ドバイ拠点でユーラシア大陸を回る共同創業者の正体
番組はゲストにAlpaca共同創業者・CPOの原田均さんを迎えて始まります。原田さんは普段ドバイを拠点に活動しているといいます。
原田さんはAlpacaを横田さんとの2人でアメリカで創業しました。AlpacaはAPIファースト証券 ── プログラムから証券取引を呼び出せるAPIを軸に設計された証券会社。アプリやサービス側は自前でライセンスや金融インフラを持たなくても、株取引の機能を組み込めるという形の会社です。
Alpacaは、APIファーストの証券会社という形で始めて。お客さんが今もう300、400社ぐらい、世界中で。40カ国50カ国ぐらいあるので。
顧客の広がりは、中東、アジアを含むユーラシア大陸全般に及ぶといいます。市場を語るときにあまり聞かない括りです。
トルコあるし、タイもあるし、インドもあるし、サウジアラビアあるし、クウェート、カザフスタン。この間アゼルバイジャンも来たなとか。
原田さん自身は日本で生まれ育ち、シリコンバレーに12年住んでAlpacaを起業しました。その後ちょうど2年前にドバイへ引っ越しています。ビジネスがそこに転がっていることと、面白そうな場所だと感じたことが理由だと話します。
なぜ「APIが使える証券会社」を自分たちで作ったのか
APIファースト証券とは具体的に何か、という問いに、原田さんはアメリカ株人気を入り口に説明します。海外の各国からアメリカ株につなぎたいという需要が出てきていました。
原田さんが引き合いに出すのはRobinhood ── アメリカの証券アプリ。モバイルファーストで株が買える体験を広め、手数料無料のスタイルで人気を集めたです。モバイルで株が買える新しい体験が伸びましたが、これはアメリカでしか使えませんでした。
インドネシアであるとか、トルコであるとか、そういうところでもやっぱり同じようなものを出したい。(Robinhoodは)アメリカでしか使えないので。
各国でネオブローカーのスタートアップが立ち上がった時期、その裏側にはアメリカ側の証券会社が必要でした。そこでAPIでつなぎやすいAlpacaに声がかかったといいます。
原田さんによれば、そもそもAPIがまともに使えるアメリカの証券会社がなかったことが出発点でした。Robinhoodも含めモバイルは綺麗でも、自動化やAPI接続を求める人は困っていたと振り返ります。
みんなリバースエンジニアリングして、そのモバイル用のAPIの口を見つけて、無理やり使うみたいなことやってる連中がいるぐらいだったんで。
そんなことをするくらいなら、APIを開放しドキュメントもSDKも整備された証券会社を作ろう、というのが発想でした。最初は個人向けで、そこからフィンテック企業が使うB2B2Cへ広がっていきます。
B2CとB2B2Cを両走させた「不都合な現実」
聞き手の大塚さんは、裏方のインフラに回ると自社でユーザー獲得したほうが売上を予測しやすい面もあると指摘し、意思決定に迷いはなかったかと問います。
原田さんは、最初に証券会社をやろうとした時点ではまだB2Cだったと答えます。そこからフィンテックや他ブローカーが使うB2B2Cへ広がると、不都合な現実がいろいろあったと明かします。
(シリーズ)AだかBだかの時に、もうかなり剣呑な議論をしましたが。数字はやっぱりB2Cの方が伸びる。スピードは早いですよね。
B2Cは成長数字がすぐ伸び、マーケティングもテンプレ化しています。一方でB2B2Cはセールスサイクルが長いものの、世界中にアクセスできる夢の大きさがありました。
原田さんは、伸びているB2Cの数字を見せつつ、絵として大きいB2B2Cを語る、という使い分けをしていたと話します。この両方を持つことが、実は事業の肝だったと振り返ります。
(僕らは)別に証券会社をやろうと思ってやったわけじゃなくて、インフラがないからインフラ作ろうよで。そこから何が出てくるか知らないけど。
「乗るかそるか」で決めた、市場の小さな熱狂
大塚さんは、出てくるかわからないという不確実性が結局は石油のように出てきたと表現し、それは狙ったのかと尋ねます。
原田さんの答えは明快で、最初は何も見えていなかったというものです。もともとはAIを使った投資アプリを作っていましたが、行き詰まり、資金の残り時間も少なくなっていました。
(自分たちのアプリが)どこにもいかねえじゃんこれってなって。もうランウェイもそんなないし。
それでも、Robinhoodの二番煎じではなく、乗るかそるかをやろうと決めます。エンジニアがリバースエンジニアリングしてまで使おうとしていた事実が、少なくとも一部の人には刺さっている兆しでした。
