賭けないポーカー店で、モヤモヤしている「再現性」の正体
今回の相談は、長谷川リョーさんが運営するアミューズメントポーカー事業から始まります。ゲームセンターと同じくくりの、賭けないポーカーを提供する店舗です。
当初、長谷川さんはオペレーションの磨き込みやマニュアル化といった、再現性を高める取り組みが重要だと考えていました。ただ、悩みはそこから先にあります。
どこの店に行こうがやることはポーカーなんですよね。
接客のよさや清潔さといった最低限のオペレーションができている前提で、では持続的に売上を伸ばすには、その店ならではの競争優位をどう作るのか。長谷川さんが最近感じているのは、むしろ「非再現性」にヒントがあるのではという仮説です。
その人固有の愛嬌とか、お客さんに愛されるような、言うたらスナックのママみたいなところに、そのお店の成功のサクセスファクターがあるんじゃないか。
ただ、店長やディーラー個人の愛嬌に依存する成功は、スケールとは結びつきません。その人の非再現性を、どうやってスケールに結びつけるのか。ここが今回のモヤモヤの中心です。
どこまで大きくしたいか。ゴール設定が答えを変える
高宮さんはまず、この問いの答えが「どれぐらいの高みを目指すか」に大きく依存すると指摘します。
高宮さんによれば、目指すゴールによって属人性の扱いは正反対になります。1店舗だけでいいのなら、名店長の人間性に依拠した店は真似されにくく、強いモートになりやすい。
その店長がいる一店舗めっちゃ流行りますみたいなのは作りやすいし、その店長の人間性みたいなところに属人があるから、めちゃくちゃ真似しにくい。
一方で、全国5万店舗のような大きなスケールを目指すなら、属人性頼みでは目標に届きません。ここで再現性が不可欠になる、という整理です。
店長の人間性に依拠した属人性は、真似されにくく強いモートになる。それでゴール達成
属人性は再現できず頭打ちになる。スケールには再現性のある構造が必要
モートとは何か。「長期間守り切れる強み」の条件
高宮さんは、そもそもモート(競争優位)とは何かを整理し直します。単なる強みとの違いは「比較的長期間にわたって守り切れる」点にあると言います。
ただし、永遠に守り切れる強みは現実にはほとんど存在しません。3年逃げ切れるのか、1年か、半年かという程度の違いであり、なるべく長く持続させることが望ましい、という前提が置かれます。
そのうえで高宮さんは、モートは属人性ではなく構造に依拠すべきだと話します。属人性は「長期間守り切れる」条件は満たすものの、スケーラビリティを実現できないからです。
例として挙げられたのが、ある業界で高いシェアを握るメーカーです。福祉業界の事業所を7割寡占していれば、どの事業所にも営業ルートがあり、その構造をレバレッジして福祉グッズ以外のITサービスなども展開しやすくなります。
そしてシェア7割はそう簡単には崩れないため、長期で守り切れる。高宮さんは、こうした無限に勝ち続けられる「アンフェアな構造」をどう作るかこそが戦略のゴールの一つだと語ります。
属人性を「再現性」につなげる、経営者の知恵の絞りどころ
属人性に依拠するのは簡単でも、スケールとは合いません。そこで高宮さんは、属人性をきっかけとして使い、そこから構造へ発展させる流れを提案します。
最初の一転がしとして、営業力の高い一人が1000店舗を開拓するのはあってよい。問題はその次です。なぜその人がうまくいくのかを解析し、構造化してチームに移植する段階に進みます。
ただ、マニュアル化できる定型業務は簡単でも、客との阿吽の呼吸や飲み会での立ち居振る舞いは定型化できません。ここに属人性を再現性へつなぐ工夫が要ります。
一人のスーパー営業マンの人に三人つけて、みんなその人のシャドーイングして学ぶみたいなのが、ちょっとでもその属人性を再現性につなげる構造的な仕掛け。
スーパー営業マンが100だとして、80の人材を量産できる組織能力そのものが、構造的な強みになる。高宮さんは、属人性一点張りで思考停止せず、それを発展させる形をどう作るかが経営者の知恵の絞りどころだとまとめます。
最初の一転がし
営業力の高い個人が市場を開拓する。属人性をきっかけとして活用する
解析・構造化
なぜその人がうまくいくのかを解析し、再現できる形に構造化する
チームへ移植
定型化できる部分はマニュアル化。できない部分はシャドーイングなどで伝える
組織能力になる
80点の人材を量産できる仕組みそのものが構造的なモートになる
小さな強みの掛け算か、構造的なアンフェアネスか
