焼き鳥を世界へ、なぜ「複数の価格帯」で攻めるのか
大倉さんが海外展開に踏み切った理由は、日本市場の先行きへの見方にあります。人口減で、いずれ飽和状態になると見えてきたことが背景にあると話されています。
(日本は)飽和状態になるのは見えてきましたので、もう前々からですね、やっぱり成長するためには(海外だと)。
第1フェーズとして選んだのは、アメリカと東アジアです。アメリカでは、まず既存の1店舗を買収するところから始めました。
その店の店主が、偶然にも日本で大吉をやっていた人物だったといいます。大倉さんは、まずアメリカでのマネジメントに慣れる狙いで、この店を買ったと語ります。
(買収した店の店主は)元大吉、日本で大吉やってた人間なんですよ。いい店やったんで、まずアメリカでのマネジメントにちょっと慣れようと。
現在はロサンゼルス郊外のトーランスを中心に3店舗を展開しています。ブランドは鳥貴族に変えず、そのまま運営しているといいます。
アメリカでは、鳥貴族と、そのアッパーブランドである「族」の3ブランドを展開。今後、焼き鳥は鳥貴族で統一していく方針だと話されています。
ロサンゼルスは物価が高いため、今後はフランチャイズに切り替える計画です。フランチャイズ会社も設立し、照り焼き丼を中心としたファーストフードと、鳥貴族の2軸で攻めていくといいます。
一方、東アジアは基本的にすべて鳥貴族ですが、韓国だけは例外です。北新地のミシュラン焼き鳥店「ichimatsu」と組み、海外でもミシュランを狙う「モズ」という超高級店を1店舗出しています。
モズは東京・神楽坂にも出店予定で、日本では「たいまつ」という名称になるといいます。さらに博多の八兵衛とも組み、中間価格帯の店も手がけています。
価格帯は明確に分かれています。ichimatsuと組んだ店は客単価2万〜2万5000円、八兵衛は5、6000円、そして鳥貴族は2400円ほどです。
これらの高級・中間ブランドは、鳥貴族が独自に開発したものではなく、既にブランドを持つ店と共同で取り組んでいます。共通するのは「海外に焼き鳥を広めたい」という同じ思いだと大倉さんは語ります。
鳥貴族ブランド。客単価2400円ほどの大衆的な焼き鳥店として世界へ展開
ichimatsuや八兵衛と組んだミシュラン・中間価格帯。焼き鳥文化を多層的に広める
鳥貴族だけのカジュアルなブランドよりも、ミシュランを出すとか、いろんな価格帯で攻めた方が効率がいいなと思ったんですね。
焼き鳥の地位向上は「意識してやってきた」
焼き鳥、そして外食業界の地位向上について、川邊さんが「意図してのことか」と問うと、大倉さんは創業から意識してきたと答えます。
その根底には、大倉さん自身の業界への愛着と、当時の外食業界が置かれた状況への問題意識がありました。
私はこの業界が大好きで、天職だと思ってやってるのに、(就職を)ご両親に反対されることが多かったので、世間から認められる業界にしたかった。
かつて大衆料理だった焼き鳥が、今は本当に変わってきていると大倉さんは歓迎します。ただし、その流行がどこまで続くのかという心配も口にします。
高級ブランドは必要だと感じつつも、大倉さん自身が開発しようとは思わなかったといいます。焼き鳥はどこかで「大衆のもの」だという思いがあるからです。
この流れについて川邊さんは、消費者の変化を指摘します。ヘルシー志向が高まる一方で、おいしいものも食べたいという欲求があり、その重なる地点が霜降りの牛肉より鶏だったのではないかという見立てです。
焼き鳥のコース食べた後、体重逆に減りますからね。
「グローバル焼き鳥ファミリー」という企業ビジョン
大倉さんの会社は、「グローバル焼き鳥ファミリー」というビジョンを掲げています。焼き鳥を全世界に広めたいという思いを、ファミリーとともに実現するという意味が込められています。
