最大のユニコーンはなぜ評価額を下げ続けたのか?
中国発のファストファッション企業SHEINが、早ければ今週中にも香港市場でIPOを行う見通しだと報じられました。目標の評価額は約250億ドル、日本円で約3兆7500億円まで引き下げられたといいます。
CEOセオさんがこのニュースで注目したのは、下げ幅の大きさです。SHEINは2022年のピーク時に1000億ドル、約15兆円と評価され、当時は世界最大のユニコーン企業と呼ばれていました。そこから約4年で評価額は約75%下がっています。
当時世界最大のユニコーンと言われてですね、そこから見ると約4年で75パーセントも評価額が下がってしまった。
SHEINの評価額は、上場直前にも段階的に下げられています。2026年7月時点では400〜500億ドルを目標としていましたが、翌月の8月上旬には300〜400億ドルへ下方修正され、最終的に現在の水準まで下がりました。IPOでは約20億ドル、約3000億円の調達を目指すとされています。
SHEINの上場は、上場先を何度も変えた末にたどり着いたものでもあります。セオさんの説明によると、経緯は次のとおりです。
セオさんは、上場はタイミングが非常に重要だと話します。政府の判断などさまざまな問題でピーク時の上場を逃し続けたことが、評価額に響いたという見方です。
一番ね、(評価が)ピークの時に持ってこないと、やっぱバリエーションつかないですよね。
ピーク時の上場は、上場後に株価が落ちると「上場ゴール」と批判されるリスクもあります。それでもセオさんは、評価が高いときに上場して資金を調達し、その資金でさらに上を目指すことが経営として重要だと考えています。なお、創業者のSky Xuさんの資産も、2024年のピークから約半分になったといいます。
激安を支えた3つの仕組みとは
セオさん自身もSHEINで何度か購入したことがあり、小さな小包で届く商品は驚くほど安かったといいます。品質はユニクロなどと比べると低いものの、見た目が映えることもあって売れ続けてきました。
SHEINの安さを支える1つ目の仕組みは、超小ロット・超高速サイクルの生産です。AIで需要を予測し、在庫を持たずにリードタイムを短くすることで、100枚程度なら短期間で作れてしまうといいます。
セオさんは、この点で日本の工場と大きな差がついたと見ています。日本の工場は時間をかけてパターンを組み、いいものを作ろうとする一方で、スマートファクトリー ── 工場の設備や工程をデジタル技術やAIでつなぎ、生産計画や品質管理を自動化・最適化した工場のことと呼べるほどのアップデートはされきれていないという見方です。
2つ目の仕組みは、中国広東省の万有にあるサプライヤーネットワークです。数千社の小規模工場をネットワーク化しており、大量生産にも対応できる「生産アズアサービス」のような体制になっているといいます。
3つ目の仕組みが、アメリカのデミニミスルール ── 少額の輸入品について関税や通関手続きを免除する制度。米国では一定額以下の小包が対象で、越境ECの安価な商品の流通を後押ししてきましたです。800ドル以下の小包は関税や通関が免除されるため、SHEINの安い商品は関税なしで消費者に直接届けられていました。
こうして成り立ったのが、価格を下げて薄利多売で大量生産・大量消費するモデルです。セオさんは、使い捨てで作り続けるモデルは環境にも良くないと指摘しており、労働問題も出ていると話しています。
関税制度の転換で、グレーゾーンの強みはどう逆転したのか
SHEINの強みだった関税の仕組みは、トランプ政権のもとで大きく変わりました。2025年5月に対中国でデミニミスルールの廃止が発表され、同年8月には廃止が全世界に拡大されたといいます。
デミニミスルールの廃止に伴い、中国発の小包には最大145%の関税、または1個あたり100〜200ドルの定額課税がかけられることになりました。その結果、800ドル以下の小包は廃止後に54%も減少したといいます。
800ドル以下の小包は関税・通関が免除され、関税なしで直接届けられた
最大145%の関税または1個100〜200ドルの定額課税で、むしろ割高に
SHEINはうまくこの関税の仕組みにうまく乗っかってたんですけど、ただこれがもう逆転現象になっちゃったっていうことで、むしろ高くなっちゃった。
セオさんは、ルールの隙間を突いて伸びるビジネスは珍しくないと話します。UberはSHEINと同じくタクシー業界と激しく戦い、Airbnbも民泊でさまざまな問題がありました。
UberやAirbnbの場合は、グレーゾーンをテクノロジーとスピードで一気に広げたうえで、ロビー活動を通じて合法化にまで持ち込みました。セオさんは、法律まで変えてしまうのがアメリカのすごいところだといいます。
一方でSHEINは中国の会社であり、米中関係が悪い中では不利な立場にあります。制度を変えさせる方向ではなく、SHEINを潰す方向に舵が切られると、一気に勢いを失ってしまうというのがセオさんの見方です。
売上6兆円でも投資家が評価しない理由
SHEINの売上そのものは伸び続けています。2023年の約4兆8000億円から、2024年には約5兆8200億円と約20%伸び、2025年には約6兆2000億円となりました。
