が腸に入って吸収される前に、腸から膵臓へ「これから血流にエネルギーが行くから準備しておけ」というシグナルが送られます。
この準備がないと、血管にいきなり糖がどっと入ってきて体の中で問題が起きます。レンさんによると、口から食べた場合と点滴で血管に直接入れた場合とでは体の対応がまったく違い、1960年代ごろにこのことがわかったといいます。
ただ栄養をね、体に入れればいいってもんじゃないっていう。
この腸のホルモンの代表がGLP-1です。GLP-1は受け取り手が複数あり、膵臓にはインスリンの準備を、脳には食欲を下げる方向の働きを、胃には排出を遅らせる働きをします。
腸に食べ物が届く
胃である程度消化された食べ物が腸へ移り、吸収が始まる前にホルモンが出る
膵臓へ
インスリンを出す準備を促し、血糖値を下げる方向に働く
脳へ
食欲を下げる方向に働く
胃へ
胃の排出を遅らせ、腸に食べ物が一気に流れ込まないようにする
エマさんはこの流れを「腸に届いた時点で、ラグを見越して満腹の準備を進めておく」と理解しました。レンさんは、これが満腹感の正体だとまとめています。
GLP-1の名前に入っている「グルカゴン」とは
GLP-1の正式名称は「Glucagon-like peptide-1」で、グルカゴンに似た構造を持つペプチド ── アミノ酸がいくつかつながった分子。たくさんつながったものがタンパク質で、ペプチドはその小さいものにあたります、つまり小さなタンパク質のホルモンという意味です。
名前に出てくるグルカゴンは、レンさんの説明では血糖値を上げるホルモンで、インスリンの逆の働きをします。肝臓に溜まったグリコーゲンを分解して、糖として血液に流します。
お腹が減って血糖値が下がったとき、肝臓のグリコーゲンを分解して糖を血液に流し、血糖値を上げる
血液に流れている糖をグリコーゲンにして溜め込み、血糖値を下げる
グリコーゲンについてレンさんは「糖がずらっとつながったもの」と説明しています。この2つのホルモンが絶妙にバランスを取ることで、血糖値は適切に保たれます。
血糖値は下がりすぎるとエネルギー不足になり、上がりすぎると体に負荷がかかって炎症などのダメージにつながります。GLP-1はグルカゴンに似た構造を持ちながら、インスリンを出す方向へ働かせるホルモンだと整理されました。
分かりにくいね、この話ね。
全部理解しようとすると難しいかもしれないけど。あーでも、でも分かったよ、なんか。
GLP-1を薬にするときの壁は「1、2分で消える」こと
GLP-1を薬として使えば、脳に働いて食欲が下がり、インスリンが出て血糖値も下がります。そのため最初は肥満ではなく、糖尿病の薬として研究が進みました。
レンさんによると、糖尿病はインスリンが出にくい、あるいは受け取りにくいなどで、血糖値のバランスを取れなくなる状態です。インスリンを出す方向に働くGLP-1は、糖尿病と相性がよかったわけです。
ところが、GLP-1は体内で効果が一瞬しか続きません。GLP-1を壊す酵素が別にあり、1、2分で体から消えてしまうといいます。
(GLP-1は)体の中でも「今血糖値下げなきゃ」ってなったら出て、1、2分だけいて、すぐいなくなってみたいな。
薬として入れてもすぐ壊れてしまううえ、量を増やすと胃や脳への影響で気持ち悪さや吐き気といった副作用が強く出ました。そのままでは薬にならない、というのが当初の課題でした。
砂漠の毒トカゲが「長持ちするGLP-1」のヒントに
この壁を越えるヒントは、ほかの動物にありました。レンさんは、以前番組で話した女性ホルモンを豚や山芋のような植物から取ってくる話と同じように、GLP-1も別の動物から見つけてきたと紹介します。
その動物がアメリカドクトカゲ ── 北アメリカ南西部からメキシコの乾燥地帯にすむ毒トカゲ。英語ではヒラモンスターと呼ばれ、唾液から見つかった物質が糖尿病薬の開発につながりましたです。1回の食事で大量に食べて急激にエネルギーを蓄え、あとは地下でずっと耐えるという変わった生態を持っています。
アメリカドクトカゲを調べると、血糖値をコントロールするGLP-1のような物質があり、しかも非常に長持ちすることがわかりました。人間のGLP-1との一致は53%ほどで、半分近く違うからこそ人の体ではすぐに分解されず、数時間は持つといいます。
