独立した若手税理士が最初にやった営業は何だったのか
公認会計士・税理士の依田翔さんは、26歳だった去年の1月に独立し、税理士事務所を開業しました。収録は2026年8月で、独立から約1年半が経った時点の振り返りです。
独立直後に依田さんが最初にしたことは、とにかく営業でした。アポイントを組み、飲み会に顔を出す日々だったといいます。
依田さんの営業の土台は、監査法人時代から築いてきた人脈でした。社会人1年目から夜の会合に通い、会計士の先輩や事業会社の人たちと名刺交換を重ねていたそうです。
元々社会人1年目の時から結構夜いろんなとこ飲み行ってて、監査法人時代に、めっちゃ名刺配りまくってて。
独立後は、そのときに名刺交換した人たちから順に声をかけ、ひたすらアポイントを組んでいったと話しています。
売りにしたのは2つの強みでした。1つは、ベンチャーの財務・経理で事業側を見てきた経験から、数字だけでなく経営者に寄り添えること。もう1つは、税理士としては珍しい20代という若さです。
「税理士を探している人はいない」壁をどう越えたか
依田さんがまず直面したのは、税理士を切り替えたいと考える経営者がほとんどいないという現実でした。加藤さんも「変えた方がいいかもってあんまならない」とうなずきます。
最初ゼロで、「あれやばいぞ」みたいな。「お金なくなっちゃうんじゃないか」みたいな状態ではありましたね。
独立直後の顧問先は、2カ月目でようやく1社という状況でした。そこを支えたのが3月の確定申告で、フリーランスの申告をたくさん引き受けて一時的に資金を回収し、立て直したといいます。
当初の依田さんは、税務に加えて外部CFOのような会計コンサルも受けられることを打ち出し、どちらかに刺さればと名刺を配っていました。それでも、なかなか響かなかったそうです。
当時は1日10アポを組んで夜は飲みに行く、本人いわく「意味がわからない脳筋プレイ」。それでも話して終わることが続き、依田さんは自分が直接動くより、顧客とつながっている人と組むほうがよいと考えるようになります。
1日10アポと夜の飲み会で、自分が直接経営者に売り込む
金融系の人やサロン運営者など、顧客を抱える[[パワーパートナー]]から紹介を受ける
依田さんが組んだ相手は、金融系の人や、個人事業主を多く抱えるサロンの運営者など、これから法人化する人と日常的に出会っている人たちでした。この切り替えをきっかけに、紹介が少しずつ入るようになったといいます。
依田さんは、年収1000万円を超えるフリーランスが集まる会など、税理士があまりいない会にも参加しました。法人化を検討している人や、資金調達をしたい会社を見つけて受注していったそうです。
ターゲットを立ち上げ直後の会社に絞った理由について、依田さんは、税務経験が豊富なわけではないので大きな会社より伴走型が合うと考えたと話しています。創業融資で資金を引っ張り、そこから顧問契約を提案する流れが多かったといいます。
受注できない日々はつらくなかった?「第一想起」を狙ったSNS戦略
理想と現実の乖離に加え、毎日の飲み会で体も疲れるなか、さすがにへこまなかったのか。加藤さんの問いに、依田さんの答えは意外なものでした。
楽しかったですね。
ピンチをピンチと思ってないんですね、きっと。
依田さんは、出会いのなかでPDCAを回し、その人の裏側にいる人とどうつながるか、自分が何を提供できるかを考えることに頭を切り替えていきました。最初の顧客は、今も髪を切ってもらっている美容師だったといいます。
依田さんが意識していたのは、税理士を切り替えたいと思ったときに真っ先に自分の名前が浮かぶ、「第一想起」の存在になることでした。その手段の一つがインスタグラムです。
インスタってあれDMを送るとストーリーがあの表示されやすくなる。
交換
会った人全員とインスタを交換する
DM
「ありがとうございました」とDMを送る
表示
自分のストーリーが相手に優先表示されやすくなる
想起
「こういうやついたな」と忘れられずに覚えてもらえる
依田さんがストーリーに上げていたのは、決算書の解説など硬めの税務の話や動画でした。DMで直接届く相談は、安く頼めるかといった内容が多く、すぐに受注にはつながらなかったそうです。
それでも依田さんによれば、後になって「お久しぶりです」と急に連絡が来ることが今は多いといいます。忘れられないようにしていたことが効いていると、依田さんは振り返ります。
1年で60社。もう一度始めるなら何からやるか?
