カリフォルニアの干ばつは電力不足にまでつながる?
この回の出発点は、カリフォルニアで続く干ばつと山火事です。テックやビジネスを扱うOff Topicとしては珍しいテーマで、宮武さんは「ちゃんと話せるのかはちょっと緊張してます」と前置きしています。
宮武さんによると、カリフォルニアの干ばつは過去500年ほど見たことのないレベルに達しています。山に積もる雪の量は毎年パーセンテージで計測されていますが、それが6月時点で0%になったといいます。
異常気象はカリフォルニアの外にも広がっています。カナダのブリティッシュコロンビアでは気温が49度まで上がり、ムール貝などの生き物が10億匹単位でいなくなるかもしれないと話されました。
ムール貝って水をきれいにする役割を持ってるので、それ(ムール貝がいなくなること)によって水のクオリティが下がって、それで魚とかも影響されるみたいな。
気温が上がればエアコンの利用が増え、電気の需要は高まります。ところがカリフォルニアでは、雪解け水が流れないことで水力発電が落ち込んでいるといいます。
雪がない
6月時点で山の積雪量が0%になった
川が流れない
雪解け水が流れず、水量が減る
水力発電の減少
2019年と比べて発電量が70%ダウン
電力不足
暑さで需要が増える一方、供給が足りない
宮武さんは、カリフォルニアの電力の10%以上が水力発電から来ていると説明します。草野さんが「そんなになんですね」と驚くほど、雪の消失は電力の問題に直結しています。
山火事は車の排出量より大きな影響を与えている?
干ばつで森が乾くと、次に起きるのが山火事です。宮武さんは、ブレードランナー ── 1982年公開のSF映画。荒廃した未来都市を描き、オレンジがかった暗い空の映像で知られますのようなオレンジ色の空がニュースになった前年の状況にも触れています。
宮武さんの説明では、カリフォルニア州の4割が干ばつの非常事態にあり、州のおよそ3分の1にあたる約13万平方キロメートルが森です。乾いた森は火がつきやすくなります。
(山火事で)カリフォルニア州で、その車から出る二酸化炭素ってあるじゃないですか。その1.5倍分燃やしてるんですよ。
前年の山火事による二酸化炭素は、州の自動車から出る量の1.5倍にあたるといいます。宮武さんは、山火事のほうが悪影響を及ぼしていると指摘しています。
屋外で働く300万人と、灰が降る街
山火事は空気の質にも影響します。宮武さんによると、カリフォルニアではAQI ── 大気質指数。大気中の汚染物質の濃度をもとに、空気の健康への影響を数値で示す指標ですが150を超えると、ルール上、屋外で仕事ができなくなります。
カリフォルニアでは300万人が屋外で働いているといいます。草野さんが「収入なくなっちゃうってことですもんね」と確認すると、宮武さんは企業側も売り上げが作れなくなると補足しました。
住む場所への影響も出ています。宮武さんがVCなどから聞いた話では、複数の家を持つ人の中には、8月から10月の間はカリフォルニアに住まない人もいるそうです。以前は秋ごろからでしたが、最近は夏の終わりから始まっているといいます。
ある日なんか雪が降ってた風に見えたんですけど、実際に見たら灰だったっていう。
このエピソードはカリフォルニア北部で聞いた話で、草野さんは「相当ですね」と応じています。
火災保険が取れない家は誰が買うのか?
