「農薬が残ってるのが嫌?それとも使うのが嫌?」という問い返し
この日は9月30日の収録。研修生が来ているので、休憩中にお勉強しようという流れで放送が始まります。
研修生が投げかけたのは、牛が食べる牧草に農薬が使われていることを気にしているか、という質問でした。
これに対して川上さんは、まず質問を切り分けます。農薬を「使うこと自体が嫌」なのか、それとも「残留しているのが嫌」なのか、どちらなのかと問い返しました。
薬って人間が飲む薬もそうだし、農薬もそうだし、体の中に残ってる期間があるじゃないですか。
野菜とか牧草もそうで、かけた時はその虫が死ぬ期間で、雨が降ったり土壌に分解されたり大気に蒸発したりして、0になっていくわけですよ。
研修生の答えは「使うこと自体が嫌」。虫を殺すものが人間の体に入っていいわけがない、育つ過程で野菜にかかっている時点で嫌だ、という感覚でした。
「ナチュラルならいい」の線引きはどこにある?
川上さんは、研修生が引っかかっている「自然かどうか」の線引きを掘り下げます。
たとえば毒キノコを引き合いに出し、農薬に使われる薬品と毒キノコの毒が同じ場合もあること、薬は生物が作ったものを培養して大量生産している場合もあることを伝えます。
毒キノコは自然と生えるもので、植物が身を守ろうとしてそうなったもの。農薬は人間が改良して作ってるものじゃないですか。その違いかなと感じます。
川上さんは、自然から生まれたものを科学の力で大量生産できるようにして活用しているだけで、適切に使われている分には問題ないと考えている、と自分の立場を示します。
化学肥料がなかったら世界の人口って今の10分の1ぐらいしか維持できないんですよ。
腹ペコになるのと、農薬が適切に使われた食料が豊富にある世の中と、どちらがいいのか。川上さんはそう問いかけ、研修生も「難しいですね」と考え込みます。
輸入牧草の検査と、トマトが枯れた除草剤の話
話は、実際に牧草の農薬がどう扱われているかへ進みます。牧草の農薬自体は使われていますが、日本に輸入される際には抜き打ちを含めた検査がされていて、基準値を超えて残留したものは入ってこない、と川上さんは説明します。
一方で、過去にはこんなトラブルもあったそうです。牛の糞に除草剤が残っていて、それを使ってトマトを育てたら枯れてしまった、という問題が一時期あったといいます。
牛がその牧草を食べて、その糞を使ったら、糞に除草剤がまだ残っていて、問題が起こったみたいなのが一時期ありました。
名前が正確かどうかは自信がないとしつつ、どこかの時点で残った成分がトマトを全部枯らしてしまったという具体例です。
だからこそ、牧場見学のお客さんから「抗生剤や薬を使っていますか」と聞かれることがある、と川上さんは続けます。そのときも彼は同じように「使用するのが嫌か、残留が嫌か」を聞き返すそうです。
乳房炎の薬や糞に、成分は残る?残らない?
研修生は、牛にとっての「使用」と「残留」の違いを具体的に確かめていきます。使用は注射などで実際に薬を使うこと、残留は乳や糞に成分が出てくることだと整理していきました。
もし「残留が嫌」と言われたら、それは大丈夫なんですか?
残っていないので大丈夫、というのが川上さんの答えです。体の中でほとんど分解されるため、糞に残る分もごく微々たるものだといいます。
乳房炎の治療についても補足があります。注射などをした時期の牛乳は全部捨てているため、そちらにも成分は出ていかない、という説明でした。
「日本の基準は緩い」って本当?