ただ、当時のターゲットは極端に狭いものでした。株取引をする人自体が少なく、その中でコードを書ける人はさらに少ない層です。
マーケットどんだけあるのって散々VCとかにも言われましたから。でもここの人にはものすごい刺さってるんですよ。
大塚さんは、証券のライセンスが必要で固定費がかかる事業でその意思決定をする難しさに触れます。原田さんはあらためて、乗るかそるかでやったと認めます。
1日25億ドル・1500万口座、ユニコーンへ育った規模感
続いて話題は現在の規模感に移ります。Alpacaは全世界で約400人の会社に育ちました。
口座数は、B2B2C経由とB2Cを合わせて約1500万口座に達しているといいます。取引額の桁も大きなものです。
1日2.5ビリオンぐらい。(1日)2.5ビリオンドル。
月間に換算すると円で5兆円から6兆円規模になるといいます。会社はいわゆるユニコーンに数えられる存在です。
大塚さんは、この規模が「小さな足を作ってやるべ」という感覚から始まったことが信じられないと語ります。当時は先が全く見えていなかったと2人の認識は一致しました。
(当時は先が)全く見えてないですよね、確実に。
なぜドバイに住み、東半球をカバーするのか
原田さんがドバイに住む理由は、そこにビジネスが複数あることに加え、現地に行って自分の目で見ることを重視しているためです。特にファンドのレベルで現地を見ることが大事だと考えています。
Alpacaはアメリカの会社でアメリカ株を扱うため、人員比率としては北米が3、4割を占めます。それでも原田さんは現地に入り込むことを大切にし、アラビア語も少し勉強したといいます。
ケフハーレとか言うと、Howareyou?みたいな感じですけど。(文化も含めて)そういうのが元々好きなので。
役割分担としては、原田さんはテックファウンダー側でプロダクトとエンジニアリングを担い、横田さんがアメリカやヨーロッパ中心に動きます。手薄になりやすい東半球を原田さんがカバーする形です。
トークン化証券の9割超を支えるカストディの正体
話題はAlpacaが暗号資産取引所にも導入されている点に移ります。ブローカーAPIというプロダクトでB2Bを本格化させたのは2022年ごろだと原田さんは振り返ります。
既存金融の顧客に加え、去年ごろからクリプトの事業者が入ってくるようになりました。背景にあるのがトークン化証券 ── 株などの現物資産を裏付けに、ブロックチェーン上でトークンとして発行・流通させる仕組み。オンチェーンで取引や担保利用ができるようになるの台頭です。
トークン化のためには、原資産をどこかで買って保管し、トークンと一対一で持たせる必要があります。証券を扱うのは煩雑なため、Alpacaのような存在が欠かせないといいます。
今アメリカ株のトークン化っていうところで言うと、9割以上、トークン化されてる資産の9割以上はAlpacaが原資産をカストディしてますと。
原田さんは、ステーブルコインに例えて仕組みを説明します。USDCが1ドルを裏付けに1トークンを発行するのと同じように、テスラ株1株を原資産にテスラトークンを発行する、という考え方です。
テスラ株がここに1株置いてあるので、それを原資産としてテスラトークンを発行しましょうっていう。
大手証券がなぜ自前で作らず、Alpacaを選ぶのか
大手の金融機関がAlpacaを使う一方で、なぜ自社で作らないのか、という問いが出ます。原田さんは、金融は技術だけでは成り立たないと答えます。
ライセンスは取るだけでなく、実際のオペレーションやコンプライアンス対応が伴います。AlpacaはFINRA、SECのブローカーをガチガチに真面目に作ってきたといいます。
9個ぐらい世界でブローカーのライセンスを持ってるか取りに行ってる。そういうのをみんなめんどくさくてやらないんですよね。
原田さんが数年前から社内で語るプロダクトビジョンは、WindowsOSのような存在になることです。バラバラのハードの上にWindowsを乗せれば共通のAPIで書けたように、Alpacaは金融の抽象化レイヤーを目指します。
日本であろうとアメリカであろうとインドであろうと、APIレイヤーは抽象化されてるんで、その下は我々が一手に引き受けます。
クリプト側から入ってくる事業者ほど、面倒な部分をやりたくないからクリプトをやっている、と原田さんは指摘します。だからこそAlpacaが引き受ける余地が生まれます。
ライセンス取得・オペレーション・コンプライアンス・原資産のカストディといった煩雑な金融インフラ
モバイルアプリやトークン化サービスなど、ユーザー体験や新しいプロダクトの部分
