コンポーネントを最小限に削る発想はなぜ生まれる?
ボードゲームを作っていると、ルールもコンポーネントも洗練されていき、特に小箱のゲームでは最低限のものだけを箱に収めようと考える制作者が多いと、Manaさんは話します。
その大きな理由は原価です。理想を詰め込んで内容物を足していくと原価が上がり、原価が上がれば販売価格も上がり、販売価格が上がるとなかなか売れなくなる、という連鎖をManaさんは意識しています。
内容物を足す
理想に合わせてコンポーネントを増やしていく
原価が上がる
製造コストが高まる
販売価格が上がる
原価に合わせて価格も高くなる
売れにくくなる
購入のハードルが上がる
Manaさん自身のルール作りも、構想段階では遊び方を足し算で広げ、本筋が見つかったら引き算で削ぎ落としていく進め方です。そうすると、ゲームは自然とコンパクトに収まっていくといいます。
基本的にゲームルールといったものは、初め構想段階では足し算で足していって、本筋のところを見つけたらどんどん引き算で削ぎ落としていく。
作者のこだわりとは別の「無駄」の価値
ゲーム本来の面白さは引き算で担保できますが、それ以外のこだわりをどこまで入れるかもポイントだとManaさんは続けます。作者が好きなものを盛り込む遊び心は、インディーズならではの味にもなります。
ただし今回のテーマは、そうした作者の自己満足とは別の話です。ゲームとしては「なくてもいいじゃん」と思える無駄な部分が、実は購入する人にとっての魅力になる、というのがManaさんの主張です。
『ナナトリドリ』と『ヒャクジュウパレード』の木駒は何のため?
Manaさんが最初に挙げる例は『ナナトリドリ』です。ゴーアウト系 ── 手札を早く出し切ったプレイヤーが勝つタイプのカードゲームの総称。大富豪などが代表例として知られていますのカードゲームで、遊ぶのに必要なのは基本的にカードだけです。
カードだけならコンパクトな箱で安く売れそうですが、『ナナトリドリ』にはプレイヤーごとに色が違う鳥の木駒が入っています。木駒は、負けたら1個支払うライフや残機のようなものとして使うと説明されているそうです。
(鳥の木駒が)すごく可愛いんですよ。その木駒を並べているだけでニマニマしちゃうような、そういったようなものになっております。
それでもManaさんは、この木駒はゲームにはなくても全然困らない、ゲームとしては無駄な部分だと見ています。そのうえで、遊びとしてはすごく魅力的だと評価しています。
同じ手法を取るゲームとして、話題になった『ヒャクジュウパレード』も挙げられます。こちらも手札を消化していくゲームですが、木駒がたくさん入っていて、勝った人が木駒を獲得する仕組みになっているといいます。
ゴーアウト系のカードゲーム。鳥の木駒は、負けたら支払うライフや残機として使う
手札を消化していくゲーム。勝った人が木駒を獲得する
木駒が購買欲を高める理由
Manaさんは、2作品に共通する点として「ゲームに使わない」ことと「木駒である」ことを挙げます。しかもどちらの木駒もとても可愛いといいます。
ゲーム作りの視点では不要に見えても、販売の視点では重要だというのがManaさんの考えです。ボードゲーム好きには木駒が好きな人が多く、内容物によって購買欲が高まるかもポイントになると話しています。
木駒ファンの存在を示す例として、Manaさんは、木駒を袋に入れたキーホルダーのような関連グッズが売られていることを挙げます。名刺代わりに木駒を配る人や、オリジナルの名刺代わり木駒を作るサービスやキャンペーンも見かけたといいます。
木駒をなくせば箱はコンパクトになり、原価も抑えられるはずです。それでも入れるのは、どんな層に欲しいと思ってもらえるかを考えた結果ではないか、とManaさんは推測しています。
ボードゲームをたくさん売るためには、プロダクトデザインとしてどんな体験を与えるかという考え方が重要になる、というのがManaさんの見立てです。
『キャメルアップ』の立体ボードは何を生むのか
Manaさんの好きなゲーム『キャメルアップ』は、ラクダのレースを題材にした競馬のようなゲームです。プレイボードには、飛び出す絵本のように立体的な木が立ち上がる仕掛けがあります。