宮武さんは、山火事が不動産市場に与える影響に話を進めます。カリフォルニアの不動産業界全体は8兆ドル、約900兆円規模で、仮にその1兆ドル分、約100兆円分が山火事の影響を受けると考えると、それだけで大きな問題だといいます。
さらに最近は、山火事が当たり前になりすぎて火災保険が取れないという声が多く聞かれるそうです。
保険が取れない
山火事が頻発し、保険会社が対応できない
売りが集中
燃えるリスクのある家をみんなが売りに出す
買い手がいない
誰も買わない、買っても燃えるかもしれない
実際にカリフォルニアのナパでは、山火事を受けて人々がタホ ── カリフォルニア州とネバダ州にまたがるタホ湖周辺の地域。自然豊かな観光・別荘地として知られますタホへ移りましたが、そこも今年大きな影響を受け、多くの人がすぐに出て行ったといいます。
最終的に費用を負担するのはアメリカ政府だと宮武さんは話します。10年以上前のハリケーン・カトリーナ ── 2005年にアメリカ南部を襲った大型ハリケーン。ニューオーリンズなどで甚大な被害が出ましたの際、政府は復興に110ビリオンほどを使ったといい、同規模の災害が今後は年に4、5回起きうるという見方を示しています。
過去データが使えない時代の保険とニューヨークの洪水
保険業界はこれまで、過去データをもとにリスクのモデルを作ってきました。自然災害やパンデミック向けの保険を扱うスタートアップも立ち上がっていたといいます。
データがもう過去データを使えなくなっちゃったので、これだけ変わってるんで。
宮武さんは、環境変化による保険は「予測しないといけない時代」になったと話します。カリフォルニア以外でも、数カ月前にニューヨークで大洪水が起き、地下鉄が浸水し、地下に住む人の部屋も水浸しになりました。
宮武さんの知り合いの知り合いは、1階のガレージに置いていた車やバイクが全部ダメになったそうです。ニューヨークには地下のアパートも多く、洪水が頻繁に起きるなら地下や1階には住めなくなると宮武さんは考えます。
洪水が多いため1階をガラ空きにし、2階から住める場所にしている
洪水に対応していない街で、地下や1階のアパートが多い
ニューヨークでは、アパートを一から作り直すか、地下と1階の売り上げがゼロになるといった課題が生まれうると話されています。
EVやソーラーパネルは本当にグリーンなのか?
こうした課題を受けて、リサイクル、ファッションのレンタルや二次流通など、さまざまなサステナビリティの取り組みが提案されてきました。ただ宮武さんは、何が本当にサステナブルなのかが非常にわかりにくいと指摘します。
草野さんも、測定には時間がかかり、スコープ1・2・3 ── 企業の温室効果ガス排出量の区分。自社の直接排出、購入した電力などの間接排出、取引先や消費者を含むサプライチェーン全体の排出を指しますのようにどこまでを範囲に含めるかも難しいと応じています。
宮武さんは例として、ハイブリッドカーを作るエネルギーコストは「ハンマー」ハンマー(車種名か)を作るより高く、さらに乗る人が「もっと運転していい」と思ってしまうという調査を挙げました。
電気自動車のバッテリーにも課題があります。テスラのバッテリーに必要なニッケルは採掘のプロセスが環境に悪く、電気自動車のバッテリーの65%はニッケルだといいます。
グリーンエネルギーのハードウェアにも、それぞれ環境負荷が伴うと宮武さんは説明します。
| 対象 | 必要なもの | 懸念 |
|---|---|---|
| EVのバッテリー | ニッケル | 採掘プロセスが環境に悪い |
| リチウムバッテリー | コバルトと水 | 製造に大量に使う |
| 風力発電 | 特殊なマグネット | 製造で汚染物質が出る |
| ソーラーパネル | ニッケル | 大量に使う |
もう何もできないじゃないですか。もうそしたら。もうエコだと思ってたのにって。
トゥモローランドが映すテックへの楽観と恐怖
宮武さんは、いま社会全体がテックに対して若干ネガティブな印象を持っていると話し、その理由を第二次世界大戦後のアメリカから振り返ります。
戦後のアメリカは戦争に勝ったこともあり、テクノロジーで社会を良くしようという空気がありました。宇宙プログラム、プラスチック、新しい薬、農業のイノベーションが生まれましたが、1960〜70年代にかけてガンや汚染物質が見つかり、テックのリスクが意識されるようになったといいます。
宮武さんは、その変化をもっともよく象徴しているのがディズニーランドのトゥモローランド ── ディズニーランドのテーマエリアの1つ。未来や宇宙をテーマにしたアトラクションが集まっていますだと話します。
開園当初はテックを前向きに描き、宇宙の可能性やプラスチックのすごさを伝えるライドがあった
1970年代あたりから、エイリアンの攻撃やロボットの誤作動など、テックへの恐怖感を描くライドに変わった
宮武さんは、SNSにも似たことが起きたと見ています。一時期はみんな前向きに見ていましたが、2016年の大統領選挙以降、Facebookは怖いという話が出てきたといいます。
もちろんネガティブな話もいろいろあるんですけど、それを理解した上で、こういう可能性ってあるんですよっていう話をするべきだなと思っていて。
起業家やVC、そしてOff Topicの役割として、新しい技術へのオプティミズムを語ることがあると宮武さんは考えています。ここまでが今回のイントロで、草野さんは社会背景や歴史を理解しないと難しい話だと受け止めています。
15年前のクリーンテック投資はなぜ全滅したのか?
