ミドルマネージャー育成が「難しすぎる」のはなぜか
この回で取り上げられたのは、宇尾野さんが「ミドルマネージャーの育成、難しすぎる問題」と名づけたテーマです。経営者が自分の領域を誰かに託せるかどうかは、マネージャーがどう立ち上がるかにかかっていると宇尾野さんは話します。
これはもうまず経営者にとっては最初に当たる壁なんじゃないかなと思ってるんですよね。
一方で、世の中では「マネージャーは罰ゲームだ」と言われたり、そもそもやってプラスがあるのかと考えて、就任自体を辞退・拒否する人も増えているという数字が出ていると宇尾野さんは指摘します。
Mentor Forでは女性リーダー育成の文脈で入ることが多く、数年前までは「女性が管理職になりたがらない」という語りが中心でした。ところが最近は状況が変わってきていると池原さんは言います。
最近では、いやいや男性もだよとか、若手はもうみんな管理職やりたくないんだよっていうようなケースがすごく増えてきていて。
さらに構造的な問題もあります。ミドルマネジメントの適齢期にあたる30代・40代が、特に大手や地方の企業ではそもそも社内に少なかったり、いてもサポートの機会が少なかったりするため、社会全体としても取り組みを支えきれていないと宇尾野さんは話します。
マネージャーはそもそも必要か、いつ生むのか
マネージャーをいつ、どう生み出すかというタイミングの難しさも話題になりました。池原さんは、創業期の組織構造から説明します。
(創業期は)創業者プラスメンバーっていうような、意思決定する人が一人、あと手足を動かすメンバーたちがいるっていう構造になりがち。
そこから、どのタイミングでメンバーをミドルに上げるのか、外から引っ張ってくるのか、階層をつくるのか。この判断がとても難しいと池原さんは言います。
宇尾野さんによると、マネジメントを誰かに委任したくなる規模はおよそ30人前後で、そこから300人、1000人と増えるにつれて階層が3つ4つと多層化していくのが一般的な流れだといいます。
最近増えている相談として、宇尾野さんは「マネージャーがいないからチームを分けられない」ケースを挙げます。マーケティングのように一つの機能が複雑化して細分化したくても、担い手がいないという状況です。
結局部長が課長を3つぐらい兼ねるみたいなシーンも増えてきたり。機能的には分かれてるんですけど、実態としてはほぼ同じチームみたいな構図になっていく。
そもそもマネジメントが必要かどうかは一概に言えず、業種や業態が最も影響すると池原さんは整理します。宇尾野さんは、マネジメントを誰かに委任するのか、それとも各自がセルフマネジメントできるようにするのか、という選択の問題でもあると補足します。
宇尾野さんは、マネジメントの役割を「結節点」というキーワードで説明します。
結節点に単純に点としてつながるだけじゃなくて、隣のサポートをしたりとか、流れを良くしたりするっていう動きがマネジメントには非常に求められる。
なぜマネージャーになりたがらないのか
多くの組織では、社長が決めた方針を現場で具現化し、まとめて意思決定していく人が不可欠です。それでもマネージャーをやりたがらない人が増えている理由を、池原さんは宇尾野さんに問いかけます。
やりたくない、それだったらプレーヤーや専門職に行きたいという人が本当に増えている。なんでだろうと思うのですが、どうですか。
池原真佐子 さんからの質問
宇尾野さんは、プレイングマネージャーが当たり前になったことを一因に挙げます。プレイングもマネジメントも両方期待されるうえ、働き方の多様化やビジネスの複雑化でマネジメント自体が難しくなり、一つひとつの負担が重くなっている。だから自分の専門性や得意を生かす方向に人が寄っていくのではないか、という見立てです。
若手が「なりたくない」と言う理由として、池原さんは「大変そう」「いつも残業している」といった印象の強さを挙げます。ところが、データ上は役職が上がるほど満足度が増えているといいます。
