リスナーが投げかけた「人間の培養肉」への疑問
この日のお便りコーナーに届いたのは、配信アプリStand.FMのセイさんからの質問でした。
人間の培養肉の展示をアメリカでやってたけど中止になった理由が知りたいな。遺伝子組み換えがダメでゲノム編集がいいとかよくわからないです。
きっかけは、以前研修生と休憩中に配信した雑談だったそうです。万博で培養肉を見た研修生との話から、培養肉というテーマが広がっていきました。
人間の細胞を展示したものが過去にあったみたいです。ちょっとそれをAIで調べて、どういう経過になっているのかをお話ししていこうかなと思います。
川上さん自身も「人間の培養肉展示」の存在は知らなかったそうで、リスナーの質問がきっかけで自分の知識が広がると話しています。
「ウロボロスステーキ」とは何だったのか
話題の中心になったのは、2019年にアメリカの研究者・デザイナーが発表した「ウロボロスステーキ」という作品でした。
これは人の口の中から採った細胞を培養して作る、直径数センチのステーキ風の肉片だったといいます。
展示の狙いは、未来の食料不足のなかで「人が自分の細胞から食べ物を育てるとしたら?」という風刺だったそうです。見た目はミニステーキで、ナイフとフォークが添えられ、高級レストランの皿のように並んでいたといいます。
ところがこの展示は大きな議論を呼び、実際に食べるイベントなどは中止に追い込まれました。
中止に追い込んだ4つの壁
川上さんは、中止になった理由を大きく4つに整理して紹介しました。
倫理的な問題
自分の細胞でもカニバリズムを連想させ、強い罪悪感を招いた
法的・規制的な壁
アメリカの食品規制は食用動物の細胞にしか道を開いておらず、人の細胞を食品扱いする法律がない
技術的な課題
培養肉自体がコストや培養液の問題を抱え、人細胞を食用レベルで培養する基盤がない
社会的な反発
SNSで否定的な声が圧倒的多数で、培養肉=人肉という誤解まで広がった
これらの倫理・法律・技術・社会というすべての面で受け入れられず、展示はコンセプト作品として美術館に残るにとどまったそうです。
遺伝子組み換えとゲノム編集は何が違う?
続いて川上さんは、質問のもう一つのポイント「遺伝子組み換えはダメでゲノム編集はいいの?」に答えていきます。
遺伝子組み換えは、他の生物から遺伝子を持ってきてゲノムに組み込む技術だと説明します。害虫に強いトウモロコシや、栄養を強化したゴールデンライスが例に挙げられました。
一方でゲノム編集は、生物がもともと持っている遺伝子をピンポイントで書き換える技術です。代表例としてCRISPR-Cas9が紹介されました。
外から他の生物の遺伝子を入れてゲノムに組み込む
もともと持っている遺伝子をピンポイントで書き換える
培養肉と規制、これからの可能性
川上さんは、この技術の違いが培養肉ともつながっていると話します。
現在アメリカで承認された培養チキンなど、市販されている培養肉は基本的に遺伝子操作なしの細胞を使っているそうです。消費者の不安や規制を避けるためだといいます。
ただし将来は、細胞の成長を早めたり栄養を強化する目的で、ゲノム編集が使われる可能性もあると話しています。
各国の規制はバラバラで、EUはゲノム編集も遺伝子組み換えと同じ扱いで厳しく、日本やアメリカは外来遺伝子を残さないゲノム編集を区別して規制が緩めだと整理されました。
酪農家として考える「食の境界線」
一連の説明を終えて、川上さんは自分の実感も語っています。
人間の培養をするんだったら動物でいいやんって思っちゃうんだけど。
なぜ許可される国とされない国があるのか。川上さんが細胞性農業を調べるなかで意識してきたのが、宗教観だといいます。
命を変えることが神のなすことだと、キリスト教で言うと。神様以外そんなことはしてはいけないみたいなのがあって、反対する。
そのうえで、人の細胞を使う培養肉には自身も抵抗感があると率直に話します。一方で、人間の面白さについてもこう語りました。
最後に川上さんは、こうした質問が知識を広げるきっかけになると感謝し、どんどん調べますので気軽に質問してほしいとリスナーに呼びかけました。
まとめ
今回は、リスナーの質問をきっかけに、人間の培養肉展示が中止になった理由や、遺伝子組み換えとゲノム編集の違いを酪農家の視点でひもといた回でした。技術や規制の裏にある倫理や宗教観にも触れながら、食の未来を一緒に考える内容になっています。
- 2019年発表の「ウロボロスステーキ」は、倫理・法律・技術・社会の4つの壁にぶつかり中止になった
- 遺伝子組み換えは外から遺伝子を入れ、ゲノム編集は中の遺伝子を書き換える技術という違いがある
- 市販の培養肉は現状ほぼ非遺伝子組み換えだが、将来ゲノム編集が使われる可能性もある
- 規制の差の背景には宗教観などの価値観があり、川上さんも人の細胞を使う培養肉には抵抗感を語った
- リスナーの質問が知識を広げるきっかけになると、川上さんはコメントを呼びかけている


