Sunoにデモを入れたら何が返ってきた?
サエキタカフミさんは、上場企業でサラリーマンをしながらミュージシャン活動も兼業しています。今回のテーマは、音楽生成AIのSuno ── テキストや音声をもとに、歌声や伴奏を含む楽曲を自動生成するAIサービス。「スノー」ではなく「スーノ」のように読まれますです。
サエキさんは仕事ではGemini、ChatGPT、ClaudeといったビジネスAIツールをそこそこ使っているといいます。ビジネスの考え方と音楽という創作を両立させ、相乗効果を生みたいと考えているため、音楽生成AIも研究しなければとずっと思っていたそうです。
それでも後回しにしていたSunoを、サエキさんはリリースからしばらく経ってようやく触りました。試したのは、ギターを弾いて歌っただけのアコースティックのデモ音源を入れることでした。
(デモ音源を)ポイって入れてみただけです、本当。で、こうピッてクリックして、1、2分待っただけで、もうね、フルコーラスのアレンジが上がってくるわけですね。
Sunoが返してきた音源では、サエキさんに似た声でAIが歌っていました。声の再現はそこそこだったものの、アレンジのクオリティは凄まじかったと話しています。
デモを入れる
ギター弾き語りのアコースティック音源をアップロード
クリックして待つ
1〜2分ほど待つだけ
フル尺で返ってくる
フルコーラスのアレンジと、本人に似た声のAI歌唱
(ビジネス系AIでも)うわ、こんなアウトプットしてくるんだみたいな。でもね、もうそれをもうはるかに凌駕するぐらいの衝撃を受けた
Sunoへの衝撃と同時に、サエキさんは「創作とは、作るとは何なのか」という根本的な問いにまで考えが及んだといいます。
作詞は自分、メロディはAIでもいい?
サエキさんはもともと、音楽生成AIは使わない手はないと考えていました。その考えは今も変わっていないそうです。
音楽制作を作詞・作曲・歌唱の3つに分けると、サエキさんは歌が好きなので歌唱は自分でやりたいと考えています。作詞と作曲では作詞のほうが好きで得意だと感じていたため、メロディはAIに作らせてもいいとさえ思っていたといいます。
頭で理解しているよりも、もう本当にこう体で感じるものが多かったというか
実際にSunoを触ってみると、頭での理解を超える実感がありました。そこから最初に出てきた見立てが、アレンジャーへの依頼は爆発的に減りそうだ、というものです。
アレンジャーの仕事が減るのはなぜか
サエキさんは、アレンジに込める大きなメッセージへのこだわりが強くない人が大半だと見ています。細かい要望はあっても、アレンジ全体に何を込めるかまで気にする人は多くない、という見方です。
細部の意味を気にしないのであれば、今のAIでも十分すぎるほどだとサエキさんは考えています。これが、アレンジャーに頼む機会が減るとみる理由です。
音源の一つ一つの細部にまでこだわりを持ち、それをなぜそういう風なこだわりにしたのかという言語化までしっかりできていることを、僕はプロフェッショナリズム、プロの仕事だというふうに思っているんですね。
一方で、サエキさんが考えるプロフェッショナリズムは、細部へのこだわりと、その理由を言語化できることです。そうしたプロから見ると、AIのアレンジには読み取れる細部の意味がありません。
自分なりの意味を落とし込めない以上、今のAIはプロにとってはまだ必要十分ではない、とサエキさんは話しています。将来はできるかもしれないが、現時点では難しいはずだという留保付きです。
今のAIでも十分すぎるほどのクオリティ
意味を読み取れず、自分の意図も込められないため、現時点では必要十分ではない
大量生産された音楽は大事にされない?
