番組プロデューサーがゲストとして語る、初公開の組織論
MCの宇尾野彰大さんが今回のゲストとして迎えたのは、Podcast Studio Chronicle代表の野村高文さんです。この「おいしい組織」自体もChronicleが制作しており、野村さんは番組プロデューサーでもあります。
番組プロデューサーの立場であるので、快諾も何もという感じなんですけど。
2人は前職のNewsPicksでの同僚で、退職後も定期的にサウナに行き、お酒を飲む間柄だといいます。付き合いはもう3年以上になると振り返ります。
野村さん普段話してる感じと、このマイクの前にいる野村さんがちょっとやっぱプロ感がすごい強く出てるんで、今日。
宇尾野さんは、マイクの前の野村さんからプロとしてのオーラと自信を感じたと話します。野村さんは、今回の内容は公の場で話すのが初めてのものが多いと前置きしました。
現状こうだっていうのをですね、ありのままにお話しできればなと。
立ち上げ4年半、20人が関わる「全員業務委託」の布陣
Chronicleが立ち上がったのは2022年の頭で、収録配信時点で4年半ほどが経過しています。経済、ビジネス、教養分野のPodcastを制作するレーベルです。
関わるスタッフは、番組全体を見るプロデューサー、現場で進行するディレクター、音声を編集する担当、そしてコーポレートや営業戦略を支える人などです。約9割が制作に関わる人だといいます。
現時点では正社員がおらず、全員が契約を結んで動いている状態です。そのうち5〜6人はChronicleが生活の柱になっており、関わる関係人口は全体で約20人にのぼります。
ビジネスモデルは、自社番組の制作運営と、クライアント企業向けのブランディッドコンテンツ ── 企業のブランド価値を高めることを目的に作られる、広告色を抑えたコンテンツのこと。番組そのものを企業の資産として制作する。の2つです。番組数は収録配信時点で20数番組が現在進行形で走っています。
自社番組のNEWS CONNECTってやつは毎日配信してるんで、週間の配信本数は多分30本ぐらいですかね。
音声を主軸にしつつ、社会的意義のあるコンテンツを探る
今後もポッドキャストを主軸にすることは当面変わらないと野村さんは話します。ただし、価値の出し方には複数の可能性があると考えています。
クライアント向けでは、番組を基軸にしつつ発信全般で役に立つ形もありえます。自社メディアでは、サポート課金やタイアップインタビューに加え、マネタイズの手法はもっとあるはずだと見ています。
日々考えているのは、数字を取るだけでなく社会的に意義のあるコンテンツとは何かという問いです。その像を作るために、出版物やリアルの場など、音声から派生する展開の可能性も頭の体操として考えているといいます。
企画の「手癖」という悩みと、関与量を減らす挑戦
組織作りの経緯として、最初の2〜3年は野村さんがどの番組もヘッドクオーターとなり、スタッフに実務を担当してもらう形を横に広げてきました。
しかし番組数が増えると、自分一人の脳みそでは企画のテイストが似てしまう課題が出てきます。野村さんはこれを「手癖がついている」と表現します。
多分こうこうこういう順番でやっていけばこういうものが仕上がるなっていうのが、ある程度その手が癖があるっていうような感じなんですね。
そのため、最初の枠組みは自分が作りつつ、関わる制作者の「これが面白い」という感覚を増やしたいという思いは一貫してあったといいます。
一方で、立ち上げ当初はポッドキャストの価値そのものを説明する必要があり、自分が深く関与せざるをえない時期が続きました。実績が出て価値を言語化できるようになった今、関与する量を少しずつ減らす挑戦を進めています。
アテンションエコノミーへのカウンターパートと私はもうずっと言ってるんですけど、ポッドキャストっていうのをいろんなメンバーで共有できるようになってきたなっていう感じがある。
正社員採用へ。プロデューサーと出役という最初の2人
関与量を減らす動きとほぼ同時に、野村さんは正社員を数人採りたいと考えています。まず1人はプロデューサーで、Chronicleの看板を背負う存在です。
自分の色に染めるつもりはなく、基本的な価値観だけを共有して、その人の強みで番組を作ってほしいといいます。像としては、キャリアが近い人か、自分の経験を全部渡せる年下のどちらかを想定しています。