既存証券がAlpacaに乗り換える瞬間
大塚さんは、既存の証券会社が今までの仕組みを捨ててAlpacaに変えるのはなぜか、どんなタイミングで起こるのかと尋ねます。
原田さんは、アメリカ株の中でも起きるイノベーションが切り替えのきっかけになると説明します。一株未満で買える端株 ── 1株に満たない単位で株を売買できる仕組み。金額を指定して0.3株など少額から購入できるや金額指定の購入がその一例です。
もう一つが24時間取引です。かつては東部時間の朝4時から午後8時までで、その外側にあたるアジア時間には取引できませんでした。
今だったら24時間取引っていうのがあって。(アジア時間の)ブローカーがそういうことをできるようにしたいんだけどって時に、既存の取次先ではできませんとかいう時に、じゃあ切り替えましょうっていうのは一つ。
さらに、Alpacaは全て自前で作るためコスト体質が異なり単価を抑えられます。ポジション連携も、かつての一日一回のバッチ処理ではなくリアルタイムで出せる点がUXの改善につながります。
大手ほど、まず少し使ってみるところから始まり、徐々にリプレースされていくといいます。金融システムを一気に切り替えるのは怖いためです。
80億人を見据える長期視点と、二次曲線の事業
大塚さんは、早く成長したい起業家が多い中で、2人はどっしり構えているタイプに見えると指摘します。原田さんは、長期視点でビジョンを掲げてやっていると答えます。
世界中の人に金融サービスを届けるみたいなところを考えた時に、80億人なので、我々もまだね。
事業は積み上げ型で、溜まるほど効いてくる二次曲線だと2人は捉えています。一方で、盤を燃やしながらやるスタイルは日本では資金調達しにくい面があるといいます。
原田さんは、グローバルVCがディープポケットで長期視点に立ってくれる強みを認めつつ、それだけで全てうまくいくわけではないと言います。ここでも、B2Cのグロースを見せながら進める使い分けが効いていました。
野獣と理性、両極端の投資家が座るボードミーティング
投資家の話に移ります。シードで入ったSpark Capitalのサント氏は、直感で動く「野獣」タイプだと原田さんは表現します。かつて日本の大阪でインターネット開通ビジネスに携わり、ヤクザが乗り込んできた話もするような人物です。
一方、シリーズAで入ったカナダのVCであるポルトージュのアダム氏は、理性的でコーポレートをちゃんとする人だといいます。ETFのビジネス経験を持つ、金融業界に精通した投資家です。
サントはもう野獣なので。てか直感で。VC投資のパターンじゃねえからっていう。
ボードミーティングでは、この両極端が正面からぶつかりました。B2CかB2B2Cかという議論では、サント氏は数字が出ているなら伸ばせと主張し、アダム氏は緻密なマーケットセグメント分析を求めたといいます。
原田さんは、この両極端をバランスを取りながら着地させてきたと振り返ります。大塚さんはそれを綱渡りと評しました。
直感型の「野獣」。パターンに当てはまらないところにこそ賭ける。数字が出ているなら伸ばせという主張
理性的でコーポレート志向。マーケットセグメントを緻密に分析し、ちゃんとやれと求める
トークン化証券が抱える流動性とルールの未整備
暗号資産取引所と話すとき何を語るか、という問いに、原田さんは今一番ホットなトピックがトークン化だと答えます。ただし、トークンを発行しただけでは始まりに過ぎないといいます。
鍵になるのは流動性の確保です。テスラ株が500ドルなら、トークン化した株もほぼ500ドルで買えなければ意味がない、というペッグの問題があります。
トークンってまだまだ全体のアメリカ株市場の70トリリオンとかに比べたら、まだ数ビリオンのサイズなので。
Alpacaは原資産を全てカストディしているため、ナスダックで買った株をトークン化して暗号資産側で売る、という流通をリアルタイムでバランスさせられます。流動性があるから人が来て、人が来るから流動性が生まれる循環です。
さらに、トークン化した証券が証券なのか暗号資産なのか、という法的な位置づけがまだ定まっていません。アメリカでは去年から今年にかけて議論が進むものの、明確な結論は出ていないといいます。
MiFIDの枠組みの中で、一旦は証券扱いとする方向
デジタルアセットだとする立場
この整理に合わせてAlpacaはカストディの準備を進めています。実際にトークン化された証券は、クラーケンやバイナンス、ビットゲットといった取引所の裏側で扱われているといいます。
証券とクリプトが近づく「ナラティブ」に、気づけば乗っていた
