なぜけんすうさんはポッドキャストに賭けるのか
今回のOff Topicは、草野美木さんが休暇中のため、宮武テツローさんが1人でゲストを迎える形で進みます。ゲストは、アルという会社を経営し、ポッドキャストプレーヤー「Pody」を作っているけんすうさんです。
けんすうさんはOff Topicを以前から聴いていて、X(旧Twitter)でも番組を紹介してきました。本人はむしろ不満があるそうです。リスナーが「いい情報だから独占したい」とシェアしないので、シェアしましょうと呼びかけているといいます。
(けんすうさんが)何回かツイートしてくれてるのを見て、「あ、kensuさん聞いてくれてるんだ」っていう感じで、OffTopic側はすごい、毎回盛り上がってます。
けんすうさんが最近掲げているテーマは「インターネットを良くしたい」というものです。レイジベイト ── 怒りを誘うコンテンツで反応や拡散を狙う手法のこと。「怒りの釣り餌」という意味で、SNSで問題視されていますのように感情を刺激するコンテンツが増え、ネットの治安が悪くなっていると感じているそうです。周りでもXをやめる起業家が出ているといいます。
けんすうさんが問題にしているのは、スマホでは親指のわずかな動きでコンテンツが切り替わってしまうことです。少し難しい話になると次へ移り、怒りを刺激されるとすぐ反論してしまいます。理性より感情が動く、いわゆるシステム1 ── 心理学者ダニエル・カーネマンらが説明した、直感的で速い思考のモード。熟慮する遅い思考は「システム2」と呼ばれますの反応ばかりが増えていると、けんすうさんは見ています。
そこでけんすうさんが目を付けたのがポッドキャストです。ポッドキャストはスマホで再生していても画面には触れていないことが多く、一瞬ムカッとしても、わざわざロックを解除してまで反応する人はあまりいません。そのぶん長く聴いてもらえると考えたそうです。
実際の数字もこの考えを裏づけています。最初に始めた「ハイパー起業ラジオ」は、30分を最後まで聴く人が約8割いました。全10回のシリーズでも、最終回まで聴いた人が5割ほどいたといいます。
テキストメディアの数字は対照的です。けんすうさんがテキストメディアを運営していた頃は、1ページの平均滞在時間が1分40秒で、1人が見るのは良くても1.7ページでした。ほとんどの読者は1本の記事を読んだだけで、検索エンジンやSNSへ帰ってしまいます。
2500万UUでも「一見さん」ばかりだったウェブメディア
宮武さんは、ページビューで収益を得る仕組みそのものにも問題があると指摘します。ページビューで稼ぐ仕組みでは、読者にじっくり滞在してもらうことより、とにかくページに来てもらうことが優先されてしまうためです。
けんすうさんが以前運営していたウェブメディアは、2500万ユニークユーザーほどの規模がありました。ただ、その読者のほとんどは一度来て帰る「一見さん」だったといいます。そうした読者を集めるには、刺激的なタイトルやSEO対策のような技術的な工夫ばかりが最適解になってしまいます。
大体エロか猫にいけって。
けんすうさんもこの見方に同意します。時間をかけた取材記事は読まれないうえにコストがかかり、猫の写真のほうが儲かるなら、メディアはそちらを選んでしまいます。そこで相性がいいと考えたのが、ロングフォームのポッドキャストでした。
けんすうさんは現在、複数のポッドキャストを手がけています。幻冬舎の箕輪厚介さんと質問に答える「御神託ラジオ」、毎朝3時45分に起きるタナカケイさんとの「限界突破ライフハック」があります。ほかに、LINEヤフー会長の川邊健太郎さんと政治の基礎を構造的に聞く「ハイパー政治ラジオ」も続けています。メンバーが本を30冊ほど読んで「言語化とは何か」を解説するような、手間のかかる番組もあるそうです。
