そもそも「時短勤務」とは何か
今週のテーマは「汎用時短のおすすめ」です。本題に入る前に、吉田さんはまず時短勤務そのものの説明から始めます。
時短勤務とは、フルタイムの勤務時間を短くして働く形のことです。1日の法定労働時間 ── 労働基準法で定められた労働時間の上限。原則1日8時間、週40時間とされ、多くの会社がこれに合わせて勤務時間を設定している。は8時間と決まっているため、多くの会社が1日8時間を所定労働時間としています。
原則からいえば、8時間契約なら毎日8時間働く必要があります。しかし法律で一定の条件に該当すると、本人が申し出た場合に6時間勤務を認めなければならない、というルールがあります。これが一般的に時短勤務と呼ばれるものです。
その根拠となるのが育児介護休業法 ── 育児や介護をしながら働く人を支援するための法律。所定労働時間の短縮措置(時短勤務)などを事業主に義務づけている。です。小さな子どもを育てている、家族に要介護状態の人がいるといった状態で、会社に申し出れば、8時間契約の人でも6時間勤務で約束を守ったことになる、と吉田さんは説明します。
多くの会社は時短を「消極的に」運用している
では、多くの会社は時短勤務をどう運用しているのか。吉田さんは、中小企業経営者の本音として、消極的な運用が実態だと指摘します。
育児介護休業法で時短勤務が定められているから、仕方なく就業規則や育児介護休業規定に書き、本人から申し出があれば認める。そうした受け身の形で運用している会社がほとんどだといいます。
これに対して吉田さんは、あえて「汎用時短」を導入することも、会社にとっての人事戦略としてありなのではないか、と提案します。
理由を問わない「汎用時短」という発想
汎用時短とは何か。法律で要請されているのは育児や介護を理由とした時短ですが、汎用時短は理由を問いません。本人が時短したいと言えば、どんな理由であっても時短できる制度だと吉田さんはイメージしています。
どういう理由であったとしても、本人が時短したいですって言えば時短できる、そんな制度だとイメージしてます。
具体例として吉田さんが挙げるのは、資格試験に集中したい、体調が良くない、といった理由です。そうした事情で8時間勤務が厳しいなら、この半年間は時短にしたいと申し出て、会社が就業規則に書いてOKを出せば時短になる。それを公式制度として入れてはどうか、というのが提案の中身です。
法律は育児と介護という2大テーマに義務を課していますが、今の時代はさまざまな人にさまざまな背景があります。学び直しで大学に通いたい人、ボランティアや人助けに時間を使いたい人もいるはずだ、と吉田さんは言います。
そうした事情はむしろ良いことなのだから、8時間ではなく6時間で働きたいという人がいたときに、時短させてあげてもいいのではないか、というのが吉田さんの考えです。
汎用時短のメリットは「安心」と「粘り強さ」
ここから吉田さんは、汎用時短のメリットとデメリットを順に整理していきます。まずはメリットからです。
1つ目のメリットは、安心して働けることです。体力的に8時間が厳しくなってきたときや、少し気乗りしないときでも、時短制度を利用すれば働き続けられる。それが認められれば、社員は安心して働けます。
安心して働けることは、採用のブランディングになります。会社の採用力の向上や、離職率の低下につながる、と吉田さんは話します。
2つ目のメリットは、組織が退職や休職に強くなることです。汎用時短を前提とすると、たとえば100人いれば10人は時短しているかもしれない、という発想で人材を配置します。業務が適正量になるよう採用・配置するため、スタッフの頭数は増えます。
頭数が増えると、退職や休職で人がいなくなったときに組織が崩壊しにくくなります。30人の会社から1人抜けるのと、3人の会社から1人抜けるのとでは、インパクトがまるで違うからです。
汎用時短を前提とする会社は人数が多いはずなので、1人の退職や欠勤のインパクトが小さくなります。離職率も低く作業力もあるため、粘り強さのある強い組織ができるのではないか、と吉田さんはまとめます。
見落としがちな汎用時短のデメリット
一方で、汎用時短には当然デメリットもあります。吉田さんは4つの観点から注意点を挙げていきます。
1つ目は、6時間でやれる業務設計にしなければならない点です。8時間が6時間になったからといって、仕事量を単純に8分の6にすればいい、というほど簡単ではありません。
吉田さんは、完成すれば1万円で売れるものを例にします。進捗率75%だからといって7500円で売れるほど甘くはない、というわけです。だからこそ、6時間でもできるような業務設計が必要になります。
2つ目は、周囲との人間関係のリスクです。就業規則に書いて会社が説明すれば文句は出にくいものの、他の人から見て正当と思えない理由で汎用時短を使うと、その人の業務が他の人に回ります。結果として陰口を言われるようなリスクもあると吉田さんは指摘します。
3つ目は、財政コストです。メリットとして挙げた「頭数が増える」ことの裏返しで、人が増えればパソコンやクラウドサービスのアカウント費用がかかります。賞与面談やワンオンワン、昇給面談などの回数も増え、人事労務の管理コストもかさみます。
4つ目はややマニアックな論点として、固定残業代 ── あらかじめ一定時間分の残業代を固定の手当として給与に含めて支払う仕組み。みなし残業代とも呼ばれる。との相性の悪さを挙げます。正社員フルタイムに固定残業代をつけている会社では、時短勤務者にも固定残業手当を支給すべきか、という相談がよくあるといいます。
最終的には就業規則の規定次第ですが、固定残業手当を含めて年収の労働条件としている会社が多いため、経営者は手当を減らしたがり、社員はもらえる前提で考えます。ここで労使間の対立になりやすい、と吉田さんは説明します。
固定残業手当をつけている会社は、時短勤務入れるんだったら、ちゃんと議論して入れた方がいいと思います。
汎用時短がおすすめな業種はどこか
最後に吉田さんは、どんな業種や会社に汎用時短が向いているかを話してまとめに入ります。
まず最初におすすめするのは士業事務所です。士業事務所は資格ありきの世界で、資格がないとお客さんから信頼されにくく、社内での存在感も出にくい印象がある、と吉田さんは言います。
無資格の人を否定するわけではないと断ったうえで、資格を取るという士業事務所の風土であれば、汎用時短を定めて資格試験に集中できる環境をつくることが、採用面で有利になると話します。
もう1つは意外な例として建設業・建築業を挙げます。ただし現場ではなく、裏の設計業務です。設計業務も士業事務所と同じく資格ありきで、建築士の資格の有無でキャリアや年収が大きく変わるためです。
試験に集中できる環境がありますよという点を売りにして採用することが、設計事務所などでは一つの強みになる、と吉田さんはまとめます。
まとめ
汎用時短は、育児や介護に限らず理由を問わず時短を認める制度で、採用力や組織の粘り強さにつながる一方、業務設計やコスト、固定残業代との調整といった課題もあります。吉田さんはメリットとデメリットを十分に考えてから導入するよう呼びかけています。
- 時短勤務は法律上、育児介護休業法で育児・介護を理由とする場合に義務づけられている
- 汎用時短は理由を問わず本人の申し出で時短を認める、会社独自の公式制度という発想
- メリットは安心して働ける採用ブランディングと、頭数が増えることによる退職・休職への強さ
- デメリットは6時間前提の業務設計、人間関係リスク、財政・管理コスト、固定残業代との相性の悪さ
- 資格ありきの士業事務所や建設業の設計業務は、試験に集中できる環境として汎用時短と相性がよい






