YouTubeのドット絵とコメントは誰が作っている?
ハンニバル編の本題に入る前に、樋口さんはコテンラジオのYouTube版の最初と最後に流れるドット絵アニメーションの話を始めます。深井さんもこのドット絵を「めちゃくちゃクオリティ高い」と評価しています。
樋口さんによれば、YouTube版のドット絵ではテーマに合わせた景色の中を3人がファミコンのように歩きます。三蔵法師編なら当時の中国の風景、高杉晋作編なら富士山が見える日本の風景、第一次世界大戦編なら当時の兵器や兵隊が再現されています。
あれ(ドット絵のアニメーション)作ってくれたの、実は僕の大学の同級生なんですよ。
樋口さんが紹介したドット絵の作者は、大学の同級生で20年ほどの付き合いがある庭月野議啓さんです。本人からは「売名したいわけじゃないから名前は言わなくていい」と言われていたものの、樋口さんはずっと言わないままなのは気持ち悪いと感じ、この回で感謝を伝えることにしたといいます。
庭月野さんは映像を仕事にしており、アーティストのGReeeeNのライブ映像や、自主制作の時代劇映画『忍狐の寿南』を手がけています。深井さんもこの映画を知っていて、「めちゃくちゃモテるお坊さんの話」として話題になったことを覚えていました。
樋口さんによると、この映画の音楽は樋口さんの会社が担当し、作品はバンクーバー国際映画祭や釜山国際映画祭、東京フィルメックス、ロッテルダム国際映画祭などに出品されました。樋口さんのバンド「ドブロッカーズ」のPVを撮ったのも庭月野さんだそうです。
番組を支えてきた裏方の人々とは
樋口さんは、YouTube版の最後に3人が喋っているように表示されるコメントにも触れます。このコメントは、ほぼ番組の最初から関わっている政光真吾さんが毎回違う内容で書いていて、政光さんはタイトルコール用のタイトルも考えているそうです。
さらに樋口さんは、初期に作家を務めた南部さんの名前を挙げます。南部さんは吉田松陰編などの初期の回で台本を樋口さんと一緒に作り、「前回からの続き」の場面で流れる音楽も作ったといいます。深井さんによれば、その音楽の声は外国人女性ではなく合成音声です。
マジで400話ぐらいですよ、今。
番組が400話ほどになった今だからこそ感謝を伝えるのがいい、と深井さんは話します。当時は何も起こっていなかったので、言ってもあまり意味がなかったというわけです。
本当にね、関わったね、方がね、もう膨大な人数に上りますからね。本当に我々3人しかね、画面に映ってないですけど。
ハンニバルはなぜ「ローマ最大の悪夢」なのか
今回のテーマは「カルタゴの英雄ハンニバル、ローマ最大の悪夢と呼ばれた男の一生」です。ハンニバルは名前こそよく聞くものの、樋口さんにとっては「誰?」という存在でした。
深井さんによれば、ハンニバルは以前のユリウス・カエサル編でも一瞬名前が出た人物で、映画『ハンニバル・ライジング』などの羊たちの沈黙シリーズとは関係ありません。歴史上のハンニバルは、ローマが一番恐れた男であり、北アフリカの国カルタゴの将軍でした。
戦争の天才ですね。
深井さんは、ハンニバルは歴史上でもトップクラスの名将と言われていると話し、今回初めて細かい戦闘経緯を勉強して「狂ってるぐらいやばい」と感じたそうです。ハンニバルはカエサルより前の時代の人で、カエサル登場以前のローマを「ボッコボコにして、下手したら滅亡まで」追い込んだといいます。
樋口さんが補足するように、ハンニバルは紀元前の人物でありながら、その戦術は今も各国の軍で戦略戦術の古典として研究されています。深井さんは、ナポレオン ── 18〜19世紀フランスの軍人・皇帝。ヨーロッパの大部分を支配下に置き、軍事の天才として知られますが戦略の師として仰いで真似しようとしたことや、第二次世界大戦でもハンニバルの戦略が研究されたことを挙げています。
深井さんは、真偽はわからないとしつつ、イタリアには「玄関にハンニバルが来ている」という、最悪の危機が迫っていることを表すことわざのような表現があるらしいとも紹介しました。
深井さんが強調するのは、ローマそのものが不屈の国だったという点です。ローマはものすごく小さなところから、絶対に諦めない精神で当時の世界最大帝国となり、その後のヨーロッパの基礎を築きました。
先進国カルタゴと若い国ローマの「決勝戦」
カルタゴとローマの関係について、樋口さんは、最初はカルタゴのほうが先進国で強く、ローマは「スタートアップ時期」の若い国だったと整理します。深井さんは、ローマは創建から時間が経っていたものの、共和国としては若かったと補足しています。