宮武さんは、番組を短期で終わらせるつもりなのか、長く続けるつもりなのかを尋ねました。けんすうさんの答えは長期志向です。ハイパー起業ラジオが終わったのは、共同で運営していた小原さんが1年から1年半でプロジェクトを変えるスタイルだったためです。けんすうさん自身は、番組を長く続けること自体が価値やブランドになると考えています。
(Off Topicは)8年目なのでもう長いです。何話していいのかもわかんなくなっちゃってますね。
職人は言葉で語るべきではない?日本の言論観
宮武さんは、日本では業界ごとの人が自分の業界の話しかしない風潮がある、と問いかけます。アメリカではテック、ビジネス、カルチャーをつなげて見る人が多いのに、日本ではアートとビジネスの人が交わりにくいという問題意識です。
けんすうさんは、日本では専門外のことを話す人が下に見られがちだと答えます。職人的な人のほうがすごそうに見えるので、たとえば大谷翔平選手が政治を語ると嫌な感じがする、という受け止め方が日本では強いのかもしれないといいます。
けんすうさんによれば、さらに根深いのが「職人は言葉で語らず、結果や作品で見せるべきだ」という価値観です。宮崎駿監督が映画について語るより、作品を見せてもらうほうがすごそうに感じられます。身体的な感覚を重んじる国と、言語を重んじる国の違いなのかもしれない、とけんすうさんは話します。
宮武さんは、アメリカのコメンタリーカルチャー ── 作品や出来事について、作り手や識者が解説・論評する文化。映画の監督解説や、ポッドキャスト・YouTubeでの論評などが含まれますを例に挙げます。アメリカでは映画のディレクターズカットで監督が作品を解説することがありますが、日本ではそうした例があまりありません。けんすうさんは、日本では監督の解説でさえ「余計なことを言うな」とノイズ扱いされがちだと応じます。
専門外の発言は下に見られがち。職人は作品で見せるべきで、監督の解説もノイズ扱いされやすい
業界をまたいで語る人が多い。監督がディレクターズカットで作品を解説するコメンタリーの文化がある
けんすうさんは、漫画家でも『鬼滅の刃』の作者のようにSNSも取材もしない姿勢のほうが良しとされる、と例を挙げます。Off Topicはコメンタリーカルチャーの回を3回ほど配信しました。宮武さんによると、その回はタイミングを見て2年ほど温めてから出したそうです。
クリエイターがお金の話をできない国
宮武さんは、日米のカルチャーの大きな違いとして、クリエイターがお金の話をしにくい点を挙げます。日本では儲かっているように見えるのがかっこ悪いとされがちです。一方で、クリエイターも生活していかなければなりません。YouTuberがこの空気を少し変えているかもしれない、と宮武さんは話します。
けんすうさんは、コテンラジオで話されていた見方を紹介します。アメリカでは働いてお金を稼ぐことに神聖なイメージがありますが、日本では意地汚いと思われやすいという見方です。けんすうさんは、アメリカには言論の自由が文化の土台にあり、日本はそこに強い危機感を持ったことがない、という違いもあるかもしれないと付け加えます。
宮武さんは、アメリカンドリームは、ゼロから頑張って働き、稼いで家や家族を持つという物語だと話します。その憧れが、労働とお金を肯定する感覚につながっているのではないか、と考えています。
けんすうさんが変えたいのは、日本でお金の話がタブーになった結果です。お金の話ができないせいで、演劇をしている人やアニメーターがずっと苦しい状況が続いている、とけんすうさんは見ています。
オープンウェブの危機は日本にも来ているか?