長谷川さんは、飲食やアミューズメントは初期投資が少なく参入しやすいがゆえに、一つの飛び道具でモートを作るのは難しいと感じています。むしろ細かい要素の積み上げのパッケージではないかという見立てです。
串カツ田中でチンチロに当たると安くハイボールが飲める仕組みを例に、店員が同じ目線で楽しんでくれることもオペレーションであり、そうした「人が来る理由」の総体こそがオペレーションの再現性ではないか、と長谷川さんは話します。
これを受けて高宮さんは、後半ではなく前半の論点を拾い直します。長期的に一発で守り切れるモートはそうそうないという前置きに対する答えが、まさに「小さな強みの掛け算」だと言います。
一個一個だと半年しか守りきれないのが、五つ重なると二年守り切れますみたいな話につながる。
一方で、構造的なアンフェアネスを作る道もあります。ネットワーク効果や、データが集まるほど賢くなるデータAIの循環など、ネットの世界で語られてきた構造的なモートです。
高宮さんは、一発でモートになるものを複数持てるのが理想だとしつつ、次善策として小さな強みをコツコツ積み上げる戦い方を挙げます。
オペレーショナルエクセレンスの弱点と、AI時代の落とし穴
ただし、小さな強みの積み重ねはオペレーショナルエクセレンスの話でもあり、再現性が高いがゆえに真似されやすいという弱点があります。高宮さんはトヨタの改善活動を例に出します。
個々の改善作業自体は、ラインが10秒早まる程度の小さなもので、それ単体では強みにすらならない。しかし、部署横断で改善を続ける組織文化・組織能力そのものが、構造としての強みになる、という指摘です。
そのうえで高宮さんは、比較優位を一つずつ作ることは大事だが、比較優位を作っていく活動そのものを、一段抽象的なレベルで自分たちの強みにすることが重要だと話します。
この話は、AIの議論とも重なると高宮さんは言います。AIは目の前の作業からワークフロー、ビジネスプロセスへと、飲み込む範囲の抽象度をどんどん上げていきます。
AIに飲み込まれていくこと自体は割とコモディティ化して強みにならない。逆に強みを無効化されていっちゃう。
だからこそAI時代には、オペレーションレベルでの競争優位は作りにくくなる。最初の一転がしで、いかに早く構造を構築して逃げ切るかが決定的に重要になる、という見立てです。
ポーカー店を「ソシャゲのプラットフォーム」として設計する
長谷川さんは、店舗アプリでポイントを競ったりコミュニティを作れたりする仕組みも、今はクラウドで一瞬で作れてしまうため差別化にならないと語ります。リアル店舗で大きな構造的モートは作れるのか、と問いを重ねます。
これを聞いた高宮さんは、その構造がSNSやソシャゲのプラットフォームと同じだとひらめきます。ユーザーのプレイ履歴と獲得チップを、サンクコストとして「人質」に取る発想です。
そのデータによってランキングとか、無料コインと有料コインを使い分けて、本当にハマったら有料コインを買ってもらう。
ただし換金性を持たせる案は法的に難しいと長谷川さんが応じます。それでも高宮さんは、お金に換えなくても「チップを5倍以上持っている人はドリンクが1杯もらえる」といった工夫の余地はあると探ります。
さらに高宮さんは、レベルに応じて行ける店舗を制限する設計を提案します。入門者の店で勝てば中級者の店へ、そこで修行を積めば上級者の店へ。行ける場所を絞ることで、選ばれた感やラグジュアリー感が生まれます。
リアルで集めた行動履歴を、ソシャゲでやってたようなスタッツの分析を通じて、何をどうするとリピート率が高まる、課金率が上がるとかを徹底的にデータ分析すればいい。
インターネットサービスのようにリアル店舗を運営するケイパビリティまで到達すれば、それは競争優位になる。さらに友達を誘って来店する流れが生まれれば、ネットワーク効果も働きます。長谷川さんも、コミュニティを作れると強いと同意します。
会員制焼肉店に学ぶ、掛け算でできた構造的な強み
高宮さんは、リアル店舗でソシャゲ的な設計をうまく実装している例として、会員制焼肉店の新進気鋭グループを挙げます。コロナ禍に完全予約制・完全個室にしたところ流行り出したといいます。
この店は、来店回数に応じてステータスが上がり、行けるお店のランクが変わる仕組みを持ちます。映えるお肉の写真をインスタに投稿させる一方、店の場所は非公開で会員しか行けない、という設計です。
めちゃ映えるお肉の部位の写真をインスタにあげさせるんですよ。でもお店の場所は非公開で、会員じゃないと行けませんとかってする。
