志望理由書は、なぜ全部書くと伝わらないのか
笠原さんによる総合型選抜シリーズの3回目は、志望理由書などの書類がテーマです。笠原さんは冒頭で、志望理由書は書けることを全部書こうとした瞬間に、何が言いたいかわからない書類になると指摘します。
800字とか、まあ多くても1500字、600字ぐらいの中で、手札を何を切って、何を面接まで取っておくのか。
この回は、書類作りに付き合っている先生と、今まさに書類を書いている受験生の両方に向けた内容です。第112回で制度と数字、第113回で向いている生徒像を扱い、今回は「実際に何をするのか」に進みます。
総合型選抜 ── 学力試験だけでなく、書類や面接、活動実績などから受験生を多面的に評価する大学入試の方式。かつてのAO入試にあたりますは、大学によって差はあるものの書類と面接の比重が重い入試です。書類審査しかない大学もあるため、どこまで何を書くかが勝負を大きく左右すると笠原さんは話します。
ただし笠原さんは、話の内容は高校の現場で書類作りに付き合ってきた自身の実感だと断っています。大学ごとに見ていることは違い、面接の様子も見聞きした範囲なので、「こう書けば受かる」という話ではないとしています。
先週の結論と、「溢れていること」と「書けること」の違い
本題の前に、笠原さんは先週の第113回を振り返ります。総合型選抜に向いているのは、自分の話したいことがすでにあり、人に話し始めると止まらないような人だという結論でした。
一方で、最初からやりたいことが溢れている生徒ばかりではありません。書類を作るうちに自分が何に引っかかっていたかに気づき、書けるようになる生徒もいるといいます。
しばらく書いて自己分析しても自分の言葉が出てこないなら、努力の方向性がはっきりしている一般選抜の方が向いているかもしれない、というのが先週の線引きでした。人気大学で一発逆転はそうそう起きないため、宝くじを狙うならやめておくよう生徒に伝えているという話も紹介されています。
今回の出発点は、言いたいことが溢れていることと、それが言葉になり書類として仕上がることは別問題だという点です。笠原さんは、溢れているものをどう言葉にするか、自身が書類作りで何をしているかを話していきます。
派手な実績より見られているのは探究学習?
笠原さんが最初に強調するのは、派手な実績が総合型選抜や学校推薦型入試に必要なわけではない、という点です。競争率の高い一部の大学では、外部コンテストや活動履歴など誰が見てもわかるエビデンスが求められますが、それ以外では事情が違うといいます。
一部の超高倍率の大学を除けば、必要なのは自分の経験に意味をつけ、やりたいことを語り、それが将来どうつながるかを話すことです。笠原さんはこれを、現在と過去と未来の話を書ききることに尽きるとまとめます。
そのため、総合型選抜のために慌ててお金を払い、実績になる活動のパッケージを買ってくる必要は基本的にないと笠原さんは考えています。3年生になってから急に始めた活動は、面接で厳しく追及されるイメージがあるそうです。
面接をする側も、書類や活動履歴書を見て、どの時期に何をやっているのかというのを見てるので。
逆に面接で掘り下げられているのは、学校の普通の生活、つまり教育課程の中で取り組んでいる探究学習 ── 生徒が自ら問いを立て、調べ、まとめ、発表する学習。高校では「総合的な探究の時間」として教育課程に位置づけられていますだと笠原さんは話します。何をしてきたのか、どんな積み上げやプロセスがあるのかを、しつこく説明させられるケースが増えている印象だといいます。
笠原さんの見立てでは、外部の実績で評価するやり方がある意味でハックされたため、大学は日常的な学校での学びを深掘りするようになってきています。探究への取り組み方から、大学に入って脱落せずに学べるかを測ろうとしているのだろう、という解釈です。
外部コンテストや活動履歴など、外部の実績で評価する
学校の探究学習など、日常的な学びのプロセスを面接で深掘りする
3年生からの一発逆転がきかない理由
笠原さんは身も蓋もない言い方として、総合型選抜でやりたいことを伝え、それが実現できる大学を探すには、高校3年間かけてやりたいことを育てていくしかないと語ります。
良くない例として笠原さんが挙げるのは、経営学部や経済学部に行きたいからと、3年生になっていきなりビジネスプランコンテストやボランティア、海外渡航に手を出し、とりあえず書類に書くパターンです。書類上は形になっても、面接で揺さぶられると受け答えができなくなってしまうといいます。
