牛丼チェーンの食べ比べから「決められない男」の告白へ
本題に入る前の雑談は、外食の話から始まります。自炊が趣味だという金亨哲さんは、一人のときは近所のなか卯・松屋・吉野家を回して食べることが多いと話します。
河原あずさ(アズ)さんは、牛丼の味はチェーンごとに違うと乗っかり、なか卯は「お上品」、吉野家は「王道」、すき家は肉の厚みが違う、という印象を挙げます。きのせひかるさんは、すき家だけは塩辛い気がすると答えました。
まさかのなか卯ってあれですよ、ウニ丼食べれたりするんですよ。
金さんによると、なか卯にはシーズン限定のウニ丼があり、3店舗が近くにあると各社の差別化の工夫が見えて面白いそうです。話はなか卯の親子丼のおいしさへ移り、きのせさんも自宅の2軒隣がなか卯でよく利用していると明かします。
アズさんは、自分が外食でメニューを決められない人間だと打ち明けます。子どもと定食屋に行くと、子どもはお子様セットで即決するのに、アズさんは迷い続けてしまうそうです。
(子どもに)「パパまた悩んでる。早く決めてよ」っていう。
この「決められない」という雑談が、そのまま今回の相談テーマへの前振りになっています。
寄り添い上手な新人管理職は、なぜ決められないのか
今回の相談は、大手企業で新しく管理職になった人から寄せられたものです。部下には慕われていて寄り添う意識もあるものの、決めることが苦手だという悩みです。
自分で言うのもなんですが、部下から慕われている気がするし、しっかり寄り添おうと心がけているのですが、決めるのが苦手です。調整型なので、相談事をされたら「○○さんはどう思う?」と質問を繰り返してしまい、なかなか物事が前に進まないことがあります。けれども、「自分で決めてしまうのが怖いな」という感覚があり、はっきり決めることができません。どうしたら上手に意思決定できるようになりますか。
アズさんは、自身が実施しているEQ ── 感情知能(Emotional Intelligence)のこと。自分や他者の感情を理解し、うまく扱う能力を指し、リーダーシップ研究でも重視されていますの検査のデータを紹介します。マネージャーの約3分の1が寄り添い型・共感型の人材で、これは日本企業によくある傾向なのかもしれないと話します。
調整が得意で昇進したのに、上に立つと意思決定が苦手になるケースについて、金さんは「すごく多くある」と答えます。そのうえで、意外な要因を挙げました。
この相談所のテーマである「心理的安全性」って言葉もちょっと邪魔をしている可能性もあるなというふうに思って。
金さんの見立てでは、「心理的に安全にしなければ」と思うあまり、明らかに違うと感じる部下の意見まで意思決定に反映させようとする管理職が多いといいます。アズさんも、ノーと言わずにみんなの意見を聞き、上は調整だけすればいいという姿勢になりがちだと受けます。
優しいマネージャーほど板挟みになる理由
部下の意見を広く聞く姿勢そのものについて、金さんは「めちゃくちゃいいこと」だと評価しています。ただし会社では、上から課された目標や数字があることが多いと指摘します。
金さんによると、上からの目標と部下への配慮のあいだで、管理職やリーダー自身が悩み、板挟みになってしまうことがよくあるそうです。
優しいマネージャーの方ほど挟まれますよね、これね。
部下には負わせたくないけど、自分も(目標は)達成しないとまずいみたいな話が結構あったりするっていう状況かと思ってますね。
部下を守りたい気持ちと、組織の目標を達成する責任。調整型の管理職が「決められない」背景には、この2つの引っ張り合いがあると整理できます。
心理的安全性を意識
部下の意見を否定せず、すべて意思決定に反映させようとする
調整に徹する
「どう思う?」と聞き返し、物事が前に進まない
板挟み
上から課された目標と、部下への配慮のあいだで管理職自身が悩む
「アウトプット」と「アウトカム」はどう違うのか
解決策として金さんが挙げるのは、チームで何を達成したいのかを決めることです。その際に大事な考え方として、ZENTechの新講座でも扱うアウトカム志向 ── 成果物(アウトプット)そのものより、それによって人や顧客にどんな変化が起きるか(アウトカム)を重視して物事を進める考え方ですを紹介します。