(トカゲの物質は)人のとね、53パーセントぐらいは一致してるけど。まあ逆に言うと半分ぐらい違うんだけど。
レンさんによると、これが2005年ごろ、GLP-1の効果を持つ初めての薬として承認されました。いま「GLP-1がすごい」と言われている薬は、効きやすさや副作用の少なさを改良していった延長線上にあり、メカニズムは基本的に同じです。
もともとは膵臓でのインスリン分泌、つまり血糖値を下げるルートを狙った薬でした。エマさんが整理したように、痩せ薬として注目されているのは、脳に働いて食欲を抑える別ルートのほうで、この使われ方が広がったのは本当に最近のことです。
GLP-1とGIPのダブル作用、マンジャロとは何か
レンさんは改めて、GLP-1型の薬が効く場所を膵臓・胃・脳の3つに整理します。膵臓ではインスリンが分泌され、胃では満腹感が持続し、脳では食欲そのものが下がります。
さらに最近は、腸から出るホルモンはGLP-1だけではないことが注目されています。それが日本語で「血糖依存性インスリン分泌ペプチド」と呼ばれるGIPです。
最新の薬は、1つの物質がGLP-1の受容体 ── 細胞の表面などにあり、ホルモンや薬と結合して信号を受け取る分子。鍵と鍵穴の鍵穴にたとえられますにもGIPの受容体にもはまる、ダブルで効くタイプです。アメリカドクトカゲ由来の薬とは別の、さらに改良されたものだとレンさんは説明します。
ダブルにする理由は、GLP-1をやりすぎると食欲が下がりすぎたり、胃が気持ち悪くなったりする副作用があるためです。GIPには吐き気を和らげる方向の働きもありそうだとわかってきたといいます。
最近話題のマンジャロは、このダブルで効くタイプです。
ただしレンさんは、どの程度の肥満なら使ってよいかは人種によっても変わると指摘します。海外とまったく同じ使い方を日本人がすれば、リスクがあるということです。
SNSで燃えている問題点、肥満と肥満症は何が違う?
レンさんが「SNSで燃えている問題点」として最初に挙げたのは、同じ有効成分が違う名前で発売されていることです。適用する病気が変われば、改めて臨床試験が必要になります。
糖尿病の治療薬としての名前
肥満症の治療薬としての名前
もう1つのポイントは、肥満と肥満症が別物だという点です。レンさんはBMIを使って説明しました。BMIは体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値で、日本肥満学会の区分でもWHOの基準でも、男女による線引きはないといいます。
| BMI | 体重の目安 | 区分 |
|---|---|---|
| 22.5 | 約65kg | 標準 |
| 25以上 | 72.3kg | 肥満ライン |
| 30 | 86.7kg | 肥満 |
| 35 | 101kg | 高度肥満 |
アメリカの肥満症はBMI30が基準で、そこに達したら治療が必要という扱いです。また、BMI27以上で高血圧や脂質異常症など肥満に関連する健康障害が2つ以上ある人も、肥満症と認定されるとレンさんは説明します。
さらに日本人は欧米より低いBMIで生活習慣病を起こしやすく、肥満症の基準自体が海外とは違います。肥満と肥満症の違いはあまり議論されていない、とレンさんは感じています。
糖尿病治療薬の名前で。肥満に対して使おうっていうのは本当に言ってることはおかしいわけよ。
宣伝はアウト、副作用が出ても救済されない
次の問題は宣伝です。本来の使われ方ではない使い方を推奨するのはおかしく、医療広告規制などが整備されているため、宣伝そのものもアウトだとレンさんは話します。
レンさんが改めて整理した「アウトポイント」は次の3つです。
- 日本で糖尿病の治療薬とされている薬を、ダイエット目的で使う
- 肥満症の人のための薬を、誰でも痩せる薬として使う
- 医療用医薬品を一般の人向けに宣伝する
エマさんは、医療用医薬品の誇大広告もよくないと付け加え、レンさんも誇大広告は当然アウトだと応じています。
「本人がよければいいじゃないか」という開き直りに対して、レンさんは適用外使用のリスクを挙げます。国には医薬品副作用被害救済制度 ── 医薬品を適正に使ったにもかかわらず重い副作用が起きた場合に、医療費や年金などを給付する公的制度。適正使用でない場合は対象外になりますがありますが、適正使用にあたらなければ救済されません。
