薄くて小ちゃい、お酒に合うホットケーキとは
番組でまず紹介されたのは、その名の通り薄くて小ちゃいホットケーキが焼けるという商品です。市場にはほとんどない形で、パッケージにも三段重ねではなく、ふにゃっとした形のホットケーキが写っています。
中西さんは、味わいも一般のホットケーキとはかなり違うと話します。用意されたのは甘い系としょっぱい系の2種類です。
1つ目はメープルバターにブラックペッパーをかけ、丸めて一口で食べるスタイル。もう1つは、奈良漬けをツナと混ぜ合わせ、サラダ菜を添えた食事系でした。
バターを口の中で溶かしていただくような形でやっていただけると。
この奈良漬け入りは、後に登場する奈良出身の堂本剛さんのアイデアがきっかけになっています。芋焼酎に合わせるイメージで作られ、酒のつまみとして成立する味に仕上げられています。
なぜ成熟市場で"尖った"商品が必要だったのか
昭和産業は1936年創立で、1999年発売のホットケーキミックスで家庭用市場の国内シェアナンバーワンを獲得しています。しかしシェアが高くても課題はありました。
中西さんは、ホットケーキがコモディティ商品であり、人口が増えない中でスーパーの棚も増えていかないと説明します。棚のスペースは、大きな袋物の上に箱物が一段だけ、というごく限られたものです。
これまでも水で作れるタイプやプロテイン入り、大麦入りなど、あらゆる人に向けた商品を展開してきました。ただ棚が限られるため、新商品を入れるには既存品を削るしかないのが実情でした。
プロテインホットケーキ出たから並べるぞっていうわけにいかないですよね。
堂本剛を"クリエイター"として迎えた共同開発
90周年記念商品の企画で、中西さんが真っ先に思い浮かべたのが堂本剛さんでした。堂本さんはさまざまな場で発信しており、中西さんは「日本で一番ホットケーキのことを考えている方なのでは」と感じていたといいます。
オファーにあたって重視したのは、タレントとしてではなくクリエイターとして入ってもらうことでした。堂本さん側からも、どういうスタンスで臨めばいいかという問い合わせがあったと中西さんは話します。
すぐに合意したわけではなく、スタンスについてかなりディスカッションを重ねたそうです。真剣度を伝え、クリエイターとして入ってもらうことで、ようやく了承を得ました。
「薄くて小ちゃい」も堂本さんの発想でした。好みや食べ方を聞いたときに出てきたのが、焼肉のような食べ方だったといいます。
ホットケーキも小ちゃいものを焼いて、それを食べてる間に次のを焼いて、小ちゃいのを常に焼きたてを食べ続けたい。
この食べ方は昭和産業も知らなかったもので、堂本さんのホットケーキへの理解の深さがうかがえます。
薄くて甘い"常識"を覆せた理由
世間が想像するホットケーキは、分厚くて甘いものです。それでも薄くて小ちゃい方向を採用できた背景には、過去の反省がありました。
昭和産業はかつてもホットケーキパーティーという食シーンを提案したことがありました。しかしフルーツを並べる手間や、みんなで集まって焼く負担が大きく、押し付けになってしまったと振り返ります。
今回は、堂本さんの高い熱量に加え、アルコールに合わせるなど多様な食べ方を提案できる点が違いました。それなら浸透させられるという算段があったのです。
アルコールに合わせる発想も、堂本さんの「ドリンクとも合わせてほしい」という要望が出発点でした。中西さんがおつまみ寄りのアレンジを多数持ち込むと、堂本さんが次々と合う酒を挙げていったといいます。
(試作を見て堂本さんが)もうこれはじゃあ焼酎だねとか、これはビールだねっていう風に、どんどんどんどん言っていただけて。
根底にあるのは、ホットケーキという食べ物への信頼です。中西さんは、美味しいものを広めるためならどんなことをしてもいいというのが会社のスタンスだと語ります。
「尖るならどこまでも尖れる。ただ売れますか?」
開発は簡単ではありませんでした。薄くて小ちゃくするには水分量を大幅に増やす必要があり、味が残り、焦げない設計を試作の繰り返しで詰めていきました。堂本さんからは「もっと薄く」という要望が続いたといいます。
中西さんはもともと、普通の商品は作りたくないと考えていました。ストーリーを持ち、尖った商品にしたい。ただし美味しさだけは絶対に譲らないという信念があったのです。
その「尖らせたい」という思いに対し、堂本さんが返したのが印象的な言葉でした。
堂本さんは売り上げを強く意識し、尖る部分と売れる部分のバランスを常に見ようと提案したといいます。MCはこれを「クリエイティブディレクターの仕事そのもの」と評しました。