『キャメルアップ』の立体の木はゲームでは一切使いません。それでも立体にするだけで原価はかなりかかっているはずだと、Manaさんは指摘します。
Manaさんが考える理由は、プレイ風景の見え方です。遊んだ報告で写真を撮ったとき、盤面がとても豪華に見え、それを見た人が「すごい」「かっこいい」と感じます。
何それ超すごいじゃん、かっこいいとか思うわけなんですよ。で、それ(豪華な見た目)ってそのまま面白そうにつながるんですね。
『キャメルアップ』には、ピラミッド型の箱からサイコロが出てくる専用コンポーネントもあり、ボード上の置き場所が決まっています。手でサイコロを振れば済むところを専用品にすることで、盤面がさらにリッチに見えるとManaさんは見ています。
立体ボードや専用コンポーネント
ゲームには使わない部分にお金をかける
プレイ風景が豪華になる
写真に撮ったとき盤面が見栄えする
すごい、かっこいいと感じる
写真を見た人の印象に残る
面白そう、欲しいと思う
購買意欲につながる
ゲームに関係ない部分にどこまでお金をかけるか
プロダクトデザインで悩むのは、ゲームに関係ない部分にどこまでお金をかけるかだとManaさんは話します。印刷品質や必須の駒の品質にはこだわりつつも、それ以外を豪華にするほど箱は大きくなり、原価も上がります。
それで売れてくれればいいんですけども、売れなければほんともう大変なわけなんですよ。
販売価格が上がり、製作も大変になるので、リスクは高まります。それでも、ゲーム性以外で欲しいと思わせる仕掛けは、たくさん売ろうと考えるならいい戦略だとManaさんは考えています。
大きな投資が難しい場合の手段として、Manaさんは木駒のようなちょっとしたものや、ボードを飾る装飾を挙げます。さらに、勝者だけが受け取るトロフィーのような駒が1個入っているゲームもあったはずだと話しています。
勝者用の駒はゲーム中には使いませんが、勝った人が「私が勝ち」と手に入れられることが嬉しく、写真に撮って投稿するきっかけにもなるといいます。
中途半端な無駄はなぜ逆効果になる?
Manaさんが注意点として挙げるのは、無駄な部分こそめちゃくちゃ魅力的でなければならないということです。中途半端にお金をかけると良くない方向になり、ただの無駄に終わってしまいます。
だからこそ、お金をかけるならしっかり作り込む必要があるとManaさんは話します。なぜここにお金をかけたのかと思うゲームでも、これがあるから魅力的だと感じるものがたくさんあるそうです。
Manaさんの結論は、欲しいと思わせる要素はゲームシステムだけでなく、コンポーネントやプロダクトデザインにもあるということです。
テストプレイでは見つけにくい「リッチさ」をどう考えるか
新作を作る人はテストプレイでルールを磨いていますが、プロダクトデザインのリッチな部分はテストプレイでは見つけにくく、試しにくいとManaさんは指摘します。考えから漏れている人もいるのではないかと思い、今回の配信をしたといいます。
市販品の豪華さを見て、インディーズではそんなお金はないと感じることもあります。それでもManaさんは、工夫次第で用意できるものもあると考えています。
たくさん売ろうっていう風に考えたりだとか、あとはモチベとかテンションを上げるためには、そういったものを少しチャレンジしてもいいんじゃないのかな。
Manaさんは今後も、ほかの作品を研究し、見たときに自分がどんな感情になったのかを言語化しながら、自分のゲームを楽しいものにしていきたいと話しています。
まとめ
ボードゲームは、原価と販売価格を抑えるために必要最低限へ削ぎ落とすのが基本です。一方でManaさんは、『ななとりどり』や『百獣パレード』の木駒、『キャメルアップ』の立体ボードのように、ゲームには不要な部分が「欲しい」「面白そう」という気持ちを生むと考えています。
- 内容物を足すほど原価と販売価格が上がり、売れにくくなるため、ゲームは最小限に削ぎ落とされやすい
- ゲームに使わない可愛い木駒は、ボードゲーム好きの購買欲を高める要素になる
- 立体ボードなどの豪華な盤面は、プレイ写真を通じて「面白そう」という印象につながる
- ゲームに不要な部分へお金をかけるなら、中途半端にせず魅力的に作り込む必要がある
- プロダクトデザインの魅力はテストプレイで見つけにくいため、意識的に検討する価値がある

