そもそもバックオフィスって何をする部門?
この回は、植西祐介さんをゲストに迎えた最終回です。テーマは、植西さんが2024年夏に出版した『バックオフィス業務のすべてがわかる本』のエッセンスを、ダイジェストで伺うというものです。
まず小橋さんが尋ねたのは、そもそも「バックオフィス」とは何を指すのか、という基本的な定義でした。コーポレートや管理部門など、呼び方はいろいろありますよね。
結構バックオフィスっていう言葉は最近出てきた言葉なんですよね。だから定着してるかっていうと、まだまだ定着はしていないと思うんですが、コーポレートとか経営管理とか管理部門とか、そういう言葉でも使ってる方いらっしゃるのかなと思ってます。
植西さんによると、機能としては経理・財務、人事・労務、法務、総務などがバックオフィスにあたります。営業のように売上を稼ぐ部門ではなく、裏方で会社全般の管理をつかさどっているのが最初の定義だと話します。
植西さんは、この仕事の特徴として「ハードスキルや知識がとても大事になる」点を挙げます。労務なら労働基準法、経理なら会計基準や簿記の知識がないと、そもそも仕事にならないという話ですね。
そもそもそういった知識を知らないと、あんまり仕事にはそもそもなりませんよっていうのがあるので、ハードスキルを積み上げて、でも一方で会社の裏方、屋台骨ではあるので、コミュニケーションも結構ソフトスキルも大事だったりするので。
もう一つの特徴として、処理量の多い定型業務(ルーティン業務)が多い点も挙げられました。その中で、いかに非定型の業務で価値を出していくかがポイントになる、と植西さんは整理します。
決算・帳簿づくりや資金管理を担う。経理と財務は役割が異なる
採用や組織づくり、就業規則や勤怠の管理などを担う
契約書の作成やチェックなど、法律まわりを担う
会社全般の管理業務を幅広く担う
売上を生まないから後回し?日本と海外の意識のギャップ
小橋さん自身も、臨床医としてフロント業務を経験したのち、産業医としてバックオフィスの一機能に関わり、今は経営者として両方を見ている立場です。直接的な売上にはならなくても、この土台がないと会社は長期的には回らないと感じていると語ります。
小橋さんは「バックオフィスという言葉はあまり好きではない」とも話します。コーポレートには「幹」という意味があり、目立たないけれど縁の下の力持ちであり、まさに幹だと感じているそうです。
一方で植西さんは、こうした感覚を持てるかどうかは人によって違うと指摘します。売上を生まない部門だから後回しにされる、というのは昔からある課題だと言います。
本当にコーポレート、バックオフィスって売上を生まない部門だから後回しにされるっていうのが、昔からある冷遇されている課題なんですよね。だから営業とか開発の方々なんかよりも年収水準が低いとか、そういったところも起こっている。
植西さんは、この意識のギャップを埋めたいという思いも、本を書いた理由の一つだと明かします。
例えばアメリカ、ヨーロッパの組織なんかを見ると、ナンバーツーって基本的にCFOなんですよね。だからそこら辺にギャップを感じますよ。そこら辺を解消していきたいっていうためにこの本を書いた。
経理と財務は何が違う?「中と外」だけでは説明できない
小橋さんは、お金まわりの部門について「経理が中、財務が外」というイメージを持っていると話します。植西さんは「一部は合っている」としつつ、仕事の中身で見るとわかりやすいと説明します。
植西さんによると、経理は決算や帳簿をつくり、会社の業績を把握していく機能が一番強い部門です。税金計算や、経営に役立つ数値を加工する管理会計も一部含まれます。
一方の財務は、資金(キャッシュフロー)を管理する人たちだと言います。銀行融資の調整や、融資後の銀行との関係づくり、資金繰り表の作成などを担います。
小さい経営難の会社であれば、1週間にとか、1日単位でちゃんと資金繰りが回るかみたいなことをチェックするのも財務ですし、大きい会社であるならば、株主とか銀行とか、各種のステークホルダーとコミュニケーションしていく、管理していくっていうのが財務ですね。
本来、財務には企業価値の最大化という機能もあると植西さんは補足します。ただ、日本の財務機能は資金繰りの管理がメインになりがちで、中長期的なファイナンスまでは行き着いていないことが多いのが現状だと話します。
