農業高校から来た男子2人の職場体験
今回の配信は、地元の農業高校の学生2人が職場体験に来ているタイミングで収録されました。実習の紹介票に書かれた「聞きたいこと」に、川上さんが一つずつ答えていく形で進みます。
来ているのは男の子2人。川上さんによると、女の子がまったくいないのは5年ぶりくらいで、ちょっとテンションが上がっているそうです。
2人とも和牛選考で、乳牛は1年生のときの搾乳実習で触ったことがある程度とのこと。
川上牧場では、乳牛に黒毛和牛の受精卵を採卵して受精卵移植優れた牛から採った受精卵を別の牛(ホルスタインなど)の子宮に移し、その牛に子牛を産ませる技術。乳牛からでも和牛を産ませられますし、ホルスタインに移植して黒毛和牛も産ませています。だから和牛のこともある程度答えられる、と川上さんは話します。
学生のうちに勉強しておくべきこと
最初の質問は「学生のうちに勉強しておいた方がいいことは何ですか?」というもの。川上さんの答えは、意外にもシンプルでした。
普通の5教科を勉強しておいた方がいいです。これ大事。
なぜ5教科なのか。川上さんは、牛が「生物」であり、餌の消化やエネルギーの話は理科そのものだと説明します。
そして、それを計算するには数学が必要になる、と続けます。
牛がどれだけ餌を食べて、それがお腹の中でどう消化して、排出されて、どれくらいのエネルギーになるか。これは本当に理科の中に入るので。
川上さん自身は「全然勉強してなかった人」だそうですが、就農して経営をやり始めてからその大切さがわかったと振り返ります。今は調べれば何でも出てくるものの、いろいろ勉強しておいた方がいい、というアドバイスでした。
酪農の魅力は「牛という生き物の面白さ」
次の質問は「酪農の魅力ややりがいを教えてください」。川上さんはまず、2人に牛のどこが好きかを尋ねます。
学生の答えは「目が大きくて可愛いところ」。2人とも外見が好きだと答えました。
一方で、川上さんの「好き」は少し角度が違います。牛が草を食べて体重700キロにまでなることを、すごいことだと捉えているのです。
草を食って体重700キロにしようって、結構すごいことじゃないですか。なんでこんな草を食ってでかくなろうかなって。
その秘密が、牛のお腹の中にいるルーメン微生物牛の第一胃(ルーメン)にすむ微生物。草などの繊維を発酵・分解し、牛はその微生物やつくられた栄養を利用して生きていますの働きだと川上さんは言います。微生物が発酵して増殖し、牛はその微生物を食べて生きている。その仕組み自体が面白くて牛が好きなのだそうです。
さらに川上さんは、人間が食べられない草や酒粕のようなものを、牛が牛乳やお肉に変えてくれる点に価値を感じています。
成功体験と、今も夢に出る失敗体験
続いての質問は「仕事での成功体験や失敗体験」。まず成功体験から。
川上牧場の牛は乳牛でも日本ランキング上位に入るものがいて、和牛でも島根県の種牛「秋の富士{要確認: 秋の富士}」をいち早く使っていたと話します。そのひ孫が来月には生まれる予定で、成績が良ければうれしい、とのこと。
最近では、広島県三次{要確認: 三次}の公社市場でトップセールを取るなど、牛がちゃんと活躍していることを成功体験に挙げました。
一方の失敗体験は、今も夢に出てくるほど重いものでした。海外から買った受精卵で、やっと受胎・分娩までこぎつけたものの、生まれるというときに逆子で。
その子が目の前で息を引き取った時が失敗体験です。絶対、今なら助けられたけど、その時は知識も技術もなかったから。
「めっちゃ泣いた」と振り返る川上さん。この経験は、今も夢に出てくるトラウマだと語りました。
人口減少と培養肉時代、「なぜ牛を飼うのか」
学生から「酪農の課題と対策」を問われると、川上さんは「深いこと聞くね」とうなりつつ、丁寧に答えていきます。
これまではいい牛乳やお肉を作れば消費が伸びた時代でした。日本の人口が増えていたからです。でも、これからは人口が減っていく。いいものを作っても食べてもらえない状況になる、と川上さんは見ています。
その対策の一つが、この配信のような発信活動。応援してくれる人を増やすことです。
さらに川上さんは、数年先を見据えた問いを学生に投げかけます。あと5年ほどで培養肉動物の細胞を培養してつくる肉。牛などを育てて屠殺しなくても食肉をつくれる技術として研究・開発が進んでいますや代替食品が出てくるかもしれない、と。
牛がいなくても肉や牛乳ができる時代に、「牛は何のために必要ですか」と消費者に問われたらどう答えるか。川上さんは学生に率直に尋ねます。
代替食品や培養肉の方が安くて美味しかったら、自分ならどっちを食べる?