ここから本題の「AI時代のメディアの未来」に入ります。けんすうさんは、Off Topicのオープンウェブの危機の回を引き合いに出します。これまでのGoogleのエコシステムは、検索エンジンが大量のトラフィックを送ることで、無料のウェブメディアが儲かる仕組みでした。人々がAIに質問するようになれば、この前提は確実に変わるだろうとけんすうさんは見ています。
けんすうさんが一番懸念しているのは、作り手側の変化です。AIで大量のコンテンツが作られると、良いコンテンツも埋もれてしまいます。取材した記事よりAIにまとめさせた記事のほうが良いとなれば、誰もコンテンツを作らなくなりそうだ、というのがけんすうさんの懸念です。
その例として挙がったのがStack Overflow ── プログラマー向けの質問・回答サイト。AIの普及以降、新規の質問数が大きく減ったことが話題になりましたです。質問数が9割減ったとされ、けんすうさんは、AIが活用しているデータの供給元で作り手のインセンティブが急減している以上、この構造は成り立たなくなるのではないかと話します。
宮武さんは、アメリカではGoogle検索からの流入減少がすでにニュースになっていると紹介します。Chartbeatの数字では、ニュースメディアへのGoogle検索からの流入が33%落ちたといいます。そのうえで、日本の状況はどうなのかと尋ねました。
けんすうさんは、日本のトラフィックの1〜2%ほどをコンサルティングで見ているSEOの専門家、辻さんの見方を紹介します。辻さんによると、日本では言われているほど急激な影響は出ておらず、流入が増えている場合もあるそうです。
ただ、メディアの現場の声は違います。あるメディア会社は広告のビジネスモデルがほぼ崩壊し、イベント事業に大きく軸足を移したそうです。上場企業でも、ビジネスモデルを変えなければならないところが出てきているといいます。
検索に頼らない「持続する」コンテンツとは
宮武さんは、検索流入がこれから確実に落ちるなら、サイトを作る意味も変わるのではないかと問いかけます。けんすうさんは「変わると思う」と答え、その壁を越えられるのはポッドキャストくらいかもしれないと話します。
けんすうさんは、この対談を例に挙げます。2人の対話は1時間ちょっとで収録できるのに、中身は濃くなります。月額で払う人が何人かいて、それで20万円が入るなら、個人のポッドキャスターは十分に活動を続けられる、というのがけんすうさんの想定です。
けんすうさんが検索エコシステムの怖さとして挙げるのは、順位の変動です。Googleの検索順位が突然変わり、月3000万円あった売上が月500万円になることもあります。課金型のポッドキャストなら、売上が突然半分になるようなことは起きにくいはずだと考えています。
検索トラフィックと広告に依存。順位変動で月3000万円が月500万円になることもあり、持続しにくい
課金型のポッドキャストで濃いファンを抱える。売上が急に半減しにくく、良いコンテンツを長く続けられる
宮武さんは、マス向けのメディアはなくなるのかと続けます。そもそもニューヨーク・タイムズはマス向けと言えるのか、という問いも投げかけました。けんすうさんは、読者はリベラルで年収の高い層に偏っているのではと言われると、そうかもしれないと応じます。
けんすうさんは、BBCのような公共放送は残り、日本ではNHKがより強くなる可能性もあると見ています。もう1つの例が、2009年頃から続くキュレーションサービス「Togetter」です。Togetterはいまだに機能していて、けんすうさんは、ある意味では朝日新聞よりもマス感がある、と話します。いまや滝沢ガレソさんのようなXアカウントに載ることが、みんなが知る状態に近いという感覚すらあるそうです。
AIは「デジタル神様」になるのか
宮武さんは、テレビの時代はチャンネル数が少なく、誰もが同じ文化に触れていたと振り返ります。インターネットでコンテンツの場は分散しましたが、AIが入ることで再び集権化するのか、と問いかけました。けんすうさんは「いい質問ですね」と返し、逆に宮武さんの考えを尋ねます。