ビジネスモデル面でも工夫があります。完全予約制で、直前キャンセルすると貯めたステータスのポイントが減るため予約が守られ、稼働率が高い。個室の雰囲気を保ちつつ食材以外のコストを抑え、値段に対するコスパを高めています。
来店でステータス蓄積
行った回数に応じてランクが上がり、上位店に行けるようになる
SNSで拡散・限定感
映える写真を投稿させつつ、場所は非公開で会員限定にする
予約遵守で高稼働
キャンセルするとポイントが減る仕組みで予約が守られ、稼働率が上がる
仕入れで原価優位
全店舗肉系に絞り、共同購買・大量仕入れで原材料の質と効率を両立する
長谷川さんは、全店舗を肉系に絞った共同購買・大量仕入れの部分に注目します。これに対し高宮さんは、そこは構造的な強みになると明言します。
値段に対してめっちゃ美味しいお肉が食べられるみたいな構造に持ち込んである。
高宮さんは、この店を面白がって仕組みを店長に根掘り葉掘り聞き、ハックして上のステータスを目指したと明かします。ルールができるとその中で遊びたくなる、その心理をつかめれば勝ちだ、という話です。
立地はモートになるか。西中島の「地の利」をどう使うか
最後に長谷川さんが具体的な相談を持ち込みます。店舗のある大阪・西中島は、昼は大企業が集まるビジネス街です。個人客をToCで集めるのではなく、卓ごと貸し切る二次会向けパッケージをToB的に売ってはどうか、という案です。
西中島というエリアを利用した、一旦のモートになり得るかな。
高宮さんの答えは明快でした。それはモートではなく、小さな強みだと言います。ビジネス街への出店は簡単で、半年も守り切れないからです。
モートではないです。小さな強みです。ビジネス街に店舗出店して、割と簡単。それで半年守りきれない。
では地の利を構造的な強みに変えるにはどうするか。高宮さんは、福利厚生サービスと独占契約を結んでメニューに組み込む、あるいはデベロッパーと組んで商業ビルのフォーマット開発まで踏み込む、といった案を挙げます。
ただし高宮さんは、単に組んで出店するだけではモートにならないと釘を刺します。より良い条件を出す相手に乗り換えられてしまうからです。業務提携を契約に落とし込み、そこから抜けると相手が困る状態まで作って初めて構造になります。
そして改めて、半年で追いつかれるものに投資しても自社の競争優位にはならない、掛け算する小さな要素としては良くても本命ではない、と整理します。
資本にはどう戦うか。リクルートの「冬将軍戦略」
話は、資本を持つ相手にどう戦うかへ広がります。高宮さんは、資本を武器にする相手には資本で徹底的にクラッシュしに行く例として、リクルートがグルーポンのクローンサービスに取った戦略を挙げます。
リクルートがグルーポンクローンが出てきた時の、全員ぶっ殺したみたいな。冬将軍戦略みたいな。
値段を下げて広告を打ちまくり、他社が損失に耐えられない状況に持ち込む。耐えられる者だけが残る戦い方です。ただ、高宮さんはリクルートにはもっと深い構造的な理由があったと見ています。
リクルートの本当の強みは、ゼクシィなどの他事業で築いた全国の営業網でした。グルーポン的なサービスがその営業網を無効化すると、屋台骨が崩れかねません。
他事業で作った営業網をポンパレ事業的なもので無効化されちゃう方が、屋台骨が崩れちゃうからやばい。だったら自爆してもいいから。
つまりポンパレ事業そのものは終わってもよく、営業網という本命のモートを守るために、業界に対して自爆テロを仕掛けたとも読める、という見方です。高宮さんは、そこまで意図していたかはわからないと断りつつ、あり得ると語ります。長谷川さんも説得力を感じたと応じました。
まとめ
名店長の愛嬌のような属人性は、1店舗を強くはしてもスケールとは結びつきません。属人性を解析して構造へ移植し、小さな強みを掛け算し、最初の一転がしで早く構造を築いて逃げ切る。ポーカー店の悩みから、モートの本質が具体例とともに語られた回でした。
- モートとは「長期間守り切れる」強み。属人性ではなく構造に依拠させる必要がある
- 目指すゴールの大きさで属人性の扱いは変わる。スケールを狙うなら再現性が不可欠
- 属人性はきっかけとして使い、解析・構造化してチームに移植する組織能力にする
- 一発のモートが難しければ、半年しか守れない小さな強みを掛け算して守れる期間を伸ばす
- 立地や提携は単体では小さな強み。契約で縛り、抜けると相手が困る状態まで作って初めて構造になる