研修生は、日本の食品基準が低い(緩い)とよく言われる、という疑問をぶつけます。これに川上さんは、日本の基準はむしろめっちゃ厳しい、と答えます。
その上で、海外で「緩く見える」理由を、過去の事件のイメージから説明します。どこかの国で問題が起きて法律で禁止された薬品は、その後何十年も研究されて安全が確認されても、悪いイメージだけが残ってしまう、というのです。
日本もカイワレダイコンで食中毒が出たとか、牛乳で抗生物質が混入していたとか、大きいニュースがありました。
そうしたニュースを知っている人が「あの乳業の牛乳はもう飲まない」と言うのと、農薬全般を避けるのは、川上さんにとっては同じレベルのことだといいます。
話には、除草剤ラウンドアップやモンサントといった、いろいろな場面で議論になってきた名前も出てきました。
遺伝子組み換え作物は、環境にいい?悪い?
後半、川上さんは「遺伝子組み換え作物ってどういうイメージですか」と話題を変えます。研修生の第一印象は「体に悪い」でした。
そこで川上さんは、殺虫剤の使用回数という別の角度から考えさせます。害虫に強い遺伝子組み換え作物なら、虫が寄り付かず殺虫剤をまったく使わずに済む場合がある、というのです。
同じ値段なら組み換えでないものを選ぶと答えていた研修生も、「殺虫剤を使っていない方が環境にいい」と聞くと、考えが揺れます。
虫に強い遺伝子組み換え作物だったら、殺虫剤を全く使ってないです。どっちが環境にいいですかって話。
さらに、畑の真ん中に無農薬の作物を置き、その周りを害虫に強い遺伝子組み換え作物で囲って虫を寄せ付けない、という栽培方法も紹介されます。海外ではパパイヤや果樹でこうした工夫ができているそうです。
どっちも作れる。それいいですよね。売り上げどっちも上がるわけですよ。
農薬を嫌う理由は「家庭」から。二人の健康観の違い
研修生がここまで農薬を気にする背景には、家庭環境がありました。お母さんが農薬をとても嫌い、できれば無農薬のお米や野菜が食べたい、という家だったのです。
ただ川上さんは、肥料などにも成分は少し入っているはずで、完全にゼロにするのは難しいと現実的な見方を示します。隣の畑からの飛散(ドリフト)もあるからです。
二人の健康観の違いもはっきりします。川上さんは技術をどんどん使いたい派で、子供にも同じ考え。iPS細胞など医療も発展していくのだから、と大らかです。
私は体にはあんまり科学的なものを入れたくない派なんで。自分が薬を飲んでて体調を崩した側なんで。
研修生の慎重さには、過去に薬で体調を崩した経験がありました。一方の川上さんは「病院に1年に一回も行かない」と笑います。
日本の「安さ」と海外の「ヘルシーは高い」
最後は、食を選べる環境の話に。海外にいた研修生は、選べるけれど値段がとても高いと振り返ります。
印象的だったのは、ヘルシーな食品ほど高いという逆転でした。日本では鶏胸肉やササミなど脂身の少ない肉が安いのに、海外では高いというのです。
ヘルシーが高いんですよ。だから富裕層じゃないと健康的な生活が送れないんですよ。だから日本違うわーと。
牛ミンチも、脂の少ないローファットが12ドル、脂が多めのものが7ドルほどと、日本の感覚とは逆でした。川上さんは「安いやつは結局海外から買ってるんだよな」とつぶやきつつ、日本の安さを外から見た話に耳を傾けます。
まとめ
農薬や遺伝子組み換えへの不安を、「感覚」で終わらせずに「使用が嫌なのか、残留が嫌なのか」と切り分けていく回でした。答えを押し付けるのではなく、二人で考えるきっかけになっている点が印象的です。
- 農薬への不安は「使うのが嫌」と「残留が嫌」で意味が変わる
- 輸入牧草は日本で厳しく検査され、基準値を超える残留品は入ってこない
- 乳房炎の治療中の牛乳は捨てられ、糞に残る成分もごく微量とされる
- 害虫に強い遺伝子組み換え作物は殺虫剤の使用を減らせる場合がある
- 海外ではヘルシーな食品ほど高く、日本の食の安さが際立つという視点

