産業医面談は本人と会うだけで終わらない
産業医の本音、第29回。今回のテーマは、産業医面談のうち「会社に対するフィードバック」の部分です。
小橋さんによれば、産業医面談は本人と話して終わりではないといいます。特に会社から依頼のあった面談では、本人だけでなく会社にも面談内容をフィードバックする場面がよくあると話されています。
大事なのは、本人にとっても会社にとっても今取り得る最善の方法は何かを、関係者間で協議しながら決めていくことだといいます。
つまり、ご本人にとっても会社にとっても、今取り得る最善の方法とは何なのか、これを関係者間で協議しながら決めていくっていうのが大事なんですよね。
フィードバックの登場人物は誰か
フィードバックの主な登場人物は、本人・会社・産業医の三者だと小橋さんは整理します。
ただし会社といっても一枚岩ではありません。規模が大きくなると、業務を通じて直接管理する所属部署と、制度を通じて間接的に管理する管理部署に機能分化していくといいます。
そのため実務では、本人・上司・人事・産業医という四者で進めることが多いと話されています。
さらに、専門的な知見が必要な場面では、この四者に別の専門職が加わる可能性もあるといいます。
弁護士・社労士
法や就業規則の専門的な知見が必要な場合に、リードしてもらう
保健師・心理師・医学療法士
産業保健の知見が加わった方がよい場合に入ってくる
なぜ上司に積極的に関わってもらうのか
事例性があるような場合に小橋さんが特に勧めているのが、上司に積極的に関わってもらうことです。
その理由は、本人を一番近くで見ていて、実際に働けているかどうかをダイレクトに評価できるのが上司だからだといいます。
やっぱりご本人を一番近くで見ていて、かつダイレクトに働けてるか働けてないかっていうのを評価するのは上司だからです。
一方で、よくある失敗の構図として、人事だけが空回りするケースが挙げられます。勤怠やパフォーマンスが不良で人事は面談の必要性を認識しているのに、本人も上司も自分ごと化できていない状態です。
そのため会社から相談を受ける段階で人事だけでなく上司も同席してもらえると、上司が実際にどう思っているかを面談前から知れると小橋さんはいいます。上司と人事の認識にズレがあれば、面談前に方向性をすり合わせることもできるといいます。
双方向型フィードバックがベストな理由
フィードバックの進め方についても、小橋さんは本人と会社で考え方は同じだと説明します。最初のフィードバックはゴールではなくスタートで、そこから対話を重ねてネクストアクションを決めていくという考え方です。
理想の流れとして、本人との面談後に上司も人事も同席してもらい、四者で産業医のファーストフィードバックを受けた上で意見交換し、ネクストアクションをすり合わせていく形が挙げられます。産業医はそのプロセスを踏まえて、最終的な面談報告書兼意見書を作成します。
その四者でですね、まずは産業医のファーストフィードバックを受けた上で、お互い意見交換を行って、ネクストアクションをすり合わせしていくと。
とはいえ、お互いの都合で時間を合わせる双方向型のフィードバックは難しいのも実情です。その場合は、報告書兼意見書を提出して、あとは本人と会社で話し合ってもらうケースも珍しくないといいます。
ただ、個別対応に会社が慣れていないと、後から「ここはどうなんだ」といった質問が多く寄せられるといいます。それなら最初から双方向型でやった方が逆に効率的ではないかと感じることもあると小橋さんは話されています。
特に合理的配慮の決定や、職務の本質とのギャップが続く場合の対応は、本来産業医が主導するものではないものの、基本的な考え方や相場感は経験ある産業医なら引き出しやすいといいます。特に慣れないうちは双方向型のフィードバックをお勧めしたいと結んでいます。
産業医の意見書はなぜ記録に残すのか
ここから話題は産業医の意見書に移ります。会社として意見書が重要になるケースは、少なくとも2つあると小橋さんは整理します。
長時間労働やストレスチェックといった、法令で面談が必要な場合
産業医面談を通じて就業上の措置を行う、もしくは見直す場合