決算・帳簿づくりを通じて、会社の業績を把握する。税金計算や管理会計も担う
キャッシュフローを管理する。銀行融資の調整や資金繰り表の作成、ステークホルダーとのやり取りを担う
会社ごとに全然違う「経営企画」という日本独自の組織
小橋さんが「一番イメージしづらい」と挙げたのが経営企画でした。植西さんは、これがとても難しいと前置きします。
この経営企画っていうのが、日本独自の組織でして。アメリカだとCFO組織の中に入るような機能が、日本では経営企画と呼ばれている場所に移っているんですよ。
植西さんによると、経営企画は戦後のGHQ時代にアメリカ型の経営を入れようとした流れと、日本の財閥文化が衝突・融和する中でできた、日本独自の組織だそうです。
仕事はですね、実は定義できないんです、経営企画の仕事は。会社ごとに経営企画の部署があった時に、本当にやってること全然違うんです。
植西さんは、経営企画は「攻める側か管理側か」「特化型か全方位型か」といった軸で、おおよそ4象限に分けられると整理します。数字管理や新規事業のプロデュース、社長秘書のようなプロジェクト対応など、内容は会社のカルチャーによって大きく変わります。
小橋さんが「社長の悩む経営課題を全部投げると、それはもうほぼ経営者では」とツッコむと、植西さんもそこに同意します。
社長の悩んでる悩みを全方位型で、かつ攻める側、事業を作っていく側になってくると、もう経営参謀ですね。ナンバーツーです。
植西さん自身が最初に入った化学メーカーの経営企画は、全方位型ながら管理型が強かったそうです。予算や中長期計画をつくりつつ、攻めることはあまり得意ではない、保守的な全般役。大企業に多いタイプだと言います。一方でベンチャーやスタートアップは、攻める側が多いそうです。
最初の1人はいつ入る?会社の成長とバックオフィス体制
話題は、実際にどう体制を整えていくかに移ります。小橋さんの会社は社員10人未満で、まだコーポレート専門の社員はおらず、税理士・社労士・弁護士やオンラインアシスタントなどにアウトソースしている状態だと明かします。
企業が大きくなるにつれて、どういう形でコーポレート体制を整えていけばいいのか。よくあるパターンはありますか。
一般的には、10人ほどの規模になったときに、最初の1人のバックオフィス担当が入ることが多い。経理・人事・法務・総務など何でもこなす「何でも屋」で、そのあたりの規模で社長が業務をギブアップするタイミングにあたる、と植西さんは説明します。
植西さんは、バックオフィスはお金や会社の押印、インターネットバンキングなどを扱うため、中途半端な人や兼務の人には任せにくいと指摘します。だからこそ、専任の担当者が必要になるわけですね。
例えば営業行ってる人が会社の印鑑持ち歩いてなくしちゃったらとか、大問題じゃないですか。だからそれぐらいの時に専任のバックオフィスの方が出るんですよね。
次の段階では、攻めと守りのバックオフィスが分かれていくのが多いパターンだと言います。事業計画など攻める業務を「経営企画室」、支払いや帳簿、就業規則、契約書などの守る業務を「経営管理室」と分けるイメージです。おおよそ30〜50人ほどの組織で、こうした分け方が出てくるそうです。
バックオフィスの成長は、経営者の器の成長
小橋さんが「10人目の最初の1人は、何でもできるエリート人材では」と問うと、植西さんは、求めるレベル次第だと答えます。守りの作業寄りの部分だけを切り取れば、中規模の人材でも回るケースはむしろ多いそうです。
一方で小橋さんは、会社の機密情報を扱う以上、本当に信頼できる人と一緒にコーポレート部門をやっていく必要があると感じていると話します。植西さんも、バックオフィスの人が入ることは「会社の転換点の一つになり得る」と応じます。
社員の個人情報とか給与情報とかを見せるのって、なかなか勇気がいるじゃないですか。そういう人が入ったっていうことは、社長の器が一つ広がったっていうことだと僕は思ってるんですね。
植西さんは、権限委譲ができるようになり、これまでコアにしていた触れられたくない部分をオープンにして渡せるようになる、その成長の過程だと語ります。
だからこそ「中途半端な人を入れてはダメ」で、かなりの角度で採用しないといけない、という点で二人の見方は一致しました。