宮武さんの見立てでは、インターネットは分散化と集権化を同時に起こしてきました。誰でもサイトを作れるようになってコンテンツはあふれ、あふれたからこそ一か所で見たいという欲求が生まれます。その結果、Google検索やSNSのフィードに情報が集約され、モノカルチャー化が進んだという見方です。
分散化
誰でもサイトを作れるようになり、コンテンツがあふれる
集約
一か所で見たい欲求から、検索やSNSのフィードに集まる
モノカルチャー化
アルゴリズムを通じて同じものが見られるようになる
AIの時代
さらなるモノカルチャー化が進む可能性
宮武さんが一番怖いと感じているのは、宗教が強かった時代のような状況に戻る未来です。AIが集権化すると、地動説のような新しい発想を口にする人が異端者として扱われるかもしれない、と宮武さんは話します。
宮武さんは、知人から聞いた話も紹介します。特定の時代のコンテンツだけで学習させたLLMを作っている人がいるそうです。時代によって倫理観はずれていくので、今の倫理観で固定されたAIが広まると、50年後や100年後に新しい発想を取り入れにくくなるのではないか、というのが宮武さんの懸念です。
けんすうさんは「小説家になろう」を例に挙げます。誰でも投稿できる場なのに、作品は異世界転生、その次は悪役令嬢と、似たジャンルに収束していきました。AIで平均化が進めば、本来なら50年後に社会を更新していたかもしれない思想が出てきにくくなる、と宮武さんの懸念を言い換えます。
けんすうさんの「御神託ラジオ」は、まさにこの発想から生まれた番組です。AIを神様に見立てて質問に答えさせ、人間がそれを補足します。ブッダもキリストも、教えを補足する人たちによって広まったように見えるからだといいます。
けんすうさんは、落合陽一さんのデジタルネイチャー ── メディアアーティストの落合陽一さんが提唱する概念。コンピューターと自然の区別がなくなり、計算機が環境の一部として溶け込んだ世界観を指しますという考え方も紹介します。タンスに「今日何を着ればいいか」と聞けば答えてくれるような時代には、人はテクノロジーを自然物や精霊のように感じるようになる、という見方です。
宮武さんは、アルゴリズムが生むモノカルチャー化の例として、赤いスポーツカーが減り、車の色が黒・白・シルバーばかりになったことを挙げます。だからこそキュレーションの重要性が増すのではないか、と話しました。けんすうさんも、Googleの影響でみんながSEO向けの文章を書くようになり、雑多な文章がネットで見られなくなったと応じます。
AIの文章は見抜ける?ビデオ化とショート動画の影
宮武さんは、AIが書いた文章は見ればわかるのかと尋ねます。けんすうさんは、見抜けなかったものは気づけないという前提を置いたうえで、AIは並列や入れ子の構造をきれいにまとめるのがうますぎると話します。
けんすうさんが対比として挙げたのが、起業家の國光宏尚さんです。けんすうさんは以前、書き起こしサイト「ログミー」の立ち上げを手伝っていました。國光さんの話を書き起こすと、話の始まりと結論がまったく違っていて意味がわからないのに、音で聞くとするりと聞けてしまうそうです。AIの文章にはこうしたブレが起きない、とけんすうさんは話します。
けんすうさんは、noteの有料化は価値あるコンテンツが報われる答えの1つになったとも話します。ただ、そこへ読者を導く流入元が今は乏しいという問題が残っています。宮武さんも、ディスカバリーがショート動画に寄っていて、Off Topicでも試してはいるものの複雑な気持ちだと明かします。
今ショートフォームいろいろ回して試したりもしているんですけど、なんかちょっと複雑な気持ちになりますね。
宮武さんはポッドキャストのビデオ化についても尋ねます。けんすうさんによると、日本やブラジルはYouTubeが強く、ポッドキャストの収益モデルも乏しいため、ビデオが求められやすいそうです。ただ、ショート動画の切り抜きでは1分ほどの面白い話が強すぎます。けんすうさんは、ショートは流入元の1つと割り切り、数字を気にしすぎないほうがいいと考えています。
