曖昧な「シフトによる」がなぜトラブルの火種になるのか
今回のエピソードは、シフト制の実務編です。前編では、雇用契約書や労働条件通知書に「シフトによる」と曖昧に書いて働いているケースが多い、という話をしていました。
吉田さんは、この曖昧さには一定のリスクがあり、実際にトラブルの原因になりやすいと指摘します。今回はその具体的な論点を掘り下げていきます。
前提として吉田さんが紹介したのが、厚生労働省が出した留意事項です。番組内では「2026年の6月の厚生労働省の資料」という言い方がされています。いわゆるシフト制についての留意事項 ── 厚生労働省が示した、シフト制で働く労働者の適切な雇用管理のための指針。有給の管理や労働条件通知書への記載などについて触れている。「いわゆるシフト制について」で検索すると厚労省のサイトにたどり着く。
いわゆるシフト制について、とかで検索すれば厚生労働省のサイトに行き着くと思います。
この留意事項には、有給の管理をどうするか、労働条件通知書に始業終業時刻をきちんと書くべき、といった内容が書かれていると説明されています。当たり前に見えることでも、明文化された意味は大きいという整理です。
シフト制の有給休暇、順序を逆にして人手不足を防ぐ現場の工夫
吉田さんがまず実務上の問題としてあげたのが、有給休暇です。素直な手順でシフト制の有給を運用すると、思わぬ人手不足が起きると説明します。
素直な順序というのは、先にシフトを組み、労働者が権利としてその後に有給を使うという流れです。すると、有給を取った日がそのまま人手不足になってしまいます。
これを避けるため、飲食や小売の現場では順序を逆にしていることが多い、と吉田さんは言います。シフトが決まる前に、有給を使いたい日を先に募集する方法です。
その希望日を前提にして他のアルバイトスタッフを集めれば、労働者は有給で休めて、会社側も事前に人繰りができ、人手不足になりにくいという整理です。
先にシフトを組み、その後に労働者が有給を使う。使った日がそのまま人手不足になる
シフトが決まる前に有給希望日を募集し、その日を前提に他のスタッフを集める
シフトが決まった後の有給申請、拒否すると会社が不利になる
現場の工夫として先に有給を募集していても、シフトが決まった後から「有給を使いたい」と申し出る人は出てきます。ここで会社が絶対にやってはいけない対応がある、と吉田さんは念を押します。
やってはいけないのは、「うちはシフトが決まる前に有給を集めているので、その後に言ってきた有給は使えません」と断ってしまうことです。これは有給の権利を阻害していることになります。
それは有給の権利を阻害しているということになるので、裁判とか行政の調査とかになった時にはかなり会社側に不利です。
店舗運営やシフト管理は大変でも、後から出てきた有給の申請は受けるしかない、というのが吉田さんの見立てです。回らない分をどう埋めるかは、法律が想定する形があると続けます。
そこで出てくるのが管理監督者や正社員だと吉田さんは説明します。管理職や正社員が現場に出たり残業して穴を埋めるのが、労働基準法が想定している世界観だという整理です。管理監督者 ── 労働基準法上、労働時間などの規制が一部適用されない立場の管理職。経営者と一体的な立場にある人を指し、肩書きだけで判断されるわけではない。
「夏休みは入りたい」「テスト前は入りたくない」への向き合い方
「シフトによる」という曖昧さから生まれる別の論点として、学生アルバイトの希望があると吉田さんは言います。「夏休みだからたくさん入りたい」「テスト前だから入りたくない」といった申し出です。
こうした交渉をすること自体は自由です。ただ本来は契約内容としてシフトが決まっているので、会社が「夏休みだから入りたい」を必ず飲む義務はなく、「テスト前だから入りたくない」を飲む義務もない、と吉田さんは整理します。
むしろ会社側は「約束なのだから来てください」と言えるはずだ、というのが法律上の建前です。ただ現実にはどこも人手不足なので、どこまで融通を利かせるかを会社の中であらかじめ決めておいた方がいいと吉田さんは勧めます。
あらかじめルールを決めておかないと、公平性の問題が起きると吉田さんは指摘します。わがままな人が「たくさん入りたい」と主張する一方で、真面目な人が我慢してシフトを埋めたり、逆に削られたりして不利益を被る構図です。
その結果、真面目な人ほど「この会社は平等性がない」と感じて辞めてしまう、と吉田さんは言います。だからこそ、どの範囲で融通を認めるのかをルール化しておくべきだ、という主張です。
会社都合でシフトを削る、その一言が賃金請求のリスクになる
ここからは、労働者側ではなく会社がやりがちな問題です。一度決まったシフトを、会社都合で休ませたり短縮したりするケースがあると吉田さんは言います。