実はすごいやりがいあって、なって良かったなって思ってるけど、大変そうに見せないといけない、なんかプレッシャーがあるのか知らない。
宇尾野さんは、頑張りをリスペクトしてほしいという思いが、周りには「大変そう」と映り、逆効果になっている可能性を指摘します。やりがいはあるのに、大変さばかりが伝わってしまうという構図です。
覚悟とインセンティブ、変わり始めた制度設計
マネージャー育成の研修依頼にも変化が出ていると池原さんは話します。少し前までは「なってほしい」という動機付けが中心でしたが、最近は別のメッセージが加わってきたといいます。
甘いもんじゃないよと。ちゃんと覚悟を持ってなる意欲を持ってくださいねっていうメッセージがだんだん入り始めた。
宇尾野さんは、なった人がちゃんと報われるインセンティブ制度の重要性を語ります。従来はプロフェッショナルラインの報酬を高くする議論が当たり前でしたが、最近はマネジメント側の比重を高める議論も同時に起きているといいます。
専門性を極める道。少し前まではこちらの報酬を高く設定する議論が当たり前だった。
チームを率いる道。最近は人を寄せ評価するため、報酬を上げる議論が同時に起きている。
ただし宇尾野さんは、この変化を手放しで評価はしません。報酬を上げる動機は「評価したいから」よりも「そうしないとなり手が取れないから」が先に来ている面があり、マネージャーを正しく評価・サポートできているかという点では、まだ伸びしろのある企業が多いと話します。
名選手、名監督にあらず──つまずきの分かれ目
せっかくなってもらうなら活躍もしてほしい。その一方で「名選手、名監督にあらず」という言葉のように、優秀なプレイヤーがマネジメントで開花する人もいれば、つまずく人もいると池原さんは言います。その分かれ目はどこにあるのか、宇尾野さんに尋ねます。
プレイヤーとして優秀な人が上に行くけれど、マネジメントで開花する人もいれば、つまずく人もいる。この分かれ目はどこにありますか。
池原真佐子 さんからの質問
宇尾野さんは、自分で成果を出すことと、他人にやってもらいチームをつくることは、やっていること自体が違うと答えます。同じ球技でも「野球とサッカーぐらいの違いがある」という観点でその人を見てあげるとよい、という見立てです。
いきなり最上級生から最下級生になるみたいな構図を、マネージャーの皆さんが意識が変容しているシチュエーションで。
だからこそ、経営が「あとよろしく」と完全に委任してしまうと立ち上がらない、と宇尾野さんは指摘します。結果を出してきた領域であっても、マネージャーとしては新任。会社が立ち上がりの育成をサポートできるかどうかが重要だといいます。
池原さんは、この感覚を身近な例えで受け止めます。
地元の小学校でトップだったけど、めちゃくちゃ進学校に行ったら、「あれ、周りちょっと動きが違うぞ」みたいな感じになっちゃう。
この違いを知った上でサポートするか、感覚のズレを見過ごすかは、新任マネージャーにとって大きな機会損失につながると宇尾野さんは話します。急成長で新任が一気に増える局面や、他社から入ってくる人がいる局面では、自社らしい組織マネジメントのあり方を目線合わせする機会をつくってほしいといいます。
他社経験もなく初めてマネージャーになると、業務の延長で「みんなのお世話係」や「ちょっとしたリーダー」の気持ちになりがちで、苦労すると池原さんは言います。支援・寄り添いから推進へのスイッチをどう入れてあげるかが、会社の育成にかかっているという整理です。
注意するとハラスメント?揺れる基準
マネジメントの難易度が上がっている理由として、宇尾野さんは基準のあいまいさを挙げます。心理的安全性が大事だと言われる一方で、どこからがハラスメントになるのかがはっきりせず、メンバーもマネージャーも互いに牽制し合う状態になっているといいます。
宇尾野さんは、ハラスメントかどうかを完全に定義することはできないものの、いくつかのシーンを示して「ここまでなら大丈夫」「ここから先は危ないゾーン」と認識を強めてあげることが大事だと話します。
