連続パパ活殺人事件は「取って付けた話」なのか
速水さんはまず、この回で話すのはすべて自分の思いつきで、ほぼ架空の話だと念を押します。
映画の中には、中途半端に描かれた出来事や、回収されていない設定の断片が数多く残っているといいます。
速水さんは、その断片をつなぎ合わせて「実はこんな話を作ろうとしていたのではないか」を勝手に推理していく、と宣言します。
これ本来やりたかった話に、何か途中で横槍が入ったんじゃないかなって気がするんですよ。現場がこうやろうとして作ってた話を、上が潰してしまうっていう。
速水さんは声を潰した状態で、一日半かけて声を復活させてから収録に臨んだと明かします。一日でも早くこの話を録音したいという執念があった、と語ります。
今回の映画でメインに描かれる事件は、連続パパ活殺人事件です。ただし速水さんは、これが取って付けたような話にしかなっていないと感じたといいます。
本編での事件の経緯はこうです。最初は麻布中央署の管轄内、ホテルの一室で男性がマスクをしたまま改造拳銃で頭を撃ち抜かれて発見されます。現場にはパーティーの痕跡が残されていました。
間を置かず、次の事件が浅草のホテルで起こります。同じような状態の男が発見され、警視庁は同一犯の犯行として捜査本部を立ち上げます。
速水さんは、この捜査本部を立ち上げる場面のテンションの低さが気になったといいます。シリーズが一番盛り上がるはずの場面なのに、スタッフの気が入っていないように見えた、という指摘です。
捜査本部立ち上げるなんて、このドラマの一番盛り上がるところじゃんっていう。
捜査はすぐ行き詰まります。証拠も怨恨の線もなく、目撃証言も「若い女」程度で見当がつきません。若い捜査班からパパ活ではないかという意見が出ますが、初対面の相手を殺す動機としてはピンとこないまま、話がぼやけて進んでいきます。
第一の事件
麻布中央署管轄のホテルで、男性が改造拳銃で射殺される。パーティーの痕跡あり
捜査本部の設置
浅草で第二の事件。同一犯として警視庁が捜査本部を立ち上げる
捜査の行き詰まり
証拠も怨恨もなく、目撃証言は「若い女」程度で見当がつかない
パパ活説の浮上
若い捜査班がパパ活を疑うが、動機として弱いまま話が進む
麻布のホテルが地方のビジネスホテルに見える理由
速水さんはパパ活という捜査の流れそのものに疑問を持ちます。そもそもこれはパパ活の話ではなかったのではないか、というのが推論の出発点です。
根拠は最初の現場です。麻布のホテルのスイートルームでパーティーが開かれていた設定なのに、映るホテルの外観がどう見ても地方都市の老舗ビジネスホテルのようだった、と速水さんは指摘します。
これどう見ても地方都市の老舗ビジネスホテルみたいな外観なの。
速水さんは、六本木のホテルのスイートで男性が一人殺された事件なら、まず疑うのはギャラ飲み ── 男性が女性に報酬を払って飲み会に同席してもらう遊び方。パパ活とは別の文脈で語られることが多い言葉ですではないか、と考えます。
そして、ギャラ飲みなら港区女子の話へ進むのが自然だといいます。それなのに、そうならずにパパ活へと話が向かう。ここに、パパ活にしなければならない理由があったのではないか、と速水さんは推測します。
犯人は「緩やかに連帯した若い女性たち」だったのでは
ここから速水さんは、大胆に犯人像を推理します。映画で描かれた犯人像は後付けで、当初は違う設定だったのではないか、というものです。
当初の設定としてイメージするのは、パパ活、港区女子・ギャラ飲み、トー横界隈 ── 新宿・歌舞伎町の一角に集まる若者たちを指す言葉。行き場のない若者が集まる場所として語られますといった、直接はつながっていない若い女性たちです。
速水さんの推論では、彼女たちが緩やかな目的でつながり、パーティーを開くお金持ちのおじさんたちを次々に殺していく話だったのではないか、といいます。
その動機として速水さんが挙げるのが、闇バイトを論じる際によく言われる「世代間の富の移転」という見方です。これは闇バイトを肯定する話ではない、と速水さんは断ります。
現代社会では富の大半が65歳以上に集中し、家賃の高さや学歴社会の固定化などで富の移転が起きにくくなっている、と速水さんは説明します。その中で、脱法的なことをしないと豊かになれず、闇バイトが実質的に富の世代間移転を代行しているのではないか、という説です。
速水さんは、ギャラ飲みも犯罪性のない富の移転に近い側面があるとし、それをエスカレートさせた犯罪集団という設定なら、若者のたまった怒りを代行するイメージとして説得力がある、と語ります。
『レインボーブリッジを封鎖せよ』の犯人像との重なり
速水さんは、この推論には根拠があるといいます。2003年公開の劇場版『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の犯人像です。
劇場版2の犯人は5人組で、お互いに目的だけを共有した緩やかな連帯に基づいて犯行に及びます。全員30代のバブル世代で、リストラされた世代の「捨て石感」を連帯の材料にしていた、と速水さんは振り返ります。
速水さんによれば、この集団は特定のリーダーを持たず、局面ごとに各自が判断を下せる点が特徴でした。殺したい相手を交換しながら殺人を進め、リーダー不在ゆえに警察はなかなかたどり着けなかったといいます。
速水さんは、この集団が警察組織の写し鏡、まるで逆の存在として描かれていた点に注目します。トップダウンの警察に対し、リーダーのいないグループが裏をかいていく構図です。
トップダウン。上層部の判断で動き、現場は指示を待つ
リーダー不在。局面ごとに各自が判断し、目的だけを共有して裏をかく
