給料を上げたいのに、上げ方は説明できない
今回のテーマは「頑張っているのに給料が上がらない理由」です。会社員時代にもよくわからなかったと岡島さんは振り返ります。
玉置さんは、給料が上がってほしくない人はほとんどいないと指摘します。願わくば上げたい、だから仕事を頑張る、という人がほとんどです。
ところが「頑張ったら給料は上がるのか、そのメカニズムを説明できますか」と聞かれると、答えられる人は少ないと玉置さんは言います。
サッカーだったら、どうやったら得点が入るか、どうやったら勝つかを知った上で頑張るじゃないですか。
ただ、お仕事に関しては、お給料が上がるルールを知らないのにがむしゃらに頑張るんですよね。
ルールを知らずに走り続けるサッカーのようなものだと玉置さんはたとえます。まずは、どうすれば給料が上がるのかという仕組みを理解しましょう、というのがこの回の出発点です。
日本企業の昇給4パターンと、数万円動く唯一の道
玉置さんは前提として、日本企業の昇給には大きく4つのパターンがあると整理します。
年齢や勤続で自動的に上がる。年に1〜2%程度が目安
物価などに対応し全員一律で上げる。組合のある大企業が中心
評価や査定によって上がる
等級やポジションが上がることで上がる
玉置さんによれば、年に数万円単位で給料が上がるのは、この昇格昇給しかないと言います。定期昇給やベースアップは年に数千円程度で、多くの人がイメージする「頑張って上げたい」の実感とは違うからです。
中小や零細では、定期昇給もベースアップもない会社も珍しくないと玉置さんは付け加えます。
物価も上がってるじゃないですか。定期昇給やベースアップがあったとしても、その幅だと物価上昇幅に吸収されちゃって、豊かになった感じはない方が多いんじゃないかと思うんですよね。
物価の上がり方のほうが給料の上がり幅より大きいと感じる人は多いはずだ、という前提から、豊かさを実感できる昇給は昇格昇給しかない、という話に行き着きます。
昇格するのは「頑張った人」ではなく「次でも結果を出せそうな人」
玉置さんは、昇格とは役割が変わることだと説明します。難易度が上がる、範囲が広がる、責任が上がる、といった変化です。
重要なのは、今のポジションの仕事を完璧にこなしても、それだけでは昇格しないという点です。むしろ今の等級で完璧にこなす人は、会社からするとそのままその仕事を続けてほしい場合もあります。
今与えられてる仕事を一生懸命頑張ってる人ではなくって、次のポジションでも結果を出すであろうっていう期待が持てる人なんですよ。
玉置さんは、昇格は今頑張っていることとはある意味別だと言います。もちろん、与えられた仕事もろくにできない人は昇格しません。
一方で、頑張っていれば上司が見ていて昇格させてくれる、という幻想もあると玉置さんは指摘します。
上司の「お前頑張ってるな」みたいな感情論とか主観的な評価で昇格するっていうのは、そんなに合理的じゃないんですよね。
岡島さんは、経営側の視点でこれを補足します。ある程度の規模がある会社で、課長が「こいつは頑張っているから」と給料を上げていたら、組織として問題になるという話です。
ちゃんと会社に利益をもたらしてくれる人を上の役割につけてほしいよっていう動きを、上からはしそうですね。
会社は役割があり、その役割を果たせる人を配置しているだけだ、と玉置さんはまとめます。もう一段上の仕事を任せられるとなったときに、昇格して給料も上がるのです。
昇格審査は転職の審査と同じ。問われるのは「再現性」
玉置さんは、昇格の判断は転職の採用審査と同じだと言います。採用では募集ポジションがあり、目の前の人がその役割を果たせるかを見て採否を決めます。
この役割が果たせるから採用します、ですよね。これ昇格の場合も同じなんですよ。この人はこの新しいポジションを任せられるだろうかっていう目で見られるんですよ。
つまり社内で証明すべきは、今の仕事ではなく、一つ上のポジションでも同じ能力を発揮できるという再現性だと玉置さんは言います。それが評価者に伝わる形になっていれば、昇格の可能性が出てきます。