池原さんは、前日に地方で会った管理職の話を紹介します。
注意するとハラスメントになるんじゃないかと思って何も言えませんっていう人が多かったんですよ。
一方でメンバー側も、上司がミスを指摘しただけで「ハラスメントです」と騒ぎ立てるケースがあり、両方が過剰になって生産性が失われていると池原さんは言います。だからこそ、どこからが本来のハラスメントなのか、その定義が双方にすり合っていないと指導は絶対にできないと感じたそうです。
宇尾野さんは、定義とあわせて教育の機会が必要だと話します。Mentor Forがよく勧めるのは、ハラスメント研修をマネージャー向けだけでなくメンバー向けにも行うことだといいます。
同じものを見てないですし、(研修が)ないと誤った状態で、お互いのマネジメントのシーンが発生しちゃう。
当たり前の基準が人によってばらつく時代だからこそ、その基準をつくり教育すること自体が、組織にとって大事なプロセスになっていると宇尾野さんはまとめます。池原さんはこの視点を新鮮に受け止めました。
人を育てる経験が、人生の満足度につながる
大変さの話が続いたところで、池原さんは最後に「なる魅力」に話を向けます。やってみてよかったことは何か、宇尾野さん自身の感覚を尋ねます。
大変なマネージャーではあるものの、やってみてよかったこと、何が良いのかという観点だと、どう感じますか。
池原真佐子 さんからの質問
宇尾野さんは、自分のメンバーが活躍したり成長したりする話がやがて出てくることを挙げます。手塩にかけて育てた人が手を離れた後に結果を出し始め、「あなたの関わりがあってこうなった」と聞くようになると、やってよかったと思えるのではないか、という体験に基づく答えです。
宇尾野さんは、人事の立場で見てきた若手との再会エピソードを紹介します。20代後半で入社した人と6年ぶりに会ったときの話です。
(その人が)魚野さん聞いてくださいと、私この会社年収2倍になりましたみたいな話をされて。
当時のやりとりが何かにつながっていると感じられると、やってよかったと思える。こうしたエピソードは会社の中にたくさんあるはずで、それを話すだけでもマネージャーになってみようと思うきっかけになると宇尾野さんは話します。
池原さんは、人を育てる経験が中年期以降の幸福感に関わると補足します。
次世代を育てるっていう行為は、実は私たちの中年期以降の幸福感とか人生の満足度に関わる。
宇尾野さんは、人や組織を育てることは再現性があるようで、実際はその人や状況に合わせて適応しなければならない仕事だと言います。だからこそ、クリエイティビティの高い仕事として楽しんでもらえるといいと話します。
さらに池原さんは、キャリアの観点からもマネジメント経験を勧めます。会社の総益に関わるポジションやリーダーシップを発揮するポジションに若いうちについていると、60歳以降のキャリアの選択肢が多くなるというデータがあるといいます。
宇尾野さんも「まずやってみましょう」と応じ、そういう声をかけられるタイミングがあればぜひ掴んでほしいと締めくくりました。話の続きは次回に持ち越しとなります。
まとめ
「罰ゲーム」と言われがちなミドルマネージャーですが、この回では育成の難しさと、人を育てるやりがいの両面が語られました。難しさを直視しつつ、支援と基準づくりで報われる仕事に変えていく視点が示されています。
- マネージャーのなり手が減る背景には、プレイングとマネジメントの二重負担や、大変さばかりが伝わる印象がある
- プレイヤーとマネージャーは「野球とサッカーほど違う」仕事であり、新任の立ち上がりを会社が育成でサポートすることが重要
- ハラスメントや心理的安全性の基準は、マネージャーだけでなくメンバーにも教育してすり合わせる必要がある
- 報酬制度もマネジメント側の比重を高める議論が始まっているが、正しい評価・サポートには伸びしろがある
- 人を育てる経験は中年期以降の幸福感や60歳以降のキャリアの選択肢に関わり、若いうちのマネジメント経験は自分のためにもなる