これらの場合は、口頭だけでなく記録に残る形で産業医の意見を受け取っておくことが大事だといいます。理由は、産業医の意見を聞いた上で対応しているという証拠が、本人だけでなく結果的に会社も守るからです。
会社として産業医の意見をしっかり聞いた上で対応してるよって証拠が、ご本人だけじゃなく、結果的に会社のことも守るからです。
意見書は産業医業務の三本柱で作られる
意見書の作成プロセスは、本人向けでも会社向けでも考え方は同じで、産業医業務の三本柱を軸にすると小橋さんは説明します。
具体的には、体調を崩している原因の見立て、安全配慮義務の観点からの対応、合理的配慮義務の観点からの対応、という流れになります。
就業上の措置が必要そうな場合には、それが一時的なのか永続的なのか、現時点での見込みも記載するといいます。
難しいのは、医学的に良くなる見込みがなく、安全配慮や合理的配慮を駆使しても会社との期待値のギャップを埋められない場合です。小橋さんは、少なくとも医学的な立場からの見解は伝えざるを得ない部分があり、どちらにしても相当慎重な表現が必要だと話されています。
「望ましい」がどちらの観点かを分ける
意見書でよくある問題として、小橋さんは「○○が望ましい」という記載が挙げられます。内容はわかるが、それがどちらの観点からの話なのかが不明確なケースが一定あるといいます。
同じ「望ましい」でも、安全配慮義務の観点、つまりドクターストップレベルの話なのか、合理的配慮義務の観点、つまり労使の建設的な対話で決めていくべき話なのかで意味が大きく変わります。
そのため会社が両者を適切に実行していくためにも、どちらの観点から言っているのかをはっきり分けて記載することが大事だと小橋さんは強調します。
病名より「働けているか」を伝える意見の根拠
もう一つ大事なのが、意見の根拠だと小橋さんはいいます。対応が必要だという結論だけでは、受け取った側は納得しづらいからです。
ここで小橋さんは、判断の軸は病気かどうかではなく、働けているかどうかだと述べます。そのため意見書に病名までは必要ないといいます。
病気かどうかではなく、働けてるかどうかですから、特に病名までは必要ないです。
代わりに、この状態にこういうリスクがあるから、この業務にこういう措置が必要だ、という記載があれば、会社も納得した上で具体的なネクストアクションを設定しやすくなると話されています。
安全配慮は医学的モデル、合理的配慮は社会的モデル
まとめとして、小橋さんは安全配慮義務と合理的配慮義務を、働けるかどうかを別々の側面から見たものだと整理します。前者は個人の側面、後者は社会の側面にスポットを当てているといいます。
安全上・健康上のリスクから本人や周りの人を守るための考え方
働けないのは個人でなく社会の問題と捉え、積極的に障壁を取り除く考え方
合理的配慮義務は、病気や障害によって働けないのは個人の問題ではなく社会の問題であり、だからその障壁を取り除いていこうという社会的モデルだと説明されます。小橋さんは、どちらのアプローチも必要不可欠だと改めて感じると話されています。
いずれにせよ、会社が両義務を適切に実行するために、産業医や産業保健専門職が、個人情報に最大限留意し、言葉や文脈を慎重に選んで、本人と会社が最適解を導けるようサポートする役割が求められると締めくくられました。
なお、この先にはDisease・Impairment・Disabilityや、Restriction・Limitation・Toleranceといったより具体的な話もあるものの、時間の都合で別の機会に譲るとされています。
まとめ
今回は、産業医面談の会社フィードバックと意見書の作り方を通じて、安全配慮義務と合理的配慮義務の見極め方が語られました。誰が関わり、どんな根拠で意見が書かれるのかを知ることで、意見書の読み解き方が見えてきます。
- 産業医面談は本人だけでなく会社へのフィードバックまで含めて考える
- 本人・上司・人事・産業医の四者で進め、上司の関与が特に重要
- 就業上の措置に関わる意見は記録に残し、会社と本人の双方を守る
- 意見書は「どちらの観点(安全配慮か合理的配慮か)」を明確に分けて記載する
- 判断軸は病名ではなく「働けているか」で、根拠まで示すと会社も動きやすい


