モヤハレで話しきれなかった「チームでやる理由」
この回は、小橋さんが別のポッドキャスト番組「産業保健もやもやハレハレ」、通称モヤハレに直近4週間ゲスト出演したことがきっかけになっています。
モヤハレでは前半2回で小橋さんのキャリアやワンセルフで目指していること、後半2回で産業医仲介サービスへの思いや保健師との付き合い方などを話したそうです。
普段からお世話になっている気心の知れた産業保健の仲間たちと忖度なく喋ってきましたので、こっちの産業医の本音より本音を喋ってるんじゃないかっていうような場面も多くありました。
そのモヤハレの中で受けた質問の一つが、なぜ今ワンセルフでは一人ではなくチームでやっているのかというものでした。
本編では(チームでやる理由の)質問に答える前に結局脱線しちゃって、聞いてみるとなんでチームでやってるんだっていう質問には答えてなかったことがわかったんです。
そこで小橋さんは、この回で改めてその理由を言語化しておきたいと話しています。
一人でやるか、チームでやるか。どちらも価値がある
小橋さんはまず、事業のやり方は大きく2つに分けられると整理します。一人や家族といった小単位でやっていくものと、チームとして組織化・仕組み化を目指していくものです。
そのうえで、これはどちらが良い悪いという問題ではないと強調します。
例えとして挙げたのがラーメン店です。その地域そのお店でしか食べられないラーメンには価値がある。一方で、そのラーメンが日本全国で食べられるなら、それもまたすごい価値がある、という対比です。
その人にしか出せない専門性を極める。地域の1店舗でしか食べられないラーメンのような価値
仕組み化して社会全体に浸透させる。全国どこでも食べられるラーメンのような価値
産業保健の業界に置き換えると、自分の専門性を極めて思う活動をやっていきたい人もいれば、組織化・仕組み化して社会全体に産業保健を浸透させたい人もいる、と小橋さんは言います。
そして自分の場合は、たまたま今回は後者を選んだ。ただそれだけの話だと語っています。
「楽するために本気を出す」という原点
チームを選んだ背景について、小橋さんは究極的には「そうやりたかったから」だとしつつ、もう少し深掘りしていきます。
一つは、自分がもともと仕事に対して面倒くさがり屋だという自己分析です。やらなければいけないことは多いけれど、仕事を極めるというより、仕事をなるべくしないために仕事をする感覚だと話します。
楽するために本気出すっていうのがやっぱり原点としてあって。組織化、仕組み化を通じて、産業保健をもっと世の中に浸透させていける活動の方が自分の性分には合っていた。
もう一つの背景は、これまで多くの人に助けられてきたという原体験です。小橋さんはこれを臨床医時代からのものだと振り返ります。
医療は考えることも、やることも膨大です。医者は最終的な意思決定を迅速に下さなければいけない一方で、一人でできることは限られ、医療全体の知識を細かく持っているわけでもない、と小橋さんは語ります。
看護師さんを始めとしたコメディカルの皆さんとか、事務方の皆さんとか、いろんな方々に本当に教えられて助けられて育ってきたんですよね。
これは産業医の世界でも同じで、保健師や心理士、理学療法士がここまで頼りになるのかという発見の連続だった、と小橋さんは話します。
異なる専門医が組み合わさることで質が上がる
小橋さんは、同じ医者同士でも役割の違いがあると説明します。自分は産業医の専門医なので、産業医ならではの思考法や、チームドクターとしての社員や組織への働きかけは得意だと言います。
臨床領域での専門知識は、それぞれの領域で専門医を取得されている先生方から勉強させていただくことが、特に両立支援とかの場面なんかでは多いですから。
異なる領域の専門医が組み合わさることで、より良質な産業保健が提供できる。だからこそチームでやることの意義が自分の中では大きかった、と小橋さんはまとめます。
多職種連携は、産業医にとって恐怖でもある
