なぜバズった商品を「バズらせに行っていない」のか
NOPEは発売1週間で出荷2000万本を突破し、SNSで大きな盛り上がりを見せました。ホストも「アイデアでバズったのが久しぶりで新鮮だった」と振り返ります。
ただ、大槻さんはバズそのものを狙ったわけではないと話します。
まさにバズみたいなところは結果的にすごく大きな反響をいただいたんですけど、バズらせに行こうとは全く思ってなくて。伝えたいことを我々のやり方で伝えた結果、世間が大きく反応いただいた。
物に落ちるバズり方ができたなとは思ってますね。
単なる話題づくりではなく、売上につながるバズをどう設計したのか。ここがこの回の中心テーマになります。
「ギルティ炭酸」というコンセプトはどう生まれたか
大槻さんはもともと缶コーヒーのBOSSを担当しており、異動と同時に炭酸を任されました。サントリーにとって炭酸は「もう少し頑張らねば」という自社課題があった領域でした。
市場自体も堅調ではあるものの、大きく伸びているわけではない。そこで炭酸市場に風穴を開ける商品を作れないか、という課題が最初に降りてきたといいます。
伸び悩みの一因は、20代30代の新規流入が取れていないこと。しかも炭酸市場はコカコーラや三ツ矢サイダーなど超ロングセラーが強く、新ブランドという明確なニュースがないと若年層は入ってこないと考えました。
そこでまず取り組んだのが、お客さんが何を求めているかを見に行くことでした。
もう炭酸なんてノンセンキューですって話なのであれば、この商品化自体が間違ってるかなと。新しいブランドを作っても売れないなと思っていたので、まずはそこを掘りに行った。
調査では、炭酸を月に1本ほど飲む人を対象に、「どんなシーンで炭酸を飲みたいか」ではなく「どんなシーンであえて炭酸を使いたいか」と尋ねた点がポイントでした。
調査のクリエイティブってあるのよ。その質問の仕方によって答えが変わってくるから。
この聞き方によって、20代から30代は他世代と比べて明らかに「ストレス発散のタイミング」で炭酸を使っていることが見えてきました。
「ストレス発散」を「ストレスを溶かす」に捉え直す
炭酸×ストレス解消というキーワードは見えたものの、「ストレス発散」という言葉はどんな商品開発でも出てきやすく、そのままでは伝わらないと感じたといいます。
転機になったのは、チームの2年目のメンバーの一言でした。
土日どっちかは家にこもって、誰とも会わずに一人でダラダラ過ごすのが私にとってのストレス発散です。
その感覚に共感しつつ、大槻さんは「これはストレス発散という言葉では伝わらない」と考えます。発散が外に飛ばすことなら、この気分はむしろ内に溶かしていく感覚だったからです。
こうして「ストレスを溶かす」という捉え直しにたどり着きます。個々で楽しむという方向は、隣接する食市場ですでにあった「ギルティ消費」の潮流と重なりました。
一人焼肉のような、食のギルティ消費の飲料版。そこから「ギルティ炭酸」というコンセプトが立ち上がっていきました。
課題設定
炭酸市場と自社の伸び悩み、20代30代の新規流入不足に着目
調査
「どんなシーンであえて炭酸を使いたいか」と問い、ストレス発散シーンを発見
捉え直し
「発散」ではなく「溶かす」という感覚へ再定義
コンセプト化
食のギルティ消費を参考に「ギルティ炭酸」へ
既存の味に寄せない、複雑な味わいの設計
ギルティというコンセプトを守るため、味は一から開発する方針を取りました。既存に近い味だと、その飲料が持つシーンに引きずられてしまうからです。
ホストが指摘したのは、コーラもギルティといえばギルティだという点です。ただしコーラは外に発散する方向で、NOPEは自分の中に溶かしていく方向という違いがありました。
実際に飲むと、ほのかにスパイスが香り、果実感もある複雑な味わい。99種類以上のフルーツフレーバーとスパイスフレーバーを使って作られています。
開発部への最初のオーダーは、かなり抽象的なものでした。
ストレスを溶解したい時にとってベストな炭酸って何だろうか、というところからオーダーを。
議論の末に見えてきたのは、糖分の量と香りの複雑性が報酬性の高い味わいにつながるということでした。高揚しつつも、だらけていけるような構造です。
ホストはこれを「脳のドーパミンにダイレクトに行く味わいを、健康に害さないモラルの範囲内で尖らせたもの」と表現します。表現の参考にしたのは、若者中心に伸びているグミでした。
グミの中で特に伸びている完熟系やトロピカル系のフルーツの味わいを参考にしながら、少しずつ味を作っていった。
出し戻しは10回ではきかないほど。おいしくても「想像できてしまう味」はあえて避けたといいます。
一度見たら忘れられないデザインとネーミング
今回は商品ができてからプロモーションを考えるのではなく、デザインとプロモーションをほぼ同時に進めました。新ブランドを覚えてもらわなければ流れていってしまう、という危機感があったためです。
ネーミングの「NOPE」は、英語圏でNOをカジュアルに言うときの言葉です。
世の中にある行き過ぎたべき論みたいなのを、カジュアルに否定していこうっていう意味合いでNOPEという。
デザインで重視したのは、炭酸棚にない色で記憶に残すこと。黄色×黒の案などを経て、最終的に背徳感に近い「ブラック&マゼンタ」の配色に決まりました。
