エルメスはなぜ一人勝ちできるのか
エルメスが絶好調で、バーキンのように「買いたくても買えない」商品が行列を生んでいます。CEOセオさんは、このエルメスがなぜ顧客の心をつかめるのかを今回のテーマに据えました。
一方で、グッチやバレンシアガを抱えるケリング ── フランスのラグジュアリー・コングロマリット。グッチ、バレンシアガ、サンローランなどのブランドを傘下に持ちますのように、苦しくなっているラグジュアリーブランドも増えています。セオさんは、中国のような大きな市場でラグジュアリー需要が落ちていることも背景にあると見ています。
セオさんが紹介したニュースの要点は、エルメスとケリングの業績が4年で完全に逆転したというものです。かつて絶好調だったケリングは、主力のグッチが落ち込み、今はかなり苦しい状況にあります。
ファッションって本当に流行性のものですから、トレンドとかね、やっぱそこに左右もされてきます。
スターデザイナーでもグッチは立て直せないのか
ケリングは、バレンシアガを大きくけん引したスターデザイナーのデムナ・ヴァザリアをグッチのアーティスティックデザイナーに移しました。ただ、セオさんによれば、その効果はまだ出ていません。
自らを「ファッションオタクなところもある」と話すセオさんは、デムナほどのデザイナーでもグッチの立て直しは難しいと見ています。理由として挙げたのが、デザイナーとブランドが持つストーリーの違いです。
正直デムナって退廃的で、どちらかというとヒッピーみたいな世界をラグジュアリーに持ってきた(人です)。
かなり破壊的なイノベーションをする人なので、王道派のグッチとは少しストーリーも違うんですよね。
エルメスの魅力は希少性・リセール・普遍性
セオさんは、エルメスの魅力を3つに整理しています。1つ目は、なかなか買えないという希少性と、それを崩さないブレないスタンスです。
2つ目はリセールバリューの高さです。バーキンは定価以上で売られることもあり、セオさんはこの点がロレックスに似ていると話しています。
3つ目は変わらない価値です。ロゴを強く押し出したりデザイナーに依存したりするのではなく、エルメスというブランドそのものへの普遍的な信頼感があるといいます。
さらにセオさんは、AIでそれっぽいものが何でも作れる時代になったからこそ、希少性の価値を作り続けられるエルメスが再定義され、改めて評価されているのではないかという見方を紹介しています。
増産しない垂直統合のビジネスモデル
エルメスのビジネスモデルの基本は、垂直統合 ── 原材料の調達から生産、販売までを自社グループ内で一貫して手がける経営の形。品質やブランドの管理をしやすいのが特徴ですと、増産しないことです。職人や小規模な工房をグループ内に囲い込み、生産を一切アウトソーシングしません。
しかもエルメスは生産を意図的に上げないため、常に需要より供給が少ない状態が保たれています。売り切れてしまえば、もう買えません。
販売面でも、エルメスはアウトレットに出店せず、セールもしません。セレクトショップでも買えず、直営店でしか手に入らないため、収益性が高く保たれます。
生産を囲い込む
職人・工房をグループ内に抱え、外注しない
増産しない
意図的に生産量を上げず、需要より供給が少ない状態を保つ
売り方を絞る
アウトレット・セールなし、直営店のみで値引きもしない
「今買うしかない」
買える場所と量が限られ、購入の機会そのものが価値になる
セオさんは、希少性のコントロールから生産、ブランディングまでが一気通貫でつながっている点を、エルメスの強さの核心として描いています。
ものづくりなのにソフトウェア並みの利益率
垂直統合の結果、エルメスの通期の営業利益率は40.5%に達し、2025年には41.4%まで上がっているとセオさんは紹介しています。
セオさんはこの数字を、TSMCやNVIDIAのようにAI向け半導体で大きな利益を上げる企業と比べても劣らない水準だと話します。在庫を抱えるものづくり企業としては異例だという受け止めです。
恐ろしいですよ。だからもうソフトウェアみたいな企業ですね。
在庫を抱えたものづくりなのに40%という利益(率を)叩き出せるっていうのはよっぽどですね。
ケリングはなぜトレンドの波に弱いのか
エルメスの垂直統合と対照的なのが、ケリングのビジネスの作り方です。セオさんによれば、ケリングはスターデザイナーへの依存と、トレンドづくりで成長してきました。
ケリングは、デムナ・ヴァザリアや、かつてグッチを率いたミケーレのように、話題性がありSNSでもフォロワーを持つデザイナーを招いてトレンドを作ってきました。セオさんは、本来ファッションとはそういうものだとも認めています。
