光だけが「特殊」に感じるのはなぜ?
レンさんの「この世で一番速いものは?」という問いに、エマさんは「光」と即答します。では、なぜ光はそんなに速いのか。エマさんは最初「軽いから?」と答えましたが、光に重さがあるのかはわからないと言います。
今日の話は光はなんでそんな速いの?っていう話をちょっとしたいんですよね。
光って本当になんだろうって突き詰めると、めっちゃ複雑なんですよね、話が。
レンさんは、光の正体そのものは次回以降に回し、今回は「なぜこんなに速いのか」という光の速さに絞って話すと宣言します。
エマさんの疑問は、光と石の違いでした。石は触らない限り動かないのに、光は勝手にどこかへ進んでいく。軽いものが速いという理屈なら想像がつくものの、光だけが特殊に見えるというのです。
普通のものと光と何が違うんだろうっていうのが私の疑問。
レンさんは、光が特殊な理由には相対性理論が関わってくるとしたうえで、それを理解するにはまず「光をどう測ってきたか」を知る必要があると話します。光は身近なのに、答えようとすると難しい。そこが面白いところだといいます。
光の速さは無限?デカルトの考えとガリレオの挑戦
エマさんは、カーテンを開けた瞬間に光が入ってくるように、日常では光が「動くもの」という感覚すらないと話します。それを動くものだと最初に捉えた人がすごい、という指摘に、レンさんは「めっちゃいい視点」と応じます。
近代になるまで、光の速さは無限だと考えられていました。デカルト ── 17世紀フランスの哲学者・数学者。「我思う、ゆえに我あり」で知られ、座標の考え方を生んだことでも有名ですも、光は瞬時に伝わるものだと解釈していたといいます。雷を見ても一瞬で光が届いているように見えるからです。
この考えに最初に疑問を出したのは、ガリレオ・ガリレイだとされています。レンさんによれば1638年ごろのことです。
エマさんが考えた測定法は「遠くに2人を置き、Aさんが光を放った瞬間とBさんが受け取った瞬間の差を測る」というものでした。ガリレオが実際にやったのは、まさにこの方法です。
ガリレオの実験は、光が速すぎて失敗に終わりました。それでもエマさんは、光を無限ではなく有限の速さを持つものと考えて実験しようとした視点を評価します。
レンさんは、地上で光を測る「地上的測定法」は、距離が近すぎ、光が速すぎるため非常に難しいと説明します。その原型を作ったのがガリレオでした。
木星の衛星イオで光速を測る?レーマーの発想
地上で測れないなら、1600年代の人はどうしたのか。エマさんは「宇宙の何かしらの天体で測定しようとした」と予想し、レンさんはその通り、宇宙を観測して光を測る人が現れたと話します。
ヒントとして挙がったのは、木星と、その周りを回る衛星イオ ── 木星の衛星の1つで、17世紀初めにガリレオが発見した4つの大きな衛星(ガリレオ衛星)の1つですです。地球から見ると、イオは木星の影に隠れたり出てきたりします。
(イオは)地球から見たら、その月は木星の影に隠れたり出てきたりするわけですよ。
イオが木星を1周する周期は、およそ42.5時間とされています。地球と木星はどちらも太陽の周りを回っているため、両者が近づく時期と遠ざかる時期があります。
観測してみると、地球が木星に近づいている時期は、イオが隠れる間隔がどんどん短くなっていました。逆に地球が木星から遠ざかる時期は、その間隔が開いていきました。
イオが木星の影に隠れる間隔が短くなっていく
イオが木星の影に隠れる間隔が開いていく
この差は、衛星から地球まで光が届く時間の違いで説明できます。地球と木星が離れていくほど、光が届くまでにラグが発生するからです。
この考え方で光の速さをざっくり出したのが、1676年、デンマークのレーマーという人物です。光の速度を初めて測定したとされ、その値は秒速約21万4300キロでした。
本当の光速は秒速約30万キロなので、レーマーの値はやや小さめですが、レンさんは「そこそこ近い」と評価します。
光が無限の速さだったら、そんなこと起きないはずなんよ。
レンさんによれば、レーマーの観測は、光が宇宙を飛んでくる間に時間がかかっていること、つまり光の速さが有限であることを初めて示したものでした。
星の傾きから光速を出す?ブラッドリーと天文観測の限界
エマさんは、現代の技術ならガリレオ式で地上でも測れるのかと尋ねます。レンさんは、地上での測定はこの後に登場すると答え、今回はアインシュタインのころまでの光速測定を紹介すると話します。
レーマーの約50年後に、より正確な測定を行ったのもまた天体観測でした。地球は太陽の周りを公転しているため、春夏秋冬で進む方向が違います。