金さんの説明では、この「シコウ」は考える意味の「思考」ではなく、志して向かう意味の「志向」です。
金さんの定義では、ドキュメント1つを作るとき、そのドキュメントがアウトプットです。その先で人にどんな行動変容が起きるかが、アウトカムにあたります。
金さんはパンケーキを例に出します。卵を割り、小麦粉と混ぜ、フライパンで焼くとパンケーキというアウトプットができます。しかしお店として出すなら、パンケーキを作ることはゴールではありません。
パンケーキを食べた方が「美味しい、また来よう、リピートしよう」みたいになったりとかして、行列ができるみたいなところまでが(アウトカムです)。
さらにアウトカムの先に、売り上げのようなビジネス的なインパクトがあるといいます。アズさんは、カーネギーの『人を動かす』になぞらえて「何を動かしていくのか」という発想だと受け止めました。
過程
卵を割る、小麦粉と混ぜる、フライパンで焼く
アウトプット
パンケーキができる
アウトカム
食べた人が「また来よう」と思い、リピートして行列ができる
ビジネスインパクト
売り上げなどの効果につながる
調整の前に「何を起こしたいか」を示せているか
アウトカム志向を深掘りすると、チームの中で「今この瞬間に調整が正しいのか」、それとも「お客さんにこう思ってほしいから、みんなでこうやろう」と話せるのかが変わる、と金さんは説明します。
アズさんは、部下の相談に乗ること自体は手段にすぎず、何がどう変わればその状況が解決するのかを見定めて次の一手を考えることではないか、と言い換えます。金さんはこれに「おっしゃる通り」と応じました。
金さんは、部下一人に対しても「こう動いてほしいから、こういう資料を作ってほしい」と伝え、チーム全体には意思決定の方針を示すことが大事だと話します。わかりやすい例として挙げたのがスポーツです。
サッカー好きな人とかって、おそらく「このサッカーチームはこういうプレーをするよね」って監督とか見た瞬間にわかると思うんですよね。
野球でも、コンセプトを聞けば「だからこのラインナップなのか」と納得できます。金さんによると、成功するかどうかではなく、その試合で何を表現したいかがわかる指示を出せると、結果につながりやすいそうです。
アウトカム型の指示なら、ドキュメントすら要らないかもしれない
調整型のマネージャーが最初にとるべきアクションについて、金さんはまずアウトカムとアウトプットの違いを理解することを挙げます。そのうえで、アウトカム型とアウトプット型の指示の出し方の違いを知ることが大事だといいます。
アウトプット型の指示は「このドキュメントをいついつまでに出して」というわかりやすいものです。一方でアウトカム型の指示では、相手の行動が変わることこそが目的になります。
アウトカムって、例えば私がアズさんに出すドキュメントの内容というよりかは、アズさんの行動が変わってくださればいいわけだったりするんですよね。
ってなってくると、ドキュメント書かなくていい可能性があるんですよね。
アズさんは「結果さえ出れば親子丼を作る選択肢もあるかもしれない」と冒頭の雑談に絡めて応じます。金さんは、大変そうに聞こえても、ちゃんと頭を使えば仕事の時間がずっと少なくて済む可能性があると話しました。
アズさんも、目的に照らしてステップを考えれば、いらないステップは自分の裁量で外せると気づきます。
「このドキュメントをいついつまでに出して」と成果物と期限を指定する
相手にどう動いてほしいかを示し、そのための手段(ドキュメントが要るかどうかも含む)は考えて選ぶ
相手の変化を扱う指示は難しくないのか
きのせさんは、アウトカム型の指示は難しくないのかと質問します。アウトプットなら成果物と期限で管理しやすいけれど、アウトカムは相手の変化という未知のものを扱うため、コミュニケーションも増えそうだという疑問です。
金さんは、他部署に話を通して動いてもらう場面を例に答えます。これまではドキュメントを作って他部署に受け入れてもらう流れになりがちでした。しかし本来は、キーマンに一言話が通っていればいいのか、ドキュメントが必要なのか、どちらもあり得るといいます。