社内にはふんわり感を残す案もありましたが、あえてふんわりを捨て、しっとりに寄せる方向を押し切りました。コストも度外視し、美味しさを優先したといいます。
正直コストは度外視をしていこうと。とにかく美味しいものを作れば受け入れてもらえる。
ネーミングとパッケージに込めた"手間"への配慮
商品名「俺が好きな薄くて小ちゃいやつ」も、たくさんの案から選ばれました。番組ではボツ案も披露され、堂本さんの言葉「チャイチ」を使った案などが紹介されました。
もともと剛さんから言われたのは「チャイチ」だったんですね。
最終的なネーミングは、分かりづらい見た目を補う「分かりやすさ」を優先し、関西風のニュアンスも取り入れたものになりました。
デザインの決定では実際の棚を作り、どの色味が目立つかを検証しました。ホットケーキ売り場は赤い棚になりがちなため、オレンジに寄せて目立たせる方向にしたといいます。
さらに堂本さんの指摘で、パッケージの紙の厚みまで薄くしました。通常のパッケージは重く、スーパーで手に取る際に手間になるという理由からです。
手に取る手間、スーパーで手に取る手間っていうのはあまり考えたことがなくて。言われてみれば確かにそうだなと。
手に取る確率を少しでも上げるため、工場を調整してパッケージを薄くしたそうです。MCは、ユーザーの感情を想像したディレクションだと評価しました。
社内突破と、計画比150%の大ヒット
社内の不安や反対をどう突破したのか。中西さんは、チーム内でストーリーを固めていたと話します。90周年記念として、ホットケーキが大好きな堂本さんと、めちゃくちゃ美味しいものを作るというものです。
裏のコンセプトは、業務用がメインの会社として、自社の技術力を消費者に知ってもらうことでした。MCはこれを「テクノロジーのフラッグシップモデル」と表現しました。
堂本さんの要望に全て応え、ストーリーを作り出す。ただし美味しさだけは絶対にぶらさない。中西さんはこの方針をボードメンバーに先に説明し、オファー前に予算まで確保して進めたといいます。
結果は大きな反響を呼びました。事前の匂わせ投稿は、1投稿で600万インプレッション、トータルでは2000万インプレッションほどに達したといいます。
初回は二、三十万個売れればという想定に対し、20万個が一気に出て生産が追いつかず、流通に迷惑をかける場面もありました。予算を組み直し、現状は30万個ほどの出荷で計画比150%になっています。
通常商品の売上が落ちるカニバリも起きず、弁当に入れるなど想定外の食べ方も広がりました。社内でホットケーキパーティーを開いたところ多くの社員が集まり、若手が元気そうで嬉しいという年配社員の声もあったといいます。
直感を信じて突き進む
中西さんはタカラトミーから昭和産業へ移った経歴を持ちます。もともと食品をやりたかったといい、その背景には入社式で聞いた言葉がありました。
当時のタカラトミー社長からは、おもちゃが売れる条件として、科学技術・教育水準・平和の3つを挙げられたそうです。平和でないと売れないという言葉にドキッとしたと振り返ります。
平和じゃないと(おもちゃは)売れないんだっていうことをすごく思って。
そこから、平和でなくても売れるもの、つまり食べ物のような人間の根幹に関わるものに挑戦したいと考え、昭和産業に移ったといいます。
成熟市場に風穴を開けたい若手へのメッセージとして、中西さんが挙げたのが「直感」でした。徹底的に考え抜いた上で出てくる第一感は、意外と合っているという考えです。
まとめ
堂本剛さんをクリエイターとして迎え、尖らせながら売れるバランスを追求したことで、昭和産業は成熟したホットケーキ市場に新しい需要を生み出しました。美味しさを軸にした信念と、手に取る手間まで考えた細部への配慮が、計画比150%という結果につながっています。
- シェアナンバーワンでも棚が増えない成熟市場では、既存品を削らずに需要を広げる「尖った」一手が突破口になった
- 堂本剛さんをタレントではなくクリエイターとして迎え、味・レシピ・ネーミング・パッケージまで深く共同開発した
- 「尖るならどこまでも尖れる。ただ売れますか?」という視点で、尖る部分と売れる部分のバランスを常に検証した
- 美味しさを絶対に譲らない前提で、コストを度外視し、手に取る手間まで考えてパッケージを薄くした
- 考え抜いた上で出てくる直感を信じて突き進むことが、成熟市場に風穴を開ける鍵になる