反対に、派手なコンテスト実績がなくても、3年間の探究で例えば組織開発を細かく調べ、高校で実践し、大学でその経験をこう研究したいと具体的に話せる生徒は魅力的に映ると笠原さんは話します。
コンテストやボランティアをとりあえず書類に書くが、面接で揺さぶられると答えられない
規模は小さく地味でも、かけた時間がエビデンスになり、大学での研究まで具体的に語れる
活動の規模が小さく実績として地味でも、かけてきた時間がエビデンスとして後押ししてくれるという点が大きいといいます。だから書類作りでは、まず自分の中で一貫性として話せることを探ることが一番大切だと笠原さんは考えています。
部活動で志望理由書の半分を埋めていないか
笠原さんによれば、生徒が勘違いしやすいのが部活動や委員会活動の扱いです。志望理由書の半分くらいを部活動で埋めてくる生徒が、結構な数いるといいます。
実際に、運動部での1年生からのトレーニング、2年生での大会の失敗、3年生での結果といった振り返りで、800字のうち600字ほどを書いてきた生徒もいたそうです。笠原さんは、評価されるのは部活動そのものではなく、そこから学んだことを抽象化した教訓だとして、その部分を2〜3行に削る作業をしたことがあります。
ちょっと残酷な言い方をすると、部活動や委員会活動は大学や学部の系統によってちょっと差はあるにしても、評価のメインには来ないなと思ってます。
部活動が評価のメインになりにくい理由として、笠原さんはまず数の問題を挙げます。多くの高校生が部活動をしているため、全国大会レベルでなければ差別化しづらく、好きでやっている活動を「すごいでしょう」と示されても客観的な指標になりにくいといいます。
もう1つの理由は、部活動の話が「話し合いをした、新しいトレーニングをした、うまくいった」という一定の型に集約されがちで、読んでいて差がつきにくい点です。
笠原さんは部活動を書くこと自体を否定しているわけではありません。問題は、本来論じるべき大学での学びではなく、高校で頑張った思い出話で終わってしまうことです。思い出話になった時点で志望理由書ではなく、問いに答えていない書類になりがちだと指摘します。
部活動を書かせたがる先生への注意
笠原さんは、部活動の扱いには教員側も注意が必要だと話します。教員には部活動が大好きな先生が多く、部活動のことをたくさん書かせたがる先生も一定数いるからです。
笠原さんの意見は、部活動については必要十分なこと以外は黙っておいた方がよい、というものです。一番問われているのは大学で何をするかという未来の話で、部活動のアピールは文字数に対する費用対効果が良くないと考えています。
むしろ、自分が自信を持って話せる内容を書類に全部書き切ってしまうと、それが良くないんだよっていう話でもあります。
部活動の話は使うなということではなく、面接の手札として取っておくのも手であり、使いどころをよく考えるべきだと笠原さんは付け加えます。
経験を羅列せず、現在・過去・未来の物語に組み立てる
部活動の例が示すように、書類作りで一番陥りがちなのは、書けることや言えることを全部盛り込んだ「マシマシ」な書類になることだと笠原さんは言います。一つ一つの要素が薄まり、読んでも伝わらないものになってしまいます。
書類審査だけの大学では、手札をある程度出し切らなければならない面もあります。それでも全部を羅列すると、受け手には何を言っているのかわからなくなると笠原さんは指摘します。
そこで笠原さんが勧めるのは、点と点で集めた経験を物語として伝えることです。その型として、現在・過去・未来の順番で書くよう生徒に指導することが多く、これが結構効くといいます。
過去の部分では、読んだ人が「こういう経験で今のやりたいことにたどり着いたんだね」と納得できる物語にすることが狙いだと笠原さんは説明します。
800字の中で経験を3つ並べると何が起きるか
笠原さんは字数の現実にも触れます。志望理由書はおおむね800字、多くても1500〜1600字程度で、書ける情報量は実はまったく多くありません。
現在・過去・未来で割ると、それぞれ200字から多くても500字程度です。過去を厚めに取っても500字、多くて1000字に届かない程度で、そこに体験を3つ入れると1つあたり100〜300字ほどしか書けなくなります。
全体
志望理由書はおおむね800字、多くても1500〜1600字程度
過去パート
厚めに取っても500字、多くて1000字に届かない程度
体験を3つ入れると
1つあたり100〜300字ほどしか書けない
自分の経験をTwitter1回つぶやく分ぐらいで書いてしまうのは、まあちょっと無茶ありますね。