遠くの星からまっすぐ届く光も、動いている地球から見ると少し斜めに降り注いでいるように見えます。そのため、星を観測する望遠鏡は季節によって傾きを補正する必要があります。
この補正の角度は、地球の公転の速さと光の速さの比率で決まります。そこから光の速さを秒速29万9042キロと計算したのが、ブラッドリーという人物です。
エマさんは「角度は難しい」と漏らし、レンさんも、この辺は一つ一つ全部理解しなくて大丈夫だと話します。
1700年代ごろには、天文観測による光速の誤差は秒速1000キロ程度以内まで縮まっていました。しかし天文観測ではこれ以上の精度は難しく、1800年代には「目の前で実験して測るしかない」という流れになります。
地上でできなくはないって分かったら、地上でしようってなるよね。
エマさんは、ざっくりした速度がわかれば地上でどのくらいの距離が必要かも想像がつくと話します。レンさんは、それでも地上での測定まで100年以上かかったと補足します。
回転する歯車で光を捕まえる?フィゾーの実験
1849年、歯車を使って光速を測定する人が現れます。用意するのは、歯車1つ、鏡1つ、光源だけというシンプルな実験です。
光を通す
光源の光を歯車の歯の間に通し、遠くの鏡に当てる
反射させる
鏡で反射した光が歯車のほうへ戻ってくる
歯車を回す
光が往復する間に歯車が回り、戻ってきた光が歯でブロックされることがある
計算する
歯車の回転の速さから往復時間を出し、鏡までの距離と合わせて速さを計算する
レンさんによれば、鏡は8.6キロメートル離れた場所に置かれていたそうです。観測者は反射してくる光を見ていました。
この実験で、光の速さは毎秒約31万3300キロメートルと、地上で初めて計算されました。8キロほどの距離で測るために、歯車は相当速く回されていたといいます。
回転鏡と水中の光が、粒か波かの論争を動かす
歯車の実験を進化させたのが、鏡を回転させる方法です。回転する鏡に光を当てると、光が反射して返ってくる間に鏡の角度が微妙に変わり、光の戻る位置がずれます。そのズレから往復時間を決めます。
回転鏡の方法の利点は、ズレが起きやすいため、8キロもの距離を取らなくても数十メートルあれば光速を測れることでした。
エマさんは、ずれた光をどうやってキャッチするのかが気になります。レンさんの答えは、スクリーンに映し、目盛りをつけて目で見て測ったというものでした。
この方法で、光の速さは毎秒約29万8000キロメートルまで測定されました。測定したのはフランスの物理学者フーコー ── 19世紀フランスの物理学者。地球の自転を示す「フーコーの振り子」でも知られていますです。
フーコーはさらに、光を水中に通すと速さが遅くなることを初めて発見しました。この実験の背景には、光は粒なのか波なのかという長年の論争がありました。
水に入ると引力が働き、光は加速されると予測された(ニュートンの考え)
水に入ると光は減速すると予測された
実際には水中で光は遅くなったため、世の中は「光は波なのでは」という方向に傾き、ニュートンの粒説は一度否定されます。
エマさんは、粒なら加速するという前提がよくわからないと言います。レンさんは、ニュートンには万物に引力があるという発想があり、通り道に引きつけるものがあれば加速すると考えたのだろうと説明します。そのうえで、あくまで予想であり、みんなが合意していたかはわからないと付け加えます。
もう粒だっていう時期と波だっていう時期があったりするから、光って。
トレンドがあるんだ。
現代では、光は粒でもあり波でもあると理解されています。なぜそうなったのかは、光の正体を扱う別の回で話すとレンさんは予告します。
35キロの大実験からレーザーへ、標準値が決まるまで
回転鏡の実験は、1900年代に入っても精度を上げながら続けられました。1926年には、カリフォルニアの山と山の間の35キロメートルを使った超大規模な実験が行われます。
片方の山から光を飛ばし、もう片方に置いた回転鏡で反射させてズレを測る仕組みです。エマさんは、距離が長いほどずれた光の受け止め方が難しくなるのではと心配します。
帰ってくる光って本当にちょっとしかずれないじゃん。
光が速いため、35キロの距離でもズレはわずかで、別の場所に人を配置する必要はありませんでした。この実験で光の速さは秒速29万9796プラスマイナス4キロまで絞り込まれ、1900年代前半から数十年は標準値として使われるほどの精度だったといいます。
現代では、レーザー光の周波数や波長まで把握し、真空中で測るなど、測定技術の進歩によってさらに正確な値が得られています。
光が波なら、宇宙は何で満たされている?
