神社が倒産するということ
一般的なイメージだと、お寺や神社は税制の優遇もあるし、潰れるものじゃないと思っている方も多いですよね。
でも宗教法人も、多大な負債を抱えてそれが返せなくなれば、会社と同じように倒産や民事再生の手続きに入るんです。
今回舞台になったのは、兵庫県川西市にある『多田神社』です。平安時代、西暦970年の創建とされ、清和源氏発祥の地として知られる、めちゃくちゃ由緒正しい神社です。
この神社が今年の8月に民事再生を申し立て、9月に裁判所から手続きを進める決定を受けました。
民事再生というのは、潰すんじゃなくて立て直していくための手続きですね。宮司さんも活動を続けると話していますし、担当の弁護士さんも再生していくという話をしています。
一人の代表者が、神社の名前で借りたお金
ここに至る経緯を簡単に話します。裁判の判決などによると、2024年に亡くなった前の宮司が、実体のない事業計画を持ちかけて、神社の名前でお金を借りたそうなんです。
グランピング施設のようなものを神社の中でやる、といった話だったようです。
この時に担保にしたのは、神社に代々伝わる名刀や、駐車場などの不動産だそうです。借りたお金は3社合わせて、今わかっているところで2億1000万円ぐらい。
ところがそのお金は、なぜか宮司の個人口座などに入って、すぐに外に送られてしまい、宗教法人の会計には入っていなかったんですね。
神社側は「神社のために使われたお金ではない」と裁判で争いました。でも結果としては、貸した側に落ち度はないとして負けています。
そういう中で境内の土地は差し押さえられ、競売の手続きまで始まってしまいました。負債全体がいくらぐらいなのかは、まだ全容がわかっていません。
ちなみに債権者は普通の金融機関ではなくて、不動産事業者のような一般の事業者なんです。普通、宗教法人がお金を借りるような相手ではないんですね。
止める仕組みはあったのに、止められなかった
宗教法人法では、不動産を担保にしたり融資を受けたりする場合に、宗教法人法第23条 ── 不動産や宝物を処分・担保にするなど重要な行為をする際に、規則に定めた手続きと、少なくとも1か月前の利害関係人への公告を求める規定で手続きが決まっています。
23条1号には、不動産や財産目録に載っている宝物を処分すること、または担保に入れることが挙げられていて、これには責任役員会の議決が必要なんですよね。
さらに『多田神社』の場合は神社本庁、うちの方広寺の場合は日蓮宗という、包括法人 ── 神社本庁や日蓮宗のように、個々の寺社を傘下に置く上位の宗教法人の関係があります。
この包括・被包括の関係がある場合は、包括法人に申請して許可を得ないと、不動産を担保に融資を受けるようなことはできないんです。
ところが今回は、その手続きをすっ飛ばして、まっとうな金融機関ではないところから融資を受けたわけです。
だから神社側は「無効なんじゃないか」と裁判を起こしました。宗教法人としての手続きは無効だけれど、お金を貸した側の善意の第三者は保護されると。結局、貸したことはなかったことにはならなかったんです。
ルールのうえでは、責任役員会の議決があって、実行の1か月前に信者や利害関係者に公告する。一人で勝手には決められないようになっています。
それでも手続きを飛ばして担保に入れた場合、本来は無効なのに、事情を知らずに取引した相手には「無効だから返しません」とは言えない。
止める仕組みはあっても、代表者が全部すっ飛ばしてやってしまえば、外からは止められないんですね。
こういう風にハックされてやり逃げされてしまうと、もう止められない。ハックってだから嫌いなんですよね。
他人事じゃない、自分の寺の話
実は僕も一度、宗教法人で借金をしてみたいと思ったことがあるんです。
そんなに大きな金額じゃなくて、直したいところがあって400万ぐらい借りようと、地元の地銀に相談に行きました。
そうしたら、宗教法人に貸すには責任役員会の議決などが必要で、担保がなくてもこれぐらいの金額を借りるとなると手続きが大変ですよ、と言われたんです。
なんでそんな余計なことを銀行が言ってくるのかなと思って調べてみると、うちの寺の与信がないという話じゃなくて、宗教法人法の手続きでそう求められているということだったんですね。
うちのお寺も、仕組みとしては『多田神社』と一緒なんです。お寺は法律上は宗教法人で、住職は大体代表役員をしています。
お寺も神社も多くの場合、日々の運営はトップである代表役員が中心になってやります。人を雇う余裕も必要もない規模のところが多いですからね。
それ自体が悪いことではないんですが、一人でやって誰も見ていない状態になれば、同じようなことはどこでも起こり得るわけです。
だからうちでやっているのは、責任役員会が必要になればきちんと開くこと。それだけじゃなくて、法言寺だと総代世話人が10人、臨済寺だと5人いるので、大きなことは必ず相談して方針を決めるようにしています。
綺麗に整った寺社を見たときに
本殿や拝殿は国の重要文化財に指定されていて、経営体全体が国の史跡にも指定されている。そんな『多田神社』が、たまたま一時の代表者をしていた人の借金で競売にかけられることになってしまった。
これはとても重大なことなのに、宗教法人法でも、神社本庁の包括・被包括の関係でも止められない。ちょっとショッキングな話題ですよね。
借りたお金が住職個人や宮司個人に持ち逃げされて、それでも法人として借りたものは返さなきゃいけない。これはやっぱり大変なことだと思うんです。
この辺りは、法的にちょっと守ってもらえるような措置を検討していただきたいなと思いますね。宗教法人はまた優遇されていると言われるかもしれませんし、騙された宮司が悪いんだ、というところもあるんですけれどもね。
東京のお寺でも、事業をすると言って不動産ブローカーのような相手に騙されて境内地を取られてしまった、という話を聞いたことがあります。ガバナンスは法的に決まっていても、それが効かなかった場合に止められないケースがあるんですね。
せめて僕にできるのは、身の回りの友人や知人のお寺と「こういうことはよくないよね」と確認し合うぐらいのことかなと思います。
皆さんも、いろんなお寺や神社を見たときに、綺麗に整っていたら「ああ、ここも誰かがちゃんと守ってんだな」「ガバナンスが機能してるのかな」と、ふと頭に思い描いていただけたら、今日の話も書いた甲斐があるかなと思っています。
近所の、子供の頃に毎年初詣に行った神社とか、おじいちゃんおばあちゃんのお墓があるお寺とか。大きくても小さくても、そういうところにちょっと興味を持ってもらえたら嬉しいです。
それでは皆さん、良い一日をお過ごしください。ではまた。
まとめ
神社が倒産した今回のニュースは、代表者が一人で手続きをすっ飛ばせば、法律上の歯止めがあっても法人を守れないという現実を突きつけています。仕組みとしては、うちの寺も『多田神社』と同じなんです。
- 平安時代創建の多田神社が、前宮司の借入れで民事再生に至った
- 宗教法人法23条は責任役員会の議決や事前公告を求めるが、手続きを飛ばされると外から止めにくい
- 善意の第三者は保護されるため、持ち逃げされても法人が負債を負う
- 一人で運営する寺社は多く、責任役員会や総代への相談で自分の寺を守るしかない





