そもそも「50人以上で発生する義務」を全部言えるか
産業医の小橋正樹さんは、本編の冒頭で今回のテーマを提示します。社員が50人以上になったときに企業へ発生する、労働安全衛生法上の5つの義務です。
前回のエンディングで、50人以上になると産業医の選任義務が発生すると少し触れていました。ただ、義務は産業医の選任だけではないと小橋さんは言います。
50人以上になると、企業っていうのは労働安全衛生法上、いろんな義務が発生するんですよね。
小橋さんはリスナーに、5つの義務を全部言えるかと問いかけたうえで、順番に紹介していきます。
1つ目・2つ目、産業医と衛生管理者の選任
1つ目の義務は産業医の選任です。産業医とは、専門的な立場から企業の健康管理をサポートする医師のことを指すと小橋さんは説明します。
50人以上になった場合、14日以内に産業医を選任し、所轄の労働基準監督署に選任届を出す必要があります。小橋さんはこの期限を「なかなかハード」だと話します。
産業医側もすぐに空いてる先生ばかりじゃないですから、余裕を持って探しておきましょう。
規模や業態によって選任方法は変わります。1000人以上や、有害業務に就く社員が500人以上いる場合は専属が必要で、3000人を超えると専属が2人以上必要になります。
さらに産業医を選任すると、衛生委員会のメンバーにする、原則月1回の職場巡視をさせるなど、付随する法的義務も一緒についてくると小橋さんは補足します。
2つ目の義務は衛生管理者の選任です。衛生管理者は労働安全衛生法で定められた国家資格で、企業の健康管理の中心的存在だと小橋さんは位置づけます。
企業における健康管理の中心的な存在、いわばプロジェクトマネージャーみたいなもんですよね。
衛生管理者も産業医と同じく14日以内に選任届を出す必要があります。ただし衛生管理者は、50人の段階から専属でなければならないという縛りがあります。
人数も規模に応じて増えていきます。200人超で2人以上、500人超で3人以上、1000人超で4人以上と定められています。
しかも衛生管理者は試験に合格しなければなれません。そのため前もって動いておかないと完全に無理ゲー状態になると小橋さんは注意を促します。
3つ目、衛生委員会の設置と「中身のある運用」
3つ目の義務は衛生委員会の設置です。衛生委員会は、職場の健康や労働災害の防止について、会社と社員が協力して対策を話し合う場だと小橋さんは説明します。
衛生委員会の構成メンバーには衛生管理者や産業医が入っている必要があります。そのため、衛生委員会を設置するにも、これらの選任がマストになると小橋さんは指摘します。
衛生委員会自体は柔軟な運用が可能ですが、毎月1回以上開催し、中身のある運用をしておくことが求められます。
小橋さんは、過労死などの重大な労働災害が起こった場合を例に挙げます。そのとき、産業医や衛生管理者を選任していないことと並んで、衛生委員会をちゃんとやっていないことも罰則の対象になりやすいと話します。
4つ目・5つ目、ストレスチェックと健康診断の「報告」義務
4つ目の義務はストレスチェックの実施と報告です。現状は50人以上で義務ですが、50人未満でも義務化する話題があると小橋さんは触れます。
ストレスチェックは、個々のストレスへの気づきと職場環境の改善を通じてメンタル不調を予防するものです。小橋さんは、組織診断に心の健康度チェックが加わった社員向けアンケートのようなものだと言い換えます。
健康診断と違い、社員に受検義務はありません。ただし会社としては年1回実施することが義務付けられ、全体の結果を労基署へ報告する義務も合わせてあります。
ストレスチェックやらないこと自体は罰則ないんですけど、労基署報告してないと安衛法上の罰則がある。
5つ目の義務は一般定期健康診断結果の報告です。一般健診自体は社員が1人であっても年1回の実施が必要ですが、労基署への報告が必要になるのは50人以上という、いびつな線引きになっていると小橋さんは話します。
小橋さんは、一般健診の有所見率などの統計が50人以上の規模だけのものである点にも触れます。報告書に書く有所見者数には国としての明確な基準がなく、作業が大変な割に何のための統計なのかと疑問を投げかけます。
「50人」の前提は事業場という単位で決まる
小橋さんは、5つの義務が発動する要件の定義を伝え忘れていたとして、大前提を補足します。それは「常時使用する労働者が50人以上になった事業場」というものです。
労働安全衛生法はもともと工場をベースにできあがったため、企業単位ではなく、基本的に事業単位や場所単位で物事を決めているのが特徴だと小橋さんは説明します。
同じ場所で同じ事業をしていたら、それは一つの事業場で、物理的に場所が違うとか、同じ場所でもやってる事業が違うってなると、それは違う事業場になる。
産業医や衛生管理者の選任も、法律的には事業場単位で行われます。この前提から、実態と合わない現象が起きると小橋さんは指摘します。
100人いても義務なし、リモートでも巡視あり
小橋さんは、事業場単位で考えると面白い現象が起きると例を挙げます。運営会社が同じで社員が全体で100人以上いても、10店舗にそれぞれ10人ずつ分かれていれば、産業医の選任義務は生じないという状況です。
一方で、規模が小さく事業の独立性が低い場所は、一般的に事業場とみなされません。小橋さんは、社員は50人以上いるがフルリモートで、本社はコワーキングスペースの個室に社長が1人だけ、というケースを挙げます。
この場合、そのコワーキングスペースが「常時50人以上を使用する事業場」とみなされます。すると産業医の選任義務が生じ、原則月1回の職場巡視の義務まで発生します。
みんなフルリモートなんだけど、産業医は毎月社長のいるコワーキングスペースや個室とかを訪れて、綺麗ですねみたいな感じで、秒で巡視が終わっちゃう。
こうした例を踏まえ、小橋さんは今の時代や企業の実態にそぐわない部分が目立ってきていると率直な感想を述べます。
実は6つ目?給湯室の義務と「事業場」の読み方
小橋さんは、5つの義務とは性質が少し違うため本編で触れなかった、6つ目の義務があると明かします。50人以上、または女性が30人以上いる場合の給湯室の設置義務です。
忘れがちですけれども、意外と大事でして。5プラス1の義務みたいな感じで、忘れてたわけじゃないですよ、私も。
最後に小橋さんは、本編で使った「事業場」の読み方についての余談を添えます。自身も「じぎょうば」と言っていた時期があり、正確には「じぎょうじょう」と教えられたものの、今では両方が混ざってしまっているそうです。
もしリスナーの皆さんで明確な根拠をご存知の方がいれば、こっそり教えていただけますと嬉しいです。
まとめ
社員が50人以上の事業場には、産業医と衛生管理者の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェックと健康診断結果の報告という5つの義務が発生します。ただし判定の単位は企業ではなく「事業場」であり、実態と合わないケースも出てきていると小橋さんは指摘しています。
- 50人以上で発生する義務は、産業医選任・衛生管理者選任・衛生委員会設置・ストレスチェック実施報告・健診結果報告の5つ
- 産業医と衛生管理者は14日以内に選任届が必要で、衛生管理者は50人の段階から専属かつ試験合格が前提
- ストレスチェックや健診は実施自体より、労基署への報告漏れが罰則の対象になりやすい
- 義務は企業全体ではなく「事業場」単位で判定されるため、100人いても義務なし、リモートでも巡視ありといったズレが生じる
- 50人以上または女性30人以上では、6つ目として給湯室の設置義務もある