もう1人は出役、つまり出演者です。野村さんは出役に必要な要件を言語化しているといいます。その背景には、コンテンツが溢れる中でゲストでは差がつかなくなったという実感があります。
面白いゲストの方が一人登場したら、その人っていうのは基本的にどの番組にも出るんですね。
そこで差がつくのはホスト、つまりMCの側だと野村さんは話します。MCの問題意識やプロ意識によって、ゲストが普段は言わないことを引き出せるかどうかに面白さが宿ると考えています。
本気でやるなら出役も内製化が必要で、それが競争力につながると野村さんは見ています。背中を預けられるプロデューサーと、ガッツリやれる出役の2名が、最初に入ってもらう像に近いと語ります。
採用のペルソナは「編集者」。出役スキルは後付けできるか
どんな人を採りたいかについて、野村さんはまず「編集者」だろうと腹落ちしたといいます。企画を作りテキストを作るスキルを持つ人は、自分がやろうとしていることと相性が合いやすいと感じています。
編集者スキルをもともと持っている方は結構強い。私がやろうとしていることに相性が合いやすいなというふうに思いました。
一方、出役についてはまだ答えが出ていない部分があります。アナウンサーは出役として申し分ないものの、ポッドキャストの聞き手としては足りない傾向があるといいます。
アナウンサーに聞き手のスキルを後付けするのか、テキストをやってきた編集者に出役の経験を積んでもらうのか、どちらがよいかはやってみないとわからないと野村さんは話します。
役割名としては、この2つはどちらもプロデューサーになるかもしれないと野村さんは整理します。自身の役割はビジネスパーソン、企画を作る人、出る人の3つに分かれており、そのうち2つを満たしていれば要件は足りるという考えです。
クライアント企業に向き合うビジネスマインドが要件。企画を作る力が中心となる。
企画を作る力と出役の両方を満たす。ビジネス面は誰かと組んで補える余地がある。
職業を変えて起業。ベーススキルは活き、喋りは場数で
ポッドキャストプロデューサーはまだ職業として確立しておらず、他の領域から来る人にはアンラーニングも必要になりそうだと宇尾野さんは指摘します。その先駆者である野村さんに、職業を変えた実感を尋ねました。
野村さんは、ベースのスキルはかなり使えたと振り返ります。編集者としてテキストを作り、そのために企画を作るスキルは大いに活かせた部分だといいます。
一方、喋りは後付けです。ここは若干の根性論も入るとしつつ、場数を踏めばなんとかなると野村さんは考えています。
トレーニング過程ではあんまり出たことないですと、自分は喋ったことないですと。ただ出役をやりますっていうふうになった場合は、じゃあとりあえず頻度を上げようっていう話をしますね。
打席にたくさん立ってもらう千本ノックのようなやり方で、1年で慣れ、2年でその人の味が出てくるというタイムラインを野村さんは描いています。
「自分が一番見えている」経営者の課題と、合格ラインの握り方
新しい人が育つまで1〜2年かかる中で、クオリティに我慢できるのかと宇尾野さんは問いかけます。野村さんはこれを率直に課題だと認めます。
我慢できる部分と、いやちょっと俺はもうちょっとやってよっていう部分が実際は混在するんだろうなと思ってるんですけど。
野村さんは、自分が一番見えているという職人系経営者の状態は回避できないと考えています。だからこそ、どこまで満たせていればOKなのかを互いに握ることが大事だといいます。
何が合格点かわからないのは、任される側にとっても快適ではありません。要点が押さえられていれば作家に任せる、という線引きを作ろうとしています。
野村さんの合格ラインは、主観的ながらも明快です。自分が聞いて「知らないことを言っているね」となれば合格だといいます。
固有性をどう拾うかは、編集者と出る人がしっかり関係を構築しないと難しいものです。野村さんは、感度はセンスではなくトレーニングで磨けると信じており、その方法論を伝えられると話します。
バックオフィスと売上。「制作を人に任せる」設計
プロデューサーやMC以外の職種についても、野村さんは考えを持っています。まず、バックオフィスがグラグラすると全体が揺れるため、守りをしっかり固める必要があると話します。
売上を立てる部分については、この1年で考えが変わりました。当初は相方を早く見つけて自分が制作に専念すべきだと助言されていました。
最近はちょっとその考えが変わって、どっちかっていうと、意外に自分がものを売ることが割と得意だったっていうのが最近思ったことなんですね。