深井さんによれば、カルタゴは地中海の覇者で、ローマから地中海を挟んだ南の対岸、北アフリカにありました。地中海をめぐっては主にギリシアも含めて戦いが繰り返され、最後に「決勝戦」のように残ったのがカルタゴとローマでした。
北アフリカにある地中海の覇者。先に強くなっていた先進国
地中海の対岸にある国。創建から時間は経っているが、共和国としてはまだ若い
こうして否応なく戦うしかなくなった二大国の戦争が、ポエニ戦争です。ポエニとはローマから見たカルタゴの呼び名で、ポエニ戦争は第一次から第三次までの3回の大きな戦争に分かれます。
深井さんは、ハンニバル編ではこの3回のポエニ戦争を軸に話を進めると説明します。ポエニ戦争は話として面白いだけでなく、知っているだけで価値がある史実の一つだといいます。
カルタゴ側の歴史はなぜ残っていないのか
ポエニ戦争はおよそ2200年前の戦争です。ローマ側の資料はまあまあ残っている一方で、深井さんによれば、カルタゴ側の資料はもうほとんど残っていません。
そのため、ハンニバルは「ローマ人が語るハンニバル」としてしか登場しません。樋口さんが「敵役としてしか出てこないのか」と言うと、深井さんは、それでもローマ側の記録の中でめっちゃ褒められていると答えます。
ただし深井さんは、ローマ側の記録には必然的に勝者のフィルターがかかっていると注意します。代表的な史料が、ポリュビオス ── 紀元前2世紀のギリシア人歴史家。ローマが地中海世界の覇者となる過程を記述し、古代ローマ史の重要な史料を残しましたの40巻に及ぶ『ヒストリアイ(歴史)』です。
ポリュビオスはギリシア人ですが、人質としてローマにいて覇権国ローマを内側から観察でき、よい待遇を受けてローマに恩のある立場でした。深井さんによれば、ポリュビオスは「全ての出来事はローマに収束していく」という視点で歴史を書いています。
今我々が知りうる、あとは語りうる歴史っていうのは、このフィルター(ローマ側の視点)がやっぱかかってるっていうことを前提に置いて話を聞かれた方がフラットになるかなと思います。
深井さんは、ハンニバル編を聴くうえではローマフィルターがかかっていることを前提にしてほしいと呼びかけています。
ハンニバルが負けた先にあったカルタゴの消滅
カルタゴの記録が残っていない理由について、深井さんはあっさり結末を明かします。ハンニバルは最終的にローマに負け、第三次ポエニ戦争のあとにカルタゴの人々はほぼ全員殺され、国ごと消滅したのです。
うん、まあでもローマに勝てるわけないじゃないですか。ローマに勝ってたらおかしいからね。
深井さんによれば、番組はすでにその後日談として、帝国化してさらに強くなるローマをカエサル編で放送しています。カルタゴの記録が残らなかったのは、パピルスが経年劣化に弱いことに加え、ローマ人によって国が焼け野原にされ、すべての建物が燃やされたためでもあります。
ハンニバルの敗北
カルタゴの将軍ハンニバルがローマに負ける
第三次ポエニ戦争
カルタゴの人々がほぼ全員殺され、国が焦土になる
記録の消失
建物は燃やされ、パピルスの記録も残らない
ローマ側の歴史だけが残る
ハンニバルはローマ人の語りの中にだけ登場する
樋口さんは、戦争の天才ハンニバルがなぜ国として負けたのかも論点になると指摘します。さらに、日本でも小さな集落が消され、悪者として伝説や説話になったような例がありそうだと話しました。
一方で深井さんは、街を完全に焦土にすることは歴史上そう多くないと話します。ローマは基本的に同盟して相手を傘下に組み込む国で、何万人も毎日殺し続けて街を全部壊すのは大きなコストがかかるからです。
深井さんは、ローマがそこまでしたのは、ローマ人にとってカルタゴのライバル感が非常に強かったからであり、その背景にはハンニバルの影響が大きいと考えています。ハンニバルの物語には、この悲哀も含まれているといいます。
ハンニバルが本格的に登場するのは中盤、第二次ポエニ戦争からです。次回は第一次ポエニ戦争の前にさかのぼり、カルタゴとローマが「決勝戦」に至るまでの話が語られる予定です。
まとめ
ハンニバル編の第1回は、ハンニバルという人物とポエニ戦争の全体像、そしてカルタゴの歴史がローマ側の視点でしか残っていないという前提を示す導入回でした。
- ハンニバルはローマを滅亡寸前まで追い込んだカルタゴの将軍で、その戦術は今も研究されている
- ポエニ戦争は、地中海をめぐって「決勝戦」のように残ったカルタゴとローマの3回の戦争
- ハンニバルが登場するのは第二次ポエニ戦争で、ハンニバル戦争とも呼ばれる
- カルタゴは第三次ポエニ戦争後に焦土となり、残る史料はポリュビオスなどローマ側のものが中心
- 深井さんは、ハンニバルが強かったからこそカルタゴが徹底的に滅ぼされたという悲哀があると話している