具体例として、台風で客足が鈍りそうだから「今日はお休みでいいよ」と休ませる、あるいは客が全員帰ったから早めに上がらせる、といった場面があげられました。どちらも給料を払っていないケースが多いといいます。
しかしこれは、労働者から見れば話が違います。本来なら働ける健康状態でやる気もあったのだから、給料はもらえるはずだ、と主張されると会社は不利な立場になる、というのが吉田さんの見立てです。
会社の都合でシフトを削ったりとか短縮したりとかっていうのは、休業手当とか賃金そのもの100パーセント請求されるリスクがあるんでご注意ください。
対応として吉田さんが勧めたのが、頼み方です。客が早く帰ってシフトを短縮したい場合でも、「早く帰れ」と偉そうに言うのではなく、丁重にお願いして合意の上で短縮されたと説明できるようにした方がいいといいます。ただし、それでもリスクはゼロではないと付け加えています。
問題社員のシフトを削って辞めさせる、その手法が危ない理由
前編でも触れた「やめた方がいい」対応として、吉田さんは問題社員への対処をあげます。パフォーマンスが出ていない人や問題行動を起こす人のシフトを削り、退職に追い込む手法です。
これがなぜ危ないかというと、まず契約であるためシフトを削った部分の賃金を請求されるリスクがあります。さらにそのまま退職になれば、退職の事実自体に違法性があるのではないか、合意がないのではないか、という争いにもなり得ると吉田さんは説明します。
吉田さんは、緊急回避的にパワハラ社員などへ使う気持ちは理解できるとしつつ、基本的な対応は別だと整理します。能力不足なら教育、問題行動なら注意指導というのが筋だという主張です。
長年の悩み、シフト制の有給付与日数はどう決めるのか
最後に取り上げられたのが、シフト制労働者の有給休暇の付与日数です。これはずっと悩みの種だったと吉田さんは言います。
前提として、有給休暇の日数は、有給が付与される日の契約日数で決まります。そして週の勤務日数が少ない人向けに比例付与という仕組みがあります。比例付与 ── 週の所定労働日数が少ないパートなどに、勤務日数に応じて有給を付与する仕組み。週5勤務の人が半年で10日付与されるのに対し、少ない日数の人はそれに比例した日数になる。
たとえば週5で働く人は半年で10日付与されますが、週2しか働かない人はおおよそその半分になります。切り上げや切り捨ての計算式はあるものの、働く日数に応じて有給日数も比例させ、公平性を保つルールです。
問題は、「シフトによる」という働き方だと、その人が週何日の人なのかがよくわからない点でした。ここが長年の悩みだったと吉田さんは振り返ります。
この点について、6月の留意事項で考え方が明記されたといいます。入社から半年間は、実際に働いた労働日の日数で決めてよい、という考え方が示されました。
半年以降は1年ごとに有給が付与されるため、その1年間に実際に働いた日数から週の契約日数を推定して付与する形になります。有給付与日数の表に照らし、たとえば週1相当なら年48日以上72日まで、といった区分で判断していくと説明されました。
吉田さんは、実務では以前からこうした過去の実績で判断していたと明かします。決まりがない以上、過去の実績で判断するしかなかったものが、厚労省としてはっきり示されたことで、今後はよりやりやすくなるという受け止めです。
曖昧なまま始めない、週何日で働くかを決めておく大切さ
まとめとして吉田さんは、シフト制にはグレーゾーンが多いと改めて整理します。一方で「これは絶対にやめた方がいい」というNG行為もあり、有給付与日数のように不明だった点は6月の資料で判断できるようになった、と述べます。
そのうえで前編に続けて強調したのが、出発点の置き方です。「シフト制だから本来はわからない」から始めるのではなく、それぞれのスタッフが週何日働くのかを決めておくべきだという主張です。
理由は人件費管理です。週の勤務日数が決まっていないと人件費の管理ができず、働く側も想定年収を考えにくくなります。だからこそ、週何日・何時間働いてもらうのかを決めておくのが望ましい、と締めくくりました。
まとめ
シフト制は「シフトによる」という曖昧さがトラブルの火種になりやすい働き方です。有給の運用、会社都合のシフト削減、有給付与日数といった実務の論点を、厚労省の留意事項もふまえて整理する回でした。
- シフト制の有給は、先に希望日を募集してからシフトを組むと人手不足を防ぎやすい
- シフト確定後の有給申請を拒否すると、有給の権利阻害として会社が不利になる
- 会社都合でシフトを削る・短縮すると、休業手当や賃金を100パーセント請求されるリスクがある
- 問題社員はシフト削減で辞めさせず、能力不足は教育、問題行動は注意指導で対応する
- 有給付与日数は、6月の留意事項で実際に働いた日数から推定する考え方が示された