エルメスはかなり硬派な感じなんですけども、ケリングはどちらかというとミーハーな感じで展開をしてるわけですね。
トレンドを追うやり方は、波に乗れば大きなメリットがありますが、乗れていない時期は苦しくなります。デザイナーが交代したりトレンドが変わったりすると、ケリングの売上は急激に下がるといいます。
セオさんは、ビッグスニーカーやオーバーサイズの流行もデムナがほぼ発祥と言っても過言ではないとし、デムナをトレンドそのものを作れるデザイナーと評価しています。それでも、ブランドとデザイナーは必ずしも同じではないと指摘します。
ブランドにはストーリーがあり、デザイナーにはトレンドがあるという、こういう状況なんですよね。
ブランドのストーリーとデザイナーのトレンドがうまく合えば強く、セオさんはバレンシアガとデムナの組み合わせをその例に挙げています。ただ、合わなくなると途端に難しくなり、ケリングはこのボラティリティの高さが今の苦境につながっているといいます。
素材から仕上げまで自社で支配し、透明性と責任がそのままブランド価値になる。普遍的な信頼で売る
クリエイティブを外部のスターデザイナーに頼り、市場価値はデザイナーとトレンドに依存する
ケリングでは2025年6月にルカ・デメオさんが新CEOに就任しており、セオさんは現在、改革が進められているところだと紹介しています。
数字で見るエルメス、ケリング、LVMHの差
業績の数字にも、エルメスとケリングの差がはっきり表れています。セオさんが紹介した数字では、エルメスの売上高は2兆7000億円で前年比15%増、営業利益は1兆円を超え、営業利益率も40%を上回っています。
ケリングの売上高は3兆円を超え、規模ではエルメスより大きいものの、前年比12%減です。営業利益は4400億円で前年比46%減、グッチ単体でも前年から20%以上落ちています。
グッチはケリング全体に占める割合が大きいため、グッチの落ち込みはグループ全体に大きなダメージを与えている、とセオさんは説明しています。
| 項目 | エルメス | ケリング | LVMH |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2兆7000億円(前年比+15%) | 3兆円超(前年比−12%) | 14兆円 |
| 営業利益・利益率 | 1兆円超/40%超 | 4400億円(前年比−46%) | 利益率23% |
| 時価総額 | 30兆円超 | 5兆円 | 35兆円 |
時価総額で見ると、エルメスは30兆円を超え、5兆円のケリングとは約6倍の差がついています。ルイ・ヴィトンなどを抱えるLVMH ── ルイ・ヴィトンをはじめ、ファッション、ジュエリー、酒類など多数のブランドを抱える世界最大級のラグジュアリー・コングロマリットですは35兆円で、エルメスは一度逆転したものの、今はまた抜かれているといいます。
セオさんは、LVMHは巨大なポートフォリオを持つため単純比較はできないとしながらも、規模で考えるとエルメスのすごさが改めてわかると話します。ラグジュアリー全体は上がりすぎたことで評価の調整局面に入っており、LVMHもケリングも成長が鈍化する中で、エルメスだけがプラスを保っています。
リセールを前提に買う時代の資産価値
ブランドごとのリセールバリューの保持率では、エルメスが100%、シャネルが92%、ヴィトンが88%、セリーヌが64%と紹介されています。
ただし、セオさんによれば保持率の1位はエルメスではありません。104%という保持率を持つのはゴヤールで、セオさんは「え、ゴヤールか?」と意外に思う人もいるだろうとして、後半で詳しく触れています。
セオさんは、現代人はリセールを前提に物を買っていると指摘します。購入時にリセールを意識する人は全体の59.2%で、20代では83.9%に上り、売ることを前提に考える人は全体の71.7%だといいます。
買い方の変化として、セオさんはタグを付けたまま着る人や、袋や箱を取っておく人が増えている例を挙げています。中国ではECで買った服をタグを付けたまま着て返品する人もいて、それを防ぐために服ほどの大きなタグを付ける対策まであるそうです。
こうした流れの中で、リセールバリューの高いエルメスは資産価値としての性格を強めています。セオさんは時計のロレックスや、車のメルセデスのGクラスにも通じる話だとして、富裕層もなんだかんだでリセール率を気にしていると話しています。
時代がエルメスを後押ししている理由
エルメスの躍進はブランド力の勝利と語られがちですが、セオさんは時代が合っている面もあると見ています。ファッションにはトレンドがあり、エルメスが未来永劫勝ち続けるとは限らないからです。
