事件前の日本は「安さ」で食品を選んでいた
事件が起きる前、餃子は安いものが一番選ばれていたと小野寺さんは振り返ります。
味は二の次で、タレをじゃぶじゃぶつけてご飯をたくさん食べられれば良い、という時代だったといいます。
餃子に限らず、多くの食品が安さを求められていました。中国で製造・冷凍したものを日本に輸入して販売するビジネスモデルが確立していたと説明されます。
2007年頃にはほとんどの家庭に冷凍庫が普及し、安くて美味しい食材でいっぱいという状況になっていました。
大手メーカーも中国の工場で作らせて日本で販売しており、食品の中国依存が進んでいたと語られます。日本たばこ産業(JT)や讃岐うどんで有名なカトキチ、日清食品などが冷凍食品事業の経営統合を発表していた時期でもありました。
2008年、生協の冷凍餃子で起きた中毒事件
翌年の1月、事件が起きます。千葉県や兵庫県の3つの家庭で、5歳の女の子を含む10人が吐いて倒れ、意識不明になりました。
警察が調べたところ、3つの家庭に共通していたのは、生協で「本場中国肉餃子」という冷凍餃子を購入して食べていたことでした。
この冷凍餃子を鑑定すると、有機リン系化合物のメタミドホスがパッケージの中から発見されます。
事件後、厚生労働省がすぐに動き出し、この工場で作られたものが小売店の棚に並んでいたらすぐ撤収する状況になりました。当時は厚労省の対応が評価されたといいます。
数年後に判明した犯人は、中国の工場で働く職員で、殺散のためにやったことでした。
ただ事件直後は、中国で作られたものや中国産原材料を使った冷凍食品は危ないのではないか、という認識が広がります。餃子だけでなく冷凍食品全体の買い控えが起こりました。
売上マイナス68%、消費者庁誕生まで動かした衝撃
この事件は冷凍餃子事件や毒餃子事件などと呼ばれ、2008年の読売新聞「選ぶ重大ニュース」で1位に選ばれるほど連日大きく扱われました。
売上への影響は深刻で、冷凍餃子はマイナス68%、冷凍食品全体でもマイナス45%となりました。
家計調査のグラフでも2008年の落ち込みは急ブレーキのような谷になっており、冷凍食品の購入金額が2007年の水準に戻るまで、およそ10年かかったといいます。
中国産食品の購買意向も激変しました。もともと92.5%が中国産食品を選ぶとしていたのが、27.6%まで下がったと語られます。
92.5%
27.6%
さらにこの事件もきっかけとなり、農林水産省・厚生労働省・経済産業省などに分かれていた消費者行政を一元化しようと、2009年に消費者庁が生まれました。
餃子の皮が売れた 安心安全は自分の家で
一方で、毒餃子事件の後に増えたものがあります。それが餃子の皮の販売でした。
お店で餃子を買うのではなく、安心安全は自分の家庭で、と自分で作る方向へシフトしたのです。
日本国民は、中国産の餃子は嫌いになっても餃子は嫌いになってないっていうことがわかるんですね。
餃子メーカーも安心安全を強調するようになります。動き出しが早かったのは味の素冷凍食品でした。
2008年には豚肉・鶏肉・野菜を当社指定農場で作っているとアピールし、翌2009年には餃子を自社工場で作っていることをパッケージで強調しました。
京都発祥の餃子の王将も、すべての原材料を国産にしたと2014年に発表しています。
ただし実際には、小麦粉はオーストラリアやカナダから輸入して作るものが多く、日本産は量が多くありません。そのため「主な原材料が国産」という言い方をするところも結構多いと小野寺さんは指摘します。
HACCP義務化で記録される安全 完全ではないが確実に前進
消費者庁ができる前から動き出していたものとして、HACCPが挙げられます。
具体的には、どこから仕入れてどこに販売したのか、どんな検査をしたのかといった記録を工場内ですべてつけていくものです。
