なぜ高級レストランで「アリ」なのか
この回でカレー哲学さんが持ち出したのは、カシミールの話から一転して「アリ」の話題でした。まずは親方さんに、アリを食べたことがあるかを尋ねます。
親方はアリ食べたことあります?
何度かありますね。
親方さんは昆虫をいろいろな種類食べてきた経験から、アリは食べるハードルが低い部類だと話します。
昆虫は結構いろんな種類を食べたことがあるんですけど、その中だったら最もハードルが低い部類かなと思います。
親方さんによると、コオロギやバッタの類は、口の中に甲殻質のものが残ったり、昆虫臭さがつきまとったりするといいます。その匂いをカレー哲学さんは「お日様の匂い」と表現しますが、親方さんは「そんないいもんじゃない」と返します。
今回の主題は、ゲテモノとしての昆虫食ではなく、インドの高級レストランで出会った昆虫食です。カレー哲学さんは、2年ほど前にムンバイの高級レストランの厨房で、2か月ほどインターンとして働いていた時の話を切り出します。
その時に印象に残った料理の一つが、アリを使った料理だったんですよ。
チャッティスガルの郷土料理を再構築した一皿
そのアリ料理は、チャッティスガル ── インド中部の州。山がちで先住民族が多く暮らす地域として知られますという州で食べられている料理が元ネタになっていると、カレー哲学さんは説明します。
現地では、米をちねって丸めたパスタのような「ファラ」を、アリのチャトニ ── インド料理で添えられるペースト状やソース状の薬味。日本のふりかけや薬味に近い位置づけですにつけて食べたり、ご飯にアリのチャトニをつけて食べたりするといいます。
親方さんは、日本のコオロギラーメンのような近代のSDGs的なノリの昆虫食ではなく、イナゴの佃煮のような伝統的な食べ方なのかと確認します。
イナゴの佃煮の分解再構築みたいなものにちょっと近いかな。
具体的には、ファラに白ワインとクリームで作ったフレンチのソースのようなものをかけると、脂肪で重たくなるため酸味が欲しくなるといいます。
普通なら柑橘などで酸味を足すところを、この料理ではトーストしたアリをトッピングとして乗せることで、アリが酸味をもたらすという意味のある使い方をしていると、カレー哲学さんは話します。
味としてね、料理の完成度として普通に高かった。
口の中に甲殻質のものが残り、昆虫臭さがつきまとう
虫臭さが少なく、見た目もちいさく、酸味という点でも面白い
木の上のツムギアリを、先住民が噛まれながら収穫する
この料理に使われているのはツムギアリ ── 英語でウィーバーアント(Weaver Ants)と呼ばれるアリ。木の枝に糸で巣を作って暮らし、オセアニアや東南アジアで広く食べられていますで、木の枝に糸で巣を作って暮らす獰猛な種類だとカレー哲学さんは説明します。
インドの先住民族であるアーディバーシー ── インドの先住民族の総称。都市部から離れた山間部などで独自の生活文化を保ってきた人々を指しますの人たちは、木に登って巣を攻撃し、噛まれながら収穫するといいます。
すごいな。めっちゃ原始的だね。
ムンバイのレストランにはチャッティスガル出身のシェフがいて、直接先住民出身ではないものの、友達の友達などを経由してアリを届けてもらっていたそうです。
巣のまま60キロぐらい届くみたいな。
GI登録された郷土料理と、定期市で売られるアリのチャトニ
このアリ料理は、オディシャー州とチャッティスガル州にまたがる山奥のエリアのもので、山の中は地理的につながっているとカレー哲学さんは話します。
オディシャー州の方では、この料理がGI登録 ── 地理的表示(Geographical Indication)の登録。特定の産地と結びついた産品として保護する仕組みで、郷土料理としての公的な裏付けになりますされたといいます。政府のお墨付きがついた土地の料理として認められたことになります。
現地では「ハート」と呼ばれる定期市が週に1度開かれ、アリのチャトニが葉っぱにくるまれて、1キロ100ルピー、日本円で100円ほどで売られているそうです。
