宇宙をテーマに持ち寄った3冊は?
「本つまみぐいラジオ」は、幸あれこさん、イケダハヤトさん、しゅうへいさんの3人が、毎週ひとつのテーマで1冊ずつ本を持ち寄る番組です。今回のテーマは「あなたが知らない宇宙の話」です。
イケダハヤトさんが持ってきたのは、物理学者ショーン・キャロルの『量子力学の奥深くに隠されているもの』で、副題は「コペンハーゲン解釈から多世界理論へ」です。イケダハヤトさん自身、久しぶりに難しい本を選んでしまったと話しています。
まあいかにも難しそうな感じですけど、頑張ってこれ(この本)を口頭でしっかりつまみ食いできるのか。
しゅうへいさんは地学の本『地球の中身』を持参しました。みんな宇宙を見上げるけれど足元に何があるかわかっているのか、という問いかけです。
そう、だって地球も宇宙ですからね。
幸あれこさんは『宇宙人と出会う前に読む本』を選びました。宇宙について考えるなら宇宙人は避けて通れない、という理由で、イケダハヤトさんからは「明らかにおもしろそうな本だ」と反応がありました。
耳だけで量子力学をつかむための3つのキーワード
イケダハヤトさんは最初に、本来は絵で説明する内容をポッドキャストで伝えるため、台本を用意してきたと前置きしました。目標は、量子力学の基本から多世界理論までたどり着くことです。
量子力学は、グラムやキログラムでは測れないほど小さな、光の粒のような量子を対象にする学問です。イケダハヤトさんによれば、このミクロの世界では常識が一切通用しません。
一方で、量子力学は遠い話ではありません。イケダハヤトさんは量子コンピュータ ── 量子の重ね合わせなどの性質を使って計算する計算機。特定の問題では従来のコンピュータより圧倒的に速く計算できると期待されていますを例に挙げ、実用化が進めばパスワードが破られるという話まで出るほど身近な技術だと説明します。
イケダハヤトさんが示したキーワードは3つです。この3つは、話の順序そのものでもあります。
二重スリット実験
一粒ずつ飛ばした電子が波の模様をつくる不思議
シュレディンガーの猫
重ね合わせを大きなものに当てはめた思考実験
多世界理論
観測のたびに世界が分岐するという、本の主題
ペイントボールと光で、二重スリット実験の前提を想像する
二重スリット実験の説明は、幸あれこさんに想像してもらう形で進みました。口からペイントボールがポンポン出てきて、その先に壁がある、という少しエキセントリックな設定です。
間に1本のスリットを置いてペイントボールを出すと、奥の壁には1本の線ができます。スリットを2本にすれば、幸あれこさんの答えどおり「パスタ2本分ぐらい」の2本の線ができます。
次に、口から出すものを光に変えます。スリットが1本なら光もスリットの形に照らされますが、2本にすると2本の線にはなりません。
これはね、光っていうのは波の性質を持ってるんで、スリットを通り抜けた光同士が干渉しちゃうんですよね。
光は2つのスリットを抜けたあと互いに干渉し、強い部分と弱い部分が交互に並ぶ縞模様をつくります。イケダハヤトさんは、水の波紋同士がぶつかり合う様子にたとえました。
スリットと同じ形の2本の線ができる
通り抜けた光同士が干渉し、縞模様ができる
ここで押さえるべきなのは、スリットを通るのが粒か波かで、壁にできる模様が変わるという点です。ここから量子力学の話が始まります。
電子は一粒ずつなのに、なぜ波の模様ができるのか?
今度は、口から電子の粒を1粒ずつ二重スリットに向けて飛ばします。幸あれこさんは「粘着質」「跳ね返る」など独特の想像を重ね、スタジオは笑いに包まれました。
普通に考えれば、電子もペイントボールと同じく2本の線をつくるはずです。ところが実際には、1粒ずつ出しているのに波の模様ができます。
え?でも一個しかないのに何と干渉するの?っていうのが、これ実験をすると本当にそうなんですよ。
イケダハヤトさんの説明では、電子は右を通る状態と左を通る状態を同時に持っていて、その自分自身の可能性と干渉し合います。これが量子の重ね合わせ ── 量子が複数の状態を同時にとっている状態のこと。観測すると、そのうちどれか1つに確定するとされますと呼ばれる状態で、最終的にどこに着地するかは確率で決まります。
この現象は何十年も前から研究され、今やっても同じ結果になるといいます。量子コンピュータも、0か1ではなく0と1が重なった状態の量子ビット ── 量子コンピュータの情報の単位。0と1を重ね合わせた状態を保てる点が、通常のビットとの違いですを使って計算しています。
観測した瞬間に波が消える?アインシュタインの反発
二重スリット実験にはさらに不思議な続きがあります。電子が右と左のどちらを通ったかをチェックする機械を置くと、波の模様ができなくなるのです。
観測すると波じゃなくなる。不思議じゃない?