スーパーの冷凍庫の温度管理も記録し、何かあったときにすぐ対応できる状況が整えられていきました。
これで完全に安全になったわけではなく、その後も国内工場での異物混入や、それが隠される事例もあったといいます。
ただし異物混入は発生すればすぐ発表されるようになり、件数もかなり減りました。
設備面では金属探知機の有無など、資金の都合で大手と小規模メーカーの差がつくこともあります。それでも少なくとも2008年以前よりは、日本の食べ物は安心安全になったと言えると小野寺さんは話します。
食品衛生の知識を義務教育で 消費者側の責任という視点
小野寺さんは、食品衛生の知識は作る側だけの責任ではなく、消費者側も責任を持つべきことだと考えています。
作る側や販売する側は食品衛生責任者資格を取りますが、これは6時間ほどの授業と簡単なテスト、1万円ほどの費用で誰でも取れるものだといいます。
この食品衛生責任者資格、ぜひ多くの方が受けた方がいい。なんなら義務教育で教えた方がいいんじゃないかっていうふうに思うんですよ。
たとえば食中毒がなぜ起こるのか、菌とウイルスの違いは何か、生肉がなぜ危険で調理時に何に注意すべきか、発酵と腐敗は何が違うのか。こうした知識が当然として共有される社会になればいいと語られます。
消費者としては、少し高くても安心安全なものを選びたいという意識が高まっており、その基礎知識として食品衛生の知識が大事だと小野寺さんは考えます。
さらに地産地消や無駄をなくすといった、美味しさだけではない付加価値を選ぶ人も増えていると指摘します。
消費者が意識を変えると同時に、作る人がどれだけお金をかけ苦労しているかも理解しやすくなるといいます。
こうした意識を高める表れとして、焼き餃子協会の入会検定には食品衛生に関する問題が多めに入っているそうです。入会検定も入会も無料だと案内されました。
今週のお取り寄せ 餃子の満洲の「健康で幸せに」
今週のお取り寄せ餃子は、埼玉県を中心に中華料理店を展開する餃子の満洲です。
満洲のスローガンの一つは「美味しい餃子で人々を健康で幸せに」。安心安全は当然として、その上で健康と幸せを目指す、欲張りとも言えるスローガンだと紹介されます。
全店舗が直営店で、工場も埼玉県にあります。小麦粉を含め原材料はすべて国産で、野菜はほとんど自社農場で作っているといいます。
社長が毎日食べて飽きないものを作っており、高齢になって油がきつくなったことから、脂身を3割減らして赤身を3割増やすなど、だんだんヘルシーになっているそうです。濃い味に慣れた人には物足りないと言われるほど、優しい味付けの餃子だといいます。
この餃子は冷凍で店頭でも買えますが、実は通販もやっています。レギュラーの餃子に加え、特別な肉を使ったプレミアムな餃子もあります。
ただ通販サイトには「三割うまい」の理由をはじめ、こだわりの情報がほとんど載っていないと小野寺さんは笑います。言わなくても買ってくれる常連がついている餃子屋だからだといいます。
まとめ
2008年の毒餃子事件は、日本人が食品を安さや便利さではなく安全性で選ぶきっかけになりました。小野寺さんは、作る人も食べる人も食品衛生という科学的理解を深めることで、餃子はもっとおいしくなるはずだと締めくくります。
- 2008年の冷凍餃子事件で餃子はマイナス68%、冷凍食品はマイナス45%と大打撃を受けた
- 事件をきっかけに国産原材料や自社工場を強調するメーカーが増え、HACCPの記録管理も広がった
- 消費者行政を一元化する消費者庁が2009年に誕生した
- 小野寺さんは食品衛生の知識を義務教育で教えるべきだと考え、安心安全を「美味しさの付加価値」と位置づけている
- 今週のお取り寄せは、原材料すべて国産で「健康で幸せに」を掲げる餃子の満洲