そのため、売上やご縁を作る仕事は最後まで社長の仕事として残るかもしれないと野村さんは見ています。制作をみんなでやり、社長が売る形のほうが、まずは立ち上がりやすいという判断です。
将来的には2人目の経営者的存在がいたほうがよいとしつつ、順番としては志のある出役と作り手に集まってもらうことが優先だと考えています。制作チームを作ることが、組織作りの第一歩の最も大事なテーマだといいます。
まず5人。作家性と価値観を共有した「理想の組織」
制作チームがどうなればやりきったといえるのか。野村さんのイメージは、自分を含めて5〜6人のプロデューサーがそれぞれの作家性を持ってコンテンツを作っている状態です。
コンテンツは1人では作れないため、その5人に紐づくディレクターや編集者がいる像を描いています。5人が基本的な価値観を握っていることが前提です。
その価値観とは、蓄積してきたものに敬意を払うこと、そしてアテンションエコノミーではないという姿勢です。社名のChronicle ── 年代記を意味する英語。野村さんは、人類が蓄積してきたものに敬意を払うという意味を社名に込めているとしています。にもその思想が込められています。
すごい基本的な概念だけちゃんと握れていれば、じゃあジャンルとしては何に強くてもある程度はいいかなっていうような感じですかね。
この5人の絵は、実は創業時からなんとなく頭にあったものです。ただ当時はHowがわからず、売上もビジネスモデルもあってないような状態でした。
合わせ技で成立させ、再現性が見えてきたこの数年を経て、ようやく創業当初の組織像に挑戦する権利を得たと野村さんは感じています。だからこそ、1人目・2人目を具体的に考えられるようになったといいます。
3つの職歴のハイブリッド。目指すのは筋のいい議論の場
宇尾野さんは、5人という規模感に前職NewsPicksの影響を重ねます。強烈な数人が出すメッセージが大きな注目を集めていた景色と通じると指摘します。
野村さんも、自分のいた組織の出自が影響していると認めます。NewsPicksの前はボストン・コンサルティング・グループ、その前はPHP研究所で論壇雑誌「VOICE」を担当していました。
自分のやっぱ作りたいものが、筋がいい議論がここから生まれてくるっていう状態を作りたいなっていうふうに思っていて。
野村さんは、それを経済の領域で、資本主義に向き合いながらやりたいと話します。ビジネスの話を避けたコンテンツは嘘だと感じる一方、儲からなければ価値がないという考えも嘘だと捉えています。
目指すのは、経済として成立する方法を考えつつ、社会がより良くなる道を探ることです。これは論壇雑誌の編集、コンサルタントとしての1年、そしてNewsPicksで新自由主義に向き合った6年間のハイブリッドだと野村さんは振り返ります。
PHP研究所「VOICE」
論壇雑誌の編集で、筋のいい議論が生まれる場を経験する
ボストン・コンサルティング・グループ
コンサルタントとして経済・ビジネスに向き合う1年を過ごす
NewsPicks
6年間、新自由主義や経済メディアに向き合う
Chronicle
経済と社会的意義を両立させる、筋のいい議論の場を目指す
宇尾野さんは、この構想がこれまでの集大成であると同時に、ポッドキャストという波の中でやることに新しさがあると受け止めます。野村さんの勢いと迫力に圧倒されたと語り、対談は次回へと続きます。
まとめ
Podcast Studio Chronicle代表の野村高文さんが、立ち上げ4年半を経て挑む組織作りの現在地を語りました。企画の手癖という悩みを起点に、関与量を減らし、制作を人に任せられる体制へと移行しようとしています。目指すのは、作家性と価値観を共有した5人の仲間による「理想の組織」です。
- Chronicleは立ち上げ4年半、約20人が関わり全員が業務委託。正社員採用をこれから検討する段階にある
- 自分一人では企画の「手癖」が出るため、制作への関与量を少しずつ減らす挑戦を進めている
- 最初に採りたいのはプロデューサーと出役の2人。ベースは編集者スキル、出役の喋りは場数で育つと考えている
- コンテンツで差がつくのはゲストではなくホスト。合格ラインは「自分が知らないことを語れているか」
- 売上は社長の仕事として残し、制作をみんなでやる設計。まずは作家性を持った5人の仲間を集めることが最優先




