ミドルアップダウンの続きとして出てきた「役割」の話
この回は、前回のサッカーの話題にひっかけて語られた新規事業の組織論、ミドルアップダウンの続きから始まります。
前回はミドルアップダウンの考え方までは共有できたものの、実際にどうやるのか、どんな役割の人がいればいいのかという具体の話までは進んでいませんでした。
最後、ミドルアップダウンの考え方はわかったんですけど、実際それどうやってやるの?とか、どんな役割の人がいればいいんですかっていうところで止まってた気がするんで。
大長さんはまず、新規事業を自走する組織作りを担う役割の人が、今の組織にはそもそもいない、という前提を指摘します。
アイデアを検討したり前に進める部署はあっても、組織全体をそういうカルチャーやOSにしていくことを担う人がいない。リーダーはメッセージを出すものの、組織は縦割りなので現場はその通りには動かない、という状況です。
キャラクターではなくスキル。バウンダリースパナーという定義
そこで大長さんが注目しているのが「バウンダリースパナー」という考え方です。セミナーで話したところ、アンケートで一番コメントが多かったのもこのテーマだったといいます。
自分かもしれませんとか、そういう役割がちゃんと本としてまとめられてるって知りませんでしたとか、言われてみればそんな人いますみたいな。
組織の中には昔から、いろんなところに顔が利く人や、その人を通すと組織間の話がスムーズにつながる人がいました。
これまではそれを、その人の性格や社交性の問題だと捉えていた。それを組織の役割・スキルとして定義したのがバウンダリースパナーだ、というのが大長さんの整理です。
キャラクターじゃなくてスキルというか。
スキルとして。だけど僕たち結構今まで無意識のうちに、そんな人いたような、みたいなキャラクターの話だと思ってたっていう。
つまりイノベーションを進めるには、そういう人が組織にいて、組織間をつなぐことを自分の仕事として捉えている状態が大事なのだと話されています。
翻訳しながら後ろから進める。リーダーとは違う役割
村上さんが改めて役割を尋ねると、大長さんはバウンダリースパナーを、組織や部門をまたいでつないでいく人だと説明します。
会社や部門が違えば、使う言葉も価値観も優先順位も違う。そこを翻訳しながら、後ろからプロジェクトを前に進める役割だといいます。
ちょっとリーダーとは違うんですよね。ビジョンを掲げて行くぞって引っ張る求心力というよりは、そこの間に立って翻訳していくような役割だと思います。
一度この人と話してみたらどうですか、と仲介してつなぐことで、わだかまっていた問題が一気に解消され、お互いがチームになれる。そういうことをやってくれる人柄だと語られています。
この考え方は海外発で、英治出版から日本語版も出ていますが、大長さんによればかなり古くから提唱されているものだといいます。
海外ではイノベーション研究の中で、企業内だけでなく、行政と地域が一体となって街をクリーンにするようなプロジェクトでも、こうした人がステークホルダーをつなぎ、対話を促す役割を担ってきたとのことです。
外資の縦割りと日本の「顔が利く人」
村上さんは、自身が外資で働いていた経験を振り返ります。外資では役職ごとにジョブディスクリプションがあり、そこから出るメリットがない世界だったといいます。
逆に出ると人の仕事を奪ってしまうんで、怒られたりするっていう世界。
一方で日本では、縦割りとはいえ、どこの部署にも顔が利き、社交性があって「あの人に任せておけば」と頼られる人が自然と存在していたと村上さんは指摘します。
つまり日本では役職ではなく自然発生的にいた存在が、海外から持ち込まれたロールとして改めて注目されているのではないか、という見立てです。
大長さんは、2、3か月前にソニーグループのアクセラレーター系サービスとして「バウンダリースパナー」を冠したサービスがリリースされ、企業とスタートアップの会話を橋渡しする役割が正式に名前になっていることを紹介します。
経営・ミドル・現場をつなぐ人が増えてきた
大長さんは、地域と行政、スタートアップと大企業のように間がわかりやすいケースだけでなく、同じ企業の中にもバウンダリースパナー的な人がいると話します。
これまでは事務局のような人が調整作業として担ってきた部分ですが、今は調整や事務局という言い方ではなく、間をつないで皆が対話できるように翻訳し、物語が前に進むよう支援するものへと発展してきているといいます。
ただし、それを本人が明確に理解しているかどうかは別として、そういう動きをする人がどんどん増えてきたという実感が語られています。
なぜできるのか。人が好きで、ストレスを軽やかに越える
村上さんは、そうした役割を担う人のモチベーションや共通項を尋ねます。大長さんの答えは、まず第一に「人が好き」「コミュニケーションが得意」という点でした。
この人とこの人が直接話せばすぐ解決するのに、なんでお互いそんな風になっちゃうの?みたいなことを、世話好きなところも含めてやれてきた。
村上さんは、自身の経験から2つのパターンを挙げます。1つは、人が好きで外に出ていき、勝手につながっていくタイプ。
もう1つは、出世のために一段上のレイヤーの課題を解決しようとし、必然的に部署を横断してやることが広がっていくタイプです。