速水さんは、今作はこの劇場版2を翻案しようとしたのではないか、と推理します。トー横界隈、パパ活界隈、ギャラ飲み界隈という直接つながらない層が、「金持ちのおじさんに翻弄されておかしくない?」という緩やかな連帯で事件を起こす。これならギリギリ成立するのではないか、という見立てです。
Palantirを思わせる監視AIという二作目のアップデート
速水さんは、劇場版2にはもう一つ、テクノロジーの要素が描かれていたと指摘します。お台場全体に敷き詰められた監視カメラを、公安の上層部だけが見られるという設定です。このテクノロジーは現場にも国民にも知らされないまま導入されていました。
これとほとんど同じ設定が今作にも出てくる、と速水さんはいいます。監視カメラやSNSの情報を集め、特定人物の行動を遡って追跡し、これから起こる犯行まで予測できるAIの捜査システムです。
速水さんは、このシステムがPalantir ── アメリカのデータ分析企業。軍や治安機関向けの分析システムで知られますの「Gotham」を連想させると述べます。それを警察が現場に秘密で導入しようとしている、という構図です。
ほとんどPalantirのGothamを連想させるシステム、それを警察が現場には秘密で導入しようとしている。
速水さんは、今回も既存の犯罪組織を超えた存在が現れ、警察は対応できず、上層部の導入するテクノロジーがそれに対抗する話だと整理します。そして、これは劇場版2のアップデート版をやろうとしたのではないか、と推理します。
なぜ地味なシーンになったのか。フジテレビの横槍という推論
速水さんは、パパ活ではなくギャラ飲みや港区女子の話なら、六本木の高級ホテルのスイートで金のかかったパーティーの場面が出てくるはずだと考えます。Netflixならなおさら、夜景だけで六本木とわかる画が使われるだろう、と語ります。
ところが実際は、地方都市の老舗ビジネスホテルのような外観の地味なシーンになっていた。ここに速水さんは、フジテレビの作品という事情を重ねます。
速水さんの見立てでは、一連の文春の報道でイメージが悪化した六本木のホテル側が、フジテレビの作品に撮影を貸すはずがない。そもそも、そうしたシーンを撮ること自体に社内でコンプライアンス上の横槍が入るのではないか、といいます。
フジテレビの作品ってなったら、今ホテル側が撮影に使わせてくれるわけがないよね。
そのため、ギャラ飲みや港区女子的な話は割愛せざるを得なかったのではないか。これが速水さんの「推論一」です。
第三者委員会の場面は現場が「戦いすぎた」のか
速水さんは、この映画には言い逃れできない場面があると指摘します。ユースケ・サンタマリアが演じる真下正義のある出来事が問題化し、第三者委員会が設置されて追及される場面です。
速水さんによれば、真下が何をやったかも記憶に残らないほどどうでもいいくだりですが、明らかにフジテレビの置かれた状況をパロディにしたシーンだといいます。
ただし速水さんは、上層部から見れば「現場は何をやっているのか」という話にもなる、と補足します。これはさすがに現場も戦いすぎたのではないか、横槍が入るだろう、という感想です。
これはちょっとさすがに現場も戦いすぎたかなっていう気がしました。横槍入るわっていう。
速水さんが想像する新作は、こうです。緩やかにつながった港区女子やトー横女子の界隈が、ホテルでパーティーをする男性を次々に狙う。犯人同士のつながりが見えず捜査は難航し、秘密裏に導入されたAIが次の標的を割り出して青島が駆けつける。過去作のオマージュの連続だとしても、この映画では問題ないだろう、と語ります。
青島の疑問が示すもう一つの筋。ロッキード事件のような展開
映画には、青島が捜査に使われるAIの存在にひょんなことから気づき、市民のプライバシーはどうなっているのかと疑問を持つ場面があります。速水さんは、これは大事な話だといいます。
速水さんは、この青島の疑問こそがもう一つの重要な筋だったのではないか、と推理します。警察が秘密裏にAI導入を進める背景に、アメリカのテック系企業や日本の防衛省がいて、青島には強大すぎる相手として立ちはだかる、という展開です。
速水さんの推論では、冒頭に登場したFBI捜査官は実はPalantirのような会社の営業で、警察の裏側と結びついている。それを日本の防衛品目として輸入しようとする、ロッキード事件 ── 1970年代に発覚した、航空機の売り込みをめぐる大型汚職事件。政治家を巻き込んだ疑獄として知られますのような展開に青島が巻き込まれていく、という筋書きです。
ただし速水さんは、このシリーズには現役の防衛大臣の兄弟が幹部役で出ていた気がすると述べ、ここでも「横槍が入るか」と苦笑します。元々やりたかったプロットがいろいろできなかったのは確かだろう、というのが推論のまとめです。
速水さんは、Palantirの仕組みを真似する題材としてはタイミングが早すぎるとも指摘します。Palantirのシステムは今年のアメリカとイランの戦争でようやく注目された程度で、それをかなり早く扱おうとしていたことになる、と語ります。
つまらなくても光る、オフィスと孤独な青島の描写
速水さんは、映画そのものはつまらなかったとしつつ、事件よりもオフィスの場面に面白さがあったといいます。
象徴的なのが捜査会議の場面です。誰かが報告するたびに「グループウェアで共有してください」と止められ、この会議は何のためにあるのかと新しい刑事役の趣里が怒ります。現実の会社にもある光景で、ここは相変わらず「会社の今」を描く踊るらしさがあった、と速水さんは評価します。
この会議って何のためにやってるの?