宮武さんも、ビデオ化すると話が薄くなりやすく、違う期待を持った人が入ってくると感じています。ファンの濃さでいえば、音声のみのほうが強いという実感です。けんすうさんは、自分の妻がある人の有料Xスペースを毎週熱心に聴いている例を挙げます。そして、ショート動画を見続けることを、ある漫画にあった「喉が渇いているのに甘ったるい飲み物で癒やしている」という表現になぞらえました。
摩擦のジレンマに挑むPodyの設計
宮武さんは、次世代のメディアやクリエイターは「摩擦」の度合いをどう設計するかが問われると話します。広めるには摩擦の少ないショートやビデオが向いていますが、課金してくれるコアなファンは、摩擦のある音声のほうに集まります。
けんすうさんは、スマホの話も結局は摩擦の話だと応じます。TikTokのように摩擦の少ない場所ほど見られます。一方で、ロングフォームの良いコンテンツは摩擦のある場所に置かないとすぐ離脱されますが、そうすると入ってくる人が減ってしまいます。このジレンマを和らげるために作っているのが、ポッドキャストプレーヤーのPodyです。
けんすうさんによると、Podyの設計には2つの軸があります。1つは、入口でサマリーを見て内容をつかみやすくし、聴きながらメモやクリップで知識を貯めやすくすることです。もう1つは、同じ番組や同じエピソードを聴く人たちがコメントを見合えるコミュニティを作り、濃いファンが育ちやすくすることです。
入口
サマリーで何を話しているかがわかり、聴き始めやすい
聴取中
メモやクリップで知識として貯めやすい
コミュニティ
同じ番組・エピソードのリスナー同士でコメントし合い、濃いファンになる
収益化
課金すると文字起こしが全部読め、配信者に8割が入る仕組みを想定
けんすうさんが特に重視しているのは、配信者に負担をかけないことです。課金モードを付ければ、手間をかけずにマネタイズできる形を目指しているといいます。宮武さんは、書き起こしの特定の箇所にコメントを残し、他のリスナーや配信者本人も返信できる機能を作ってみたいと話しました。
けんすうさんは、Off Topic第290回のAI質問モードで、ロンドンのインド料理店「Dishoom」の場所や、ダブルツリーホテルがどんなホテルなのかを調べたそうです。ダブルツリーはヒルトンが展開するホテルブランドだと教えてもらえました。こうした補足がアプリにあれば、ポッドキャストの中で全部を説明しなくて済みます。
僕がなんかサービス名言ってもその説明をしないので、なんか当たり前のように話しちゃうので、(人物や会社の)説明のリストみたいなのがあると、めちゃくちゃいいと思いますね。
宮武さんはさらに踏み込んだ提案をします。話が「ブレインロット」に触れた瞬間にAIが注釈を出し、次の話題に移ったら消える、というものです。けんすうさんは「めっちゃいい。やります」と即答しました。
けんすうさんによると、実現には技術的な壁があります。再生位置と文字起こしのタイムスタンプを一致させるのが難しいのです。Geminiの上位モデルではまずまずの精度が出ていましたが、ElevenLabsが新しいSpeech to Textを出し、これならできそうだと話しています。
けんすうさんは、この補足の仕組みが国境を越える助けにもなると考えています。日本ならアパホテルと言えば伝わりますが、アメリカのチェーンホテルはピンときません。漫画業界でも、海外の漫画家に『スラムダンク』を例に出しても伝わらず、共通言語が少なすぎるという悩みがあるそうです。
良いコンテンツが報われるインセンティブとは
宮武さんは、検索流入が落ちればどんな形でもマネタイズは難しくなると前置きします。そのうえで、AI企業側の対応策を紹介しました。Cloudflareは、AIがクロールする際にクリエイターへ支払いを求める仕組みを出しています。マイクロソフトは、AIの回答に応じて支払う仕組みを打ち出しています。宮武さんは、答えは見えているのかとけんすうさんに尋ねました。