ここまでは綺麗なストーリーだと前置きしたうえで、小橋さんはより現実的な話に踏み込みます。チーム医療や多職種連携は聞こえもよく、実際に価値もある。しかし一方で、これは産業医にとって恐怖でもあると言います。
もしそういう考え方が広がると、これは保健師に、これは心理士に、という形で仕事が振り分けられていく。企業において産業医にお願いする仕事の比率は必然的に少なくなっていくはずだ、と小橋さんは指摘します。
しかも料金は一般的に産業医のほうが高い。そのため短期的に見れば、これは産業医にとって不都合な真実という側面もある、と率直に語っています。
小橋さん自身、一人で活動していた頃に、保健師や心理士との多職種連携をワンストップで提供できず、契約終了になったケースがあったそうです。
こうした経験や危機感が、今のチーム型サービスを作り上げた側面もある、と小橋さんは明かします。
売上は一時的に下がった。それでも質は上がった
一人のサービスからチームのサービスへ移行する過程で、売上は一時的に下がったと小橋さんは正直に話します。それまで産業医が一手に担っていた仕事を分散させたためです。
しかし、サービスの質は確実に良くなり、社員や会社からの満足度も全然違うと言います。一時的な痛みはあっても、質は上がったという実感です。
そのうえで小橋さんは、これからの産業保健サービスの形について自身の仮説を示します。産業医だけでなく、多職種の連携をベースに構築していくやり方がスタンダードになっていくのではないか、というものです。
小橋さん自身は、その中心に産業保健師を置くのがよいと考えていると付け加えています。
何よりそれが働く人、組織、社会の健康、この全体最適を考えるにあたって、最も持続的かつ効果的なやり方なんじゃないかなって、少なくとも私は今そういう仮説を持っています。
一番怖かったのは、一人目の社員を雇った時
チームでサービスを提供するために、小橋さんはお金を借りたりリリースを出したり、慣れないことをいろいろやってきたと言います。その中で一番怖かったのは、一人目の社員を雇った時だったと振り返ります。
資格職なので、何かあれば他に行けばいいと考える人も多い業界だ、と小橋さんは前置きします。それでも、社員の人生やキャリア、生活に一定の責任を持つことになる、と語ります。
自分一人なら、売上が減れば生活レベルを落とせばいい。車を売るという選択も自発的にしやすい。けれど社員に対して同じノリでそんなことはできない、と小橋さんは言います。
社員にしかるべき給料を払い続けるためにも、停滞せず稼ぎ続けなければいけない。そういうマインドに変わっていったことが、小橋さんにとっては大きな経験だったと語られています。
結局は好き嫌いと向き不向きで道を決めていい
一方で小橋さんは、一人のサービスには一人ならではの大変さがあるとも話します。仕事とプライベートの塩梅をコントロールしやすく、収入のことだけ考えれば一人が一番いいという側面も確かにあると認めます。
しかし、後ろ盾がない中で全部を自分でやるのは思った以上に大変だ、とも言います。小橋さん自身、あと5年10年一人でやれと言われたら無理だと語ります。
そのうえで、これはどちらが良い悪いという話ではないと繰り返します。一定の大義も必要かもしれないが、最終的には好き嫌いや向き不向きで自分の道を決めていくのがいいのではないか、というのが小橋さんの結論です。
まとめ
この回で小橋さんは、ワンセルフを一人ではなくチームで運営している理由を、綺麗事と現実の両面から言語化しました。多職種連携は価値がある一方で産業医にとっては危機感の源でもあり、その危機感こそが今のサービスにつながっていると語られています。
- 事業のやり方には「一人・小単位」と「チーム・組織化」があり、どちらにも価値がある
- 小橋さんがチームを選んだ原点は「楽するために本気を出す」性分と、多くの人に助けられてきた原体験
- 多職種連携が広がると産業医の仕事の比率は減り、産業医単体では淘汰されるという危機感がある
- チーム化で売上は一時的に下がったが、サービスの質と満足度は上がったという実感がある
- 一人目の社員を雇うことで「給料は出ていくもの」という経営者のマインドに変わった