笠原さんは、何を一番伝えれば後悔しないかという優先度づけが、そのまま大学での学びを焦点化することにつながると話します。あえてどれを選ぶかという絞り込み自体が、自分の探究の興味関心を磨くことになるため、ここからは逃げられないといいます。
実際に、部活動も委員会も留学もコンテストも書きたいと、4〜5個の経験を羅列した生徒がいました。1つ1つは素晴らしいのに一行か二行しか書けず伝わらないため、笠原さんは「留学が良ければ留学で一点突破しなさい」と指導したことがあるそうです。
で、これ(絞り込み)がやっぱり自分だと選べないんですよね。どれが魅力的なのかって、やっぱり判断つかないんですよ。
そのため、書く内容を絞り込む作業には大人がきちんと付き合った方がよい、というのが笠原さんの考えです。
書かなかった経験は面接の手札になる
笠原さんによれば、書く内容を絞り込むことには面接対策としての意味もあります。面接対策だけをしてもうまくいかず、書類作りの段階から面接を見据えておく必要があるといいます。
具体的には、書類を書く段階で自分の経験を広く深掘りして手札をたくさん揃え、書類には一部を匂わせる程度だけ書いておきます。そうすると、面接でその話を突っ込んでもらえるチャンスが生まれると笠原さんは説明します。
そうやって深掘りしたものをたくさん広げて持っておくと、想定外の質問が来た時にも持っているカードの中から切れるようになるので、落ち着いて面接が話せるようになるんですよね。
先ほどの部活動の話も、書類には必要十分なことだけを書き、具体的なエピソードは面接で話せる手札として活用すればよい、と笠原さんはつなげています。
深掘り
書類を書く段階で自分の経験を広く深掘りし、手札を揃える
絞り込み
書類には一部を匂わせる程度だけ書く
面接
匂わせた話を突っ込まれ、想定外の質問にも手札から答えられる
読み手の時間は短い。志望理由書は自己紹介
最後のコツとして笠原さんが挙げるのは、総合型選抜は丁寧に評価してくれる入試である一方、一人一人にかけられる時間は意外と短いという前提です。受験生が期待するほどじっくり付き合ってくれるわけではないつもりで準備した方がよいといいます。
人間一人を100%理解して評価するには、時間がまるで足りない中で試験は行われているはずだと笠原さんは考えています。だからこそ、書類に書いていない余白を読み手に埋めさせないところまでが、受験生の責任だと話します。
笠原さんは、自己紹介のときに相手に自分像を想像させたりはせず、一から十まで説明するはずだと例えます。志望理由書も同じで、余白を無駄に作らず、自分がどんな人間で何を話せるのかが伝わるように書くことが重要だといいます。
そのうえで、面接で「この人に話を聞きたい」と思わせる要素を散りばめるバランスも必要です。笠原さんは、そのバランスを考えることこそ大人と二人三脚でやるべきことだとしています。
自分をよく知らない大人に読んでもらう
エンディングで笠原さんは、抽象的な話になったとしたうえで、一番わかりやすいコツとして、自分のことをよく知らない人にできるだけ多く見てもらうことを勧めます。
担任や授業担当の先生は生徒のことを知りすぎているため、余白や文章の流れの飛躍があっても指摘しづらいと笠原さんは説明します。本気で総合型選抜に挑むなら、自分をよく知らない信頼できる大人を見つけることが近道になるかもしれないといいます。
その意味で、担任の先生にとっても、どの先生と生徒を引き合わせるかにプレッシャーがかかる時期だと笠原さんは話しています。最後には、9月は実施できなかった教育系ポッドキャストの日を10月は何とか開催したいこと、2か月に1回ほどの開催も検討していることにも触れました。
まとめ
笠原さんが語った志望理由書づくりの要点は、経験を全部並べるのではなく、高校3年間の学びを1つの物語に絞り込み、書かなかった経験を面接の手札として持っておくことです。その絞り込み自体が、大学で学びたいことを磨く作業になると話されています。
- 一部の超高倍率大学を除けば、派手な外部実績より、探究学習など日常の学びの積み上げが面接で深掘りされる印象がある
- 部活動は評価のメインになりにくく、思い出話で字数を使うより、大学での学びにつながる教訓だけを短く書く
- 現在・過去・未来の順で書き、800字前後の制約の中で経験を1つに絞って一点突破する
- 書類には一部を匂わせる程度にとどめ、深掘りした経験は面接で使える手札として取っておく
- 読み手の時間は短い前提で余白を埋めさせず、自分をよく知らない大人に読んでもらって飛躍を見つける