依田さんの事務所は、1年で顧問先を60社ほどまで伸ばしました。中心は記帳と申告を担う税務顧問で、ほかに資金調達のスポット支援や、管理会計寄りの外部CFO業務を月額15万〜20万円で受けていたそうです。
加藤さんは、独立を考えている30歳前後の会計士や税理士に向けて、もし1年半前に戻ったら何から始めるかを依田さんに尋ねました。
最初にちゃんと事業計画とか立てるかもしれないですね。
依田さんによると、税務だけを扱う税理士事務所は、人に任せる前提だと営業利益率が15%、良くて20%ほどだといいます。いつ、いくらの人を入れ、何社を任せるかという具体的な計画を立てないまま始めてしまったことが反省点だそうです。
依田さんが利益の薄さを実感したのは、人を採用し始めた頃でした。LTVで見れば大きいと思いつつも、「先生」と呼ばれる仕事のわりに税務だけでは利益率が高くないという印象を受けたと話しています。
顧問先20社で人を入れる。事務所の体制づくり
依田さんは独立直後から業務委託を活用していました。確定申告で個人の申告を20人弱ほど一気に受けた際は、記帳を複数の人に頼み、最後に自分がすべてチェックして品質を担保したといいます。
本格的に人を入れたのは、顧問先が20社ほどになった頃でした。顧問料を仮に月3万円とすれば、月60万〜70万円ほどのストック収入が立つため、会計や税務に詳しい外部の人と組み始めたそうです。
攻めに全振りした結果、組織に何が起きたのか
事務所が伸びる一方で、依田さんの組織には崩壊ともいえる事態が起きました。依田さんは、これは完全に自分の責任だと前置きして話し始めます。
営業が好きな依田さんは、事務所に戻らず外を飛び回り、オンラインのアポを入れ続けていました。前しか見ておらず、社員や業務委託のメンバーに意識を向けられていなかったといいます。
あるメンバーが「与田くんはニコニコしながら仕事取ってくるけど、僕らがさばくんだよ」みたいな。
仕事が増えれば、回す側は当然しんどくなります。依田さんは、食事や飲み会、社員旅行のようにメンバーと過ごす時間の大切さを深く反省したと話しています。
依田さんは、事業計画の数字だけで人を当て込んでいたことも振り返りました。計算上は成り立っても、そこには感情やケア、思いやりといった人間らしさが欠けていたといいます。
担当上限
1人がさばける顧問先は20〜30社。間を取って25社と置く
売上
25社に顧問料(例: 月3万円)を掛けて1人当たりの売上を出す
利益
人件費などを差し引いて、どれだけ残るかを見積もる
依田さんは、この計算どおりにはいかなかったと語ります。結果として社員や業務委託の一部が離れ、提携先の会社にも心配や迷惑をかけてしまったそうです。
人が抜けたあと、依田さんの事務所は先輩の税理士事務所にフォローに入ってもらい、既存の顧問先への対応を続けながら立て直しを進めているといいます。
「とりあえずやる」だけでは足りない、頭を使った努力
3回にわたる依田さんの話を聞き終えて、太田さんは「依田さんだからできた」と感じたと話します。そのうえで、自分を信じ、一つの目標に向かって走り続けるメンタルを持つ人が最終的に大成する、やってみないと何も変わらない、という感想を述べました。
加藤さんが「とりあえずやってみれば」とまとめかけると、依田さんは心に残っている経験を語り始めます。大学受験で、頑張ったはずなのに落ちた直後に読んだ記事の話です。
ダルビッシュ選手っていう野球の選手いるじゃないですか。努力は平気で裏切るよみたいな。
依田さんは、ダルビッシュ有 ── 日本出身のプロ野球投手。メジャーリーグでも長く活躍し、練習法やトレーニングについての発信でも知られています選手の記事から、頭を使って努力しないといけないと気づかされたといいます。その学びが、その後の会計士試験の合格につながったそうです。
依田さんは、難しい問題ばかり解いて簡単な問題を落とせば試験に落ちるのと同じだとたとえます。正しい方向に向かって努力できるかが大事で、そのためには導いてくれる人と伴走するか、自分の意識を変えるかだと話しています。
28歳の依田翔さんはこれから何に挑むのか?
7月に28歳になった依田さんは、メンバーが抜けた税理士事務所を先輩たちのフォローを受けながら続けています。最近は、会計コンサルの仕事が増えてきたそうです。
特に増えているのが、バックオフィスのAI化を進めたい会社からの相談です。データが散らかってAI化に手をつけられない会社に入り、業務フローと会計データを整えて、AIが正しく機能する状態をつくる支援をしているといいます。
依田さんは今後、M&A支援のような上流の案件も広げたいと話します。経理のアウトソースのような小さな仕事から入り、税理士と会計士の2軸で動いていきたいとのことです。
依田さんへの相談は、XやFacebook、インスタグラムで受け付けているそうです。名前で検索すれば何かしらのSNSが出てくると、依田さん自身が話しています。
まとめ
依田翔さんは、顧問先ゼロから紹介営業とSNSでの「第一想起」づくりによって、1年で60社まで事務所を伸ばしました。一方で、攻めに偏ったことで組織が崩れ、事業計画と人へのケアの大切さを学んだと振り返っています。
- 独立直後は2カ月目で顧問先1社。確定申告の受注で資金をつなぎ、直接営業から紹介中心へ切り替えた
- インスタのDM後にストーリーが表示されやすくなる仕組みを使い、忘れられない存在になることを狙った
- やり直すなら最初に事業計画を立てる。税務だけでは営業利益率15〜20%ほどにとどまるという
- 仕事を取ることに偏り、メンバーへの配慮が欠けて組織が崩壊。「守りが薄くなった」と反省している
- ただやるだけでなく、頭を使って正しい方向へ努力することが大事だと依田さんは語る