サエキさんは、AIで音楽が大量生産されると、音楽がどうしても消費物になってしまうとも感じました。
誰もにとってのいいもの、つまり最大公約数ではあるんだけども、それ故に誰かにとっての意味にはなり得ない
もっともっと平たく言うと、大事にされないっていうことです。
サエキさん自身は、自分の音楽を消費物にしたくない、誰かに大事にしてもらいたいと考えています。大量生産物のようにはしたくないという思いは、理屈ではなく感情面のものだと話しています。
話が取り留めなくなってきたところで、サエキさんは「気になったらYouTubeのGeminiマークに『この人何言いたいの?』と聞いてみてください」と冗談交じりに添えています。
AIにないもの、それは「プロセス」
サエキさんは次に、AI生成物に何がないのかを考えました。それがわかれば、AI生成物にあるものも、人の作ったものにあるものも見えてくると考えたからです。
サエキさんの答えは、AI生成物にないのはプロセス、つまり細部へのこだわりや意味付けだというものです。人がアレンジする価値は、込めた意味を見える形にすることにあり、それがプロセスエコノミー ── 完成品だけでなく、制作過程そのものを共有し、価値として届ける考え方。制作の裏側や試行錯誤に共感してもらうことを重視します的な考え方だと語ります。
すべてがAI生成物になれば、人の手によるハンドメイドの価値が上がっていく、というのがサエキさんの見立てです。だからこそ、人がアレンジするときはいかにプロセスにこだわるかが大事だと改めて感じたそうです。
打ち込みより生楽器、費用は必要経費
プロセスにこだわるという考えから、サエキさんはドラムをパソコンの打ち込み ── 楽器を演奏せず、パソコンなどで音符やリズムのデータを入力して音を鳴らす制作方法で作ることさえもったいないと話します。打ち込みのドラムでは、AI生成のドラムと変わらないからです。
だからやっぱり全部生楽器の方がやっぱりいいし、その録音の瞬間にも立ち会って、何らか映像とかとかを残した方がいいし
自分自身もその録音の瞬間というものを感じた方がいいし、感じていないとやっぱり出てこないことはあるからね、絶対。
生楽器での録音には費用がかかります。それでもサエキさんは、AI生成物が高いクオリティを発揮する中でやっていくには、その費用は必要経費だと考えています。
パソコンで作るため、AI生成の音と差がつきにくい
費用はかかるが、プロセスを映像などで残せ、自分も録音の瞬間を体感できる
少年ピース時代の作り方は間違いだった?
サエキさんは以前、少年ピースというユニットで活動していました。そのときの音源は、大半が打ち込みでアレンジを作ってもらっていたそうです。
サエキさんは、少年ピース時代の作り方はこれからの時代には合わないかもしれないと感じています。ただ、当時は1年も経っていないほど最近のことで、当時としては最適解だったと今でも思っているといいます。
微妙に時代がちょっとこう、1年でグンって進んでしまったっていうだけで、これからやるならやっぱそうだなっていうことを思ったところですね。
少年ピース時代は大半を打ち込みで制作し、当時としては最適解だった
AIの急速な進化を受け、これからは生楽器などプロセスにこだわる作り方が必要だと考える
現在、サエキさんは音楽活動を少しセーブしています。今後は、スマホで撮ったカバー動画を気軽に出すことと、鼻歌をもとにAIで曲をどんどん作ることを考えているそうです。
ただ、鼻歌からAIで作る曲は意味付けの薄い表現物になるとサエキさんは認めています。可愛がらないわけではないものの、お客さんに届けて対価をいただく本気の作品は、人が意味やこだわり、気持ちを込めて作るべきだと考えています。
音楽は広告か、それとも作品か
サエキさんがこの回でいちばん言いたかったのは、音楽を「広告」とみるか「作品」とみるかという話です。
サエキさんは、メジャーミュージシャンのライブは単体では黒字にならず、物販がどれだけ売れるかで収支が決まると言われる点に触れます。そう考えると、音源やライブパフォーマンスは広告の側面を持っていて、それが良ければグッズが売れるという構造です。
音源・ライブ
聴き手に届くパフォーマンス
良いと感じてもらう
ミュージシャンへの支持が生まれる
物販が売れる
グッズの売上で収支が決まる
作った音楽は広告なのか、それともれっきとした作品なのかっていう線引きを、これからのミュージシャンは、これまでよりもさらにシビアにやらないといけないと思うんですよ。
サエキさんの考えでは、音楽を音楽ビジネスのための広告物と位置づけるなら、AIをどんどん使えばいいといいます。反対に、音源こそが作品で、すべてをかけていると考えるなら、AIは使わないほうがいいだろうと話しています。
音楽ビジネスのための広告物なら、AIをガンガン使えばいい
音源にすべてをかけるなら、AIは使わないほうがいい
ただしサエキさんは、この二分論が絶対ではないとも添えています。広告と作品のどちらかを選ぶのではなく、どこに軸足を置くかが戦略になる、というのがこの回の着地点です。
サエキさんは、まだ考えていることはたくさんあり、noteで1〜2本書くかもしれないと話して締めくくりました。ビジネスと音楽を掛け算した話が、いちばんやっていきたいことだそうです。
まとめ
Sunoを初めて使ったサエキタカフミさんは、アレンジの質に衝撃を受けつつ、AIにないのはプロセスや細部の意味付けだと整理しました。そのうえで、音楽を広告と作品のどちらに寄せるかが、これからのミュージシャンの戦略になると語っています。
- Sunoはデモ音源から1〜2分でフルコーラスのアレンジを返し、ビジネスAI以上の衝撃があった
- 細部の意味を気にしない多くの人にとっては今のAIで十分で、アレンジャーへの依頼は減りそうだとみている
- AIが広まるほど、人の手によるプロセスやハンドメイドの価値は相対的に上がる
- 生楽器での録音などプロセスへのこだわりは、費用がかかっても必要経費だと考えている
- 音楽を広告とみるか作品とみるか、どこに軸足を置くかが戦略になる