けんすうさんが起業家として取り組みたいのは、スマホを触らずに楽しむ場を提案し、そこでクリエイターが稼げる環境を作ることです。そうして地殻変動を起こしたいと話します。背景には、Off Topicで扱った「起業家がコンテンツを作れないといけない」「クリエイターと起業家の境界が消えつつある」という流れがあります。
けんすうさんは、起業家にとって良いコンテンツを出すインセンティブが生まれているなら、一瞬の注目を狙うショートより、ポッドキャストでしっかり伝えるほうが長期的に良いと考えています。その意味で、Off Topicはコンテンツの作り方の最先端にいるという認識を示しました。
宮武さんは、アメリカで盛んなニュースレターが日本ではあまり流行っていない理由を尋ねます。けんすうさんによれば、「まぐまぐ」のようなメルマガは高年齢層を中心に今も読まれています。また、noteの有料記事はメールで届くので、事実上ニュースレターの役割を果たしているそうです。けんすうさん自身も、noteなどで2500人ほどが月1000円を払っていて、月200万円ほどの売上になっているといいます。
けんすうさんは、ニュースレターの最大の壁は、多くの人が意外と文章を書けないことだと指摘します。けんすうさんは以前、周りにブログを書くよう勧めていた時期がありました。その経験から、書けないか、書くのが大変すぎる人が多く、1時間しゃべってもらうほうが早いと感じているそうです。
ポッドキャストは炎上しにくい点も強みだ、とけんすうさんは話します。テキストでニュアンスまで伝えられる書き手は少なく、宮武さんが言うように、文章は一部だけコピペされる危険もあります。ポッドキャストなら多少過激なことを言っても、よほど悪意がなければ切り抜かれません。聴き手は前後の文脈も聴いているので、ニュアンスが伝わります。
書くのが大変で、書ける人が少ない。ニュアンスが伝わりにくく、部分的にコピペされるリスクがある
1時間しゃべれば作れて始めやすい。前後の文脈ごと聴かれるので、ニュアンスが伝わり炎上しにくい
Off Topicのフレームワークとコンテンツセントリック企業
けんすうさんは、Off Topicの回が、AIブレインロット、コンテンツ、ハイパーリンクの死、カルチャー、起業家とインフルエンサーの融合と、すべてつながって見えると話します。そのうえで、テーマは課題意識から決めているのかと尋ねました。
宮武さんによると、台本は宮武さん自身が書いていて、いろいろな情報を読むうちに考えが更新されていくそうです。宮武さんは、ビジネス、テック、カルチャーはすべてつながっていて、クリエイターもメディアの1つにすぎないと考えています。
いろんなサイクルが世の中である中で、そのサイクルのタイミングが全部違かったりとか、それの上がり下がりがスピードが変わったりしているだけなのかなと思うので、
そこのサイクルを一回見つけると、そこの同じようなことが繰り返し起きてるっていうのが見えてくるっていうところですかね。
けんすうさんは、Off Topicが発信した「コンテンツセントリック企業」の考え方に大きな影響を受けたと話します。宮武さんによると、この考え方は2年ほど前からOff Topicの社内戦略として書いていたものです。コンテンツがあふれるAI時代には、他の企業にとっても勝ち筋になると考えるようになったそうです。
けんすうさんは、KPIと今の時代は相性が悪いと指摘します。KPIを上げようとするとターゲットを広げざるを得ず、みんなが聴きそうなテーマに寄っていきます。そうして似通ったコンテンツは、AIが得意とする領域です。マニアックなままでいるほうが、かえって生き残れるとけんすうさんは話します。
宮武さんは、今の企業は他のプラットフォームからオーディエンスを借りている状態だと話します。いずれ借りられなくなる時代が来るので、その前に自分たちのオーディエンスを持たなければなりません。宮武さんはその場を「カルト」や「教会」になぞらえます。アテンションの奪い合いで顧客獲得コストが上がる中、自分たちの居場所を持つ会社が優位になると考えています。