大塚さんは、この流れをナラティブとして整理します。証券の中でできなかったことをRobinhoodがモバイルで解き放ち、アメリカ株投資が民主化されていきました。
その後、ユーザーがトークンも扱うようになり、証券とクリプトが接近しました。暗号資産の主要銘柄が固まってくると、より多くの商品種類が求められ、トークン化した証券でよいという感覚が生まれてきたといいます。
大塚さんは、その接近点の裏側をまさに実現しているのがAlpacaだと指摘します。原田さんはこれも狙って作ったのではなく、対応できると気づいた形だと応じます。
(トークン化証券が)できるじゃんみたいな。
さらに、これまで人が担っていたインターフェースがAIに置き換わり、AIから直接APIで指示を出す流れも来ているといいます。トークン化とエージェントファーストなトレーディングの2つが大きな潮流です。
大塚さんは、これを8年前に読めていたかといえば無理だと断言します。原田さんも声を揃えて無理だと答えました。
資金調達難を焚き火ならぬ「満月の雄叫び」で凌いだ夜
西山さんは、トークン化やAPIの掛け算を思いついた人は多いはずなのに、なぜやり切れたのかと問います。原田さんの答えは、生き延びることを考え続けるしかなかった、というものです。
ここから原田さんは、Alpacaが死にかけた場面をランキング形式で語り始めます。まず挙げたのが、シリーズシードラウンドで調達できない雰囲気が漂った時期です。
共同創業者の横田さんは調達に苦しみ顔が死んでいたといいます。原田さんは一度、横田さんを外すことすら裏で模索したと明かします。
もう半分クビにしたんですよ。クビにしようといろいろ裏で模索した。
それでも横田さんがやると言うため、原田さんは気合を入れに行くことにします。朝3時に起き、横田さんが入れ込んでいた風水に基づいてハーフムーンベイへ向かいました。
満月の夜にもう30代のおっさんが2人で、全裸で。満月の太平洋に向かって雄叫びを2人上げる。
その後もう一度サント氏を訪ねると、数字が伸びているじゃないかと言われ、調達につながったといいます。因果関係はないと2人とも笑いますが、必死になるからこそ何かをつかめる、と大塚さんは受け止めました。
SVB破綻、パスワードがわからない一日
原田さんが最大級の危機として挙げたのがシリコンバレーバンク破綻 ── 2023年に起きたスタートアップ向け大手銀行の経営破綻。多くのテック企業が預金を置いており、資金が引き出せなくなる懸念が広がったです。会社の資金の半分以上がそこにありました。
折悪しく、雇ったばかりのCFOを短期間で解任した直後で、財務レポートを技術畑の原田さんが引き継いだばかりでした。しかも銀行のログインパスワードすら受け取れていなかったといいます。
半分以上会社の(資金の)取り扱いがそこにあって。(引き継ぎで)シリコンバレーバンクのパスワードもちゃんと取らないかと思って。
アダム氏からのメールで事態を知り、ログインしようとしてもパスワードがわかりません。サポートに電話し続けても、皆が殺到しているため誰も出ませんでした。
誰も出ないんですよ。どうしたらいいんでしょうって言って。
結局その日はアクセスできず、これがAlpacaの最終日かと覚悟したといいます。しかし日曜になってDOJが全額救済する話になり、事なきを得ました。
どうしようもない状況で何をしていたか、という問いに、原田さんはただぽかんとしていたと答えます。大塚さんはその泰然とした態度を評しました。
大塚さんは、こうした危機を越えるほどにサイヤ人のように強くなる、と自身の経験も重ねます。原田さんは、その時々で常に生き延びようとしてきたと締めくくり、SVBの一件を最大の危機に挙げました。
まとめ
Alpacaは、APIファースト証券として「乗るかそるか」の狭い市場から始まり、B2CとB2B2Cを両走させながら、トークン化証券のカストディで9割超を担う存在へと育ちました。その裏には、資金調達難やSVB破綻といった生き延びるための泥臭い判断が積み重なっています。
- AlpacaはAPIで株取引をつなぐ抽象化レイヤーを目指し、ライセンスやオペレーションという煩雑な金融インフラを一手に引き受ける
- B2Cのグロース数字を見せつつB2B2Cの大きな絵を語る使い分けが、資金調達と事業判断の肝だった
- トークン化証券は流動性の確保と法的位置づけの整備が課題で、原資産のカストディがその実現を支えている
- 証券とクリプトが近づくナラティブは狙ったものではなく、気づけば対応できる立ち位置にいた結果だった
- シードの資金調達難やSVB破綻など、事業とは無関係の危機を生き延び続けたことがユニコーンへの道になった


