そもそも「発情」ってなんですか?
収録は9月22日。この日も研修生さんが牧場に来ていて、川上さんが教えながら配信していきます。
ちょうど牧場では、採卵(胚卵処理)の真っ最中。黒毛和牛のお母さんから受精卵を取って、ホルスタインのお母さんに移植することで、黒毛和牛を大量に生産する技術です。
研修生さんが気になったのは「発情期」と「排卵期」のちがい。人間だと排卵期とは言っても、発情期とはあまり言いませんよね。
排卵とはまた別ですか?
排卵期、まあ一緒ですね。一緒だと思ってもらっていいですよ。
川上さんいわく、発情の正体はホルモンの流れ。ホルモンが上がったり下がったりして、どれが優位になるかで、発情が起きたり、排卵が起きたり、妊娠が確定したりするそうです。
ただ、教科書どおりにはいかないのが生き物のむずかしいところ。暑さや栄養のストレスで周期がずれることもあると話します。
一般的に21日周期って言われてるけど、24日で来たりとか、18日で来たりとか。妊娠してるのに発情するもあります。
発情を「点数」で見つける方法
牛が発情しているかどうかは、100%正確に当てるのがむずかしいもの。そこで川上さんは、観察したサインを点数化する方法を教えてくれました。
たとえば、発情で鳴いていたら10ポイント、興奮して餌をあまり食べなければ3ポイントといった具合です。
隣の牛に乗りかけするんですよ。それを見つけたら20ポイントみたいな感じで。
メスがメスに乗りかけするのを見つけて、合計10ポイント以上になった牛は「発情」と判断する、というポイント制の見つけ方です。
そのうえで川上さんは、結局いちばん大事なのは日々の観察だと話します。
お尻に入れたアレの正体
研修生さんが次に聞いたのは、牛のお尻に入っている器具のこと。「シダー」や「プリッド」と呼ばれる、膣内留置型のホルモン剤です。
これを入れると「妊娠した」というホルモンが上がり、発情が来なくなります。そして抜くと、そのホルモンが一気に下がって「妊娠していない」状態に。
抑えてた発情をしてくださいっていうやつが、発情しちゃって優先になるっていうコントロールをする。
これを使えば繁殖のタイミングを揃えられます。海外では、放牧している牧場が一斉に器具を入れて一斉に抜き、同じ日に種付けして季節ごとにまとめて産ませるそうです。
同じ時期にまとめて産ませ、冬は乳を絞らない乾乳にする。そうやって長い休みをつくるのが、海外では一般的なやり方だといいます。
ただ、日本ではあまりやらない方法。とくにつなぎ牛舎だと、同じ時期にまとめて生まれると困ってしまうからです。
夏を「お休み」にする繁殖のチャレンジ
川上牧場が今年チャレンジしているのが、この海外式に近い季節繁殖。日本の夏は暑さで生産性がガクッと落ちるので、いっそ夏をお休みの時期にしてしまおうという発想です。
夏の間をお休みの時期にやってしまえばいいやっていう繁殖方法を今年チャレンジしてみたんですよ。今んとこ大成功なんですけど。
夏は乳量が減ってしまう一方で、そもそも生産費が上がる季節。同じ30キロ絞るのでも、夏と冬では牛への負担もコストも変わってきます。
今年はホルスタインの目標数も、もう達成済み。年間12〜13頭ほどの目標に対し、予測ではすでに16頭ほどになる見込みだといいます。
理想は週に1回のペースで子牛が生まれること。それだと1か月で4頭、12か月で48頭になり、親牛50頭がほぼ全部出産する計算で、バランスがいいそうです。
牛乳、そんなに売れなくなってるの?
話題は繁殖から消費へ。研修生さんが、乳量が落ちても店頭の牛乳はあまり変わって見えない、と疑問を投げかけます。
需要めっちゃ落ちてますからね、今。
川上さんによると、脂肪分を取り除いた低脂肪牛乳やコーヒー牛乳といった「乳飲料」を選ぶ人が増えているとのこと。物価高で、牛乳が高いと感じてそちらを買う人もいるのではと話します。
さらに、牛乳を飲まないと栄養が取れない、と言われた世代の親に育てられた子どもが、いま親になっている。そうした流れから、川上さんは消費はもっと落ちると見ています。
どうやったら伸びるんだろう。
いや、もう伸びないって。伸びないと思ってます。
その理由として川上さんが挙げるのが、経済の豊かさとの関係。経済が豊かになると、鶏肉から豚肉、牛肉へと食が変わり、健康にも気を配るようになる、という歴史の流れです。
一方で、文化が成熟しすぎると、今度は高カロリーなものを避けてヴィーガンや健康食品に向かう、とも。牛乳をめぐる状況は、なかなか一筋縄ではいきません。
「置き場所」が間違っている?
1本300円ほどする牛乳。研修生さんも「高いな」と感じるといいます。ただ川上さんは、その「高い」の中身を掘り下げます。
デザートやサプリメントは買うのに、なぜ牛乳は高く感じるのか。栄養価やカルシウムの多さで比べれば、サプリメントよりずっと安いはずだ、というのが川上さんの見方です。
販売方法が間違ってるんですよね。清涼飲料水とかオレンジジュースと肩並べるから、高いって思われるじゃん。
研修生さんも、牛乳が液体で飲み物コーナーに置かれているから、ほかの飲み物と比べて高く感じるのでは、と応じます。
そこで2人が盛り上がったのが、置き場所を変えるアイデア。栄養食品の棚に牛乳を置いたら、むしろ安く感じるのでは、という発想です。
牛乳買う時あんまりカルシウムとか私あんま考えない。
当たり前になっちゃってるんで。
たとえばエナジードリンクを買うくらいなら、栄養面では牛乳のほうがいい、と研修生さん。それでも、ブランドや流行としてエナジードリンクが選ばれてしまう現実があります。
スタバ高くても買うじゃないですか、ブランドみたいな。あんな感じですよ、もうエナジードリンク。
最後に川上さんは、変わっていく価値観に、どう生産を合わせていくかが大事だと締めくくりました。
まとめ
研修生さんとの掛け合いを通して、牛の繁殖のしくみから、牛乳消費の現実、そして売り方の工夫まで、酪農のリアルがぎゅっと詰まった回でした。牛乳を見る目が、少し変わるかもしれませんね。
- 発情はホルモンの流れで、教科書どおりの周期にならないのが生き物のむずかしさ
- 発情は鳴き声や乗りかけなどを点数化して見つけ、ホルモン器具でタイミングを揃えられる
- 川上牧場は今年、暑い夏をお休みにする季節繁殖にチャレンジし、手応えを感じている
- 牛乳の消費は落ち込んでおり、経済や価値観の変化とも深く関わっている
- 栄養価で見れば決して高くない牛乳。「どこに置くか」など売り方の工夫が課題として語られた