1つ目の追い風は「ロゴ疲れ」です。ロゴを大きく打ち出す商品が一時期大流行しましたが、2026年時点では消費者の50%が静かでロゴが目立たないものを選びたいと考えているといいます。これがクワイエットラグジュアリー ── ロゴや派手な装飾に頼らず、素材や仕立ての良さで上質さを示す控えめな高級ファッションの潮流と呼ばれる流れで、中国でも控えめで必需品となるものへと志向が移っています。
2つ目は中国のラグジュアリー市場の構造変化です。セオさんによれば、中国の市場は2024年に17〜19%、2025年にも5%ほど下がり、2026年7月にも10%下がっています。
中国も富裕層への課税強化というのがあって、二極化していて、買う人はね、バンバン買うんですけど、その層がだいぶ減ってる。
中国のラグジュアリー消費者は2025年に約2000万人減ったとも言われます。セオさんは、もともと二極化の上側にいるエルメスは、他のブランドが顧客を減らす中でも減らずにいられたのだろうと見ています。
3つ目はAIの普及です。AIが広がるほど、手仕事や洗練されたものが逆に価値を持つようになり、エルメスのブレない生産や職人技に光が当たっているといいます。
4つ目は値上げ疲れです。ラグジュアリーブランドが近年大幅な値上げを続けた結果、消費者が疲れ、2024年のラグジュアリー市場はパンデミック以降で減少しています。リセールが高くないと買いにくい状況が、エルメスを後押ししたとセオさんは話します。
ゴヤールはなぜエルメス以上のリセール率なのか
リセール保持率104%のゴヤールについて、セオさんはその理由を販売の仕方に見ています。ゴヤールはECを一切やらず、オンライン販売を徹底して拒否しています。
ゴヤールの商品はお店に行かないと買えず、店舗も全世界で30〜40店ほどしかありません。購入のハードルを高くすることで、エルメスと同じく常に需要が供給を上回る状態を保っています。
さらにゴヤールは、インフルエンサー施策や広告を一切行わず、ファッションショーも開きません。セオさんは、ここも今の時代の流れと逆行していると話します。
- ECをやらず、店舗でしか買えない
- 店舗は全世界で30〜40店ほど
- インフルエンサー施策・広告・ファッションショーをしない
- ハンドメイドで、カスタマイズもできる
エルメスと同じように、やっぱ今逆転の発想が必要になるということですよね。
セオさんによれば、ゴヤールは売上も業績も大きく伸び、定価も上がり続けています。
ラッパーたちが火をつけたゴヤール再評価
ゴヤールは20年ほど前にも人気がありましたが、なぜ今また急に人気になったのか。セオさんは、2010年代半ばにカニエ・ウェスト、ファレル、トラヴィス・スコット、エイサップ・ロッキーといった世界的なファッションアイコンのラッパーたちが、ゴヤールに目をつけたことが大きいと説明します。
トレンドをリードしてる人たちなんで、やっぱりロゴドンが来るとロゴドンじゃないもの(を選ぶ)、そういうの早いんですよね。
セオさんは、時代をトレンドセッターが作っていく構図は変わらないとしたうえで、そのなかでどんなポジショニングを取るかが重要だと話します。やるべきこととやらないことをはっきりさせる点が、エルメスとゴヤールに共通する施策だという見立てです。
勝ち続けるブランドに必要な長い目線
一方でセオさんは、時代は変わるため、エルメスやゴヤールが厳しくなる時期もいずれ来るだろうと話します。今の好調も、時代の追い風と切り離せないという見方です。
セオさんは、ファッションはアーティストや音楽と同じく非常に難しいビジネスだとし、長い目線と中長期的な投資が必要だと締めくくっています。
まとめ
エルメスの営業利益率40%超は、増産しない垂直統合と、値引きや外部販売をしない売り方が生む希少性に支えられています。ケリングのようにスターデザイナーとトレンドに頼るモデルとは対照的で、ロゴ疲れや中国市場の二極化、AIの普及、値上げ疲れといった時代の流れも追い風になっています。ただしセオさんは、時代が変われば勝者も変わりうるとして、中長期の視点を強調しています。
- エルメスは生産を外注せず意図的に増産しないことで、常に需要が供給を上回る状態を保っている
- ケリングはスターデザイナーとトレンドに依存するため、波に乗れないと業績が大きく振れる
- リセールを前提に買う消費者が増え、保持率の高いエルメスやゴヤールは資産価値を持つ
- ゴヤールはEC・広告・ショーをやらない逆張りで、エルメス以上のリセール率を生んでいる
- 時代の追い風はいずれ変わるため、ブランドづくりには長い目線と中長期の投資が欠かせない


