即戦力が動かない、という管理職の悩み
この回は、ペットのお迎えという雑談から始まり、そこから会社での「人のお迎え」=採用の話へとつながっていきます。番組のナビゲーターである木下さんが、寄せられた相談を読み上げます。
スタートアップ勤務の営業部管理職です。最近、営業の即戦力として採用した方が思ったように動いてくれません。仕事については言われたことをこなすだけ。「こう動いてほしい」と伝えても、「裁量がないから」「入社したてで情報が足りないから」とかわされます。だんだん自分も諦めの気持ちになってきて、本音を伝えることも減りました。どうしたらスタッフが動いてくれるようになりますか?
河原さんは、上司の側も期待していたのに動いてくれず、本音で喋ることさえ疲れてしまった状態だと読み解きます。
まさにね、その方との関係性の心理的安全性はダダ下がりみたいな状態だと思うんですが、これはなかなか打ち手難しいかなと。
「やりたくない」のサインと、揃っていない前提
金さんはまず、打ち手の前に相談文そのものを読み解きます。部下の「裁量がないから」「情報が足りないから」という反応に注目しました。
(部下の反応は)もうなんかかなりきっぱり「やりたくない」って言ってるような気がしまして。
金さんが気にしたのは、採用前に「こういうことを期待している」という話がきちんと伝えられていたのか、という点です。期待役割のすり合わせが抜けていた可能性を指摘します。
さらに金さんは、スタートアップで採用される時は、採用された直後が一番モチベーションが高いはずだと述べます。その段階で動いてくれないなら、事前の部分に問題があったのではないか、と考えられるからです。
河原さんも、この相談からは前提が揃っている感じがしない、と同意します。ズレはすでに入社前から始まっているという見立てです。
オンボーディングは、即戦力化のためのプログラム
では、どうするか。金さんの答えは、きちんとオンボーディングをすることに尽きます。情報が足りないなら情報を渡せるようにし、裁量がないなら裁量のある側が強制的な仕組みとして作っていく、という考え方です。
金さんは、自社のZENTechでの具体的なやり方を紹介します。まずMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を言語化して伝えるだけでなく、本人がどう理解したかをアウトプットしてもらうといいます。
業務面でも、「何をやればいいか、何に詰まったか」を毎日確認し合う。金さんは、この一連の流れそのものを即戦力化のプログラムだと位置づけます。
金さんは、プロ野球やプロサッカーを例に、どれだけ活躍した人でもスタイルの違う場所ですぐ活躍するのは難しいと話します。だからこそ、その文化やスタイルを身体化してもらう工程を経てから、戦力かどうかを判断するといいます。
鳴り物入りの移籍選手が輝かない理由
河原さんは、金さんのスポーツの例えをさらに広げます。好きなサッカーでも、鳴り物入りで移籍した選手が必ず活躍できるとは限らない、と語ります。
前のチームでは大活躍していたのに、移籍先では動きが悪い。すると監督が使わなくなり、ファンも冷め、1年足らずで不良債権のような扱いになってしまう。河原さんは、こうしたケースがプロスポーツの世界に多いと指摘します。
河原さんによれば、その原因は選手側の力不足だけではありません。全く違う文化や戦術を持つ場所へ移るのだから、その間の順応期間を挟まないと、即戦力とて入った翌日から即戦力になるわけではない、というのです。
情報を「取りに行く」のは、雇われる側の仕事でもある
話は「情報が足りないから」という部下の言葉に戻ります。金さんは、オンボーディングは受け入れる会社側だけでなく、雇われる側も同じくらいのマインドセットで臨まないと難しい、と考えています。
情報が足りないからっていうのは、まあ情報自分でキャッチアップしに行ってないっていう風に映るじゃないですか。
金さんは、会社側が情報にアクセスできる状況を整えた上で、わからないことを聞ける状態にする、というコミュニケーションがあったのかを気にします。両者の歩み寄りが前提だという立場です。
河原さんも、忙しいスタートアップでは全ての情報を綺麗に用意して伝えるのは現実的に難しい、と補足します。だからこそ入る側も、必要な情報を自分から質問し、誰に聞けばいいかを探りながら開拓していく働き方が必要だと話します。
金さんは、これもサッカーに寄せて締めます。移籍する選手本人が活躍したいと思って来なければ何も起きない。その上で、活躍したいのに生じるギャップをオンボーディングで埋めるのだ、と整理しました。
本人の意欲
移籍する選手のように、活躍したいという意思を持って入る
会社側の環境整備
情報にアクセスでき、誰に聞けばいいかがわかる状態を作る
オンボーディングでギャップを埋める
期待と現実のズレを、両者で埋めていく
失敗から学んだ、期待値のすり合わせ
河原さんは、会社員時代の木下さんに、採用した人とチームのギャップにどう対処してきたかを尋ねます。木下さんは、失敗した事例とそれを生かした事例の両方を語ります。