ただし大長さんが出会ってきた人の多くは前者で、しかも両者に共通するのは、それを無意識にやってしまっているという点だと話します。
人に頼むことや、どうなるかわからないもの同士をつなぐことは本来ストレスがかかる。そこを軽やかにできるのがこうした人の特徴だといいます。
いい人・なんでも屋で終わらせない。評価と役割の課題
村上さんは、こうした役割がともすれば「いい人」や「都合のいいなんでも屋」にとどまってしまうことを懸念し、報われてほしいという思いから、実際に企業で評価されているのかを問います。
評価されてるかどうかはわからないけど、それがすごい大事な仕事なんだよって、まだちゃんと認められてないと思います。
評価目標の中にそうした活動は入っておらず、「バウンダリースパナーとして横断していく活動をしてくれ」と任命されているわけでもない、と大長さんは指摘します。
さらに大長さんは、ミドルアップダウンを担う次世代リーダー層自身が、越境し、上下と現場を動き、横串で参加していくバウンダリースパナーでもあると話をつなげます。
トップダウンで役割を与える。DXエバンジェリストとの違い
村上さんは前回のトップダウン・ボトムアップの話と関連づけ、これも結局トップダウンでないと変わらないのではないかと投げかけます。
例として挙げたのが、DXが流行した時期のエバンジェリストです。経営の大命題のもとで各部署に派遣されたテック人材は、戦略のトップダウンに基づいたバウンダリースパナーだったのではないか、という見立てです。
そのうえで村上さんは、今はテーマがDXに限らず各社の状況に合わせた探索型になっており、より自由度の高いバウンダリースパナーが求められているのではと問いかけます。
大長さんは、バウンダリースパナーがどんな役割で、組織や顧客に何をもたらすのかを一度整理し、ちゃんとトップダウンで役割を与える活動が大事だと応じます。
村上さんは、エバンジェリストがミッションや給与と紐付いているのに対し、バウンダリースパナーはまだ評価制度に乗っていない点を大きな違いとして挙げ、そこが今後の企業の課題になるのではと整理します。
トップダウンで任命され、ミッションや給与と紐付いている。DXなど明確な大命題の伝道役として動く
評価制度やミッションに乗っておらず、多くは無意識・キャラクター依存で担われている
サイロ化する組織で、全員に求められる動き
村上さんは、近年組織やプロジェクトがサイロ化・細分化し、新規事業がその谷に落ちて独立遊軍のようにどこにもはまらない時期もあったと振り返ります。
一方で、一つの部署で変えられることはごくわずかで、本来は横断して変えていく必要がある。スタートアップも一社では変えられず、政府や研究機関、NGO、現場など複数のステークホルダーと進める必要があると話します。
そのため、バウンダリースパナー的な動きは、今やすべてのビジネスパーソンに求められているのではないか、というのが村上さんの見立てです。
村上さんは、bridgeの本にある「分かり合えない問題」にも触れ、分かり合えない部分がどこかを地図に広げて見ていく場を作ること自体が、バウンダリースパナーの最初の役割ではないかと解釈します。
明日からできるのは「認識する」こと
本の中での紹介について尋ねられた大長さんは、新規事業をやっていれば社内に必ずそうした役割を知らず知らず担っている人がいるはずだ、と説明します。
そういう人は必ず貴重なんで、役割として与えましょうみたいなことを本で書いてあって。
では経営や中間層は明日から何を意識すればいいのか。大長さんの答えは、まず認識することでした。
無意識にそうした活動をしている人、それが自分かもしれないし別の誰かかもしれないが、実はすごく重要なスキルでありリソースなのだと、ちゃんと認識することが第一歩だといいます。
その人がいなくなれば潤滑油がなくなってしまう。だからこそ、ちゃんとした仕事、職業機能として認知させていくことが大切だと語られています。
新規事業では「事務局」と呼ばれる人が多くいますが、その人たちは調整だけをしているのではなく、人をつないで前に進める仕事を後ろからしている。大長さんは、それをきちんと定義しておくことが重要だと締めくくります。
自他共に評価する、承認するのは大事ですね。
まとめ
この回は、新規事業を「なぜか進める人」を、キャラクターではなくスキル・役割として捉え直す対話でした。バウンダリースパナーという存在を定義し、認識し、正当に評価していくことが、イノベーションを生む組織づくりの第一歩だと語られています。
- バウンダリースパナーは、部門や組織の壁を越えて言葉や価値観を翻訳し、後ろからプロジェクトを前に進める役割
- リーダーのように求心力で引っ張るのではなく、間に立って人と人をつなぐ点でリーダーとは異なる
- 多くは人好きな性格による無意識の行動として担われ、評価制度やミッションに乗っていないのが現状の課題
- その人が辞めると組織の潤滑油が失われるため、職業機能として認識し、トップダウンで役割を与えることが求められる
- サイロ化が進む今、複数のステークホルダーをつなぐ動きは、すべてのビジネスパーソンに求められつつある