幸あれこさんとしゅうへいさんは、電子が「見られている」と気づいているのでは、と反応しました。幸あれこさんは、電子に承認欲求があるのかもしれないとまで話しています。
すごい承認欲求がある。「今見られてる」みたいな。
イケダハヤトさんは、そう捉えたくなるほど不思議な現象だと認めたうえで、観測すると右か左かが確定し、観測しないときは確率でしか決まらないと整理しました。
この考え方に反発したのがアインシュタインです。どこに電子が着地するかを神がサイコロで決めるようなことはなく、必ず決まったルールがあるはずだ、という意味で残された言葉が有名です。
ただしイケダハヤトさんは、アインシュタインが否定的だったにもかかわらず、量子力学の不思議な性質は実際に正しいと強調します。重ね合わせを保って計算し、最後に確定させる量子コンピュータが、技術として成り立っているからです。
聞いて全然すっきりしない話だね。
シュレディンガーの猫は、生きていて死んでいる?
次に登場するのがシュレディンガー ── オーストリア出身の物理学者で、量子力学の基礎を築いた一人。波動方程式で知られ、ノーベル物理学賞を受賞していますです。量子力学の研究者でありながら、重ね合わせの考え方をそのまま広げるとおかしなことになると指摘した人物として紹介されました。
その思考実験では、猫を毒ガス装置の入った箱に閉じ込め、毒ガスのスイッチを量子で決まる仕組みにします。量子の状態が重なっているなら、スイッチのオンとオフも重なっていることになります。
そうなると、蓋を開けて観測するまで、箱の中の猫は生きている状態と死んでいる状態が重なり合っていることになってしまいます。シュレディンガーは「それって変じゃないか」という反論としてこの例を出した、とイケダハヤトさんは説明しました。
量子のスイッチ
毒ガスのオンとオフが重なり合っている
箱の中の猫
生きている状態と死んでいる状態が重なっているはず
蓋を開けて観測
その瞬間にどちらかに確定する
私、シュレディンガーと友達になれないかも。
闘病中の飼い猫と、重ね合わせはどこまで起こるのか
しゅうへいさんは、リンパ腫で闘病中の自分の飼い猫の話をしました。夜中に咳き込んでいた日の朝は、台所で寝ている猫を確かめに行くまでの10歩ほどの間、生きていてくれと願っているといいます。
確かにそれ(猫)は生きてたっていうことがたまたまそっちに今まで来ただけで、もしかしたらそっちの可能性もあって。
イケダハヤトさんは、まさにシュレディンガーの猫そのものだと応じつつ、現実には猫ほど大きな物体は重ね合わせを保てず、状態は常に確定してしまうと説明しました。
どこまで小さければ量子的に振る舞うのかは、いま検証が進んでいる分野です。イケダハヤトさんによれば、ナトリウム原子を7000個ほど集めたものは量子的な振る舞いをし、小さいウイルスでも重ね合わせが起こるらしいといいます。
幸あれこさんは、薄い折り紙は折りやすく画用紙は折りにくいのと同じかもしれない、とたとえました。しゅうへいさんは「ぶっ込みがすごくて」と笑いつつ、サイズで折り方が変わるという点に納得していました。
観測とは何か?波が粒になる瞬間はわかっていない
イケダハヤトさんは、ここからさらに難しくなると前置きします。波だったものが観測された瞬間に粒になるとしても、そもそも観測とは何なのか、人間が見る必要があるのか、虫ならどうなのかがわかっていません。
波が粒に切り替わる瞬間に物理的に何が起きているのかは、今もまったくわかっていないといいます。
見るっていうさ、もうこの欲望がエネルギーになって行ってんじゃない?それしかもうなくないですか?
イケダハヤトさんは、人間の意識が関わっているのではという考えは多くの人が思いつく典型的なものだと応じました。本の中では、量子力学と意識のつながりは考える価値のある仮説だが、現在の知識では有力な証拠はないとされていると紹介しています。
この現象は波動関数の収縮 ── 観測によって、広がった波のような状態が一瞬で1点に定まるという考え方。なぜ起きるのかは説明されていませんと呼ばれます。計算式の上では扱えていても、なぜ一瞬で点になるのかという原理は説明できていません。
コペンハーゲン解釈と多世界解釈は何が違うのか?