ここで玉置さんは、経験の見せ方の落とし穴を挙げます。「これもできる」「あれもやった」と経験が散らかった状態では、再現性があるという判断に結びつきにくいのです。
転職のときは職務経歴書を作り、特化したスキルや能力を整理して話します。しかし社内では、この整理をしていない人が多いと玉置さんは指摘します。
「私は何の仕事ができる人です」っていうアピールをする場って案外なかったりするので、すごい甘えちゃってる時多いんですよね。
昇格の近道は、次のポジションの要件から逆算すること
仕組みがわかったら、まず自分が昇格した先のポジションで何が求められているのかを調べたり聞いたりして整理すべきだと玉置さんは言います。
その上で、今持っている構造化されたスキルや能力の何が足りず、何が十分かを見定めます。足りないなら、それをどう積むかを建設的に考えればよい、という流れです。
今与えられた仕事をがむしゃらに頑張るではなくて、自分を次のポジションまで持っていく働き方、整理の仕方などをしないと給料が上がっていかないですよっていう仕組みになってます。
「上げたい額」に根拠はあるか。まず現在地の市場価値を知る
話は、自分の希望額とその根拠に移ります。「給料を上げたいか」と聞けば全員が上げたいと答えますが、「月に5万」「年収100万上げたい」といった額の根拠を聞くと、答えられる人は少ないと玉置さんは言います。
玉置さんは、希望ではなく現在地の自分の価値を知っておくべきだと言います。ここでいう価値とは市場価値のことです。
自分と同じ仕事をする人を採用しようと思ったら、市場では年商400万じゃないと採用できませんっていう仕事を自分が300万でやってるとするじゃないですか。
その場合、自分を採用し直すには市場で400万かかるのだから、ずっとやっている自分に400万払ったほうがよい、という交渉の余地が生まれます。
玉置さんは、転職する気がなくても、転職サイトで自分の仕事を棚卸しして調べてみればよいと勧めます。そうすれば自分の価値が簡単にわかるからです。
価値を高く見積もる2つのバイアス「労力」と「IKEA効果」
ただし、自分の市場価値を調べるときに気をつけるべき認知バイアスが2つあると玉置さんは言います。人は自分の能力を高く見積もりがちだという話です。
1つ目は労力ヒューリスティックです。どれだけ労力をかけたかで価値を見積もってしまうバイアスだと玉置さんは説明します。
同じ作品を見せるんですって。こっちは10何時間かけて描きました、こっちは一日2時間で描きましたって言うと、やっぱり時間かけたもののほうが価値があると評価する人が多いんですって。
自分の仕事では、自分が投入した時間を本人がよく知っています。だから、その時間の分だけ価値があると錯覚しやすい、と玉置さんは言います。たとえその時間がスキルの蓄積になっていなくてもです。
2つ目はIKEA効果です。自分で組み立てた家具を、買ってきた家具より高く評価してしまうという心理です。
築いてきたキャリアや職務経歴書も、可視化されると「築いてきたもの」として、つい高めに値付けしてしまうと玉置さんは指摘します。
岡島さんも、転職の予定がなくても職務経歴書を書いてみた経験から、これに共感します。
「大したことやってないなぁ」みたいな経験でも、「まあ頑張ったしなぁ」みたいな感じで書いちゃう。でも見る人からすると散らかってて、「わからんこいつ」って多分なるんですよね。
「何をやってきたか」ではなく「何に責任を果たしたか」で見る
玉置さんは、2つのバイアスはどちらも「何をやってきたか」に注目すると起きると整理します。すると自分の経歴が大事に思えてきてしまいます。
仕事って「何に対して責任を果たしてきたか」なんですよね。っていう見方で見た時に何が残りますか、なんですよね。
玉置さんは、自分のフラットな価値を測るための具体的な問いをいくつか挙げます。
- 1週間自分が休んだら、何が止まって誰が困るか
- 自分の判断一つでどれだけのお金が動くか、損失が発生するか