大槻さん自身、初見では「だいぶ奇抜な方に行こうとしている」と感じたといいます。それでも通した理由には、経験に基づく確信がありました。
机の上に1週間置いてりゃ慣れるっていう感覚はどんな新商品でもあったので、これぐらい奇抜じゃないとお客様の頭の中にも残らない。
一見チープに見えて、実は細部まで作り込まれている点もポイントです。ロゴはNの左端を尖らせて角を出し、OやEの曲線は丸くすることで、炭酸の爽快感と溶ける感覚を両立させています。
右だとちょっと緩い、チープな感じになっちゃうもんね。よく本当に考えて作られてるんだなって改めて見ると思う。
自販機のBOSSに勝手にNOPEを重ねた、話題の裏側
プロモーションで大きく話題になったのが、自販機のBOSSの上にNOPEのステッカーを重ねる施策でした。SNSでは「ボスが乗っ取られている」と大きく拡散されました。
ホストが「事前にBOSSの担当者に確認したのでは」と踏み込むと、意外な答えが返ってきます。
こんなに話題になると思ってなかったんですけど、実は事前にはもう話入れてなくて。
大槻さんは元BOSS担当。今の担当者との関係を知っているからこそできた、社内の甘えもあったといいます。ステッカーは1箇所ではなく、自販機を回る担当者に依頼し、都内中心に同時多発的に貼られました。
バズが先で、報告は後。順番としては褒められたものではないと本人も苦笑します。
これはまずいということで、実はこういうことをやらせていただいておりまして、と本当にもう席まで行って。
結果、BOSSの現担当者が集められて説明する事態に。ただ同じ会社で仲が良く、半分ノリのような形で「まあいいよ」と収まったそうです。ホストは「聞いてるだけで冷や汗」と反応しました。
ホストはこの動きを、ストリートアーティストのバンクシーの言葉になぞらえました。
いつだって許可を得るよりも、許してもらうことの方が簡単なんだよっていう。
伝えることを絞る。「バズって売れた」ではない本当の理由
プロモーション成功の要因を尋ねると、大槻さんは「伝えることを絞った」ことに尽きると答えました。
味わいのことややみつきですよとか、言いたいことはたくさんあったんですけど、カラーリングとアイコンとギルティって言葉に絞った結果、共通認知が生まれた。
マーケティング費用は「一般的な新商品の規模感」で、過去と比べて突出して積んだわけではないといいます。「金をかければ売れる」というやっかみに対しても、記憶に残すという狙いが機能した証と受け止めていました。
ホストは、この現象を「バズって売れた」と説明するのは正確ではないと指摘します。
さらにホストは、Xが刺激物であふれるメディアになっている点にも触れます。刺激を求めるXと、刺激的な飲み物、そしていつでも買える流通。この3つがかみ合ったことが売れた理由だと分析しました。
大槻さんも社内で近い議論をしていたと明かします。味やシーンがあえて明かされていないことで、賛否や考察をしたくなる「余白」が生まれたのだといいます。
NOPEに対して物申したい、いい意味でも悪い意味でもっていう余白を作れたことが、結果的に楽しんでもらった要因なのかな。
一過性で終わらせない「ギルティ市場」という構想
好調な一方で、ここからが本当の勝負でもあります。コンビニ飲料の棚落ちという恐怖とどう戦うのか。大槻さんは「鮮度を絶やさない」ことが大事だといいます。
認知は狙っていた1年先の水準まで一気に来てしまったため、戦略の立て直しが必要な状況です。定期的にニュースを発信し続け、ギルティを楽しめるシーンを生活の中に広げていく方針を語りました。
ホストはこれを、特茶が健康飲料の島から広がっていった例になぞらえます。炭酸飲料の島で戦うより、「ギルティ」という新しい島を作る戦い方が有効だという見立てです。
具体的な次の一手として紹介されたのが、7月20日ごろ開始予定の「ギルT(ギルTシャツ)」キャンペーンです。買った人へ、さまざまなギルティあるあるをコピーにしたTシャツを届ける施策になっています。
さらにその先には、他社も巻き込んでギルティ市場そのものを広げたいという構想があります。サントリー単独では限界があるため、周辺の企業やクリエイターにも乗ってきてほしいと呼びかけました。
ぜひギルティ市場を一緒に作りたい企業やクリエイティブの方は、ぜひご連絡ください。
まとめ
NOPEは、バズを狙って生まれた商品ではなく、「ストレスを溶かす」という捉え直しから始まったコンセプト設計と、記憶に残す一貫したコミュニケーションが総合的に機能した結果でした。話題を一過性で終わらせず、「ギルティ市場」という新しい島を作ろうとしている点に、次の勝負が見えてきます。
- 調査は「どう飲みたいか」ではなく「どう使いたいか」と問い、ストレス発散シーンを発見した
- 「ストレス発散」を「ストレスを溶かす」に捉え直したことがコンセプトの起点になった
- 味・デザイン・ネーミングを「一度見たら忘れられない」方向で一貫させ、伝える要素を絞った
- 自販機のBOSSに重ねる施策など、余白と話題性のある表現が賛否と考察を生んだ
- バズは総合的なコミュニケーション設計の結果であり、次は「ギルティ市場」の構築を目指している