回転鏡の実験が行われていた時期には、マックスウェル ── 19世紀イギリスの物理学者。電気と磁気をまとめた電磁気学の方程式を確立し、光が電磁波であることを理論的に示しましたらの理論によって、光は電磁波であることがほぼ間違いないと考えられていました。
しかし波は、何かを介して伝わるものです。水の波は水が伝えています。光も波なら、宇宙空間でも何かを通して伝わってきているはずだ、という疑問が生まれました。
レンさんによれば、当時はまだ宇宙が真空だとはわかっていませんでした。星の光が届く以上、宇宙は光を伝える何かで満たされていると考えられたのです。
しかも多分質量もないし、粘性とかもないし。けど、その光の振動を伝えるための硬い何かで宇宙は満たされてる。
柔らかい媒質なら光はひどく減速するはずですが、地上で測った光速と宇宙を観測して測った光速は似たような値でした。そこで、透明で質量も粘性もない硬い何かが想定されます。
この架空の物質は「ルミニフェラスエーテル(光を運ぶエーテル)」と名づけられました。レンさんは「ハリーポッターの呪文みたい」と表現します。
エーテルの風は吹いているのか?何度やっても変わらない光速
宇宙がエーテルで満たされているなら、太陽の周りを動く地球はエーテルの中を突き進んでいるはずです。すると地球には「エーテルの風」が吹いているのではないか、という発想が生まれます。
レンさんは、ボールを投げたときの風にたとえます。追い風なら加速し、向かい風なら減速する。光も見えるし「もの」なのだから、同じ性質があるのではと思われていました。
光は遅くなるはず
光は速くなるはず
検証の方法は、まっすぐ来た光を右に反射する鏡と左に反射する鏡で半分に分けるというものです。エーテルの風があれば、片方の光は加速され、もう片方は減速されるはずでした。
これがもう何をどうやっても変わらんってなる。
多くの人が、地球の公転の状態が違う時期など、さまざまな条件でこの実験を行いました。それでも光の速度が変わることはありませんでした。
レンさんは状況をこう整理します。光は波で、波には媒介するものが必要。しかし、その存在を示す証拠がまったく見つからない。エマさんは「実験結果だけ見たら、光は波じゃないじゃんってなりそう」と応じます。
アインシュタインが選んだ「光速は変わらない」という発想
この謎を解決したのがアインシュタインでした。レンさんは、エーテルが何かを説明して解決するのではなく、まったく違う発想を取ったと話します。
ある意味光はそういうもんですっていう。もう諦めじゃないけど、光の速度はもう不変なんですよっていうことを言い始める。
速さは距離を時間で割ったものです。光の速さが一定だとすれば、変わるのは距離と時間のほうではないか。レンさんによれば、これが相対性理論 ── アインシュタインが20世紀初めに提唱した物理学の理論。光速不変などを前提に、時間や空間が観測者によって伸び縮みすることを示しましたの発想の出発点です。
時間と空間は変わらず、光の速さは風などで加速・減速するはず
光の速さは不変で、そのつじつまを合わせるために時間と空間が変わる
レンさんは、エーテルの風が何度やっても見つからない謎を、自然の根本的な法則として受け入れたことがすごかったと話します。この発想があったからこそ、時間が遅れることや、とても速いものが短くなることを、実験の前に理論で言えたといいます。
質量ゼロの光と、光速を超えられない理由
アインシュタインはもう1つ、光には質量がなく、質量がないものはこの速さで進むというルールでこの世はできている、と説明しました。光以外はすべて質量があり、光だけが質量を持たないというのです。
エマさんは「質量のない粒ってどういうこと?」と疑問を持ちますが、それは光の粒の話として別の回に回されます。
逆にいえば、ほんの少しでも質量があれば、光の速さは超えられません。物の速度を上げるにはエネルギーが必要で、エマさんは自転車をこぐ例を挙げます。
加速する
物の速度を上げるにはエネルギーが必要になる
光速に近づく
必要なエネルギーの式の分母が0に近づいていく
発散する
必要なエネルギーが無限大に発散する
結論
質量のある物は光の速さを超えられない