クリーンテックはいまでこそ資金調達が増えていますが、宮武さんによると、過去5年ほどはVCがほとんど出資せず、スタートアップもあまり立ち上がっていませんでした。草野さんは、お金も時間もかかる一方、成功すれば社会へのインパクトは大きいと話します。
15年ほど前にも一度クリーンテック時代が来ましたが、そのときのVCのリターンは最悪で、ほぼ全滅したといいます。理由として宮武さんは、時間とお金がかかることに加え、VCのモデルを挙げました。
ソフトウェアのように技術はある程度あり、チームが実行・普及できるかが問われる
クリーンテックやディープテックでは、そもそもモノを作れるかが課題になる
今のVCモデルはテクニカルなブレイクスルーを求めず、実行のリスクにかけがちだと宮武さんは説明します。15年前のクリーンテックは、そのタイミングでは技術的に作れなかったという面があったといいます。
ユースケースが先、インフラは後
いま再びクリーンテックにVCが出資している理由について、宮武さんは「ターニングポイントがようやく来た」と話します。鍵になるのはインフラがある程度整ったことです。
宮武さんは、業界が爆発的に伸びるには2ステップが必要だと説明します。まず新しいユースケースが出て、それに追いつく形でインフラができあがるという順番です。
そっち(ユースケース)が先なんですよ。逆にインフラを準備できないので。
例として挙げられたのがiPhoneとアプリストアです。iPhoneが出た当初はアプリストアがなく、アプリを作りたい人が増えてからストアが生まれました。
iPhone
ブレイクスルーなユースケースが登場
アプリストア
アプリを作りたい人のためのストアが生まれる
多様なアプリ
Uber、Tinder、Facebookなどが出てくる
新たなインフラ
MixpanelやAmplitudeなどのアナリティクス、AgoraやTwilioなどの配信基盤
ライブ配信アプリとしては、HQ Triviaやペリスコープ ── Twitter社が提供していたライブ配信アプリ。2021年にサービスを終了しましたの名前も挙がっています。宮武さんは、インフラが整うと市場が爆発的に伸びると考えています。
AWSが起業家の参入を変えた話
宮武さんは同じ構図を、元Facebookで現在はSocial Capitalのチャマス ── チャマス・パリハピティヤ。Facebookの成長を担った元幹部で、その後ベンチャーキャピタルSocial Capitalを創業しましたさんの話で説明します。2006年当時、AWSはまだなく、Facebookはサンタクララに自社サーバーを持っていました。
2008年、初期CTOのアダム・ディアンジェロさんはQuoraを立ち上げるためにFacebookを辞めます。サーバーをどうするのか尋ねたチャマスさんに、ディアンジェロさんは「AWSで立ち上げ、その上でアプリを開発する」と答えたそうです。
チャマスさんは最初、お前バカ、バカなんじゃないかみたいな話だったらしいんですけど。はい、クレイジーなんじゃないかみたいな。
当時は自社でサーバーを立ち上げるのが当たり前でしたが、いまはどのアプリもAWSの上にあるのが普通です。宮武さんは、テックスタックがシンプルになったことで起業家が圧倒的に参入しやすくなったと話します。
Netflixも初期は自前のサーバーでしたが、いまなら競合をある程度簡単に作れるはずだといいます。そして宮武さんは、同じことがいまバイオテックで起きていると続けます。
バイオテックの課題を、プログラミングの課題と似た形で扱える時代がようやく来たというのが宮武さんの見立てです。
合成バイオはDNAをソフトウェアとして扱う?
