衛生委員会は何のためにあるのか
衛生委員会は、そこで働く人たちの健康を守るために設置される社内の会議体です。労働安全衛生法では、常時50人以上の労働者が働く事業場で設置が義務付けられています。
そもそも労働安全衛生法は、事業者が労働者に対して指揮命令権を持つ以上、その安全と健康の確保に責任を持って自主的に取り組むよう求めるものだと、小橋さんは説明します。
具体的には、安全衛生管理体制の構築、危険防止措置、健康管理や快適職場づくりといった事業者への規制が、この法律の骨格になっています。
そして安全と健康の確保で一番に来るのは、労働災害の防止です。ここで小橋さんは、その当事者は誰かと問い直します。
じゃあその労働災害の当事者って誰なの?ってなった時に、それは紛れもなく労働者の皆さんじゃないですか。
だからこそ、事業者だけでなく労働者にも安全衛生を自分事化してもらう必要がある、と小橋さんは話します。そのために必要なのが、知識と話し合いの場、そしてそこで出た意見をもとに会社が適切な意思決定を行う仕組みだと言います。
50人という数字は本質ではない
衛生委員会の設置義務は50人が一つの境目になっています。しかし小橋さんは、これは本質ではないと強調します。
それぐらいの規模になると、しっかりした体制を作らなければ組織として機能しなくなるため、衛生委員会という形でやってほしい、という手段でしかないという整理です。
なので本質的には50人どうこうじゃなくて、安全も健康も関係労働者の意見を聞く機会、委員会として独立してなくてもよくて、定例ミーティングにくっつけるような形でもいいので。
独立した委員会でなくても、定例ミーティングにくっつける形でもよいので、労働者から意見を聞く機会を事業者が設け、その上で適切な意思決定をしていくことが本質だと、小橋さんは話します。
実際、労働安全衛生規則では、衛生委員会の設置義務がない場合でも労働者の意見を聞くことが定められています。
織姫と彦星のように離れた「意見聴取義務」と衛生委員会
衛生委員会の成り立ちをたどると、その本来の姿が見えてくると小橋さんは言います。労働安全衛生法は、1916年の工場法、1947年の労働基準法を経て、その一部がスピンアウトする形で1972年に制定されました。
労働基準法時代の旧労働安全衛生規則では、関係労働者からの意見聴取義務こそが大前提で、その意見聴取に適したやり方が衛生委員会である、という明確な関係性があったと小橋さんは説明します。
ところが現在は、衛生委員会が労働安全衛生法に、意見聴取義務が労働安全衛生規則にと、条文上バラバラの位置に分かれてしまっています。小橋さんはこれを比喩で表現します。
それが今は、なんか織姫と彦星みたいな感じで離れ離れになっちゃってるから。
そのため、衛生委員会は衛生管理者がひたすら喋り、最後に産業医が講話する場、というイメージが先行しがちだと小橋さんは指摘します。
成り立ちを踏まえれば、労使が主体性を持って労働災害をはじめとする健康障害の防止に向けて話し合う場であることに気づきやすいのではないか、と小橋さんはまとめています。
構成メンバーに定められた4つの役割
ここからは衛生委員会のメンバーの話に移ります。小橋さんは、事業者責任と関係労働者からの意見という2つの土台に、それぞれの役割が分化していくイメージだと説明します。
構成メンバー自体は労働安全衛生法で決まっており、4つの役割があります。
事業場のトップ
トップ、もしくはこれに準ずる者。規模によっては総括安全衛生管理者が担う
衛生管理者
衛生管理者のうちから事業者が指名した者
産業医
産業医のうちから事業者が指名した者
衛生経験を有する者
当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有する者のうちから事業者が指名した者
4つ目の衛生経験を有する者について、小橋さんは実際には「経験はこれから積みます」という方も多い印象だと補足します。いずれにせよ、この4つの役割を担う人を事業者が指名していく必要があります。
トップと議長、労働者代表推薦をめぐるルール
ここから先のルールがややこしいと小橋さんは言います。まずトップ、もしくはトップに準ずる者は、一人でなければならず、かつ議長を務めなければなりません。
さらに、議長以外の半数は、最終的に事業者が指名する点は変わらないものの、労働者代表の推薦をもとに指名しなければならないルールがあります。