ここでいうファミリーとは、鳥貴族だけでなく、ミシュラン店や中間価格帯の店など、志を共にするさまざまなブランドを指します。
川邊さんが、焼き鳥一筋40年余りをやってきた大倉さんに、あらためて焼き鳥屋の魅力を問いかけます。大倉さんが挙げたのは、まず焼き鳥が「食べ継がれてきたもの」であるという点です。
焼き鳥って創作料理ではなく、食べ継がれてきた(もの)。居酒屋の中の一番ポピュラーなメニューですよね。だから廃れることないですよね。
大倉さんは、売り方を変えたことでここまで来られたと振り返ります。歴史があり、これからも食べ継がれていくことが確実な点を「強い」と表現しました。
もう一つの魅力は、チキンそのものの可能性です。宗教フリーで、世界で最も消費されている食肉であり、調理方法もヘルシーだと大倉さんは語ります。
大倉さんは、肥満が社会問題となっているアメリカを例に挙げます。アメリカでもチキンの消費が他を抜いているものの、そのほとんどはフライドチキンだと指摘します。
(フライドチキンは)罪悪感を取ってるだけのことですよね。だから焼き鳥はそこはやっぱり(違う)。
実際、レドンドビーチに出した「族」では、白人の富裕層に焼き鳥が想像以上に受け入れられているといいます。焼き鳥をほとんど知らない層に届いていることに、大倉さんは可能性を感じています。
40年成長し続けられたのは「焼き鳥にフォーカスした」から
大倉さんは、居酒屋業界の栄枯盛衰の激しさに触れます。かつて輝いたブランドも、今はかつての店舗数を保っていないと語ります。
そうした中で、鳥貴族が40年間成長し続けているのは珍しいと大倉さんは言います。その理由を、焼き鳥屋という廃れないジャンルにフォーカスしてきたことに求めています。
居酒屋業界って結構栄枯盛衰が激しくて、かつてあんだけ輝いたブランドが今(店舗数が減って)。
川邊さんは、焼き鳥というジャンルを電気のようなコモディティにたとえます。安定していて、市場規模も大きいジャンルだからこその強みがあるという見立てです。
インフレを「ポジティブに捉える」プライスリーダーの自覚
話題は、日本で近年起きたインフレへの向き合い方に移ります。長いデフレの後に訪れた大きな経済変動を、大倉さんはポジティブに捉えていると語ります。
その理由は、海外から見て日本が安すぎるという認識です。この30年、物価指数と給与指数を見ると、G7の中で日本だけが取り残されていると大倉さんは指摘します。
僕はいいインフレにすべきだなと思ってまして。物価も上がるんですけど、賃金も上がる。G7に追いつくチャンスなのかなと。
だからこそ経営も、値下げではなく、給料とセットで価格を上げていく方向だといいます。アルバイトの時給も上げなければ人が取れない状況です。
川邊さんは、自身が政府の新しい資本主義実現会議の委員として「みんなで値上げしなきゃダメだ」と言い続けてきた立場から、現場の実感を尋ねます。
大倉さんは、業界にはいまだに「デフレ脳」の人が多いと語ります。特に個人店は客と近いため値上げしづらく、チェーン店の方が上げやすいという構造を指摘します。
いまだにデフレ脳の方は結構我々業界もいてますよね。特に個人店の方はお客様と近いので、上げられない。
川邊さんも、値上げできずに倒産が増えている現状に触れ、「みんなで上げたらいい」という大倉さんの言葉に理解を示します。
実際、鳥貴族はここ数年、毎年値上げをしています。看板メニューの価格も、かつての250円から現在は390円になったといいます。
創業当初からの水準として語られた250円
毎年の値上げを経て、現在は390円
ただし、大倉さんが守っているものがあります。それは、チェーン居酒屋の客単価においてボトム、つまり最も手頃な1ポジションであり続けることです。
守ってるのはですね、チェーン居酒屋の客単価は一応ボトムで1ポジションなんですよ。