宮武さんが今回と次回の2回に分けて話したいテーマが、合成バイオ ── 合成生物学。遺伝子を設計・改変して、生物に新しい機能を持たせたり有用な物質を作らせたりする研究分野ですです。草野さんがビヨンドミート ── 植物由来の原料で代替肉を作るアメリカの企業もその一種か尋ねると、宮武さんは、動物の細胞から肉を作るメンフィスミーツのほうが近いと答えています。
(バイオでできてる食べ物が)作れる時代になってきていると思っていて、いわゆるそのDNAをソフトウェアとして見れる時代になりましたと。
DNAをプログラミングのように編集することで新しいプロダクトが作れるといいます。草野さんは、冷たく感じるかもしれないが、牛を殺さずに肉を作れるということだと受け止めました。
宮武さんは、最近上場した合成バイオのプラットフォーム企業としてギンコ・バイオワークス ── 遺伝子設計を受託するアメリカの合成生物学企業。2021年にSPACを通じて上場しましたを挙げ、草野さんは同社がYコンビネーター ── アメリカの著名なスタートアップ支援組織。Airbnbなどを輩出しています出身であることに触れています。
バッテリーもエネルギーも一から考え直すとき
宮武さんは、これまでのバッテリーやエネルギーの作り方は、地球にあるものを科学的に検討して選んだものではなかったと話します。
単純に数名の人が集まって、で、これがいいんじゃないかっていうのを彼らが決めて。で、それをずっと改善してきたっていうところですね。
ニッケル、マンガン、コバルト、リチウムといった素材は、そうして選ばれてきたといいます。宮武さんは、エネルギーでもフードでも一から考え直すタイミングに来たと語ります。
ただし、既存の業界はすでに大きくなり、設備投資も重ねているため、切り替えは非常に難しいとされます。今の作り方のままエネルギーコストを下げても、正直変わらないだろうと宮武さんは見ています。
カーボンキャプチャーのような二酸化炭素を吸う技術についても、試すべきとしながら、非効率でコストが高く、運用に大量のエネルギーが必要だと指摘しています。
消費が増えても解決できる時代は来るのか?
宮武さんが重要だと考えるのは、固定概念ではなく周期表を見返し、元素の組み合わせから新しいエネルギーを考え直すことです。その先で物理的な制約を越えられれば、大きなブレイクスルーが生まれると話します。
プラスチックの作り方も今のやり方である必要はおそらくなく、培養で作るプラスチックなどのアイデアも出ているといいます。宮武さんは、それを解決するのは今後の起業家だと見ています。
よく語られる方法だが、消費が減るトレンドにはなりそうにない
素材や作り方を根本から変え、消費が増えても解決できるようにする
宮武さんは、そうした起業家やソリューションにもっと注目し、投資することがいま必要で、アメリカではそこがようやく動き始めていると話します。次回はフード領域とサステナビリティのつながりを扱う予定です。
慣れないテーマだったと振り返る宮武さんに対し、草野さんは取り上げるべきトピックだとして、次回を楽しみにしていると締めくくりました。
まとめ
カリフォルニアの干ばつや山火事は、電力、雇用、不動産、保険にまで連鎖する深刻な問題になっています。宮武さんは、15年前に失敗したクリーンテックが、インフラの整備と合成バイオの台頭によって再び転換期を迎えていると見ています。
- 雪の消失で水力発電が70%減るなど、異常気象は電力不足や経済損失に直結している
- EVやソーラーパネルにも素材採掘などの環境負荷があり、何がサステナブルかは見極めにくい
- 15年前のクリーンテック投資は、技術的に作れないリスクを越えられず失敗した
- ユースケースが先に生まれ、後からインフラが整うと市場は爆発的に伸びる
- バイオテックのAWS化により、素材やエネルギーを一から考え直す時代が来つつある