エマさんは最初「結構冷たい」と感じつつも、境界線を引いておかなければ皆が自己責任で薬を使ってしまうからだろう、と受け止めました。レンさんによると、2024年にはGLP-1の薬の無許可転売が法律違反として事件にもなっています。
美容クリニックの処方と個人間転売、闇深い実態
エマさんは、炎上より前から美容クリニックで普通に売られていた点について、それ自体が法律違反なのかと尋ねます。レンさんの答えは「グレー」でした。
レンさんが調べた限りでは、効果・効能を過剰に言わず、本人がどうしても欲しいという場合なら、グレーなまま使われているくらいの扱いだといいます。
本来この薬は重い肥満症の人向けのもので、その人でさえ週1回程度の使用を、医師と一緒に経過観察しながら進めるものです。勝手に買って勝手に使えば、誰も管理してくれません。
実際にインターネットやSNSで勝手に販売される例が出ており、個人同士で直接やりとりされると取り締まりは難しいとレンさんは話します。エマさんは、ちゃんとした医療機関だけに渡るよう大元を止めればいいのではと提案しました。
ちゃんとしてない医療機関が仕入れちゃって、それを販売してるみたいなことだから。
レンさんによると、自由診療で医師の裁量によって処方できるため、医師がOKと言えば出せてしまうケースがあるようです。医師がOKと言うことと、国が認めていることは違うという点が一番難しいところだと話します。
エマさんは、大学を出てすぐ美容クリニックに進む医師が増え、医療経験が少ないままトラブルになっているという話題にも触れました。医師免許を持つ人の言葉だからといって、安易に信じてよいとは限らないかもしれない、と感じています。
レンさんは、そうした医療機関が仕入れて処方し、処方された人がさらに転売するという流れが実際に起きていると指摘しました。
本来必要な人に薬が届かなくなるという問題
レンさんが最も問題視しているのは、使った人の自己責任だけでは済まない点です。この薬を本当に必要としている人がいて、その人たちに届かなくなれば大問題になります。
糖尿病の人がさ、使いたい時にもし使えなかったらさ。普通に命に関わる問題なんですよね。
だからね、僕腹立ってる。
レンさんはさらに、科学的な話がすべて飛ばされていると話します。打つものは膵臓・胃・脳のすべてに関わるため、「食欲をコントロールできるから痩せる」という結果だけでは語れないというわけです。
海外で使われているから大丈夫と考える人も、日本人向けに安全性を別途確かめる必要があることを知らないのかもしれない、とレンさんは指摘します。自分の話も疑ってかまわないので、自分で調べるステップを踏むことが大事だと呼びかけました。
エマさんは、美容医療が気軽に受けられるようになった今だからこそ、「流行っているから」「お医者さんにOKと言われたから」で安易に使うのはよくないのかもしれない、と振り返ります。
痩せたい気持ちは2人ともわかるとしつつ、レンさんは「今のところ正攻法しかない」と話し、生活習慣を挙げました。病気として必要な人には使われるべきだが、それは一般の人全般の話ではない、というのがこの回の着地点です。
最後にレンさんは、この回は何かを推奨するものでも、誰かを陥れる意図のものでもなく、フラットに事実を並べたらこうなった、という話だと改めて強調しています。
まとめ
「痩せる薬」の正体は、腸から出るホルモンGLP-1と、その作用を長持ちさせたり、GIPとのダブル作用にしたりした薬です。仕組みを知れば、膵臓・胃・脳に関わる薬を、適用外の目的で自己判断で使うことのリスクが見えてきます。
- 食欲は意志だけでなく、腸から出るGLP-1などのホルモンが脳・胃・膵臓に働きかけてコントロールしている
- GLP-1は体内で1、2分で消えるが、アメリカドクトカゲの長持ちする物質をヒントに薬が生まれ、最新のマンジャロはGIPとのダブル作用を持つ
- マンジャロは日本では糖尿病の治療薬であり、肥満と肥満症も別物。ダイエット目的の使用や一般向けの宣伝は問題がある
- 適正使用でなければ副作用被害救済制度の対象外となり、転売は本当に必要な人に薬が届かなくなるリスクにもつながる