川邊さんは、ボトムの価格自体が上がるのはよくても、ボトムであり続けることが鳥貴族のブランドとして大事だと整理します。
さらに大倉さんは、周りが「鳥貴族が上げてくれるのを待っている」状況があると明かします。ここには、プライスリーダーの自覚があると語りました。
いろんな会とか出ると(値上げを)上げてくださいよ言われますから。
息子は「残存者利益」、そして親族は誰も入れない
仕事の話が続いたところで、川邊さんが大倉さんの息子の話題に触れます。芸能界に進んだ息子について、大倉さんは面白いなと思ったと振り返ります。
息子は小学5年生の時に、自分で応募して芸能界を目指したといいます。大倉さんは、この「自分で応募した」という点が強かったと語ります。
芸能事務所では入所時点から競争が始まり、急に呼ばれなくなると辞める子が多いといいます。その多くは、親が応募した子だったと大倉さんは説明します。
うちの息子は自分で応募したので。(辞めたければ)辞めるとひと言言って辞めさせようと。だから彼は残存者利益なんですよ。
この「残存者利益」という表現に川邊さんは笑いつつ、若い頃から活躍する息子を見て、大倉さん自身が親から受けたサポートと重なるものがあったかを尋ねます。
自分の夢を終えて達成できてるというのは、親にとってはね、幸せを考えたら嬉しいです。
ただし大倉さんは、テレビに出てくる息子を「息子という目線では見ていない」と語ります。実物とは違うからだといいます。
近年は息子がプロデュースの仕事や、経営者としての話をすることもあるといいます。もともと経営者思考があったと大倉さんは振り返ります。
(息子を)見守る必要ないなと思いますけど。僕を見守ってほしいですね。
会社については、パブリックな上場企業であるため、親族を入れる考えはないと大倉さんははっきり述べます。子どもたちは誰も会社に入れていないといいます。
バトンタッチしても「永遠に成長していってほしい」
川邊さんが、会社をどこまで大きくしていくのかを問います。大倉さんは、創業者としてファウンダーの名称では残るだろうとしつつ、いずれバトンタッチする考えを示します。
大切なのは、バトンタッチした後も会社が成長し続けることだと大倉さんは語ります。焼き鳥文化を世界に広め、成長していくこと自体が一番大事だという考えです。
どっかでバトンタッチしても、やっぱりもう永遠に成長していってほしいですよね。
いつまで現役でいたいかについては、体力を含めて自信が持てている間をイメージしていると答えます。老害にはなりたくないという思いです。
川邊さんは、ソフトバンクの孫氏が引退時期の宣言を撤回した例を挙げます。孫氏も「自分に自信がなくなったら辞める」と語っていたことに触れ、大倉さんも同じような感覚だと確認します。
一方で、ファウンダーは会社と自分が一心同体であり、逆に逃げられない環境でもあると2人は語り合います。
「まだまだ不甲斐ない」――代表作を問われて出た本音
インタビュー終盤、川邊さんがルーティンの質問に入ります。まず、これまで会った中で「この人はすごい」と思った人物を尋ねます。
大倉さんが挙げたのは、ユニチャームで役員を務め、上場時に社外取締役をお願いした根岸さんという人物です。その勉強塾に参加したことが出会いだったといいます。
もう無私というか、本当に人のため。後継者育成もそこに100パーセントコミットする、そういう人間に初めてお会いしたので。
続いて、自身の代表作や「よくやった」と思う業績を問われると、大倉さんの答えは意外なものでした。
(代表作は)ないですね。
大倉さんは、本音では「まだまだ不甲斐ない」と思っていると語ります。自分の計画では、もっと大きくなっているはずだったからです。
創業からスタートして18年、思うように成長できなかったと振り返ります。この経験から、若い経営者に伝えられることを川邊さんが尋ねます。