イケダハヤトさんによると、観測で波が収縮して点になる、という今一般的な考え方がコペンハーゲン解釈 ── 量子力学の標準的な解釈とされる考え方。観測によって状態が確定するとみなし、その仕組み自体は深く問いませんです。
これに対して物理学者のエヴェレットは、収縮は起こっておらず、そのたびに世界が分岐していると考えました。これが多世界理論、または多世界解釈です。
電子が右を通ったと観測したとき、同時に左を通った世界も生まれている、というのが多世界解釈の見方です。幸あれこさんの「パラレルワールド」という言葉に、イケダハヤトさんはそのとおりだと答えています。
観測によって波が収縮し、1点に確定する
収縮は起こらず、観測のたびに世界が分岐する
著者のショーン・キャロルは多世界理論の支持者です。直感にはまったく従わないものの、考えを進めると最もシンプルに世界を説明できる、という点が支持の理由として語られました。
そう考えると美しいんですね。なんかこう、そう考えるのが一番シンプルっていうね。
手を動かすたびに分岐する世界に、場所は足りるのか?
多世界解釈では、世界は常に波のように動き、あらゆる瞬間に分岐しています。イケダハヤトさんは、手を動かした瞬間も、息を吸った瞬間も、寝ている間も、世界はパラレルワールドを生み続けていると説明しました。
幸あれこさんは、それだけの世界が成り立つには相当な面積が必要だと指摘しました。イケダハヤトさんによれば、量子力学上の概念であるヒルベルト空間 ── 量子の状態を数学的に表すための抽象的な空間。無限の次元をとれるため、膨大な状態を扱えますでは、その「面積」が足りるといいます。
ただし、分岐した別の世界とは交わることができません。私たちは自分のいる分岐しか選べない、というのが多世界解釈の仕組みです。
誰がそんなの作ったんやろね。で、もうほんと神ってなるよね。もうそれ(世界の仕組み)やったらね。
幸あれこさんは、すごく大きな誰かがピタゴラスイッチのように遊んでいるのかもしれないと想像し、タイトルどおり奥深いと感想をもらしました。
本を読むほど量子力学はわからなくなる?
イケダハヤトさんは、ここまでの流れを改めてまとめました。粒が自分自身と干渉して波になり、見ると「だるまさんが転んだ」のように固まって確定し、それを猫に当てはめたのがシュレディンガーで、多世界解釈では蓋を開けた瞬間に世界が分かれます。
あなたの世界では猫は死んだ。でも私の世界では猫は生きてるっていう風にバッと分かれていって。
本そのものについては、難しい部分が続くなかで、第7章だけ突然、物理に詳しい父親と多世界理論支持者の娘の問答形式になるといいます。空間が足りないのではといった疑問をそこで解いてくれるものの、その後はまた難しくなるそうです。
いま研究で確かめられる可能性があるのは、波が1点に収縮するプロセスを物理的に捉えることです。イケダハヤトさんによれば、収縮の瞬間をスローモーションのように見られれば、多世界ではないことがかなりわかってくるといいます。
観測すれば確定してしまうため、いわば「半目で見る」ような研究が実際にあるそうです。幸あれこさんの「見て見ぬふりすればいいのか」という言葉に、イケダハヤトさんはまさにそういう研究だと答えています。
イケダハヤトさんは、この本を読むと量子力学がよりわからなくなると笑い、ファインマン ── アメリカの物理学者で、ノーベル物理学賞受賞者。量子電磁力学への貢献や、わかりやすい講義で知られていますの言葉を引用しました。
別の世界には、借金していないしゅうへいさんがいる?
文系の幸あれこさんは、知りたくない分野だと思っていたのに、聞いてみるとわからないからもっと知りたくなるロマンを感じたと話し、研究者への感謝を口にしました。
話は、分岐した別の世界の自分たちへと広がります。幸あれこさんは借金していないしゅうへいさんがいるかもしれないと言い、しゅうへいさんは朝起きられる自分がいるのかと返しました。
でもその思いを馳せたらまた分岐していくんでしょ。
イケダハヤトさんは、3人が出会っていない世界も、人間が生まれていない世界も、地球がない世界も分岐としてありうると話しました。ただし干渉はできず、思いを馳せることしかできません。
最後に、Substackのコミュニティが無料で参加できることと、ハッシュタグ「#本つま」での感想募集が告知されました。次回はしゅうへいさんが、足元に何があるのか、地震はなぜ起こるのかという地球の話をする予定です。
まとめ
この回は、二重スリット実験とシュレディンガーの猫を手がかりに、量子力学が直感では理解できない理由をたどり、観測のたびに世界が分岐するという多世界解釈までを紹介しています。理解できないこと自体が量子力学の面白さであり、そこに研究のロマンがあると語られました。
- 電子は1粒ずつ飛ばしても二重スリットで波の模様をつくり、観測すると波の模様が消える
- シュレディンガーの猫は、重ね合わせを大きな物体に当てはめるとおかしくなるという反論として生まれた
- 観測で波が粒になる瞬間の仕組みは今もわかっておらず、意識が関わるという説にも有力な証拠はない
- ショーン・キャロルは、観測のたびに世界が分岐する多世界解釈を最もシンプルな説明として支持している
- 収縮の瞬間を捉える研究が進めば、多世界解釈が正しいかどうかに迫れる可能性がある