けんすうさんは、宮武さんと行った飲み会での話を紹介します。その場に、フォロワー1000万人のTikTokerがいました。そのTikTokerは「見たことがある」とは言われても、熱狂的なファンだと言われることはないそうです。一方、Off Topicにはフォロワー1000万人はいなくても、「好きです」と言ってくれる人が多くいます。
「見たことある」とは言われるが、熱狂的なファンだと言われることはない
フォロワー1000万人はいないが、多くの人が「好きです」と言ってくれる
フォロワーの時代の終わりと、Off Topicの始まり
けんすうさんは、Xでは月に何千万ビューも出ているはずなのに、初対面の人から「X見てます」と言われることはほとんどないと話します。Xでの閲覧は「誰の投稿かわからないけどXで見た」にすぎないからです。ポッドキャストは「Off Topicを聴いている」と言われ、「Spotifyで聴いた」とは言われません。
宮武さんは、SNSがTikTok化し、フォロワーにすら投稿が届かない時代になったと指摘します。そんな中で、ポッドキャストやニュースレターは、オーディエンスと直接の関係を持てる数少ない場所だといいます。
けんすうさんは、X、Instagram、YouTubeはフォロワーやチャンネル登録という仕組みで始まったのに、だんだん作り手を裏切ってきたと見ています。YouTubeにとっては、HIKAKINさんのファンが他のメディアへ全員移ることが一番困るので、特定の作り手にファンがつきにくい設計にせざるを得ないという見方です。けんすうさんは、自分がプラットフォームを作る側でも同じ判断をせざるを得ないと認めます。だからこそ、構造上それができないポッドキャストが長期的には強いと話します。
けんすうさんは、Off Topicは7年ほど前にこの答えにたどり着いていたのでは、と持ち上げます。宮武さんはこれを否定し、草野さんの「アメリカで流行ってるので一緒にやりませんか?」という軽い誘いから始まったと明かしました。
元々やるならブログみたいなことをやりたかったんですけど、僕は絶対書けないと思って。で、それでポッドキャストやって。
宮武さんは英語のほうが得意で、日本語で文章を書く自信がなかったそうです。ポッドキャストの次にTwitterのスレッドで練習し、2020年頃からようやくブログを出せるようになりました。TikTok時代の直前に伸びられたことが、時代の変化にちょうど合っていたのかもしれない、と2人は振り返ります。
収録の終盤、けんすうさんは、Off Topicの「コミュニティファースト」の話を真似て、Podyで500人限定のLINEグループを運営していると明かします。宮武さんは、Off Topicはコミュニティ作りが下手で、ミートアップも年1回ほどしかできていないと打ち明けました。けんすうさんは協力を申し出て、御神託ラジオで作った「炎上しないお守り」のようなグッズの可能性にも触れます。2人は、また続きを話そうと約束して収録を終えました。
まとめ
AIで検索とオープンウェブの前提が揺らぐ中、けんすうさんと宮武さんは、良いコンテンツが報われる場としてポッドキャストに可能性を見ています。摩擦が少ない場所は広がりやすい一方で、ファンは浅くなります。摩擦のある場所で濃いファンを抱え、その人たちが課金で支える形が、2人の描くAI時代のメディアの姿です。
- スマホで画面を触らずに聴くポッドキャストは、怒りや離脱の反射が起きにくく、長く聴かれやすい
- AIによる平均化とモノカルチャー化が、新しい発想を排除する「デジタル神様」の時代を招く懸念がある
- Podyは、入口のわかりやすさ、コミュニティ、配信者の負担がない収益化で、摩擦のジレンマを和らげようとしている
- KPIを追って対象を広げるほどAIが得意な似通ったコンテンツに近づくため、マニアックさがむしろ強みになる
- フォロワーがプラットフォームに奪われる時代に、ポッドキャストは作り手が直接オーディエンスを抱えられる数少ない場所である