金さんによると、その判断を部下に任せられる状況をつくれているかが前提であり、だからこそ心理的安全性が担保されていることがとても大事だそうです。部下が迷ったときに「キーマンを押さえればどうにかなるよ」と言えるかどうかも問われます。
おそらく世の中の作らなきゃいけない書類って、あくまで作らなきゃいけないから作っているものが9割ぐらいだと思ってるんですよね。
金さんは、Wordで2枚といった形式より、二人が話し合った内容が証拠として残れば十分な場合が多いのではないかと話します。お客さんや社内、メンバーのためになると思ったら「やりましょう」と言える関係をつくる肝は、まず心理的安全性だといいます。
縦の指示ではなく、横に並んで同じものを見る
きのせさんは金さんの話を受けて、心理的安全性という土台があったうえでの話であり、指示して動かす縦の関係ではなく、同じものを横に並んで見るフラットな関係が必要なのではと整理します。金さんは「おっしゃる通り」と応じ、アウトカム志向の2つの効果を挙げました。
2つ目の効果について金さんは、承認を取るためにかっちりした資料を作り、受け取った側もまた承認の取り方に悩む、といった手間は関係性さえ良ければ省けるはずだと説明します。
なぜか届いたよくわからないドキュメントをめちゃくちゃ長いけれど読まなきゃいけないみたいな話とか。
AIの時代になって働き方が急速に変わるなかで、こうした形式的なやり取りをしなくてよくなるほうがアウトカムに近い、と金さんは話します。きのせさんは、指示すればできることをAIが担えるようになったからこそアウトカム志向が必要になる、という背景を読み取りました。
調整力は「チームのゴール」を話し合う土台になる
金さんは、今の時代はスピード感が欠かせない一方で、AIに指示してアウトプットを生み続けるだけでは会社にとって良くないことが起きやすくなっていると指摘します。
金さんによると、講座では「何を作るかを選ぶこと」を学んでもらうことを目指しているそうです。
アズさんは、この視点で調整ごとの意味合いが変わると話します。これまでの調整人材は、合議制で利害関係者の間を「まあまあ」と取り持つイメージでした。
アズさんの考えでは、調整のスキルは一段上で使えるといいます。チームのゴールに照らして「この方向性がいい」「これはいらない」とみんなで話す土台になり、プロセスの一つひとつを整えていく、というマネージャー像です。
合議制で利害関係者の間を取り持ち、目の前の意見を調整する
チームのゴールに照らして方向性や不要な作業をみんなで話す土台になり、プロセスを整える
アウトカム志向マネジメント実践講座の告知
番組後半では、ZENTechの「アウトカム志向マネジメント実践講座」が紹介されます。金さんによると、10月14日に開講予定で、全6回、2週間に1回、水曜日の夜に開催されます。申し込みの締め切りは10月7日だと案内されました。
講座は、『プロダクトマネジメントのすべて』の著者で、シリコンバレーのLinkedInなどでプロダクトマネージャーを務めた曽根原春樹さんが監修しています。金さんは、月1回3時間ほどの対話を重ね、6か月ほどかけて作ったと話します。
金さんは、番組経由の応募には招待枠を設けていて、招待者名に「キムひょんちょる」と入れると安く案内できると説明しました。アズさんが「私もなか卯派です」でもいいかと冗談を言うと、金さんは「前者でお願いします」と返しています。
きのせさんは前半を振り返り、便利になる時代だからこそ、どんな関係性をつくれば全体として成果が出せるのかを見つめ直したいと話しました。
まとめ
寄り添い型の管理職が決められなくなる背景には、心理的安全性を意識するあまり意見をすべて反映しようとする姿勢と、上からの目標との板挟みがあります。金さんは、成果物ではなく「誰にどんな変化を起こすか」を判断軸に据えるアウトカム志向を提案しました。
- 心理的安全性を意識しすぎると、明らかに違う意見まで反映させようとして決められなくなることがある
- アウトプットは作るもの、アウトカムはその先で人に起きる行動変容
- アウトカム型の指示なら、ドキュメントなど不要な作業を省ける可能性がある
- 手段を部下に任せるには、心理的安全性という土台が前提になる
- 調整力は、チームのゴールを話し合いプロセスを整える力として生かせる