青島の職場は湾岸署から警視庁に変わり、デスクはフリーアドレス制になっています。速水さんは、青島の周囲だけいつも誰もいない点に注目します。
描かれてはいないものの、青島の近くに座ると話しかけられて仕事にならないから避けられているのだろう、と速水さんは想像します。実際の会社にもそういう人がいそうだ、という指摘です。
速水さんは、走る青島よりも、事務仕事をしてもすぐ飽きてしまう青島の表現のほうが好きだといいます。昔の湾岸署にはおしゃべりに付き合う同僚がいたのに、今の警視庁には誰もいない、その孤独な姿が寂しいと語ります。
向かいの席のカップラーメンが示すスミレさんの不在
速水さんは、青島の向かいの席にカップラーメンが置かれている演出に触れます。これはスミレさんの居場所を示すものだといいます。
速水さんの読み解きでは、青島がいつもカップラーメンを持ってきているというより、映画を見る観客が青島のデスクワークの後ろにスミレさんの姿を見ている、ということです。
映画を見てるみんなが、青島のデスクワークの後ろにスミレさん見てるんだよね。
速水さんは、制作スタッフが「誰もスミレさんを忘れていない」と示す合図だとすれば、しみじみくると語ります。同僚も誰もいない青島の孤独と重なって、なおさら心に残るといいます。
その上で速水さんは、だったらスミレさんが戻ってきたくなるような映画にしてほしいという気持ちもある、と本音を添えます。
ラストのアポロ13が示す、撮影現場そのものの物語
速水さんは、映画のラストの数分がすごく良かったと評価します。ネタバレは避けつつ、そこに出てくるタクシーに注目します。
そのタクシーはアポロタクシーの13号車で、アポロ13号を指しています。踊るファンなら見逃さない合図だ、と速水さんはいいます。
速水さんは、アポロ13 ── 1970年のアメリカの月探査計画。事故で月面着陸を断念しながら、地上と乗員の協力で全員が生還しました。トム・ハンクス主演で映画化されていますのあらすじを重ねます。酸素タンクの破損で月面着陸を断念しながら、宇宙飛行士と地上の管制スタッフが協力し、全員でなんとか地球に帰還する話です。
速水さんは、この映画の撮影現場で起きたことこそ、まさにアポロ13だった可能性があると語ります。よく生還できた、という感慨です。
速水さんは、映画は破綻だらけだったとしても、青島が帰ってくるべき場所に帰ってきて、最後に地球へ戻ってきたのだからいい、と締めくくります。
まとめ
速水さんは、映画『踊る大捜査線 N.E.W.』の出来の悪さを、残された不自然な断片から「本来のプロットと現場への横槍」として推理しました。あくまで勝手な思いつきと断りつつ、劇場版2との重なりやフジテレビの状況を手がかりに、作品の裏側を読み解いていく回です。
- 連続パパ活殺人という事件は、本来はギャラ飲みや港区女子を含む若い女性たちの緩やかな連帯による犯行だったのではないか、と推理する
- 犯人像も監視AIも、2003年の劇場版2『レインボーブリッジを封鎖せよ!』のアップデート版として構想されたのではないかと見る
- 地味な撮影や第三者委員会のパロディ場面に、フジテレビの状況とコンプライアンス上の横槍を読み取る
- 事件よりも、グループウェアで止められる会議や孤独な青島などオフィス描写に踊るらしさを見出す
- 向かいの席のカップラーメンとラストのアポロ13号に、スミレさんの不在と「現場の生還」という物語を読み取る