SaaSからAIへ、バックオフィスを変えた二段階の進化
話題を変え、DXや生成AI、アウトソーシングによる変化について尋ねられると、植西さんは「めちゃめちゃ感じている」と応じます。まず、10〜15年ほど前に一度大きな変化があったと振り返ります。
その変化とは、freeeやマネーフォワードのようなSaaS(サブスクリプション型)ツールが多く登場したことです。自宅のパソコンからオンラインでいつでもどこでも作業できるようになり、バックオフィスは柔軟にできるものだ、という文化が生まれました。
植西さんによると、このオンライン化・リモートワークの流れはコロナ禍の後押しもあって広がり、バックオフィス業務をアウトソースしてもいい、という考え方が定着しました。BPOやBPaaS(ビジネスプロセスのSaaS)と呼ばれる流れです。
バックオフィスってアウトソースしてもいいんだ、システムにやらせてもいいんだっていうのが出てきて、それが大きな転換点で、一気にこの10年、15年ぐらいで広がっていったんですよね。
そして今、二段階目の変化として起きているのがAIの台頭です。従来のSaaSは「多くの会社で標準的にある業務」の効率化には向いていましたが、決まった型のプロセスでないとできない、という欠点がありました。
たくさんの会社で標準的にある業務をツールを入れて効率化するっていうのはすごく向いていたんですけれども、業務フローを改善していくとか、経営に役立つ情報を経営者にフィードバックしていくとか、そういうレベルの高い業務は、ツールでは今まで触れられなかったんですね。
ところがAIが登場したことで、専門知識をある程度吸収でき、その会社独自の特殊なプロセスでも自動化できるようになった、と植西さんは指摘します。例として挙げたのが、GoogleスプレッドシートのGASというコードです。
こういうことやりたいんだけど、コード書いてって言っても書いてくれる。要は決まってない型の独自プロセスでさえ自動化できちゃうっていうところがすごく大きな変化になっていて。
つまり、専門知識とプロセスの自動化の両方を、バックオフィスの人自身が扱えるようになったわけです。小橋さんも「二段階進化している」とまとめ、会計ソフトのおかげで最初は人を雇わずに済んだ経験を振り返りました。
AI時代でも残るのは「経営者に寄り添う」バックオフィス
最後に、これからバックオフィスに求められる人材について尋ねられると、植西さんは二つの方向を挙げます。一つは、AI活用やDXなどIT側に寄っていくこと。もう一つは、経営者に寄り添うことです。
植西さんは、経営者は非常に孤独で、その悩みの半分以上はバックオフィス関連だと指摘します。資金繰りが回らずに不眠症になったり、信じていた社員が辞めていざこざになったり、法律面で事業が危うくなったり。そうした悩みに寄り添える存在こそが残っていく、と話します。
小橋さんも「そういう方がいるかどうかだけで全然変わってくる」と共感します。植西さん自身もCFO時代を振り返り、煩わしい管理の部分を任せて事業に注力してもらえる関係性は、経営者にとってとても楽で大事だと語りました。
番組の締めくくりでは、植西さんの新刊にも触れられました。前作と同じ7月に、今度は経営企画の基本にフォーカスした2冊目が発売されるとのこと。経営者に寄り添う存在というテーマを、より深掘りした内容になっていると紹介されています。
まとめ
バックオフィスは売上を生まない裏方ですが、経理・財務・経営企画などの機能を通じて会社の幹を支える存在です。SaaSからAIへの二段階の進化で求められるスキルが上がる一方、最後に残るのは「経営者に寄り添える」というスタンスだと植西さんは語りました。
- バックオフィスは経理・財務・人事労務・法務・総務などからなる、会社全般を管理する裏方の機能
- 経理は決算・帳簿づくり、財務は資金管理と、役割が異なる。経営企画は会社ごとに中身が大きく違う日本独自の組織
- 最初のバックオフィス担当は10人規模で入り、30〜50人規模で攻めと守りに分かれていくのが多いパターン
- SaaSで柔軟化・アウトソース化が進み、近年はAIで会社独自のプロセスまで自動化できるようになった
- AI時代でも残るのは「経営者に寄り添う」バックオフィスであり、その成長は経営者の器の成長につながる