1キロは絶対いらないよな。
親方さんは、チャイのちいさい紙コップ1杯分でも多いかもしれないと話します。カレー哲学さんは、有名なイギリス人シェフのゴードン・ラムゼイも現地を訪れて食べており、話題になっているものだと補足します。
都市部では「イレギュラー」、そしてバンコクでの炎上
インドでもナガランドや山奥の先住民族系は昆虫を食べる一方、ムンバイの都市部のヒンドゥーの人たちにはアリを食べる習慣はないと、カレー哲学さんは話します。
アリとかの前にそもそも食べる食べないを結構制限してるし。
親方さんは、食のタブーが多い環境にアリを持ち込むこと自体がイレギュラーすぎると指摘します。カレー哲学さんは、だからこそそこにアリを組み込むのが先進的で面白いと考えています。
ただし、バンコクでポップアップをやった時に、パニプリ ── インドのストリートフード。中が空洞の揚げた皮に、スパイスの効いた水や具を詰めて一口で食べるスナックですにアリをトッピングしたところ炎上したと、カレー哲学さんは明かします。
パニプリを冒涜するなみたいな。
親方さんは、その気持ちもわかると受け止めます。日本でも寿司にアリが乗っていたら炎上するだろうと例えます。
イクラ軍艦の横にアリ軍艦とかあったらキレるでしょ。
食べたら意外と美味しいかもしんないけど、まずキレる人はいるよね。
親方さんは、こうした挑戦的な料理が、面白い枠組みを抜けて「美味しい」が採用理由になったら食文化として非常にいいと話します。一方で、一度ブームになるとそのイメージが染みついてしまうもったいなさもあると指摘します。
現地では食べられなくなったアリと、長野のイナゴ
カレー哲学さんがオディシャー出身の人に聞いたところ、今では他に食べるものがあるため、現地の人はアリを食べていないといいます。
この状況を、カレー哲学さんは長野のイナゴにたとえます。親方さんも、イナゴは30代の自分たちの親世代ですら縁が薄く、戦後のおじいちゃん・おばあちゃんの世代のイメージだと応じます。
カレー哲学さんのおばあちゃんはイナゴを食べており、幼い頃には一緒に収穫や佃煮づくりをしていたそうです。
秋になると田んぼにイナゴいっぱいぴょんぴょん跳ねてるから、布袋持って田んぼずかずか入っていって、手づかみで200匹300匹とか捕まえて作ってたよ。
作り方は、まず布袋に入れて糞出しをした後、熱した中華鍋に一気に入れて蓋をし、醤油と砂糖で佃煮にするというものでした。逃げ出す個体もいたといいます。
令和に生まれた子供とか、本当に縁のない話だろうな。
戦後の祖母世代は、田んぼでイナゴを手づかみで捕り、佃煮にして食べていた
食べ物が豊かになり、現地でもアリは食べられなくなり、令和の子供には縁のない話に
現地でアリの収穫を手伝う留学と博士論文
カレー哲学さんは、この秋からムンバイに長期留学する予定で、その過程で現地に行きアリの収穫を手伝ってこようと考えていると話します。
インドでアリの収穫を手伝ってみたレポートなんて探しても聞けるもんじゃないと思うので楽しみにしてます。
さらにカレー哲学さんは、その体験を真面目に博士論文に書くつもりだと明かします。番組はここで締めくくられます。
まとめ
ムンバイの高級レストランで出会ったツムギアリ料理を入り口に、インドの伝統的な昆虫食と、その可能性やもったいなさを語り合った回でした。
- ムンバイの高級レストランでは、フレンチ風のファラにトーストしたツムギアリを乗せ、酸味をもたらすトッピングとして使っていた
- この料理はチャッティスガルやオディシャーの山奥の郷土料理が元ネタで、オディシャー州ではGI登録されている
- アリは昆虫の中でも虫臭さが少なく食べるハードルが低いが、都市部やバンコクではパニプリへの使用が炎上するなど心理的な壁もある
- 祖母世代のイナゴ食のように、豊かになると伝統的な昆虫食は廃れていく側面がある
- カレー哲学さんはこの秋からムンバイに長期留学し、アリの収穫を手伝い博士論文にまとめる予定