ただしSHEINの売上の伸び率は、41%、20%、8%と鈍化しています。セオさんは、この規模で8%伸びているのは十分すごいとしつつ、成長率の低下に注目しています。
SHEINの利益面はさらに厳しい状況です。純利益は2024年から約40%減り、営業利益率は2023年の4.3%から2024年は2.5%に下がり、2026年は2.9%と見込まれています。
2026年の第1四半期には、前年同期の3億9500万ドルの黒字から、9900万ドルの赤字に転落する見通しだといいます。米国での構成比もこの1年で14%減少しました。
セオさんは、薄利多売で利益を出すには相当な工夫が必要だと指摘します。しかもSHEINは安さがすべての売りなので、関税で苦しくなっても値上げしづらい立場にあります。
投資家の評価も大きく変わりました。売上に対する時価総額の倍率であるPSR ── 株価売上高倍率。時価総額を売上高で割った指標で、利益が小さい成長企業の評価によく使われますは、2022年の4.3倍から、2026年には0.6倍まで下がっています。売上が約6兆円あっても、時価総額は約3.7兆円という計算です。
セオさんは、SHEINが急成長スタートアップではなく成熟企業、さらには衰退期にあると見られていると分析します。上場時の評価は、規模の大きさよりも将来性で決まるからです。
ZARAと同規模の売上で、時価総額は6分の1
SHEINの売上約6兆円は、ZARAの約6.5兆円とほぼ同じ規模です。それでも利益率と評価には大きな開きがあると、セオさんは比較します。
| 企業 | 売上・利益の指標 | 時価総額 |
|---|---|---|
| SHEIN | 売上約6兆円、営業利益率2.9% | 約3.7兆円 |
| ZARA | 売上約6.5兆円、粗利率約6割 | 約24兆円 |
| ユニクロ | 営業利益率16% | (言及なし) |
売上がZARAとほぼ同じなのに、SHEINの時価総額はZARAの6分の1ほどにとどまっています。セオさんは、この差には地政学リスクも加味されているのだろうと見ています。
いくら6兆円あっても利益が出ない会社はもう潰れるしかないんですよね。
トランプ政権がさらに関税を引き上げれば、SHEINのビジネスは成り立たなくなる可能性があります。セオさんは、SHEINの問題がかなり政治の戦いになっていると話します。
この見方は中国発のAIスタートアップにも当てはまるといいます。セオさんは、中国発のAIがグローバルスタンダードになるのは難しいかもしれないとし、TikTokですらアメリカとの間で制限がかかってきたことを挙げます。どのサービスやプロダクトを選ぶかは、こうした事情を見ながら考えることが重要だという指摘です。
日本への示唆と、制度の穴で伸びた企業の末路
セオさんは、政府と戦いながら地政学リスクを抱える状況は中国特有だとしつつ、日本も今後どうなるかわからないと話します。日本は商品を買う側にいるため、円安になるとあらゆるものが値上がりしてしまうからです。
ただし、円高になれば今度は円高が問題視されます。セオさんはドル円が100円ぐらいがバランスがいいと考えており、そこまで戻さないと日本のサービスが安く買い叩かれ、外国人に持っていかれてしまうと懸念しています。
制度の抜け穴で伸びた企業が規制強化で一気に失速した例として、セオさんは2010年代にPayPalマフィアと戦った中国の送金業者や、ケイマン諸島などのオフショア金融 ── 税率が低く規制がゆるい国・地域に資金や法人を置く金融の仕組み。国際的な規制強化で透明性が求められるようになりましたを挙げます。どちらも制度が変わると一気に立ち行かなくなったといいます。
セオさんの結論は、制度の穴で伸びるなら、法制度すら変えられるほどの影響力とロビー活動が必要だということです。それがなければ、巨大企業ほど足元をすくわれかねないといいます。
実は会社経営って規模が大きくなればなるほど倒産リスクとか増えるんですよね。実はね、不思議なことに。
大きな会社ほど、失敗したときのダメージが大きくなります。セオさんは、わずか4年で最大のユニコーンがここまで変わることを踏まえ、AIなど今後の産業の動きも注視していく必要があると締めくくっています。
まとめ
SHEINは超小ロット生産、広大なサプライヤーネットワーク、米国のデミニミスルールを組み合わせて急成長しましたが、関税制度の転換と地政学リスクで利益と評価を大きく失いました。セオさんは、制度の隙間に頼る成長の危うさと、上場における将来性の重みを指摘しています。
- SHEINの評価額は2022年のピーク1000億ドルから約250億ドルへ、約4年で約75%下落した
- 激安モデルは超小ロット・超高速生産、数千社の工場網、800ドル以下の免税制度の組み合わせで成り立っていた
- デミニミスルール廃止で関税優位が逆転し、利益率の低下と赤字転落見通しにつながった
- 売上はZARAと同規模でも、成長鈍化と地政学リスクで時価総額は6分の1ほどにとどまる
- グレーゾーンで伸びるなら、制度を変えるほどの影響力がなければ規模が大きいほど足元をすくわれやすい