- 後任に引き継ぐとしたら、一人前になるまでどれだけかかるか
たとえば1週間休んでも「2人でカバーできる」「誰も困らない」ということは往々にしてあると玉置さんは言います。それは自分の責任の範囲を客観的に見せてくれます。
後任が1か月で育つなら、代替コストが安い仕事だということです。玉置さんはこれを、人ではなく仕事への評価として捉えるべきだと言います。
あなたのコストが安いんじゃなくて、今やってる仕事がそういう評価なんだってことになっちゃうんですよね。
玉置さんは、今ならAIも使えると言います。自分の仕事の輪郭と募集職種の情報を入れて、そのポジションでいくらもらえるかを尋ねれば、答えてくれるという方法です。
その結果、今の給料が仕事に対して低ければ交渉や転職の余地があり、逆に高い場合もあると玉置さんは付け加えます。高い場合は、置き換えたほうが会社にとって合理的だという状態になりかねません。
その会社に昇格の椅子はあるか。市場と成長性で環境を選ぶ
3つ目のポイントは、昇格の仕組みを実現できる会社にいるかどうかです。仕組みがわかっても、環境がなければ昇格は起きません。
玉置さんは、規模の小さい会社で誰も辞めない例を挙げます。10年頑張っても全員が同じなら、一番下のままということもあります。
部長が定年退職するまでは部長になれないんですみたいな。椅子取りゲームだと椅子が空かないんですよね。
また、売上が横ばいや減少で、会社がコスト削減に舵を切っている場合も、昇格昇給は起きにくいと玉置さんは言います。市場の縮小や、AIによるポスト減も同様です。
これ本人の頑張りと全く関係ないんですよ。
玉置さんは、老舗で安定しているから就職するのはよいが、そこで昇格・昇給を強く望むとしんどくなると指摘します。思い描くものと違うなら、転職を考えたほうがよいという立場です。
その上で、市場が伸びている業界に行くのが一番よいと玉置さんは言います。市場が伸びていれば会社も成長し、インセンティブやボーナスの機会も増えるからです。ただし、そういう場所は競争も激しくなります。
縮小業界でも戦える人と、ポータブルスキルという保険
一方で玉置さんは、縮小している業界や踏ん張りが必要な会社でも修行ができる人がいると言います。それは、他の業界でも通用するスキルとマネジメント経験を持つ人です。
なぜならば、いつでも転職できるからなんですよね。
いつでも転職できる人なら、市場や会社を選ばずとも、自分がそこに働く価値があると思えば選んでよい、と玉置さんは言います。
逆に、もしそういう業界にいるなら絶対にやめたほうがよいことがあると玉置さんは強調します。それは、その会社でしか通用しないノウハウや知識に時間を割くことです。
他の会社に行っても活用できるスキルを積むっていうところを意識しないと、ちょっとしんどくなっちゃうと思いますね。
玉置さんは、年齢が上がると転職の選択肢は減っていくと言います。35歳、45歳といった節目を意識し、ずるずるいかないようキャリアプランを考えておくことを勧めます。
好きと得意と価値の交差点。「動詞の好き」で仕事を選ぶ
玉置さんは、転職支援では「好きと得意と価値の交差するところ」の仕事を選ぶよう伝えていると紹介します。この3つが重なる仕事は、続けやすく力を発揮しやすいからです。
ただし「好き」を履き違えないことが大事だと玉置さんは言います。趣味的に好きな領域ではなく、何時間でも何年でもやっていられることを「好き」と定義したほうがよいという話です。
好きっていう時にちょっと履き違えて、趣味的に好きな領域とか楽しい領域を選んじゃうことがあるんですけど、そうではなくって、何時間でも何年でもやっていられることが好きって定義したほうがいいんですよね。
岡島さんは、魚料理は好きでも、朝弱いので市場に並ぶのは向いていないという例を出します。消費としての好きと、仕事にしたい好きは分けたほうがよい、という話です。
だから名詞の好きは避けたほうがいいですね。動詞の好きで選んだほうが。
玉置さんは、名詞の好きではなく、動詞の好きで選ぶと整理します。動詞の好きは続けることができる好きだからです。
