「シフト制」は労働基準法に定義がない
今回のテーマは「いわゆるシフト制とは」です。前編にあたる基礎編として、シフト制の定義や仕組みが解説されています。
吉田さんはまず、意外な事実を指摘します。労働基準法の中に「シフト制とはこういうものである」という規定は、おそらく存在しないという点です。
ちょっとこれ間違いだったらごめんなさいなんですけど、労働基準法の中にシフト制とはこういうものであるみたいなことは規定されてないはずです。
一方で、1ヶ月単位の変形労働時間制やフレックスタイム制度などは、労働基準法にきちんと規定されています。シフト制はそれらと並ぶ制度として法律に書かれているわけではありません。
それでも、世の中には「うちの会社はシフト制」と話す人が非常に多く、言葉としてはむしろ労働基準法の専門用語より広まっていると吉田さんは話します。
通常の労働時間制と何が違うのか
シフト制を理解するには、まずシフト制ではない「通常の労働時間制」を押さえるのが早いと吉田さんは説明します。
通常の労働時間制は、土日祝日が休みで、平日に朝9時から18時まで働くといった形が決まっているものです。契約した時点で、いつ休みで何時に出勤すればよいかがわかる点が特徴です。
これに対してシフト制は、働き方の枠だけが曖昧に決まったうえで、具体的な勤務日や勤務時間は後から知らされる仕組みです。
あなたフルタイムの人ですとか、週3回勤務する人ですとか、大体1日5時間ぐらい勤務する人ですとかっていうのが曖昧に決まった上で、実際の労働日がシフトで決まるっていうのがシフト制です。
たとえば8月中旬の時点では、9月1日から30日までの出勤日はわかりません。8月25日ごろに翌月のシフトが出て、初めて何日に何時から働くかがわかる、という流れになります。
契約時点で休みと勤務時間が確定している。例: 土日祝休み、平日9時〜18時
働く枠だけ決まり、具体的な勤務日・時間は後から出るシフトで確定する
シフト制と変形労働時間制の関係
吉田さんは、シフト制と1ヶ月単位の変形労働時間制の関係について注意を促します。両者は親和性が高いものの、イコールではありません。
1ヶ月単位の変形労働時間制を導入しているところは大体シフト制で、シフト制のところは変形労働時間制を適用しているケースが多い、と説明されています。
ただし、9時から18時と時間が決まっていて変形労働時間制を適用していなくても、出勤日だけシフトで決まる、というケースもあります。この2つを混同しないよう注意が呼びかけられています。
その違いは、導入に必要な手続きにも表れます。シフト制だけを入れたい場合は、変形労働時間制のように労使協定書や就業規則への定めが必ず必要になるわけではありません。
「シフトによる」という一言が生むトラブル
吉田さんは、シフト制を良くも悪くも不正の温床になりうる仕組みだと表現します。
実務では、飲食店や小売店のアルバイトなどで、労働条件通知書に時給や契約期間は書かれているのに、肝心の労働時間と労働日が書かれていないことがあると言います。
何て書いてあるかっていうと、シフトによるっていうこの一言だけしか書いてなくて、何日出勤なのかわかんないんです。
この曖昧さが、実務でさまざまな問題を生みます。吉田さんは、会社都合でシフトを変える2つのパターンを挙げます。
1つ目は、人手不足を理由に、週3の約束で入ってきた人を週4のシフトにするパターンです。2つ目は、売上が芳しくないからと、本来週3の人を週2に削ってしまう、より身勝手なパターンです。
吉田さんは、どちらも良くないとしたうえで、まだ悪くないほうから話を進めます。シフトを増やす前者は、時間外労働の命令を就業規則などにきちんと盛り込んでおけば、合法的に命じることができるはずだと説明します。
ただし、短時間労働者には、家庭など他の事情でフルタイムをあえて選んでいない人が多いという事情があります。恒常的にたくさん働かせてしまえば、続けられないという話になりかねません。
契約がわかりにくいのを逆手にとって、人手不足解消のために働かせる経営者もいるものの、それは良くない、というのが吉田さんの指摘です。
シフトを削って辞めさせる行為のリスク
吉田さんが「本当に悪いことの極み」と表現するのが、経営者が労働者との関係悪化や能力不足を理由にシフトを削るパターンです。
たとえば、この人がシフトに入ると店舗がうまく回らないから、週3だったのを週2、週1と減らし、気づいたらシフトを削って辞めさせよう、という考え方です。吉田さんは、これは大きなリスクがあると警告します。
なぜなら、シフトを削ってその通りに働かせたからといって、会社にトラブルがないわけではないからです。
たとえば「週3で入る」というやり取りがメールに残っていたり、労働者本人が記録していたりすることがあります。その状態で会社都合で日数を減らすと、差分について賃金を請求されるおそれがあります。
週3日で入る約束だったのに週2日しか入れてないっていうんだったら、残り1日は私(給料を)受け取れるはずですっていうふうな形で裁判とか起こされると会社はかなり不利だったはずです。
裁判にならなくても、労働基準監督署に相談されれば、休業手当や給料を支払っていないとして行政指導の対象になるはずだ、と吉田さんは述べます。
吉田さんは、能力不足なら改善のための教育を、態度が悪いなら注意指導をすべきだと話します。シフトを削るという間接的な行為で退職に追い込むのはリスクが高いため、やめたほうがよいと結論づけています。
「シフトによる」を好む経営者への問いかけ
吉田さんは、「シフトによる」という曖昧な約束を好む経営者に対して、労務管理のプロとしての視点から強く問いかけます。
シフトによるっていう曖昧な約束しかしてない経営者の人に言いたいのは、これって本来の経営管理のあり方からすると、経営するつもりがないんじゃないかなって(労務管理のプロから)見えてますよって話です。
その理由として吉田さんは、飲食店や小売店の経営管理の仕組みを挙げます。目標の売上があり、そこから原材料費や人件費が予定として組まれ、その通りに進むから継続的に利益が出て会社が発展していく、という考え方です。
店舗運営には、多すぎず少なすぎない適切な人員配置が欠かせません。人が多すぎれば余剰人員で赤字になり、少なすぎればサービスが低下して顧客の不満につながります。
だからこそ、過不足なく人員を配置したいと考えるのが、本当に優秀な経営者の発想だと吉田さんは説明します。
従業員ごとに約束
週3、週2、週4など、各スタッフと明確な勤務日数を約束する
予定通りの出勤
その約束通りに出勤し、店舗のシフトが過不足なく埋まる
予定通りの損益
売上・原材料費・人件費が予定通りになり、利益が出る
会社が続く
継続的に利益が出るため、会社が永続的に発展していく
吉田さんは、「シフトによる」を好む気持ちはわかるとしつつも、明確な約束を取り付けて、その通りに出勤させる体制を目指したほうがよいと締めくくっています。
まとめ
「シフト制」は言葉として広く使われていますが、労働基準法に定義がある制度ではありません。曖昧な「シフトによる」という約束は、増減どちらの方向でもトラブルの火種になりえます。吉田さんは、原因に直接向き合うことと、明確な約束にもとづく人員配置こそが、労務リスクを避け会社を続かせる道だと話しています。
- シフト制は労働基準法に定義された制度ではなく、一般に使われる呼び方である
- 通常の労働時間制は契約時点で勤務が確定するが、シフト制は後から出るシフトで確定する
- シフト制と1ヶ月単位の変形労働時間制は親和性が高いが、イコールではない
- 会社都合でシフトを一方的に減らすと、賃金請求や行政指導のリスクがある
- 能力や態度の問題は教育・指導で対応し、明確な約束にもとづく人員配置を目指すべき