最初の失敗は、会社として初めて即戦力に近い人を採用したケースでした。期待が高く、自分で情報を取りに行くべきという前提が無意識にあった上、その人は違う業界から来ていたため、会社の中の当たり前がわからず動きにくかったといいます。
木下さんが大きな反省点として挙げたのは、「即戦力」の中身のすり合わせ不足でした。明日からこのレベルなのか、1ヶ月後・2ヶ月後にこうなのか、という言語化された合意ができていなかったのです。
即戦力っていうのが、もう明日からこのレベル感でっていうことなのか、1ヶ月後はこうで、2ヶ月の中でこうでみたいなところの言語化したすり合わせができてなかった。
2回目は、その反省を生かしました。1ヶ月後・3ヶ月後に目指す状態を、本人だけでなく周りの関係者とも合意し、「一緒に頑張っていきましょう」という形にしたといいます。
さらに木下さんは、業務情報だけでなく「人」に関する情報も渡すようにしました。「ちょっとぶっきらぼうだけどいい人です」といった特徴をセットで伝えておくと、新しい人が変なところでストレスを感じずに済むというのです。
即戦力の中身を言語化せず、情報も本人任せ。違う業界出身で当たり前がわからず動きにくかった
1ヶ月後・3ヶ月後の目標を周囲とも合意し、人の特徴もセットで伝えて動きやすくした
即戦力という言葉に潜む、双方の思い込み
金さんは、木下さんのアプローチを素敵だと評価した上で、「即戦力」という言葉の期待値調整の大切さを強調します。
さらに金さんは、相談文の読み方にもう一つの角度を加えます。「即戦力として採用した」のは上司の側の認識であって、採用された本人はそう思っていなかった可能性があるというのです。
即戦力として採用した方はそう思ってたかもしれないけど、採用された方はそう思ってなかった可能性もあるなと思っていて。
河原さんも、それぞれが相手に何を期待し、ギャップがどこにあり、それをどう埋めるかを合意していく、という当たり前を挙げます。言葉にすると当たり前でも、それを実際にやるのが難しいのだ、と話します。
金さんは、大企業とスタートアップの違いにも触れます。人事部門が採用する大企業ならそもそも期待がそこまで高くない状態で始まる。一方スタートアップでは、忙しい中で「助けになる人が来てくれる」という印象が強く、ギャップが大きくなりやすいと見ています。
大企業の人事異動なら、年間スケジュールで期待を伝える
河原さんは派生の問いを投げます。大企業の人事異動で、自ら志願したのではなく受け身で来た人が思ったように動かない場合、どうアプローチするか。
金さんは、スタートアップと大企業の最大の違いをスピード感だと整理します。スタートアップは型そのものを作る段階ですが、大企業は年間のどこが忙しく、どこで戦力が欲しいかが大体決まっているといいます。
だからこそ、大まかな年間スケジュールや繁忙期のイメージまで含めて、なぜこの時期までに戦力になってほしいのかを伝えるといい、というのが金さんの提案です。基本は同じく期待の調整ですが、その根拠を時間軸で示せるのが大企業の強みです。
なんでこの辺までに戦力になってほしいかって話を、その年間のスケジュールのイメージとかまで含めて伝えてあげると、よりいいんじゃないかな。
採用は、奇跡を待たずに確率を上げる
河原さんは、人を雇うことはペットを迎える以上に難しいと締めにかかります。なんとなく入れてなんとなく期待し、活躍を待つという奇跡待ちのスタンスではなく、確率を上げるためのアプローチをコツコツ積み重ねることが大事だと話します。
木下さんは、今回の学びを2つ挙げます。1つ目は、求人を出して入ってもらえば完了ではなく、入った時点でもまだギャップがあるという認識でスタートすること。話し合いと言語化でそれを縮めることが、早く力を発揮してもらうことにつながるといいます。
2つ目は、関係者の広さです。即戦力の採用では受け入れる側がお手並み拝見になりがちだが、上司と本人だけでなく周りの人も、なぜ入ってきて、いつどのくらい活躍を期待されているのかを正しく理解しておくべきだ、と話します。
どうしてもこう受け入れる側がお手並み拝見になるところが一定あると思うんですよね。
金さんは、面接も面談も数多くこなしてきたが失敗もある、究極は一緒に働くまでわからない部分もある、と正直に語ります。その上で、ミスマッチが減るよう頑張ることの大切さを改めて確認しました。
まとめ
即戦力が動かない原因は、能力不足よりも認識のズレにあることが多い、というのがこの回の見立てです。採用前から期待値をそろえ、会社は情報にアクセスできる環境を整え、本人も情報を取りに行く。その共同作業としてのオンボーディングが、即戦力化を支えます。
- 「動かない」の背景には、期待値のズレや「やりたくない」というサインが隠れていることがある
- オンボーディングは受け入れ研修ではなく、即戦力化のためのプログラムとして設計する
- 「即戦力」の中身は、いつまでにどのレベルかを言語化し、本人・周囲と合意する
- 情報を渡すのは会社側の責任だが、取りに行くのは本人側のマインドセットも必要
- 採用は奇跡を待つのではなく、確率を上げるアプローチをコツコツ積み重ねるもの