魚料理が好き、この領域が好き、といった対象への好き。趣味的な好きに寄りやすく、仕事として続けにくい場合がある
計算し続けられる、といった行為としての好き。何時間でも何年でも続けられるため、仕事として選びやすい
50年働く時代に。AIを防災のように備えて仕事を選ぶ
玉置さんは、22歳で新卒就職した人は下手をするとあと50年働くと言います。健康寿命も延びており、それ以上働く可能性もあると岡島さんは応じます。
そこまで長く働くなら、続けられる状態を想定して仕事や働き方を選んだほうがよいと玉置さんは言います。人手が足りなくなる領域や、伸びると思われる領域を今の時点で考えておくべきだ、という話です。
玉置さんは、事務系の仕事をしてきた人の相談が多いと言います。ただ、その多くは今日の時点でAIに置き換えられる仕事で、たまたま今の会社が導入していないだけだと指摘します。
事務の仕事しかしてきてないので、事務の仕事に転職したいですっていう時に、いや、ちゃんと考えましょうって話はしなきゃいけないんですよね。
玉置さんは、残りやすい領域として、非定型やイレギュラーが多い業務、物理が絡む業務を挙げます。定型化しやすい業務ほど置き換えが簡単だからです。そうした領域で事務のスキルを生かせる場所を考えたほうがよい、と言います。
岡島さんは自社の変化を例に出します。3年前なら15人から20人必要だったであろう仕事を、今はメイン業務を本人含め2人ほどで回しているという話です。
もし15人、20人がいた会社から今だったら、下手すると18人ぐらいリストラしてるってことになってるんですよね。
玉置さんは、身軽な会社からこの変化が起きており、企業は利益を追求する以上、やがて大企業にも浸透すると言います。利益が出るとわかっていることをやらない企業はないからです。
企業ってやっぱり利益を追求することが目的なので、ここで利益が出るってわかってることをやらないっていう選択をする企業はないんですよね。
玉置さんは、これは脅しではなく防災のような話だと言います。嵐や津波はいつか来るから、来ても大丈夫なように今から備えておこう、という考え方です。岡島さんもこのたとえに強く共感します。
転職は選択肢の一つ。仕組みを知り、価値を整理し、備える
最後に玉置さんは、むやみに転職を勧めているわけではないと念を押します。転職は一つの選択肢として視野に置いておくと安心だ、という立場です。
今の会社でお給料を上げていく方法も、結局転職の時と同じことをやるわけで、自分の積み重ねてきたものがどういう能力なのかを整理して、人にわかる形で構造化して捉えましょう。
岡島さんは、独立してからの実感を語ります。自分がどれだけの価値を出せるからいくらもらえるのか、ときには出している価値以上にもらってしまっている場合もあった、と振り返ります。
その現実に向き合うのは大変だったものの、これだけの価値を出しているからこれだけもらえる、と捉えられるようになると、むしろ楽になり安心につながったと岡島さんは話します。
これだけの価値を出してるからこれだけお金を今もらえるなっていう、そこの安心感にもつながっていく気がするんで。
まとめ
給料が数万円単位で上がるのは「昇格昇給」だけで、それは今の仕事を頑張るかどうかではなく、次のポジションでも結果を出せる再現性を示せるかで決まります。自分の市場価値をバイアスなくフラットに把握し、昇格の椅子がある環境を選び、AI時代に備えることが、給料を上げるスタートラインになります。
- 数万円単位で給料が動くのは、役割が変わる「昇格昇給」だけ
- 昇格するのは頑張った人ではなく、次のポジションでも結果を出せると期待される人
- 自分の価値は「何をやってきたか」ではなく「何に責任を果たしたか」で測る
- 労力ヒューリスティックとIKEA効果で、人は自分の価値を高く見積もりがち
- 会社でしか通用しないスキルより、持ち運べるポータブルスキルを積む
- AIによる置き換えは防災と同じで、いつか来る前提で今から備える