「晩成型は強い」――若すぎる成功の落とし穴
大倉さんは、不甲斐ないと言いながらも、大器晩成型の人は本当に強いと語ります。若い頃に変に成功してお金が入ると、狂ってしまう人が多いという見方です。
若い時に変に成功してお金が入るとやっぱり狂う方多いですし。あまりに上手く行き過ぎると、仕事をなめますよね。
川邊さんも、そこで成長が止まってしまう経営者は多いと同意します。大倉さんは、有名な会計士も「人間は大器晩成型が強い」とはっきり語っていたと紹介します。
だからこそ、思うように伸びなかったあの時期はよかったのかもしれないと大倉さんは振り返ります。変に最初から成功していたら、狂っていたかもわからないというのです。
「安定はつまらない」――スリルと冒険を選び続ける起業家
川邊さんは、大倉さんが得た利益を次の掛け金として投じ続ける姿勢に注目します。孫氏を典型例として挙げ、儲かったところを全部かけていくような経営スタイルへの共感を示します。
この姿勢の根底にあるのが、安定への嫌悪です。大倉さんは、安定なところに身を置くことがつまらないと語ります。
安定なところに身を置くことが(嫌いなんでしょうね)。絶えず、いい意味でスリルも冒険もしたいですよね。
川邊さんが、その性格になった時点を尋ねると、大倉さんは「起業してから」と答えます。25歳での起業を機に、事業を大きくしていく楽しさに目覚めたといいます。
リスクをね、あまり感じないというか。
川邊さんは、経済学者シュンペーターによる起業家の定義を紹介します。それは「リスク算定の甘い人」というもので、大倉さんの姿勢がまさにそれだと重ね合わせます。
大倉さんは、リスクと思っていないから取れるのだと補足します。今後も、リスクとは感じないまま事業を拡大していくということです。
起業家を生んだ家庭環境、そして受け継がれるチャレンジ精神
インタビューの締めくくりに、川邊さんが今日の対話を振り返っての感想を大倉さんに求めます。ネット業界一筋の川邊さんは、最も遠い飲食業でこれだけの志とリスクテイクに感銘を受けたと語ります。
大倉さんが挙げたのは、家庭環境の良さでした。起業する者にとって、両親のあり方は大きいと語ります。
大倉さんは、大学教授による起業家育成の話を引きます。大企業や公務員の家庭からは起業家が生まれにくいという指摘が、自分の家にまさに当てはまると振り返ります。
大企業とか公務員の家庭には起業家生まれないと。まさしくうちはそうだなと思って。
この考えは、息子との会話にも表れています。息子が高校から大学へ上がる時、進路に悩んで相談してきたことがあったといいます。
(息子に言ったのは)お前ここで諦めたら、これからの人生諦める人生なんだって。
もし自分が大企業の部長や課長だったら、「大学に行け」と止めていただろうと大倉さんは言います。チャレンジに対してサポーティブな家庭環境が、世代を超えて受け継がれているという見立てです。
川邊さんは、その精神が孫の世代へと続くことを願う言葉で対話を締めくくりました。
まとめ
上場を果たし、焼き鳥文化を世界に広げてなお「まだまだ不甲斐ない」と語る大倉さん。安定を避け、スリルと冒険を選び続けるその姿勢と、それを支えた家庭環境や価値観が語られた回でした。
- 海外展開は鳥貴族のカジュアル軸と、ミシュラン・中間価格帯のプレミアム軸で焼き鳥文化を多層的に広げる戦略
- 焼き鳥は「食べ継がれてきた」廃れないジャンルであり、そこにフォーカスしたことが40年成長の理由
- インフレはポジティブに捉え、賃金とセットで値上げしつつ、チェーン居酒屋のボトム価格というポジションは守る
- 若すぎる成功の落とし穴を踏まえ「大器晩成型は強い」と語り、思うように伸びなかった時期をむしろ肯定する
- 安定を嫌い、得た利益を次の掛け金として投じ続けるリスクテイクの姿勢と、それを育んだ家庭環境