これは事業者が責任を持つこと、労使が対等であることという考え方からすれば真っ当なことだと、小橋さんは話します。ここで問題になるのが、構成メンバーは最低何人必要か、という点です。
最低人数は何人?7人説から3人説まで
実は最低人数について法令に定めはなく、7人説、5人説、4人説、3人説など、いろいろな説があると小橋さんは紹介します。
最もイメージしやすいのが7人説です。議長のほかに、衛生管理者、産業医、衛生経験を有する者の3名を事業者が指名し、それとは別の3名を労働者代表が推薦する、という数え方です。
ただし、事業者が指名した人を労働者代表が推薦してはいけない、というルールはありません。たとえば労働者代表が産業医を推薦するケースもあり得ます。
この考え方を進めると、議長以外が4人でうち2人が労働者代表の推薦に基づく指名なら5人、議長以外が3人でうち2人が推薦なら4人、という数え方も成り立ちます。
さらに3人説は、衛生管理者と衛生経験を有する社員を兼任させれば3人で行けるのではないか、という話だと小橋さんは説明します。
もっとも、解釈次第でどこまでも減らせるかもしれませんが、減らすこと自体が目的ではありません。最終的には事業の規模や作業の実態を踏まえて運用方法を自分たちで決める話だと小橋さんは言います。
議長と衛生管理者の兼任、そして理想の委員会像
兼任の問題として、議長と衛生管理者を兼任できないかという相談も時々あると小橋さんは話します。これについては、トップは一人いなければならないと明確に定められています。
また、トップ不在の委員会で出された意見が本当に事業者の耳に届くのか、という問題もあるため、基本的に兼任はおすすめしていないと小橋さんは述べます。
50人になった最初のうちは、衛生委員会がなくても労使でしっかり話し合える距離感のことも多く、皆さん別の仕事もあります。そのため、スモールスタートから始めること自体には異論はないと言います。
一方で、早いうちから衛生委員会の方向性を固めておいた方が、長期的には盤石な労働衛生管理体制になると小橋さんは考えています。理想として挙げるのは、部署ごとに一人は参加し、みんなで安全・健康・快適な職場を目指して盛り上げていく形です。
最後に、大企業に多いケースとして作業環境測定士にも触れています。当該事業場の労働者で作業環境測定を実施している作業環境測定士がいれば、事業者はその人を委員として指名できるという決まりもあります。
労働者代表はどう決めるのか
本編で触れなかった補足として、小橋さんは「労働者代表の推薦に基づいて」というくだりを取り上げます。この労働者代表とは何を指すのかという話です。
当該事業場に労働者の過半数で組織される労働組合があるときは、その労働組合で問題ありません。一方、そうした労働組合がないときは、労働者の過半数を代表する者を決めていく必要があります。
ところが、その決め方は労働安全衛生法の中では定められていないと小橋さんは指摘します。
衛生委員会は労使が対等に意見交換を行える場であるべきだという前提を踏まえると、労働基準法と同じ方法で決めるのが確実だと小橋さんは考えます。管理監督者ではない人が投票などの民主的な方法で労働者代表を選ぶやり方です。
そうして選ばれた労働者代表が推薦状を作成するなど、一連の手続きを書面として残しておけば、労使対等の適切なプロセスを踏んでいると自信を持って構成メンバーを揃えられる、というのが小橋さんの整理です。
次回は、具体的な衛生委員会の進め方について取り上げる予定だと小橋さんは話しています。
まとめ
衛生委員会は、設置義務の50人という数字よりも、労働者の意見を聞き、労使が対等に健康障害の防止を話し合う場であることが本質だと整理された回でした。構成メンバーの人数も、法令の定めがない中で目的から逆算して考える姿勢が示されました。
- 衛生委員会は常時50人以上の事業場で設置が義務付けられているが、本質は労働者からの意見聴取と適切な意思決定の仕組みにある
- もともとは意見聴取義務が大前提で、それに適したやり方が衛生委員会だったが、現在は条文上バラバラに置かれている
- 構成メンバーは、トップ・衛生管理者・産業医・衛生経験を有する者の4つの役割で、事業者が指名する
- 最低人数に法令の定めはなく解釈で変わるが、小橋さんは合理的に説明できる4〜5人程度を目安としている
- 労働組合がない場合は、投票などの民主的な方法で労働者代表を選び、手続きを書面に残すことが確実とされる