学生は正直に「安くて美味しいならそっちを選んじゃう」と答えました。川上さんは、それこそがこれから競合として戦っていく相手だと指摘します。牛の存在価値がなくなっていく中で、「どうしてあなたは牛を飼っているんですか」「育てた牛を殺すんでしょ」と言われたときにどう答えるか。この問いに向き合う必要がある、というわけです。
その答えの一つが、やはり応援してくれる人の存在です。川上牧場の牛乳やお肉が食べたいと思う人が増えれば、ある程度は対策になるのではないか、と川上さんは考えています。
誰でも酪農を経験できる環境づくり
「仕事をする上で気をつけていること」への答えは、まず牛ファーストであること。牛が健康で元気に生産できれば利益が上がり、経営が豊かになる、という循環が第一だと言います。
そのうえで川上さんが心がけているのは、若い人がこれからの畜産・酪農をやりやすい環境をつくることです。
その取り組みの一つがタイミースキマ時間に単発で働けるスポットワークのマッチングサービス。空いた数時間だけ仕事を探して働けるのが特徴ですのようなスキマバイトの活用。休みの日に来て、掃除や餌やり、乳搾りを体験してもらう仕組みです。
川上さんが描くのは、家族数人で支えていた牧場を、地域の何百人もの人で支える形です。
地域のみんな、何百人でその牧場を支えるみたいな形でできたら、めっちゃやりやすくなる。
川上牧場で酪農を経験した人が、別の牧場でも働くようになれば、酪農全体がもっとやりやすくなる。そんな取り組みを進めていると話しました。
コロナで気づいた「作るだけではダメ」
「酪農をやる上で感じる自分自身の思い」を問われた川上さんが挙げたのは、コロナ禍の経験でした。
品質のいい牛乳を作っても、学校給食や飲食店が止まり、牛乳が余ってしまった。努力して作ってきたものが、コロナ一発で飲まれなくなったのです。
牛だけを一生懸命育てるっていうのに、ちょっとそれじゃダメなんじゃないかなって思ったんですよね。
この経験から、川上さんは酪農の現場を知ってもらう発信活動に力を入れるようになりました。
さらに川上さんは、牛乳やお肉の値段が需要と供給商品を欲しい人(需要)と供給される量のバランスで価格が決まる仕組み。欲しい人が多ければ値段は上がり、少なければ下がりますで決まる点にも触れます。人口が減れば、牛乳やお肉の価値はどんどん落ちていく。これはお肉も同じです。
その価格を一人で決めることはできないため、国や関係機関を動かしていく必要がある、と難しさを語りました。
インフレ時代の畜産経営という宿題
質問への回答を終えた川上さんは、最後に学生へ大きな「宿題」を投げかけます。それがインフレ時代の畜産経営です。
川上さんはまず、物価が下がっていくのがデフレ物やサービスの価格が持続的に下がっていく状態。日本は長い間デフレが続いてきたとされます、上がっていくのがインフレ物やサービスの価格が持続的に上がっていく状態。同じものを買うのに、時間がたつほど多くのお金が必要になりますだと説明します。
これからはインフレになり、物の値段がどんどん上がっていく。今が一番安い、という状況になる、と言います。
問題は、そのインフレ下でどう畜産をやっていくかです。餌代も資材費も燃料費も電気代も上がる。それなのに買ってくれる人は減っていく。
さらに厳しいのは、日本がこの30年間インフレを経験してこなかったこと。だから親世代や祖父母に相談しても、知らない人が多い。川上さん自身も「どうしたらいいかわからない」と正直に打ち明けます。
それでも、そういう時代が来ると知っておいてほしい、というのが学生への最後のメッセージでした。
まとめ
農業高校生の職場体験という形をとりながら、川上さんが語ったのは、酪農のリアルと未来への問いでした。牛という生き物の面白さから、人口減少・培養肉・インフレといった大きな変化まで、これからの畜産を担う世代に向けた率直な言葉が印象的な回です。
- 学生のうちは5教科、とくに理科と数学が牛の飼育や経営に直結する
- 川上さんは、草を肉や牛乳に変える牛の仕組みそのものに魅力を感じている
- 人口減少と培養肉・代替食品の登場で、「なぜ牛を飼うのか」が問われる時代になる
- 応援してくれる人を増やす発信活動が、これからの対策の柱になっている
- 餌代や資材費が上がる一方で農産物は高く売れない、インフレ時代の畜産経営が次世代の宿題