冒頭のエマさんの問いは、音には質量があるのか、というものでした。レンさんは、音は空気や水などの媒質が振動して伝わる波であり、媒質が必要なため伝わるほど弱くなると答えます。光は媒介するものを必要としないため、音はそれほど速くないという説明です。
だから光にはたどり着けない。だからもうなんか光はすごい特別みたいな。別格みたいな。
光速は世界の「定数」?時空と理論と実験の関係
レンさんは、普通に考えれば時間や空間のほうが不変に思えるのに、実際には光の速さのほうが絶対だと話します。3次元の空間と1次元の時間が合わさった4次元の時空があり、それを結びつけているのが光、という説明です。
これだけ言ってもマジわけわかんない。今言っててわけわかんないし。
レンさんは、4次元時空を最初に言ったのはアインシュタインの師匠だったかもしれないと話します。そして、光速を世界のルールとして位置づけます。
エマさんは、理論が先にあって実験で確かめるものだと思っていたと話します。今回の流れは、実験が限界を迎え、そこから理論の根底を作り直し、後の精密な実験でその理論が正しそうだとわかっていくものでした。
実験
さまざまな方法で光速を測定し、エーテルの風を探す
限界
何度やっても光速が変わらない謎にぶつかる
理論
アインシュタインが光速不変を前提に理論を作り直す
検証
後の時代の精密な実験で理論が正しそうだとわかる
だから世界が後からついてきたみたいな感じになってる。
光より速いものはある?タキオンと宇宙の膨張
最後に話題は、光より速く移動するものに移ります。今の物理学では、光速より速いものを考えると、時間を巻き戻すようなことが可能になってしまうといいます。
そうした粒子として考案されたのが、虚数の質量を持つとされるタキオン ── 光より速く動くとされる仮想の粒子。理論上の思考実験として提案されましたが、存在は確認されていませんです。ただし、現在はほぼ完全に否定されているそうです。
エマさんは、それが起きればタイムトラベルで過去に戻れるのにと残念がります。レンさんは、ある人が未来に送ったものが別の人からは過去に送ったように見えるなど、過去に情報が送れてしまい論理的に破綻すると説明します。
唯一光より速いと言われるのは、宇宙が膨張する速さです。これは物が動いているのではなく空間自体が拡張しているため、光速のルールには影響しないといいます。
エマさんは、空間が膨張するなら私たちの体や原子も大きくなっているのかと疑問を投げかけます。レンさんは「気づかないだけ」という可能性に「そういうのはあるかもしれない」と応じ、話は宇宙へと広がっていきました。
身近な光でもここまで深い、次回は光の粒の話へ
レンさんは今回伝えたかったことを、光という身近なものを調べるだけでもこれほど深い話になる、という点だと話します。
めちゃくちゃ身近だけど、めっちゃむずい。
エマさんは、速さは距離割る時間で、速さが一定だから距離や時間が変わる、という部分には「めっちゃ納得した」と振り返ります。
次回は光の粒の話で光のテーマを締めくくり、その後は原子につながる話をしたいとレンさんは予告します。アインシュタインの人生、光の速さ、光の粒で3回はかかるといいます。質問への回答には自信がないとしつつ、LINEオープンチャットで相対性理論について盛り上がってもいいかもしれない、と呼びかけて番組は終わります。
まとめ
光の速さは、デカルトの「無限」という考えから、ガリレオの挑戦、レーマーやブラッドリーの天文観測、フィゾーやフーコーの地上実験を経て、少しずつ正確に測られてきました。エーテルの風が見つからない謎に対し、アインシュタインは光速そのものを不変の法則として受け入れ、時間と空間のほうが変わるという発想で答えを出しました。
- 光の速さは長く無限と考えられ、1676年にレーマーが木星の衛星イオの観測から有限であることを初めて示した
- 歯車や回転鏡を使った地上実験で測定精度が上がり、フーコーは水中で光が遅くなることも発見した
- 光を伝える媒質エーテルの風を探す実験は、何度やっても光速の変化を検出できなかった
- アインシュタインは光速不変を原理とし、速さが一定なら距離と時間が変わるという相対性理論の発想に至った
- 質量のある物は光速に近づくほど無限のエネルギーが必要になり、光速は世界の「定数」のような存在とされる


